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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第二章 救出ごっこ
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終いの会話2

第二章最終話です

 某海岸。もうまもなく午前二時にさしかかろうといった時間だった。古い倉庫に落書きをし、飲んだ酒や吸い殻をポイ捨てをして、大声で笑いながらたむろしているいかにも不良といった少年たちがいた。その数は全部で八人。茶髪にピアス、紫の髪にタトゥー、金髪にリーゼントなどといった前時代的な髪型をした少年までいる。

 そこは決して人が多いというわけではないが、近くには住宅街があり、少し離れたところにも家が点在している。そこに住む住人にとっては、彼らは迷惑極まりない存在だろう。

 しかし、そんなことはおかまいなしと言わんばかりに彼らは大声で騒ぎ続ける。


「そんでよ! あいつ、なんて言ったと思う!?」


「知るかよ。どうせ、くだらねえことだろ?」


「俺が最強だ! って大声で言いやがってよ! アホかっつうの!」


「マジかよ! あいつが最強なら、俺たちは何だよ? 神か!?」


 話の中身は他愛もない話だが、やっていることは近所迷惑そのものである。周囲の住人はカーテン越しに彼らの姿をチラリと見るが、それ以外のことをしようとしない。怖くてできないのだ。下手に注意をすれば何をされるか分からない。見て見ぬフリが一番だと分かっていながらも、周辺のことも考えずに自分勝手に騒ぐ彼らに住人たちは顔をしかめる。安眠どころか睡眠をまともにとることすらままならない。

 しかし、どうすることもできない。そんな彼らに救世主とも呼べる人物が現れた。鍛え抜かれた体に目を見張るような長身。長い金髪を後ろでひとまとめにし、ブラウンの瞳を持った整った顔立ちを持つ若い男。彼は自分勝手に騒ぐ不良たちの方へと近付いていく。


「君たち。近所迷惑だ。ここの住人たちのことも考えてくれないか?」


 夜の海によく響く透き通った声で金髪の男はそう言い放つ。不良たちはその声の主の方に振り向くが、すぐにぎゃははと下品な笑いをする。


「そんなもん俺たちの知ったこっちゃねえよ」


「そうそう。ここは俺たちのシマだ。文句言われる筋合いはねえ」


「ひょっとして、正義の味方ごっこしに来たのかな? あんま、調子こいてると痛い目みちゃうよ?」


 茶髪の男が金髪の男に近付き、その肩をつかむ。しかし、金髪の男は動じる素振りを見せない。毅然とした態度を崩さずに口を開く。


「もう一度言う。近所迷惑だ。静かにしてくれ」


 あまりにもまっすぐな目でそんなことを言われたためか、不良たちはイラつきを顔に出す。


「そんなに痛い目見たいのかよ! この正義の味方気取りのバカがぁ!」


 肩をつかんでいた男が左の拳を振り上げ、金髪の男を殴ろうとする。次の瞬間、男は天高く打ち上がりそのままコンクリートの床に激突する。

 男は床に大量の血をたれ流し、白目をむいた状態でその命を散らした。男がいた地面には人一人が入れそうな穴が空いている。


「なっ!」


「ひぃっ!」


 不良たちは悲鳴を上げる。何しろ、目の前で仲間が一人殺されたのだ。無理もないだろう。


「な、何しやがった! てめえ!」


 紫髪の男が怯えきった表情で金髪の男に怒鳴る。そんな紫髪の男の問いに答えたのは金髪の男ではなかった。


「そいつは何もしとらん。やったんは、オレや」


 不良たちの背後から聞こえてきた声に、不良たちは肩を大きく震わせて振り返る。そこには、水色の髪に青い瞳。そして、左目の下に三本の曲線にそれぞれ六本ずつ横線の入ったタトゥーを入れた一人の少年がいた。


「全く。こんな奴らに何やっとんねん。どうせ、オレらが正義なんやから、さっさと始末せい()うとるやろ。スタトラ」


 青髪の少年は金髪の男――スタトラにそう苦言を呈する。スタトラは苦笑を浮かべ、青髪の少年に言葉を返す。


「おれたちの任務(・・)は彼らに大騒ぎを辞めさせることだ。むやみに犠牲を出すことはない」


「はっ。またくだらんこだわりが出たな」


 青髪の少年は額に手をやり、やれやれといった様子で首を振る。


「まぁ、人殺しを嫌がるんは勝手やけどな、博愛主義も大概にしときや」


 そう言って、青髪の少年は不良たちに鋭い目を向ける。不良たちはひっと小さな悲鳴を上げる。


「すまんが、そういうわけや。悪いが、ここで消えてもらうで」


 青髪の少年の言葉に不良たちの恐怖は頂点に達する。そして、半ばやけくそになってしまった彼らは暴走し始める。


「ちくしょー! よそから来たやつが偉そうに!」


「そうだ!! たった二人で何ができるってんだよ!!」


「俺らであの青髪ヤローをフルボッコにして、死んだあいつの弔い合戦をしてやらぁ!!!」


 完全に錯乱した七人は、死んだ男の弔い合戦といわんばかりに青髪の少年に向かって突っ込んでいく。青髪の少年は彼らに哀れみの視線を向け、左手を彼らの方に向ける。

 一瞬だった。海辺の水のごく一部が突然浮き上がる。その水は彼らの顔にまとわりつく。


「ゴボッ!」


「い、息が…… !」


 酸素を絶たれ、呼吸をすることができない彼らは必死にもがく。だが、やがて力尽き、その場に倒れてしまう。


「相変わらず、えげつない殺し方だな」


「下手にぶった切って殺すよりは外傷も少なくすむしな。さてと、あとはこいつらの死体始末させれば任務完了や」


 青髪の少年はそう呟いてその場から立ち去っていく。スタトラもその後に続く。スタトラは歩きながら青髪の少年の背に話しかける。


「それにしても、正義を語っておきながら人を殺めないとならないとは、なかなか難しいものだな」


「人間社会なんてそんなもんやろ。なんぼ綺麗事をほざいたかて限度っちゅうもんはある」


 それは紛れもない事実だ。どんなに高尚な理念を掲げたところで、人である限り悪からは逃れられない。


「人は皆ろくでなしや。例外なんかおらん。せやから、いちいち説得なんかしてたらキリないんや。どうせ、皆得して大団円なんてありえへんのやから、遠慮なく始末してしまえばええっちゅうんに、なんであない無駄な時間かけるん? 理解できんわ」


 心底分からないといった様子で青髪の少年は振り向きざまにスタトラにそう言う。スタトラはそれに苦笑する。


「その話はここまでにしておこう。話は変わるが、聞いたか? 今度の歓楽戦(かんらくせん)の話」


 あからさまに話題を変えたスタトラにため息をつきつつ、青髪の少年はその話題に乗る。


「あぁ、聞いとるわ。向こうさんが例の事件のせいで、六本柱の何人かが出てこれへんっちゅう話やろ?」


「そうだ。おまけに、例によって龍全からは誰も出ないおかげで、出場させる祓い師の半分近くが六本柱以外の祓い師だと聞いている」


「完璧なめくさっとるな」


 青髪の少年は不快そうな表情になる。スタトラもあまりいい表情はしていない。どうやら、彼らにも何らかの事情があるようだ。


「まぁええわ。今回は五年前とはちゃう。こっちかて奴らに勝てる戦力はおる」


 青髪の少年はそこで打ち切る。スタトラは青髪の少年の言葉の続きを待つ。


「この海神(わだつみ)波一(なみいち)が今度の歓楽戦で祓い師どもに目にものを見せたるわ」


 青髪の少年――波一は自信に満ちた顔でそう言い放った。スタトラも波一の言葉に強く頷く。

 そう、彼らは滅兵の人間だったのだ。彼らはそう遠くないうちに祓い師たちの前に立ちはだかる。



 これは避けられない戦いだ。祓い師と滅兵の戦いはもうすぐそこまで迫っている……。

次回から第三章『歓楽戦』に入っていきます

ただ第三章はかなり長い話になる予定の上に、今まで以上に不定期更新になると思いますが、これからもご愛読のほどをよろしくお願いします

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