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夢3

今日は二話連続投稿です

 武はぼんやりと周りの景色を認識していく。気付かないうちに眠りに落ちていたらしい。いつ眠ったのかは分からない。いや、今はそんなことはどうでもいい。また、例の謎の明晰夢を見ている。

 この夢がなんなのかは三回目の今になっても理解できない。当初は武の前世の記憶だとも思っていたが、それにしては違和感がある。かといって、この世界の記憶とも断言できない。

 ただ分かることがあるとすれば、この夢の風景や出来事は武の記憶の中にあるということだけだ。忘却の記憶ゆえに一体いつのことなのかまでは分からない。それでも、この夢で起きることはほぼ確実に過去に経験していることは確かだった。


「今度は一体どんな夢だ?」


 前回は一人の幼い少女に数多の人間たちが押し寄せ、襲いかかる胸糞悪い夢だった。その前は謎の女が湖の畔に立って笑っている夢だった。今回はどんな夢を見せようというのか。

 徐々に周囲の風景が明瞭になっていく。同時に武の目に徐々に多くの子供たちの姿がうっすらと見えるようになっていく。

 そこは学校だった。どこかの街中にある古びた学校だ。学校の名前までは分からなかったが、子供たちの年の頃からしておそらくは中学校あたりだろう。校舎を含めてかなり広い土地をとっていたので、小中高のいずれかが合わさっているいわゆる一貫校なのかもしれない。生徒たちが制服を着ているので少なくとも大学ということはない。校庭も相応に広く、周囲は住宅や建物に囲まれていて、あまり田舎の学校という感じはしなかった。かといって、都会というわけでもない。田舎と都会の真ん中といった場所に建てられた学校という印象を受ける。


「だが、それだけだな。特に何の変哲もない普通の学校だ。やっぱり、この夢は人を見ないと意味がないのか。となると、見るべきはあいつらか?」


 武は校庭の中心ではしゃぐ子供たちの方に視線を向ける。はっきりと姿が分かるようになった彼らは顔こそ見えないが楽しそうにサッカーをしている。男女混合でやっているので授業かと思ったが、周囲に教員らしき姿はないので純粋に集まって遊んでいるようだ。武の見立てでは中学生のように見えるのに、よく男と女が一緒にサッカーなどやるものだと思う。この年頃は男女で自然と離れていくものだと思っていたが、彼らは違うらしい。何のしがらみもなく遊べるとはなんとしあわせなことかと感慨深くその光景を見つめる。もっとも、武に中学生時代の記憶は全くといっていいほどないのでひょっとしたら、武もああいった中学生生活を送っていたのかもしれないが。

 しばらくの間、子供たちの姿を見ていると不意に彼らに近付いていく者がいることに気付く。その人間は老人といっても差し支えない容姿をしていた。彼だけは顔を見ることができた。オールバックにした白髪に豊かに蓄えられた白い顎髭。鋭く尖った三白眼。さらに身に纏っている黒いスーツの上からでも分かる鍛え上げられた肉体。威厳に溢れるその容姿を持つ老人は、しかし穏やかな笑みを浮かべて子供たちに近付いていく。子供たちは満面の笑みを浮かべて老人の下に走っていく。おそらくは中学生であろう彼らが嬉しそうに老人に近付いていく様子は武の目にはどこか異様に映った。老人といっても五十代にも見える容姿ではあったので、おそらく彼は教員なのだろうが、思春期まっただ中と思われる子供たちが教員に満面の笑みを浮かべて近付くという光景はそうそう見られるものでもないだろう。武はこの夢の主役があの老人だと直感で気付いた。

 老人と子供たちが何を話しているのかは分からなかった。子供たちが笑みを浮かべて老人に話しかけ、老人もにこやかな笑みを浮かべてその問いに答える。だが、何を言っているのかが分からない。

 他に行くところはないと、先ほど同様しばらく傍観していると、急に声が聞こえるようになってくる。

 といっても、聞こえたのは一言だけだった。


「何度も言うようだが、改めて言うぞ。道に生き、道に死ぬ。それだけは決して忘れるな」


「!」


 老人の声を聞いて武は目を見開く。なぜなら、その声は過去に二回武の頭に流れた声と全く同じ声だったからだ。一回目は思考停止を咎める声。そして、二回目は先ほども言っていた『道に生き、道に死ぬ』という言葉を告げる声。

 偶然とは思えない。つまり、武はあの老人と会ったことがある。ひょっとしたら、あの中に過去の武もいるかもしれない。しかし、子供たちの顔は隠されているせいで判別がつかない。隠されていなくても分からない可能性もあるが。


「ちぃっ! いいところだったというのに……」


 武の意識が突然薄れていく。そのことに武は舌打ちをする。前の二回もそうだった。ある程度夢を見させられたら強制的に夢から覚めてしまう。

 前の二回はわけもわからず、そのまま夢から追い出された。しかし、今回は違う。夢から追い出される(・・・・・・・・・)と武は意識している。だからこそ、この夢になんとしても留まってもっと情報を集めようと必死にあがこうとするが、どれほど抗おうとも意識はどんどん薄れていく。そして、意識を取り戻したときには、自身にあてがわれた部屋の布団の上で寝っ転がっていた。


「くそ…… やはりダメだったか」


 もう少し夢を見ていたかったのに、強制的に覚めさせられてしまったことに武は落胆する。上半身を起こして布団の上にあぐらをかく。夢を途中中断されたのは確かに痛かったのかもしれない。だが、何も悲観することはない。分かったことはある。


「思った通り、あの夢を俺に見させている奴がいる」


 その人物がどういった人物なのかは分からない。だが、確実に武の夢に干渉している人間がいる。それは疑いようがなかった。いや、人間でなくとも作為的なのは確かだ。でなければ、あんな都合のいいタイミングで夢から追い出すことなどできない。


「だが、何が狙いだ? なぜ、俺にあんな夢を見せる?」


 武は頭を抱える。正直、ただでさえこの世界に転生してから分からないことだらけなのだ。聡明とはいえない武の頭の容量はとうにパンクしていた。もう考えることを放棄してしまいたいくらいだ。

 しかし、他ならぬ夢に出てきた老人の声が思考停止を咎めることを言っている。つまり、自暴自棄になっては危ないということだ。だが、分かっていても限度というものがある。



 武は知らない。この後、美夢たちとの会話の途中から記憶がなくなっていることに気付き、さらなる迷宮へと迷い込んでしまうことを、武は知らない。


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