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合宿3

かなり駆け足ですが、今回で合宿は終了です

 結局武は頭がこんがらがったまま三日目の午前中を終えてしまった。三日目は各自で行う自己修練だったのが唯一の幸いだった。誰も武の不調に突っ込んでくる者がいなかったおかげでいくらかは落ち着くことができ、午後には本来の調子を取り戻して修練に取り組むことができた。だが、昨日とは違い祓己術完成の足がかりをつかむことはできなかった。

 続く四日目も似たようなものだった。どれほど集中し、祓己術を発動させてもそこから先に進むことができない。無駄に呪力ばかり消耗して休憩を多くとることになる。いくら呪力の回復がずば抜けていても、休憩の回数が多くなればその分修練の時間が削られてしまう。自己修練では何度やっても時間の無駄だった。やはり、祓己術を会得した実力者相手の実戦形式の修練でなければ、祓己術を完成させるどころか一歩進むことすらできない。

 しかし、どうすることもできないのもまた事実だ。二日目の武と燃の組手によりもたらされた大爆発がきっかけとなって、空我たち三本柱が修練で行う組手に対して慎重になってしまったのだ。合宿を行っている以上組手はやらざるを得ないが、組手の取り仕切りを三本柱各々に任せるのではなく、もう少し準備を整えてからやることになった。

 三日目、四日目ともに自己修練になってしまったのはそういう事情があった。



 そして、五日目の朝。空我は再び朝食を取り終えた一同の前に立つ。


「いよいよ明後日が歓楽戦の予選だ。僕ら三本柱には関係ないが、それ以外の者にとってはこの合宿の集大成をぶつける第一の機会だ。だが、その一方でこの合宿でやっていたことは、普段と大して変わらないのではないかと思う者もいるんじゃないか? 確かに二日目から四日目までは自己修練しか指示していない。やる場所が違うだけで普段と全く変わらない修練を行っていた者もいるだろう。だが、その一方で確実にこの合宿で大幅に力をつけた者もいる」


 空我は目を細め何人かを見つめる。空我の視線を向けられた者たちが頷くのが分かる。それを見て武は今回の合宿の狙いを改めて実感する。


「今回の合宿の狙いは家の垣根を越えてさまざまな祓い師とともに修練を行うことだ。いつも通り自分一人でやっていた者が多くを占めていたようだが、中には他家の祓い師と合同で修練を行い、有意義な時間を過ごしていた者もいる」


 それこそが今回の合宿の狙いだ。祓い師は本来おそろしく自分勝手で他人を省みず、協力をしようなどと思う者は少ない。それゆえに、他家に所属する祓い師と合同で修練を行うなどまずありえないことだ。しかし、今回の合宿で家によって人数の偏りはあったがそれぞれの家の祓い師を集めたことにより、新たな刺激を与えあうことに成功した。その結果、力を伸ばした者も多い。


「そこでだ。昨日までの集大成を見せてもらうために、今日は試合をやろうと思う。とはいえ、むやみにやらせれば二日目の二の舞になるのは目に見えてる」


 空我はそこで武と燃に視線を向ける。二人は視線をそらしてそっぽを向く。空我は小さくため息をついて、続きを言う。


「そこでだ。僕、心友、燃の三人がかりで審判をやる。もし万が一やりすぎるようなら、僕ら三人で止めるという寸法だ。燃はやらかした二人の片割れだから心配だという意見もあるかもしれないが、さすがに審判でそういうことにはならないはずだ。そこは安心してくれ」


 空我がそう言うと、誰も反論はしなかった。確かに燃は武の出会った祓い師の中では比較的まともに思えるので、彼も相応の人望はあるのだろうと武は判断する。この合宿が始まる少し前に出会ったのでそれ以上のことは分からなかったが。


「とはいえ、一気に多くの試合をやると手が回らなくなるからね。一試合ずつやることになる。組み合わせは数字を書いた紙のくじででも決めて、数字の順番に試合をやっていくということでいいかな。この合宿にはちょうど十二人いるし、ぴったり六試合できるはずだ。何か質問はある?」


「ねぇ」


 美夢が右手を上げて、質問があることを示す。


「何? 美夢」


 空我が指名すると、美夢は椅子から立ち上がる。


「審判は三本柱三人でやるって言ってたけど、十二人全員で総当たりするなら下手をすれば二人試合で抜けるときがあるよね? そのときはどうするの?」


「ああ、まだその説明をしてなかったね。そういうときは、残った人間でやる。ただ一人で他の三本柱二人止めるのは苦しいだろうから、三本柱同士でぶつかることがないように、あらかじめ僕ら三人が戦う枠は固定してある。燃が四番目、心友が五番目、僕が最後だ。つまり、四、五、六のくじを引いた人間は六本柱と自動的に当たることになる。それでいい?」


「分かった」


 美夢は空我の答えに納得し、椅子に座る。


「他に質問はある?」


 それ以上の質問は出てこなかった。空我はそれを見て、箱を右手から出す。


「じゃあ、また二日目みたいにくじを引きに来て」


 二日目同様、順番にくじを引きに行く。武のくじは三番目だった。


「全員引き終えたかな? じゃあ、みんな自分が引いたくじの番号を数字の若い順から言っていってくれるかな?」


 空我の呼びかけに茂豊が右手に引いたくじを掲げて答える。


「一は俺です」


「…… もう一人の一は俺だ」


 諦めたようにため息をついて、渉は右手に持った一のくじを見せてくる。茂豊は渉を見てニヤリと笑う。


「ちょうどいい。拳将家の期待のルーキーとやらの実力を見せてもらおう」


「まぁ、お手柔らかに頼む」


 二人がそんな会話をしていると、綺蘭々がしびれを切らしたかのように、左手に持ったくじを見せてくる。


「そこ。話し込んでないで、さっさと次行くよ。二を引いたのはアタシだ。二はどいつだ?」


「よろしくね。綺蘭々ちゃん」


「あんたか。アタシ相手だからって手を抜くんじゃないよ」


「うん」


 もう一つの二のくじを持っていたのは咲恵だった。綺蘭々は咲恵に肩を組んで絡んでいく。武はそんな彼女たちを尻目に自身のくじを見せる。


「三は俺だ。もう一人は……」


「へぇ、あんたが三なんだ。運がいい」


 武が声のした方を振り向くと、レナが三のくじを持って立っていた。どうやら、武の相手はレナのようだ。二日目以来の再戦となる。

 それから先も相手は決まっていく。燃の相手はモメリ、心友の相手は美夢、そして、空我の相手は唯となった。


「うん。いい感じにバラバラになったんじゃないかな。それじゃあ、場所を移そうか。万が一のことを考えて、少し離れた屋外の場所でやろう」


「昨日も言ったがどれだけ警戒してるんだ。オレも武も二度と同じ轍は踏まねえよ」


「うん、それ説得力ゼロだからね」


 燃が苦言を呈するが、空我はバッサリと切り捨てる。合宿中の問題を誰よりも気にしていたといえる燃が真っ先に大問題を起こしたので、合宿中の信用ががた落ちしているようだ。その様子を見て、武は苦笑いをするしかなかった。






 ○○○○○


 屋敷から二キロほど歩かされたところにある二日目に修練をした広場とは比べものにならないほど広大な空き地の真ん中で空我は立ち止まる。


「よし、この辺りでいいかな。それじゃあ、勝、樟谷。前に出てきて」


 茂豊と渉はお互いに空我の前に出てきて向かい合う。燃と心友も彼らの少し離れたところまで歩いていく。他の者たちは巻き込まれないようにするために、五人から距離をとる。


「ルールは簡単。祓術も武器も何でも使っていい。ただし、相手に重傷を負わせるようなことは禁止。致命傷は論外だ。勝利条件は相手を戦闘不能にするか降参させること。あとは僕らが勝負が決まったと判断したら、場合によっては力尽くでも止めるからそのつもりでね」


 ルール説明に二人は頷く。空我はそれを確認すると、右手を二人の間に出す。


「それでは、はじめ!」


 空我が右手を上げると同時に、両者は呪符を取り出す。先手をとったのは渉だ。呪符を紫色の剣に変えて茂豊へと斬りかかる。茂豊はその一太刀をかわして、反撃といわんばかりの大量の石を渉へと放っていく。渉はその全てを剣で打ち落とす。

 どうやら、渉は剣を祓術で作り出して戦うタイプの祓い師らしい。あのような技は聞いたことがないので、剣を作り出すのが渉の祓己術だろう。

 茂豊はその隙に土でできた棒を作り出し、右手に持って襲いかかる。渉は初撃はかろうじて受けきったものの、二撃目を受けきれずに腹に突きを食らってしまう。


「がはっ!」


 渉は大きく吹き飛ばされてしまう。その衝撃はかなりのものらしく、数十メートルほど吹き飛ばされたところまで吹き飛ばされ、渉はうずくまってしまう。


「ここまでかな。勝者、茂豊勝!」


 茂豊は渉を一瞬だけ見ると、一同の方へと戻っていく。空我は渉の方へと近付いていき、安否を確認するが問題はないらしく、ほんの少しだけ横になっていると、すぐに立ち上がって一同の方へと戻っていく。

 それを見て、空我は第二戦で戦う二人の名前を呼ぶ。呼ばれた咲恵と綺蘭々は気合い十分といった様子で前へと出ていく。



 戦闘はなかなかハイレベルなものだったが、最終的に咲恵に軍配が上がった。綺蘭々は悔しそうにしていたが、咲恵に背負われて一同の方に運ばれていたときは恥ずかしげに顔を真っ赤にして暴れていたが、咲恵は取り合おうとはしなかった。

 そして、いよいよ武の出番が来た。


「次は武とレナだね。両者、前へ」


 武は悠然と前へと歩いていく。後ろにはレナがついてきているのを感じる。しかし、相当緊張をしていることがその顔から見て取れる。二日目に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。当然か。

 二人がそれぞれ向き合うと、レナはこちらに右手の人差し指を突き出してくる。


「三日前はやられたけど、今日はそうはいかない。この合宿の成果をあんたに見せてやる」


「それは楽しみだ」


 武は口元に笑みを浮かべそう返すが正直あまり期待していなかった。いくらなんでも、たった三日でそこまで強くなれたとは思えない。確かに武の例はあるが、そんなものは例外に近いだろう。

 空我が試合開始の合図を示してくる。念のために武は呪符を使って鎧を出しつつ様子を見ることにする。


「さすがに術の発動速度が速いね。でも、もう関係ない!」


 レナは武の祓術の発動速度の速さに舌を巻きつつも両手に十枚の呪符を取り出す。その全ての呪符を用いて、斬の連続攻撃を武めがけて放ってくる。斬だけではないが、この技は呪力の制御次第で一枚の呪符だけで複数の斬撃を放つことができる。二日目のレナはそれを使って十連撃を放ってきていた。だが、今回は十枚の呪符を使っての十連撃だ。呪符を同時に扱う枚数は増えれば増えるほど威力が上がるが、それに比例して術を発動させる難易度も跳ね上がる。確かに呪符一枚での連撃よりも攻撃力は遥かに上がるが、それでも全て同じ術とはいえ呪符十枚を同時に扱うなど生半可な技術では不可能だ。おそらく、以前から修練は重ねていたのだろうが、この三日でものにしたのだろう。

 三日前とは比にならない威力の斬撃が十発、武に襲いかかってくる。しかし、武は動くことすらせずにその全てを鎧で上げた防御力のみで受けきってしまう。


「なっ…… !」


「はぁ……。力は上がっているようだが、やはりこの程度か」


 確かにこの三日でレナの力は凄まじいレベルで上昇しているようだ。それは認める。しかし、武が燃との組手で得た力はそんなものの比ではなかった。はっきり言って、今の連撃程度ならば鎧を発動せずとも防ぎきれた。呪力を無駄にしただけだ。落胆を一瞬顔に浮かべた武にレナは歯ぎしりをする。

 だが、すぐに無表情となった武は拳を発動させ、その呪力を左腕に纏う。


「本当はあまり女に手を上げたくはないが、この場でそれは無粋か」


 武は左腕を振りかぶって、凄まじい速度でレナへと突進する。レナは左手に持っていた呪符を使って斬で迎撃しようとするが、そんなものは何の意味もなかった。武の拳はレナの腹に刺さり、先ほどの渉とほぼ同じ場所まで吹き飛ばされる。武はレナに攻撃が当たる直前に術を解く余裕すら見せていた。つまり、武は素の身体能力だけで茂豊の棒による突きと同じレベルの威力を出したのである。

 空我は小さくため息をつき、迷わずに勝者を宣言する。


「勝者、屋敷武!」


 武は何の感傷も持つことなく、再び悠然とした足取りで一同の下へと戻っていった。



 結局、その後の三戦は六本柱に軍配が上がった。その後は再び自己修練となり、暴れ足りなかった武は屋敷の周りを何周も走ることで百キロ近く走っていた。

 翌日の最終日は歓楽戦予選前日で合宿場所から戻るということもあり、午前中に自己修練をしただけで終わった。



 いよいよ、歓楽戦の予選が始まろうとしていた……。

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