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合宿までの道のり

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 どこまでも澄み渡る青空に大地のあらゆる物体を照らす太陽の光。空気も綺麗でのどかな雰囲気を持つ村に武はいた。この村は神月(しんげつ)村というらしく城神家の者が体を休めたり、修練を集中して行うために訪れることが多いらしい。周辺が山に囲まれていることもあり、どことなく最上級悪霊討伐任務で訪れた一条村を彷彿とさせる。

 天候、気温ともに最高。雲一つない文句なしの晴天であるにもかかわらず、武はどこか浮かない顔をしていた。その理由は彼が持たされている(・・・・・・・)荷物の量にある。


「まさか、こんなに持たされるとはな……」


 武は大きなため息をつく。彼の両腕にはキャリーバッグやボストンバッグを含め多くの荷物があった。


「すみません。やっぱり、私の分だけでもお持ちしましょうか?」


 眼鏡をかけた少女――幾田咲恵が申し訳なさそうな顔でそう聞いてくる。どうやら、彼女は武に荷物を持たせていることを気にしているようだ。


「いや。別にそう大した重さじゃないから気にしなくていい。ただ、持ち運ぶのが面倒なだけだ」


 武はそう言って平時と変わらない速度で歩き続ける。咲恵はなお言葉を紡ごうとする。しかし、そんな彼女の言葉を横から遮る者がいた。


「本人も心配いらないって言ってんだから気にすることないよ。それよりも、この空気を楽しみな」


 咲恵よりもかなり派手めな装いをした少女がそう言う。呑口綺蘭々。黒のキャミソールにショートパンツという、白のワンピースにカーディガンを羽織っただけの咲恵よりもかなり目立つ格好だ。

 いずれも城神家に所属する祓い師であり、歓楽戦に向けて開かれる合宿に参加するためにこの地へと足を運んだ。

 武たちの先頭を歩いていた美夢は後ろの三人の会話を聞いていたのか首だけを三人の方に向けて口を開く。


「いやいや。あんたが重いって言うんなら持つよ。もとはといえば、あんたと綺蘭々のかけあいから、なったことだし」


「何度も言うが別に重くはない。俺のことは気にしなくていいからとりあえず先に進んでくれ。まだ時間に余裕はあるとはいえ、早めに着くに越したことはないだろ?」


 すました顔で武はしれっとそう言う。彼が持たされている荷物の量は並の成人男性ならば運べないということはないまでもかなり苦しむ量だ。しかし、武はもともと恵まれた肉体を保っていた上に祓い師の修練で鍛えているので、この程度はどうってことはない。

 武が不満に思っているのは、単に荷物が多いためにバランスをとるのが面倒だということだけだ。それくらいはどうとでもなるので、武としては別に気を遣われなくても何の問題もなかった。


「そうそう。仮にも男が自分の言葉を簡単に撤回するってのは情けないもんだからねぇ」


「俺の記憶が正しければ、言ったのはお前だったと思うんだが」


 武は綺蘭々に苦言を呈しつつも、ここまでの過程を思い出していた。



 きっかけはなんてことのないものだった。この神月村の入り口に到着するまで、送迎用のミニバンでのんびりしていたときにそれは起きた。


「あんた、ずいぶんとでかいわね」


 三列シートの一番後ろの椅子に一人で座っていると綺蘭々がそう言ってきた。武は半眼で綺蘭々を見つめる。


「そうか?」


 武はどこかぼんやりとした口調でそう言う。ここに来るまで、三時間近く車に揺られていたこともあり、退屈で眠くなってきたのだろう。


「でも、あんたみたいにただでかいだけの見かけ倒しって結構いるからねぇ。実際のところ、どうなの?」


 挑戦的な笑みを浮かべながら、綺蘭々はそう聞いてくる。


「どうと言われてもな。人並み以上の力はあるんじゃないのか?」


 窓の外を心ここにあらずといった様子で見つめながらそう答える。綺蘭々はそれにかすかにむっとしたような顔になる。


「へぇ。じゃあ、見かけ倒しじゃないってとこ見せてよ」


「どうやってだ?」


 若干うんざりしたような顔で武はようやく綺蘭々の顔を見る。綺蘭々はニッと笑い、武の横と自分の横にある荷物を指さす。


「荷物、全部あんたが持ってよ」


「ち、ちょっと! 綺蘭々ちゃん!」


 綺蘭々のあんまりな提案に咲恵は慌てた顔でたしなめようとする。彼らは、今、運転手を除いて四人いる。つまり、武自身の荷物も含めて四人分の荷物を持たなくてはならないのだ。武の隣にはこんもりと荷物が積み重ねられている。それだけではなく、綺蘭々や咲恵の座っている二列目の席にも荷物は載せられている。

 おまけにすぐ目の前でこの車が止まってくれればいいが、今日は六月にしては天気がよく神月村の様子も見たいという要望が咲恵や美夢からあがったため、目的地から三キロほど離れた場所で止まることになっている。とても、三キロも一人で持ち運べるような量ではない。

 ゆえに咲恵は反対の声をあげた。美夢も口にこそ出さないが、綺蘭々を見咎めている。しかし、綺蘭々に提案された本人はいたって普通の態度をとっていた。


「いいぞ」


 武は顔色一つ変えずに心底どうでもいいと言った顔で承諾する。綺蘭々はぱぁっと顔を明るくさせる。


「言ったね? それじゃあ、決まりだ。いやー、よかったよかった。三キロも重い荷物運んでくの、つらいと思ってたとこなんだよねぇ」


 綺蘭々が満足げに頷きながらそう言う。その様子に車に乗っていた他の二人は心配げな顔で苦言を呈す。


「えっ。屋敷さん、いくらなんでもそれは……」


「あんまり無茶しない方がいいんじゃないの?」


「心配いらねえよ。どうせ、こんなもん大した重さじゃないだろ」


 咲恵と美夢がやめておいた方がいいと説得しようとするが、武は眠さで頭の回転が遅くなっていることもあり聞く耳を持たない。

 こうして、武は四人分の荷物を一人で持つ羽目になったのだ。



 要は自業自得である。しかし、この程度は大したことではないと思っていることもあり、武は気にしていなかった。むしろ気にしているのは美夢と咲恵である。しかし、この状況にした張本人である綺蘭々は全く気にしていない。美夢はそんな綺蘭々をじろっと睨むが、綺蘭々は我関せずといった様子である。

 そんなこんなで田んぼ道を歩いていくと、巨大な屋敷のようなものが見えてくる。


「おっ。あれか?」


 武は両手がふさがれているため、視線だけで屋敷を示す。


「そうだよ。あれが、今回の合宿場所だ」


 美夢は屋敷に視線を固定したまま肯定する。


(あれがこれから俺たちが行く場所か)


 武は屋敷を見て目を細める。どうやら、あれは城神家が所有する別邸のようなものらしい。今回の合宿は城神家が提案したらしいので、場所は城神家が提供することになったのだろう。それにしても、かなり離れた場所にあるように思えるが。

 もうすでにかなりの実力者が来ているらしく、その気配が肌にひしひしと感じられる。武はその気配に覚えがあった。おそらく、あの人物だろうとあたりをつける。


「さぁ、行こうか。どうやら、お待ちかねのようだ」


 美夢も当然分かったらしく、屋敷に向かう足を少し速める。武たちもその後に続く。



 近くにいくと、普段いる城神家の本邸ほどは大きくはなかった。しかし、それでも数十人は普通に暮らせそうなくらいには大きかった。庭もそこそこ広かったが、本邸ほどではなかったし、植えられている木や花の種類もそう多くはない。

 そして、何より違うと感じた点は本邸は小高い丘の上のようなところに位置しているが、この屋敷は広大な田んぼのど真ん中に建てられていた。

 巨大な塀と門こそこしらえてあるものの、本邸に比べれば守りはかなり薄いように見受けられる。

 ひとまず門の中へと入ると、屋敷の中から茶色の和服を身に纏った空我が出てくる。その横には燃や心友の姿もあった。


「やぁ、遅かったね。美夢、武、咲恵、綺蘭々」


「よぅ。長旅で疲れたろ。まずは一息ついてけよ。…… つっても、ここはうちの屋敷じゃねえけどな」


 燃が右手を上げながらそんなことを言ってくる。彼はシャツ、チノパンともに赤でまとめた服装をしていて、赤にこだわりがあることを感じさせる。


「ごめんごめん。別に急かすつもりはなかったんだけど、私がさっき流れで放出しちゃった呪力のせいで大急ぎできちゃったかな? ていうか、武くんのその荷物は何?」


 心友は眉を下げてそんなことを言ってくる。ついでに大量の荷物を抱え、埋もれてしまっている武に怪訝そうな目を向ける。親友の言葉に綺蘭々は鼻を鳴らし、美夢は苦笑し、咲恵は申し訳なさげに武を見ていた。ちなみに、心友は半袖の茶色のブラウスに白のロングスカートといった装いだ。完全に普段着に見えるが、あれだけの呪力を放出してしまうような何かがあったらしい。



 ここは海に面しているため、海風が通りいくらかは涼しいものの、やはり夏が近付いてきているだけあって昼間はかなり暑い。そのため、武は半袖の白のポロシャツに紺のハーフパンツ、美夢は水色のカットソーに白の膝丈よりやや上のフレアスカートと皆かなり涼しげな服装をしている。



 ひとまず、玄関に案内された武は玄関に四人分の荷物を置く。武は右手で顔をぱたぱたと扇ぎながら、空我たち六本柱の顔を見る。


「というか、六本柱が三人もこんなところにいていいのか? 任務とかあるだろう?」


 武の問いに空我が苦笑しながら答える。


「ああ、うん。大丈夫だよ。すでに任務のスケジュールとかは調整してあるから。最悪、僕たちなら多少離れててもどんなところにでも行けるし。それに今回の合宿の狙いは修練もそうだけど、情報交換も兼ねているからね」


「情報交換?」


「そう。有力な滅兵とかの情報を交換するんだよ。まぁ、そうはいっても皆大体分かってるんだけどね。基本的には、六本柱が混ざることで修練の質を上げるのが最優先かな。どうせ最後のあがきみたいなものなんだから、できる限り力をつけてもらわないと困るからさ。そうでなきゃ、合宿なんてやる意味ないだろう?」


 武は空我の言葉に一応は納得するが、同時に少し呆れてしまう。今日は六月の二日だ。この合宿が決まったのは武が推測できる限りではおそらく五月二十八日だろう。つまり、わずか四日で六本柱三人を含む実力者たちをこの合宿に招集したことになる。どれほどの人数が参加しているかは知らないが、ただでさえ人手が少ないというのに結構なリスクを負ったものだとどこか他人事のように考える。


「もしかして、私たちが一番最後だった?」


 そこで、美夢が眉をひそめてそう聞く。しかし、心友は首を横に振ってそれを否定する。


「いや、うちの唯が今日どうしても外せない任務が入っちゃってね。それが終わってから、夜にここに来ることになってる。あの子で最後。それ以外は一応皆来てる。といっても、人数は少ないけどね」


「無理もねえ。やっぱ、いきなり六日も穴を開けるなんざ無茶にもほどがある。むしろ、よくこれだけ集められたもんだ」


 燃は諦めたような顔でそう言う。やはり、たった四日で祓い師の実力者たちを六日も休ませようというのはかなり無茶だったらしい。

 今回の合宿は二日から歓楽戦予選の前日である七日まで六本柱三人の主導により行われる。一応、今回は武と燃が連れてきた祓い師の中の一人以外は以前から気心が知れている間柄らしいので、下手に祓い師を集めて合宿を行うよりは問題が起きにくいだろうというのが空我たちの判断のようだ。


「とりあえず、荷物置いてきなよ。その後しばらく休んだら、修練開始だ」


 空我が獰猛な笑みを浮かべてそう言ってくる。咲恵と綺蘭々はその表情に息を飲む。しかし、美夢と武は全く動揺していない。



 この合宿でどれだけ自分の祓己術を完成させられるか。武の興味はその一点のみに向けられていた。


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