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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第二章 救出ごっこ
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図書館

 最上級討伐任務から二週間が経ったものの、何度か連れ出されたが、自分からは全く外出をしていなかったことに気付く。気晴らしにどこかに散歩しに行こうと思い至り、もう少しこの世界の知識を身につけるべく、図書館に向かうことにする。

 一般教養に関しては、さほど問題ない。しかし、この世界の一般常識に関して、あまりに武は無知すぎる。現に、今、自分がいるこの国の名前は何というのかすら知らない。さすがにそれはまずいと考え、今日は一日図書館で本を読みふけることにした。

 他の祓い師たちものんびりと休暇を満喫していることだろう。二週間前までは考えられなかったことだ。しかし、大量悪霊出現の元凶である灯と邂逅し、彼女が退くと言ってから、以前までが嘘のように悪霊の数が減った。もちろん、数日ほどは多少の余波が残っていたものの、今となっては見る影もない。空我に聞くと、これが本来の光景らしい。


(それは結構なんだけどな。ただ、少し前の俺だったら、やきもきしてたんだろうなぁ……)


 理由も分からずに、元の世界に戻るために、とにかく武勲を上げようとしていた二週間前までの自分。だが、あのボレという悪霊にボコボコにされてからは、もうそんな気は失せた。少し前の自分が、死に急いでいただけの馬鹿にしか見えなくなってしまった。事実、そうだが。

 中級までなら、何体いようとも、おそらく現時点での自分の力で十分通用するだろうが、上級以上にはまるで歯が立たない。祓己術を身につけないと話にならない。あの一戦でそれを嫌というほど痛感させられた。

 しかし、祓己術とはどうすれば身につくのか。それに対する有意義な答えが得られるとは思えないが、図書館で多少祓い師について調べていけば、ヒントくらいは得られるかもしれない。そういう目的もあった。


「とはいえ、望み薄だけどな」


 武は小さくそう呟いた。最初の任務での様子を見る限り、おそらく祓い師は肝心なところを秘匿している。いや、当たり前といえば当たり前なのだが、それゆえに、図書館で調べたところで祓己術に関する手がかりを得られるとは思えなかった。

 しかし、それでもさほど問題はない。とりあえずは、この世界に関する常識だ。その情報はいくらでも手に入るだろう。幸い、文字は武がこの世界に来る前にいたと認識している世界と共通している。大体の本は読むことができるだろう。


(まぁ、そのことがこの世界に元々いたんじゃないかという仮説をより有力にしてるんだけどな)


 一度保留にした仮説がまた頭に浮かぶ。否定はできない。しかし、肯定もできない以上、この仮説にこだわる意味があるとは思えなかった。


「とりあえず、中に入るか」


 考え事をしながら歩いていると、もう図書館の目の前についていたようだ。ガラス張りの近未来風の建物をほんの少しの間だけ見上げ、その入り口へと歩いていった。






 ○○○○○


 入り口を抜けていくと、中はかなりの広さだった。前回、美夢と来たときは、建物の入り口までだったので、中に入るのは初めてだ。閲覧する場所も、かなりのスペースがあったが、本棚の数もなかなかどうして多い。これならば、得られる知識は多そうだ。

 手始めに、地理関係の本を手に取る。それから、文化系、政治系、経済系。ついでに、一般文芸の本も何冊か取り、空いている席に座る。

 まずは、最初に手に取った地理の本から読む。世界地図らしきページを開く。その世界地図は、武が覚えている以前の世界での世界地図とは異なる形をしていた。さらに、無数の国があったように記憶している前の世界と違い、この世界では五つしか国がないようだ。主に三つの大陸に別れており、西に三つ、真ん中に一つ、そして東に一つの国が点在している。

 今、武がいる国の名前は藍岸(あいがん)。ここは東の端に位置する国だ。地図の中央に位置する国が緑陸(りょくりく)。藍岸からは大陸と呼ばれている国で、この世界では面積が最も大きく、また人口も一番多い国だ。

 西にあるのは、赤地(あかち)黒層(こくそう)白脈(はくみゃく)の三つの国で、最も巨大な西の大陸を三つに分けてできた国だ。藍岸、緑陸と違い、同じ大陸に存在しているため、はるか昔は戦争を何度も繰り返していたらしく、今は表面的には友好関係を結んではいるものの、実際の関係は決して良好とは言えないようだ。

 現時点でのこの世界全体の人口は八十五億人いるようで、各国の人口分布は藍岸が二十億人、赤地、黒層、白脈が各十億人、そして、緑陸が残りの三十五億人を占めているらしい。


(写真を見た感じ、結構共通しているところもあるんだな。いわゆるグローバル化ってやつか?)


 そんなことを思いながらも、武はその本を読み続ける。それから五分ほどで本を読破する。全てを読み終えた感想としては、あまり以前の世界と大差がないということだ。武はその事実に軽く顔をひきつらせつつも、他の本にも手を伸ばす。この国や他の国にはどのような文化があるのか。どんな政治形態なのか。経済はどう回っているのか。ありとあらゆる本を読むたびに、武の顔色が少しずつ悪くなっていく。


(やばいな。読んでいくたびに、ますます最悪の想像が頭に浮かぶ)


 武は特に政治や経済、文化面に強いわけではない。せいぜい上澄みを少し知っている程度だ。だから、断定はできない。しかし、今まで読んだ本に載っていた情報は、武の記憶しているものに限りなく近かった。

 もちろん、本に載っているものはしょせんは上澄みだ。実態が大きく異なるものもあるだろう。なんといっても、祓い師や悪霊などというものが存在しているのだ。これで上手く回るわけがない。

 しかし、そんなものは武の不安を拭うに足るものには到底及ばなかった。

 だが、同時に疑問もある。今まで調べた本には祓い師や滅兵、悪霊に関することが一切載っていなかった。いくら祓い師が多少は配慮しているとはいえ、しょせんは気休め。一般人たちに知られていてもおかしくはないと踏んでいたのだが、それらに関することは一文字たりとも書かれていなかった。


(一般人には知られてはいけない機密事項ってことか? いや、それなら、俺にそういうことを伝えて念押しするはずだ。それに、初任務のときの奴らの行動と矛盾する)


 あれだけ大勢の人間の目を気にすることなく、空我は武に悪霊の処理を命じ、さらに裏方であるはずの執行者たちも堂々と姿を現した。どう考えても、情報を意識的に隠そうとしているとは思えない。


(もちろん、あの灯とかいう最上級悪霊のせいで、手が回ってなかった可能性もなくはないが……)


 いずれにしても、まともに情報統制をする気があるとは思えなかった。実際、悪霊の大量出現が収まってからも、一回他の祓い師の仕事ぶりを見る機会があったが、彼らが人目を気にする様子はなかった。それに、他にも気になることがある。

 だが、一度に多く考えると頭がパンクしてしまうと考えた武は今日はここまでにしようと決め、本を元の場所に戻すことにする。

 そのために、武は立ち上がり、分厚い本を数冊両手に抱えた。






 ○○○○○


 今日行った図書館では、もともと武が何も知らなかったこともあり、それなりの情報が手に入った。しかし、肝心の祓己術については何も分かっていない。そもそも、祓い師関連の本が何も置かれていなかったのだ。

 屋敷へと向かう田舎道をのんびりと歩きながら、武は小さくため息をつく。


「とりあえず、今日のところはこれで満足するしかないか」


「何で満足するしかないんだ?」


「!」


 突然、背後から声をかけられ、武は肩を震わせる。考え事をしていたために、後ろから誰かが近付いてくることに気付けなかった。いや、考え事をしていなくても、気付きはしなかっただろうと後の武は思う。

 武が首だけを後ろに振り向けると、そこには見知った顔がいた。


「あんたは……。茂豊か」


「ふん。あの洞窟で、悪霊にズタボロにされたにしては、やけに元気そうじゃないか」


 茂豊は忌々しげな顔で武を見てくる。上は白いシャツに水色のジャケット、下は紺のチノパンというラフな格好をした茂豊の左手にはレジ袋が提げられている。どうやら、ジュースを買ってきた帰りらしい。


「頑丈なのが取り柄なんでね」


「はっ」


 体を茂豊の方に向けて言葉を返すと、茂豊は鼻で笑う。そのまま、武の横を通り過ぎていこうとする。だが、茂豊がすぐそこに来たとき、武はあることを思いつく。


「なぁ」


「ん?」


 武が呼び止めると、茂豊は短く返事をする。その顔には、若干の不快感の色が浮かんでいる。武は気にせずに言葉を続ける。


「俺に、祓己術を教えてくれないか?」


「はぁ?」


 突然の武の頼みに、茂豊は素っ頓狂な声を上げた。


「突然、何を言い出すんだよ」


 茂豊は不機嫌さそのままにそう言う。


「俺は、今日図書館に行ってきたんだ」


「そうか。それで?」


「俺はあまりに何も知らないからな。いろいろと勉強になったよ。だが、祓己術については何も分からなかった」


 武の言葉に、茂豊は何をいまさらといった顔で頷く。


「だろうな。そもそも、祓己術の会得にマニュアルなんか……」


「そもそも、祓い師に関すること自体載っていなかった」


 茂豊の言葉を遮って言い放った武の言葉に、茂豊は冷たい目を武に向ける。その目は、武を威嚇するようにも、値踏みしているようにもみえる。武は気にせずに言葉を続ける。


「それに関してはどうでもいい。だが、祓己術に関して、前例すら知らない俺では、祓己術を会得できる可能性はおそらく限りなく低いだろう。だから、せめて、お前がどうやって祓己術を会得したかだけでも教えてくれないか? 無理だというのならば、諦めるが」


 武の言葉に茂豊は顎に手をやり、考え込む仕草をする。数瞬考え込んだ後、武の顔を一瞥し、口を開く。


「そうだな。確かに、祓己術を扱える祓い師が増えることは、俺たち祓い師にとってはメリットになる。だが、その提案にはい、分かりましたと乗るわけにはいかないな」


 武は茂豊の顔をじっと見つめる。茂豊は武と目を合わせることなく、言葉を紡ぐ。


「まずは、俺と手合わせしろ。俺はお前のことについて何も知らない。この手合わせでお前を見せてみろ。話はそれからだ」


「…… 分かった」


 茂豊は武の返事を聞くと、武に背を向け、屋敷の方に歩きはじめる。武はゆっくりとその後を追った。

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