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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第一章 活発化する悪霊たち
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終いの会話

 未明。山の中にある断崖絶壁の端に腰かける一つの人影があった。その人影は黒いマントにフードを被り、緑色で目と口が大きく弧を描くように描かれた仮面を被っていた。その仮面はさながら、狂気を帯びたような笑みのようだった。

 そんな人物に近付く影があった。執行者十干の一人・甲だ。


「やぁ、調子はどうだい?」


 仮面の人物が振り向かずに甲に気安く話しかける。甲も気にした様子もなく口を開く。


「問題ない。ただ、いくら力をまるで引き出せていないとはいえ、武がボレに押さえつけられたのは想定外だったがな」


 背中越しに甲がそう言うと、仮面の人物はクスクスと笑う。


「それは仕方ないよ。まだまだ不完全を通り越して、別人もいいところだし」


「そうか」


 甲は辺りをキョロキョロする。仮面の人物は甲の方を振り向いて、その様子について尋ねる。


「どうしたの?」


「いや、あいつらはどうした?」


「んー? サケビならここにはいないよ。クルイはまぁ、いつも通りかな」


「それは残念だ」


「ん? 何か二人に用事だった?」


 仮面の人物が首を傾げて尋ねる。


「いや。別に、何もないよ。ただ、たまには顔を見たいと思ってな。クルイには期待してなかったが、サケビは、ひょっとしたらいるのではないかと思ったんだ。いないならいい。それよりも、ワライ」


「何?」


「武をどうやって、この世界に連れてきたんだ? 相当苦労しただろ?」


「やり方は企業秘密。ただ、さすがの僕も記憶や人格まで万全とはいけなかったけどね」


「それはやむを得ないだろう」


「そうだけどね」


 仮面の人物――ワライは肩をすくめる。それから、立ち上がって、虚空に向かって話しかける。


「いるかい? 案内人(ガイド)


『なんでしょうか? ワライ様』


 何もないところから低めの声が響いてくる。それに対して、ワライも甲も全く驚いた様子を見せない。


「今、武はどうなってる?」


『ボレ様にやられ、かなりの傷を負われてはいますが、命に別状はありません。ただ、彼の本当の力を知る者としては、少々歯がゆいですがね』


「それはどうしようもないよ。どんなに強い力を持っていても、その使い方が分からないんじゃ、話にならない。まぁ、その辺は僕のせいでもあるんだけどさ」


『いえ。ワライ様は完璧でした。あれは致し方のないことでしょう』


「お前も甲と同じことを言うんだね」


 ワライは乾いた笑みでそう言う。しかし、すぐにその笑みを引っ込め、もう一つ気になったことを案内人(ガイド)に聞く。


「それで? 今、武とはどんな感じなんだ?」


『あまり良い関係を結べてるとは言えませんね。致し方ないとはいえ、かなり疑われている状態です。現に、最近は全くと言っていいほど意思疎通を図れていません』


 そう言う案内人(ガイド)の声は暗い。案内人(ガイド)としては、できれば、きちんと連携をとれるようにしておきたいが、武にその意志がない以上、案内人(ガイド)に術はなかった。


「それは、どうしようもないな。まあいいよ。現時点じゃ、信用されてようがされてまいが目に見えて違いはない。今は陰でそっと支えてやるだけでいい。どうせ、あいつもいつかは記憶も人格も完全に取り戻す。そうなれば、あいつの方から好き好んでお前を頼ってくるさ。その時こそがお前の出番だ」


『心得ました』


「じゃあ、戻ってていいよ。この時間はさすがに寝てると思うけど、一応念のためにね」


『かしこまりました』


 それっきり、虚空に響く声が聞こえなくなった。ワライはそれを確認し、一つため息をつく。


「それにしても、結構予想と外れた展開だなぁ」


「武をこのタイミングでここに呼び寄せたのが原因だろう? そのせいで、いろいろとズレてきている」


「そうなんだよねぇ。でも、あれ以上はどうしようもないよ。まぁ、割り切るしかないね。どうせ、計画に支障はないんだし。あまり歓迎はできないけど」


 ワライはそう言って、再び崖に腰かける。少しの間思案しているような素振りを見せる。


「そもそも、武が力を引き出しきれてないのが原因なんだよねぇ。あのままじゃ、どこかで問題が出る」


「だろうな。少なくとも、この後の戦いが続かないぞ」


「うん。だから、少しこっちも介入してみようと思う」


「どうするつもりだ?」


 甲の問いに、ワライは仮面の向こうでニヤリと笑う。


「あいつに問答無用で力を引き出させる。少なくとも、祓己術くらいは使えるようにする」


「どうするつもりだ?」


「いくらでも手はあるさ。たとえば、身近な人間を狙うとかね」


 ワライの言葉に甲は答えない。その人物について見当がついているからだ。


「狙うのは、城神家の三女・城神美夢だ」


 ワライは軽い世間話をするような調子でそんなことを言う。だが、その内容はとても看過できるものではなかった。しかし、咎める者はその場にはいなかった。




これにて第一章は終了です

次回から、第二章『救出ごっこ』に入っていきます

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