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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第二章 救出ごっこ
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第二章開始です

 三時十分。いつもよりも早い時間に目を覚ます。体を起こし、自分の右手を見る。体には何も異常はない。だが、二週間ほど前にボレにやられてから、朝、目を覚ますたびに少しの間考え込むようになっていた。結局倒れてから、再び目を覚ますまでに三日を要した。三日の休息が必要なほどの力を武はあの戦いで使ったのだ。だが、それだけの力を振るってもなお、ボレには勝てなかった。完敗だ。

 あれからもう二週間。しかし、武にとってはまだ昨日のことのように感じる。


「祓己術…… か」


 自分を完膚なきまでに叩きのめした悪霊――ボレはそれを身につけてから、また来いと言っていた。再会できるかどうかは別にして、祓己術を覚えないことには話にならない。それをあの洞窟での戦いで身にしみて理解した。いや、せざるを得なかった。


(祓己術もそうだが、他にも気になることがある。俺とやり合ったあのボレという男……)


『そうか。変わらないんだな。お前は……』


(あの言い方。まるで以前の俺を知っているような口ぶりだった。それに、あの灯とかいう最上級悪霊……)


 洞窟で出会った最上級悪霊の女を思い出す。確信はない。証拠もない。根拠すらない薄っぺらな推論だが、あの灯という女は、確実に夢に出てきた女と同一人物だと武は考えていた。もちろん別人の可能性の方がはるかに高いが、なぜかその可能性についてはありえないと武の中に確信に近いものがあった。そして、仮に彼女が夢の中の女性で、灯と武の二人が過去に会ったことがあるのならば、一つの可能性が出てくる。


「…… 俺が記憶を失う前から、この世界にいた可能性…… か」


 冷静に考えれば、一番確度が高い可能性だ。なぜ、今までこの可能性を見逃していたのか理解ができない。おそらくは、無意識の内にこの可能性から目をそらしていたのだろう。その理由までは分からないけれど。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。感情に任せずに理性的にその可能性について突き詰めていく。

 武は生まれたときから、ずっとこの世界にいた。これは前提条件だ。そして、武の身に何かが起き、その結果武は記憶を失ったまま、あの空間に送り込まれた。そして、その空間に案内人(ガイド)が入りこみ、そのままこの世界に戻された。それなら、最上級討伐任務の前に何回か起こったフラッシュバックや強い違和感がこの世界に準じていたこと。そして、呪力を使ったことがないはずなのに、熟練の祓い師にも匹敵する呪力を持っていたこと。あの最上級悪霊の目的の一つが武の力を見ることだったこと。すべて筋が通る。武は一瞬それが真実なのではないのかとさえ思った。

 だが、すぐに思い直す。もし、この推論の通りだとすると、いくつか腑に落ちないことがある。たとえば、この世界の人間が誰も自分のことを知らないような態度を取ったことだ。あれだけの呪力を持っていたのだ。祓い師としてか滅兵としてかは分からないが、相応に悪霊を殺していたはず。なら、武の名前くらいは知られていてもおかしくはないのではないか。もちろん、武が城神家とは全く無関係の家に属する人間で、城神家の人間はたまたま誰も知らなかったという可能性もある。武自身祓い師は城神家の人間としか接触していないのだ。祓い師や滅兵内部のことについて何も知らないといってもいい。まだ、結論を出すのは早いかもしれない。そもそも、あの空間に行った前後で容姿や声が前と変わっている可能性だってある。しかし、容姿や声が変わっているのだとしたら、ボレが自分のことを知っていたことに関して疑問が残る。それに、灯もあの反応からしておそらくは自分を知っていた。そのことからして、もし、この推論が正しいのならば、容姿や声が変わっている可能性は限りなく低いだろうと武は結論づける。

 こうしてゆっくりと考えてみると、確証も何もない現段階では、この世界にもともといたと結論づけるのはまだ早い気がした。


「今は俺がこの世界に元々いたのかどうかよりも、祓己術のことについて考えていた方がよほど有意義そうだ」


 武の思考は祓己術の方へと移っていく。ちょうど一週間前、武は空我に祓己術のことについて尋ねた。どうすれば祓己術について学べるのかと。その問いに対する空我の答えはあまり参考になるものではなかった。


『うーん。人によって、会得するタイミングもどんな術なのかもまるで違うからなー。悪いけど、はっきりとは答えられないよ。一つだけ言えるのは、自分で見つけるしかないってことだけだ』


 見つける。つまり、自分の力だけで手に入れるしかないということだ。どんな力なのかも、どんな方法で手に入るのかも、全て自分で見つけ出すしかない。何もない真っ暗な闇の中から。

 気の遠くなりそうな過程に、武は思わずため息をつく。祓己術についての回答を得た後、ダメ元で祓い師の学校ではどんなことを教えているのかも聞いてみたが、その問いに対する答えもあまりためになるものではなかった。

 祓い師の学校は基本的に六歳から十八歳までの十二年間で祓術について学ぶ。六歳から十二歳までの六年間は第一階校(かいこう)と呼ばれるところで、体の動かし方を学ぶ。十三歳から十五歳までは第二階校で呪符や呪力の扱いなどの祓術の基礎中の基礎を学び、十六歳から十八歳までは第三階校でさらに祓術に関して学ぶ。そして、例の人を殺す修練を最終試験と称して行い、それを合格(クリア)した者が第三階校を卒業し、祓い師として活動する。もちろんその間に、国語、数学といった基礎知識と、祓い師としての知識の勉強も同時並行で行う。一応、第一階校を小学校、第二階校を中学校、第三階校を高校とみればいいらしい。勉強内容も一般的な学校に準じているため、祓い師としての修練と並行して行うことも考えると、かなり忙しいらしい。それが基本的な祓い師になるまでの過程だ。

 これを全て合格した者だけが祓い師になることができ、落第した者はまた別の道を歩む、というのが基本らしい。


「つまり、在学中に祓己術を教えてくれるわけではないというわけだ」


 武は諦めたように呟く。祓己術にどのようなものがあるかぐらいは教えてくれるかもしれないが、どうすれば会得できるかについては教えてはくれないのだろう。教えられないといった方が正確かもしれない。

 思考を一度中断し、軽く伸びをして時計を見ると、三時四十三分を指していた。そろそろ準備を始めた方がいいだろう。

 武は布団から出ると、修練用の服に着替え始めた。



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