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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第二章 救出ごっこ
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決戦! 武vs文大!

 武がミュフィユを倒す少し前。文大は武の纏う呪力が変化したことに気付いた。そして、計画通りに事が運んでいることに文大は内心ほくそ笑む。

 しかし、それをおくびに出すことなく下卑た笑みを浮かべたまま文大は二人に話しかける。


「悪いが、戯れはここまでだ」


「どうして?」


 美夢は首をかしげてそんなことを聞いてくる。そんな美夢を見て、文大はクックッと喉を鳴らして笑う。もう完全に文大に落ちている。勘違いなどではなく、心底文大を好いているのだ。類いまれなる美貌を持つこの美少女がだ。これを笑わずにいられるだろうか。

 しかし、今はそれどころではない。どうやら、武はミュフィユを撃退したようだ。それを感じ取った文大は美夢の質問に答えるついでにある仕掛けを発動させる。


「そろそろ客人がやってくる。丁寧に出迎えてやらねえといけないんでな」


 先ほどの下卑た笑みとは一転、凄絶な笑みを浮かべて、文大は座っていたソファから立ち上がる。文大はユネスの方に顔だけ向ける。


「ユネス」


「はい」


「お前はここにいろ」


 文大の言葉にユネスは不満げな顔になる。文大はその顔を見て、やはりユネスを残して正解だったなと思う。彼女は不満げな顔をしてはいるが、文大の言葉に逆らう素振りを見せていない。ミュフィユではこうはいかなかっただろう。



 先日の最上級悪霊による大量悪霊出没事件によって、軍王家はその影響で生じた問題を解決するために軍王家に所属する祓い師をかなりつぎ込んでいる。特に今日は多くの祓い師を動員しており、当初は文大も出撃させるという話があった。しかし、軍王家の城を完全に留守にするわけにはいかないことや、美夢との婚約及び結婚が控えていることから文大はこの城に残された。その際に文大に残された手駒は門番二人に祓い師四人。それと、お世話係兼最終防衛ラインであるメイド二人だ。この二人は祓い師ではないものの実力は折り紙付きであり、いざというときはその身を挺して文大を守るよう言いつけられている。



 今回文大はその二人のメイドのうちの一人を武の迎撃に向かわせた。ミュフィユは比較的無表情ではあるが、直情的な面がある。文大を侮辱されたり、その身に危険が及ぶと判断した場合文大の命令を無視して勝手な行動をしてしまう場合がある。

 逆にユネスは考えていることが顔に出やすいが、感情に身をゆだねずに冷静な判断ができる。そのため、基本的には文大の命令に逆らうことが少ない。

 ユネスは理解しているのだ。今回襲撃してきた敵が自分の手に負える相手ではないのだと。だが、そんなことは百も承知だ。故に、命令通りその場に待機することにしたのだ。


「もうそろそろ頃合いだろう。俺たちは行くぞ」


「お気をつけて」


 ユネスの言葉にミュフィユは右手を上げて答える。そのまま、美夢の肩を抱いて部屋を出ていく。

 その後ろ姿をユネスはぼんやりと見つめる。彼女は知っている。できれば知りたくはなかったが、知ってしまっているのだ。この先起こる事の顛末を。



 ユネスは意味のないことだと知りながらも文大の無事を願う。星に祈るように天へ顔を向けて……。






 ○○○○○


 武が扉を開けるとそこには広大な空間が広がっていた。正面には左胸に王の文字が彫られた金色の像が祀られている。


「ここは……」


「この城で一番でかい部屋だよ」


 武の後ろから声がかけられる。そちらの方に顔を向けると、右腕に美夢を抱きつかせた文大がいた。武はその光景にわずかに眉をひそめるが、それ以上の行動を起こそうとせずに二人をただじっと見ていた。二人のことを観察するために。何があっても対処できるように。


「おいおい。何か言えよ。お前のお目当てがここにいるんだぜ? 普通は何かしら怒鳴ってくるもんだろ」


「そんな隙を作れるほどお前が弱いとは思っていないもんでね。それに、お前には聞きたいことがある」


「何だ?」


 武と会話しつつ文大もまた武のことを観察していた。敵の住処であるこの城に単身乗り込んできたのだ。リスクを承知でこのタイミングで来たということは、普通に考えて美夢を奪還しに来たと考えるのが筋だ。

 実際、武はこの数ヶ月美夢とかなり親しくしていたと聞く。いささか付き合いが短いとはいえ、美夢が本心ではこの結婚を望んでいないことを知っていれば、たとえ異性としての好意を抱いていなくとも英雄症候群ヒロイック・シンドロームに囚われた正義感の強い者(エゴイスト)なら結婚をやめさせようと敵地に飛び込んでくることは不自然ではない。ましてや、その相手が操られ無理矢理結婚を強いられているのならば、なおさらだ。

 だが、今、文大が対峙している男は洗脳した救出相手(美夢)を堂々と侍らせているにもかかわらず感情にまかせて突っ込んでこない。そのことについて考えつつ、武の問いを待つ。

 武は数瞬間を置いて口を開いた。


「お前()は一体何を企んでいる?」


「!」


 武の問いに文大は目を見開く。武はそんな文大を見てたたみかける。


「明らかにできすぎなんだよ、この状況は。いつお前らが結婚するのかは知らないが、いくらなんでも、この大事な時期にたかだか十人ぽっち残して他が出払ってるなんざ不自然にもほどがある。最初は初対面のお前の言動から罠も疑ったが、結局何もなかった」


 頭がよいとはいえない武でも不自然に思うほどできすぎなこの状況は、武の警戒心を最大まで上げるには十分すぎた。何しろ、こんな状況になった理由があまりにもおかしすぎる。

 末端の祓い師にすぎない武一人のためにそこまで手をかけるかと言われれば疑問だが、それでも罠だというのならまだ納得できた。あるいは武以外の何者かを釣るための罠だと言われていたら、武も何の疑問も抱くことはなかっただろう。むしろ、それが自然だ。しかし、結局それは杞憂だった。そうなると、本当に十人ほどの人手でこの城の留守を守っていることになる。

 どれほど文大の力に信用が置かれているかは分からないが、この大事な時期にここまで警備を手薄にするなど正気の沙汰とは思えなかった。


「わざわざ一つの家を丸ごと動かしたんだ。お前の独断とは思えない。だが、一族ぐるみだとしてもこんな無意味なことをして、お前らに何のうまみがあるっていうんだ?」


 武の問いにしばし文大は黙り込む。しかし、その目には何の色も感じられなかった。ただ無表情で武をじっと見ている。武はその顔を見て文大と初めて会ったときのことを思い出す。何も答えずに、色のない目で見てくる文大に武は一瞬気圧されかけるが、すぐに気を持ち直して次の文大の行動に備える。一挙一動見逃さないように目をこらす。

 文大はしばらくの間、無表情で武を見ていたが突然笑い出す。


「何がおかしい?」


 声を荒げて言う武に文大は気にした様子も見せず、声を上げて笑う。


「ははははは! いやー、悪い悪い。…… そうか。やっぱり、そうだったんだな」


 おかしそうに笑いながら、不可解なことを言う文大に武は目を細める。何が言いたいのだという顔で今度は武が文大をじっと見る。

 その視線を受けて、文大は口元を歪めながら言う。


「何がおかしいだと? 本気で言っているのか? こんなもの、俺でなくとも笑うだろう。何しろ、高いリスクを承知の上でここまでしておきながらそこまでズレているなど、とてもまともな神経を持っているとは思えないだろ」


 文大の言葉に武は納得する。確かに、自分はズレているのかもしれない。普通はこの流れでそんなことは気にしない。というより、気にする奴はそもそもこんなことをしない。文大の言う通り、武はまともではないのだろう。だが、そんなことはいまさらだった。あの試練という名の最終試験をクリアした段階で武に正気などとうに失われてしまっている。


「…… 話をはぐらかすなよ。俺はお前らが何をしたいのかが聞きたいんだが?」


 武の問いに、文大は美夢を腕から離し、大きく距離を取らせてから答える。


「聞く意味なんてねえよ。なにしろ、てめえはここで死ぬんだからな」


 文大はミュフィユなど比べものにならないほどの呪力を放出する。武はそれを見て目を閉じ、両腕を顔の前に構える。

 いわゆるファイティングポーズというやつだ。武が構えを取ると、全身から白い呪力が放出される。

 それを見て文大は感嘆の息を吐く。


「なるほど。そいつでミュフィユを倒したのか」


 武の迸る呪力を見て文大は好戦的な笑みを浮かべる。武は呪力を右腕に集中させ、文大に殴りかかる。文大はそれを左に半歩動くことでかわす。しかし、武は腕を右に振るって追撃をする。文大は屈みつつも懐から素早く呪符を取り出し、凄まじい速度で祓術を発動させる。

 武は構わずに蹴りを文大の腹に決めるが、文大は全くこたえていない。


「無駄だ」


「!」


 文大の言葉と同時に文大の姿が消える。前回の戦いで見せた幻影だ。しかし、武は慌てずに振り返りざまに裏拳を放つ。呪力を伴って放たれた強大な一撃は途中で何かを砕いたような音とともに受け止められる。


「おいおい。聖帝(せいてい)家特注の警棒をあっさり砕くのかよ。予想してたとはいえ、やっぱ化物(ばけもん)だな。てめえ」


 背後に回り込み武に警棒での一撃を見舞おうとしていた文大は、武の攻撃を感知しとっさに警棒で防ぐがその際に警棒が破壊されたのを見て冷や汗をかく。



 文大は相手の心を正確に読むことこそできないものの、ある程度ならば読むことができる。それを駆使して防御や回避を行いつつ、また幻影も利用して祓術や打撃による攻撃を加える。それが文大の戦い方だ。しかし、今の攻防で普段通りに戦うわけにはいかないと文大は判断する。

 文大が防御に使った警棒は六名家の一つ『聖帝家』が作った特注品で、その耐久性は既製品とは一線を画す。象五匹に続けて踏まれても罅一つ入らないという触れ込みの品だ。それを武は裏拳一発であっけなく破壊してみせた。その攻撃力は文大の防御力を軽々と上回っているだろう。ならば、うかつに無難な戦法で戦えばあっという間に敗れ去る危険がある。

 だから、文大は普段よりも力を引き出すことにした。いや、正確には本来の力(・・・・)を使うことにした。文大は呪符を取り出して唱える。


「発現しろ」


 文大の言葉と同時に武の周囲の風景が変わる。吹き抜けの広間から深海の中のような場所へと変わっていく。


「これは……」


「これが、俺の祓己術だ」


 文大は宙を浮いている。否、浮いているようにみえる。事前に文大の情報を聞いていた武はこれを幻覚だと断ずる。

 しかし、その幻術にはまってしまっている以上、この幻術から抜け出すことは必須だった。このままでは相手に主導権を握られて、やられてしまう。

 試しに拳を振るってみる。凄まじい衝撃が起き、海中の水が大きく揺れるものの幻術を解くには至らない。


「本当にふざけた破壊力だな。こんなもん、まともに食らったら一発でお陀仏だ」


 文大は笑いながら武の前から姿を消す。武は視線をめまぐるしく動かし、文大の位置をつかもうとするもののその前に左頬から強い衝撃を受けてしまう。


「がはっ!」


「もう一発!」


 武の顔面を殴った文大はさらに腹に強烈な蹴りを入れる。祓術で強化されたその一撃は武をたやすく吹き飛ばす。

 武は何もないところで強い衝撃を感じる。武は後ろを見るが、そこには水が広がっているだけだ。やはり、ここは幻。そうなると、今の一撃で部屋の壁に叩きつけられたとしか考えられない。


(やはりこれは幻術か……。しかし、なぜここまであからさまなことをする? ここに岩場の幻でも作っておけば、少なくとも俺はこれが現実か幻か判断に迷っていた)


 武は一瞬そんなことを考える。しかし、すぐにその考えを放棄する。今、余計なことを考えている暇はない。すぐに体勢を立て直し、全身を白い呪力で纏って防御力を強化する。先ほどまでよりも強い力を感じる。これならば、文大の攻撃にも耐えられるだろう。武はそう考えていた。

 だが、それは甘かった。


「こりゃ、さすがにやばいかもな。仕方ねえ。あまり得意じゃねえが、やるか」


 文大は武の正面に姿を現す。文大は呪符を武の方に向けている。武は反射的に文大に殴りかかる。しかし、その前に文大の祓術が発動してしまう。

 発動するとともに、大きな高音が武の耳に響く。音が止むと同時に武は殴りかかろうとしている構えのまま動きを止めてしまう。文大はその様子を見て醜悪な笑みを浮かべる。


「どうだ? 自分の心の中を(・・・・・・・)ぐちゃぐちゃにされる(・・・・・・・・・・)気分は?」


 文大の問いに武は答えない。全身の力が抜け、その場にくずおれるように倒れる。その顔に生気はない。抜け殻のような顔でその場に倒れ伏している。


「生憎兄貴ほどの威力は出せねえが、それでも、素人あがり一人ならこれで十分だ」


 文大は笑みを深めて、武の方へとゆっくりと近付いていく。



 武の意識は真っ暗な闇の中にいた。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。何も分からない。そんな状態だった。

 無の極地ともいえる状態で武はぼんやりとしていた。


(あれ? 俺、こんなところで何をしているんだ?)


 武は薄れゆく意識の中で朧気にそんなことを思う。


(俺は確か…… 何をしてたんだっけ?)


 武はゆっくりと何があったかを思い出そうとする。だが、次の瞬間激痛が襲いかかる。


「くっ、くそっ! なんだ……。これは……」


 武は頭を抱えてうずくまる。もうこれ以上激痛を感じたくないという思いと、激痛を耐え抜いてでも真実を知りたいという思いが武の頭の中でせめぎ合う。まともな思考ができない武は、面倒になりそのまま思考を放棄しようとする。


(もういいか。別に、どうでも……)


 武の思考は諦めに入っていた。しかし、突然武の全身に力が漲る感覚が生じる。


「なんだ、これは……」


 武は突然の事態に混乱する。今までも急に不自然なほどの力が湧いてくることはあった。しかし、これほどの力の上昇は経験したことがない。

 武は混乱するも、その意志に関係なく力が武の中から爆発的にあふれ出てくる。抗うこともできず、武の意識は地面から突如発生した白い炎に包まれていく。

 気付けば、武は最初に見た大部屋で絶大な白い呪力を纏いながら文大と対峙していた。


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