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武vs渉

 美夢から意味深な言葉を告げられた武であったが、二回戦も何の問題もなく勝利した。これで準決勝進出だ。もう観客たちに騒がれるのは慣れた。人目を気にしていてはしょうがないと割り切ったおかげで、堂々とした振る舞いでこの予選に臨むことができた。

 背筋を伸ばして、悠然と歩く武に話しかける者はいなかった。武にとってはいいことだ。周囲の人間と話す余裕などない。

 ただでさえ、次はシードされている祓い師と当たるというのに、それに加えて美夢からの謎の忠告に武は頭を悩ませていた。


「ここまでは何の問題もなかった。ということは予想外のこととやらが起こるのは次の準決勝か、もしくは美夢の考えすぎか?」


 武は控え室のソファに座り、顎に右手をやって考え込んでいた。想定外の事態。二回戦で思いもよらぬ強敵が来るかもしれないと身構えていたが、そんなことはなかった。むしろ野村よりも弱かったくらいだ。そうなると、次の準決勝で何かがあると考えるべきか。しかし、そこで何が起きる? まさか、渉が座子を倒して準決勝に上がってくると言う気なのだろうか?

 正直、次は座子が来ると武は思っている。確かに渉は強いが、シードされた祓い師に勝つことは難しいだろう。現に渉は同じシードである茂豊に模擬戦で歯が立たずに敗れている。座子の強さを武は知らない。だが、渉が座子に勝利するとは思えなかった。しかし、美夢がヒントとして告げた言葉を聞いたが故に、今、立てた憶測を完全に否定しきれずにいる。


『祓い師の中には本物のエリートって奴がいるのよ』


 本物のエリート。美夢はそう言った。野村のことを成績だけのなんちゃってエリートとも評していた。そして、話の途中で出た三校とは祓い師の高校にあたる第三階校のことだろう。それらの情報を併せると美夢の言う予想外の事態というのは渉が座子を打ち破ることのように思えてくる。渉も武同様祓い師の学校に通わずに一人前の祓い師になったと聞いている。一応、可能性はそれなりに高いように見える。

 いずれにしても、この後分かることだ。美夢も確証があるわけではなさそうだった。美夢の言っていることは杞憂で何も起こらず、順当に準決勝で座子と当たる可能性の方が高いとみていいだろう。だから、今は変に考えずに、次の試合に集中することの方が大事だ。

 二回戦も全てが終わり、次はいよいよシードが出てくる。その中で一番注目されているのは茂豊のようだが、他の三人も十分に注目されている。

 四人は名は体を表すということわざを覆すほど実力が高い。彼らは『モブ』『噛ませ』『名無し』『雑魚』とそれぞれ悪口ととれる名字を持って生まれたため、人間的にできているとは決して言えない祓い師たちから馬鹿にされることなど日常茶飯事だったという。それは幼い子供どころか成熟しきった大人とて例外ではない。だが、名を馬鹿にされ続けた彼らは奮起し努力の末に祓い師全体でも上位の実力を得たのだと空我から聞いた。そして、名前に反したその実力から名前から判断してはいけないという意味で彼ら四人は『ノーネーム』と呼ばれるようになったらしい。

 彼らが圧倒的な実力を身につけてからは、周囲も掌を返すように彼らを賞賛し始め、中には六本柱よりも実力は上だという者すらいるそうだ。そう言う者もいるためか、第一シードに茂豊、第二シードに鎌瀬、第三シードに唯、第四シードに座子と四つのシード全てにノーネームを入れている。

 その一角を打ち崩すのは容易ではない。武も今までは楽に勝てていたが、次からは一気に勝つのは難しくなるだろう。あっけなく撃破されてしまうかもしれない。だからこそ、今、横道に脱線して余計なことを考えているのは危険だった。何しろ、今、第一シードの茂豊があの美夢を相手に圧倒的な力で勝利したのだから。


「マジかよ」


 武は自分の口がひきつっているのが分かった。美夢の実力は本物だ。あの薙刀を振るう技術はまさしく圧巻の一言に尽きる。その美夢を傷一つ負わず…… いや、汗一つかかずに倒した茂豊の力は計り知れない。やはり、祓己術について迷っていたときに手合わせしたときは、まるで本気を出していなかったのだと改めて理解させられた。

 次の唯も相手は知らなかったが、危なげなく無傷での完勝を収めている。この分では後の座子と鎌瀬も問題なく勝利を収めるだろう。



 そう思い、続いて行われる座子と渉の試合を武は注視する。この試合の勝者と武は当たることになるのだから当然だ。

 渉と対峙する紫色の髪にグレーの瞳をした平均よりやや高めの身長を持つ男。どうやら、彼が座子亮らしい。

 二人は何かを話している。こちらには何を話しているのかは聞こえない。その後すぐに行われた審判の開始の合図と同時に二人は動く。座子は二枚の呪符を使って両手から紫色の呪力でできた円形の弾を生み出す。それを渉に向けて放つ。渉はそれを祓己術による剣一本で弾き、そのまま座子の腹に強烈な跳び蹴りをお見舞いする。座子は大きくのけぞりつつも少し吹き飛ぶ程度で何とか耐える。しかし、その隙に渉はいつの間にか作り出したもう一つの剣とともに二刀流による一撃で座子の胸を斬り裂く。座子はそのまま地面に倒れ伏す。観客たちは何が起きたのか分からないといった様子で呆然とする。

 周囲がざわつく中、審判だけが冷静に渉の勝利を宣言する。渉は剣を消し、悠然と会場から去っていく。


「…… まさかの当たりかよ」


 真っ先にありえないと切り捨てた答えが正解だと知り、武はどこか諦めたような笑みを浮かべる。これで、準決勝第三戦の組み合わせは決まった。武対渉。この一年以内で急に現れた超新星同士の戦いがここに実現しようとしていた。






 ○○○○○


 三回戦第四戦は何事もなく鎌瀬が勝利した。つまり、この戦いで勝った方が鎌瀬と当たるということだ。先ほどのことがあるので絶対とは言いきれないが。

 武は思わぬ誤算にため息をつく。別に渉が相手だと言うことに文句があるわけではない。祓己術を会得しており、ノーネームの一角を崩す実力者。相手にとって不足はない。ただ、まさかと思っていた展開が実現したことになんともいえない気分になっているだけだ。



 こんな状態ではまずいことは分かっている。渉戦までには切り替える必要がある。そう思って茂豊と綺蘭々の戦いを見る。この二人は馬が合わないことで有名らしい。顔をあわせるたびに喧嘩をすると言うほどではないが、それでも決して仲がいいとはいえないようだ。一見因縁対決のようにもみえるその二人の戦いは思いの外五分の戦いを繰り広げていた。

 綺蘭々の銃撃を茂豊は石つぶてによる投石で対抗する。だが、武には茂豊がどこか様子を見ているようにも見えた。

 戦況が動くのにそう時間はかからなかった。突然、茂豊が先ほどまでの五倍はあるだろう大量の石を綺蘭々に撃ち放つ。綺蘭々がそれを必死で捌いている隙に、茂豊は土で作った棒で綺蘭々の脇腹に痛烈な一撃を加え吹き飛ばしてしまう。そのまま地面にうずくまった綺蘭々は立ち上がることができずに、茂豊の勝利が確定した。


「そろそろ…… か?」


 武がそう呟くと外からスタッフの声が聞こえてくる。どうやら、次の試合に向けて準備をしろと言いに来たらしい。前の二回の戦いでも思ったが、二戦前ではなく一戦前に呼びにくるところがつくづくおかしなものだと思う。なぜ二戦前に呼びに来ないのか。できるだけ早めに準備をさせた方がいいということが分かっているにもかかわらずだ。その理由は単純明快。その次の戦いで出場する祓い師と余計な揉め事を起こさせないためだ。おまけに、ご丁寧に対戦相手とは違う入場口に案内される。ここまで徹底されれば笑うのは当然だ。そこまでしなければ、揉め事を起こすと思われるほど祓い師は問題のある人物しかいないと思われている。それを笑わずにいるというのは無理な話だろう。

 だが、その扱いを受けているのは武とて同じだ。別に自分は他の祓い師とは違うなどという見当違いな考えを抱いているつもりはない。しかし、この扱いが図らずもいいヒントになって(・・・・・・・・・)いる(・・)のだ。笑っても問題ないのではないかと思えてしまう。しかし、さすがに声に出して大声で笑う気にはなれなかった。


「まあいいか」


「? 何か仰いましたか?」


「いえ、何でも」


 先導するスタッフに囁くような小声で言ったことを聞かれたようだが、しれっと誤魔化す。むしろ、スタッフに聞き返されてよかったかもしれない。おかげで、余計な横道に逸れかけていた思考を何とか渉との戦いへと戻すことができそうだ。武は内心スタッフに感謝した。


「こちらでお待ちください」


 スタッフはそう言ってさっさと去ってしまう。もうその様子にも慣れた武は軽く会釈するだけで、スタジアムの中の方に集中ようになっていた。準決勝第二戦は何の面白みもなく順当に唯が相手を圧倒して終えた。次がいよいよ自分の出番だ。



 こうして考えてみると美夢に忠告されてよかったのかもしれない。おかげで、余計な動揺をせずにすんだ。余計な思考にははまってしまったが。それでも、何も言われないよりはマシだったはずだ。


『それでは、第三戦を始めます! 東側、樟谷渉! 西側、屋敷武!』


 審判に呼ばれたのを聞いて、武は一気に集中力を高める。二人の名前が呼ばれた瞬間、スタジアムは今までとは比べものにならないほどの歓声と熱気に包まれたが武には何も入ってこなかった。今の武の目にあるのは、会場の床と目の前にいる渉の姿だけだ。


「…… まさか、第四シードを倒すとは思わなかったぜ」


「ああ。ちょっと、いろいろあってな。おかげで少々(・・)予定が狂ったが(・・・・・・・)、まあいい。いい試合をしよう」


「ああ」


 武は渉の言葉にかすかな違和感を覚えるが、集中力が最高に近いレベルまで高められている状態では特に気にはならなかった。後で考えればいいことだ。

 武は腰を低くし、右手を引いて構える。完全な臨戦態勢だ。渉も両手に呪符を取り出し、完全な戦闘モードに入っている。


『それでは、始め!』


 審判の合図とともに、武と渉は祓己術を発動させる。白い呪力を放出した武に会場は大きくざわめくが武はお構いなしと言わんばかりに渉に殴りかかる。渉は両手に剣を取り出し、二つの剣でその拳を受け止める。


 ガキャアァァァンッ!!


「ぐっ…… !」


 武の強烈な右のスマッシュに渉は脂汗をかく。両手が痺れ、二刀で受けた剣はいずれも小さなひびが入っている。


(分かってはいたが、なんという破壊力だ…… !)


 渉は五歩ほど下がって、再び両手に新しい剣を作り直す。


「どうした? まだまだ、準備運動程度だぜ」


 武はさらに白い呪力を放出させ、渉を攻め立てていく。一発一発が凶悪的な破壊力を持つ拳による目にも止まらぬ連続攻撃を渉は必死に捌いていく。受け止めていては腕も刀も持たないということで、いなしたり、かわしたりして何とか反撃の活路を見出そうとするが、その圧倒的な攻撃力の前に為す術がない。

 そこで武の攻撃の手がわずかに緩む。渉はその隙をついて右に持った剣を使った突きによるカウンターを狙う。だが、それは武の手の内であり、難なくかわされ強烈な左アッパーを腹部に食らってしまう。


「がふっ!」


 あまりの威力に渉は胃液を吐く。そのまま悠々とスタジアムの壁まで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。その一撃は先ほどの野村に見舞ったものとはわけが違う。野村なら確実に死んでいたであろう一撃を渉は呪力を全身に纏いクッションにすることでかろうじて耐えた。


(あれをまともにもらったら終わる。つまり、うかつに攻めることはできないということだ。かといって、攻撃をしないわけにはいかない。まったく、本当に余計なことを……)


 そんなことを考えていると武の追撃が襲ってくる。渉はとっさにその場から大きく飛んで避けるが、武は右足を軸に急展開し、空中で身動きがとれない渉の左頬に右フックを決める。渉は再度そこから大きく吹き飛ばされてしまう。再び壁に叩きつけられた渉は満身創痍ながら、なおも立ち上がる。

 渉は左手に持っていた剣を消し、右手一本だけに剣を持っている状態にする。二刀流から一刀流への切り替えだ。二刀流で手数を増やすよりも、剣一本に呪力を集めることで攻撃力と耐久力を上げた方がいいという判断だ。しかし、それが通用する相手ではないということも分かっていた。


「この戦い。そう長引かせてはいられない。悪いが次で終わらせてもらうぞ」


「大きく出たな。だが、一本の剣で何が……」


 武の言葉はそこで止まった。渉が振るった剣が上空にあった雲を斬り消したからだ。その様子に武は思わず呆然としてしまう。


「これが、今、俺が出せる最強の剣だ。さぁ、最後の幕といこうじゃないか」


「…… 上等だ」


 武は右手に白い呪力を集め白い炎を噴き出させる。まだ未完成の現状では実戦以外で出すことができないというその使い勝手の悪い技は燃のころよりも遥かに威力、熱量が上がっていた。そのとてつもない炎を発する拳を渉は顔色一つ変えずに見つめていた。

 二人はそれぞれの武器を構え、そして、互いに向かって走り始めた。

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