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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第一章 活発化する悪霊たち
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入村

 一条村。ここに住む者たちは、多少、祓い師や滅兵といった者に対して排他的な姿勢を見せるものの、基本的には穏やかな気性の者が多かった。だから、突然見知らぬ者たちがやってきても、ただの人間と判断したならば、親切な応対を見せる。

 この時もそうだった。畑仕事をしていた翁に四人の若い男女が声をかける。


「あの、すみません」


「うん。なんだ?」


 手を止めて、翁は男女の方に向く。その顔には穏やかな笑みが浮かんでおり、四人も安心したような笑みを浮かべる。


「この村に『女頭(めず)(ほこら)』があるって聞いたんですけど、どこにあるのか教えてもらえませんか?」


「女頭の祠ぁ? なんでまた、あんなところに」


 翁が怪訝そうな顔になる。どうやら、あまりいい場所ではないらしい。


「そこに祀られている神様が、かなり御利益があると聞いたものですから、お参りにと」


「ああ。確か、受験だかの合格祈願とかで、たまに人が尋ねてくるね。あんたらもその口かい?」


「ええ。今年受験なもので、少しでも縁起を担いでおきたいんですよ」


 翁はその言葉に納得する。翁と話している子どもはかなり幼く見えるが、残りの三人は高校生くらいに見える。合格祈願に来ていてもおかしくはない。


「そうかい。せっかく来たっていうんなら、ちゃんと教えてやらねえとな。祠に行きたいっていうんなら、この道をまっすぐ行けばいい。途中曲がりくねっちゃいるが、祠までは一本道だ。洞窟の入り口っぽいところが見えたら、多少怖いかもしれねえが、中に入っていけ。そうすりゃ、すぐに祠が見える」


「分かりました。ありがとうございます」


 四人は会釈をして、翁の教えてくれた道を行こうとする。そんな四人の背中に、翁は声をかける。


「あ。一つだけ、言っておかねえといけないことがある」


「何です?」


 四人は翁の方にもう一度向き直る。翁は先ほどまでのニコニコとした笑みから一転して、神妙な顔になっていた。


「洞窟の中は暗いが、道は広いからな。安心して進むことはできる。そして、道の途中に祠があるわけだが、絶対にその先には行くなよ」


「どうしてですか?」


「やばいからだよ。とにかく、命が惜しけりゃ、行くのはやめな。下手に行くと、受験どころじゃなくなっちまうなんてことになりかねねえからな」


 翁は理由についてはぐらかす。しかし、かなり危険が伴うのは間違いないようだ。


「…… 分かりました。忠告ありがとうございます」


「おう。受験頑張れよ!」


 四人は再び会釈して、今度こそ、歩みを進めていく。翁はその後ろ姿をじっと見つめていた。






 ○○○○○


 しばらく歩いていくと、山道のようなところに入る。それまでは、家のようなものをいくつか見かけたが、人は見かけなかった。不気味以外の何物でもない。もちろんこの辺り一帯が空き家で、人が住んでいない可能性もあるが、それにしても、一人二人は人を見かけてもおかしくはないはずだ。先ほどの翁の例もある。そのことについて、武は空我に尋ねようと思ったが、どこか見えないところにいる可能性も考え、山の中に入ってから、人がいないことを確認し、口を開こうとしたところで、空我の方から話しかけてくる。


「どう思う?」


 かなりの小声でそう聞いてくる。人や悪霊の気配がないとはいえ、この任務では、形式上は隠密行動を基本としている。悪霊がいるとされる祠に近付いていることもあり、下手に大きな声は出せない。


「さっきのじいさん以外に人を見ないことか?」


「それもあるけど、僕としては、呪力を全く感じないことの方がひっかかる。もうだいぶ近付いてきてるはずなんだけど……」


「確かに、この村に入ってから、俺たち以外で呪力を感じたのはあのじいさんだけだからな。しかも、そう大したもんじゃなかったし」


 武はそう言って、進む先を凝視する。まだ、祠があるという洞窟の入り口は見えていないが、それでも、悪霊はおろか人の呪力を全く感じないというのは不気味だった。


「じいさんと言えば、さっきお前と平然と話してたけど、意外と気付かれないもんなんだな」


 空我は祓い師でも、かなり上位の実力者のはずだ。それならば、情報通のこの村の人間ならば、空我の顔くらい知っていてもおかしくないはずなのに、全く警戒心を見せなかった。

 それを疑問に思っての質問だったが、空我はなんてことのないように問いに答える。


「まぁ、僕は基本的に裏方だからね。他の六人と違って、ほとんど顔は知られていないはずだよ。だからこそ、僕が選ばれたんだけどね」


「他の六人?」


「そう。後で教えるよ。この任務で生き残れればの話だけどね」


「確かにな」


 武は苦笑する。初めての最上級や上級との戦いなだけにどうなるかは分からない。おまけに向こうには十中八九気付かれているらしい。ならば、まず間違いなく待ち構えている。相当危険な任務だ。生き延びるだけでも、かなり困難になるかもしれない。そう考えながらも、この任務が始まる前から気になっていたことをふと尋ねる。


「そういえば、面倒になるから村人に気付かれないように隠密行動するって言ってたけど、最上級には俺たちのこと気付かれてるんだろ? だったら、俺たちがこっそり動いていても、向こうはお構いなしに襲撃してくるんじゃないか?」


「それはないよ」


 空我は小さく、されど力強い声で武の推測を否定する。空我はその理由を囁くように言う。


「この最上級悪霊は祠のある洞窟から一切離れようとしないらしい。半ば地縛霊みたいなものだね。だから、わざわざ四人の客人のために外に出るなんてことは、まず、ないみたいだよ」


 空我の言葉に最初に道を聞いた翁のことを思い出す。


「じゃあ、あのじいさんが言っていたのは……」


「うん。おそらく、その最上級悪霊のことだ」


「最上級のことを知っていたのか……」


「いや。それはどうかな。あのおじいさんが向こうの手先っていうなら話は別だけど、ただ言い伝えとかでそう言い聞かされてたって可能性もゼロじゃない。もっとも、前者の方が可能性が高いだろうけどね」


「だろうな」


 四人は村に入ってすぐに翁と会ってから、ただの一人にも会っていない。気配を消して隠れているのかとも思ったが、今の彼らは村の人間からするとただの高校生くらいの子供にしか見えないはずだ。わざわざそんなことをする理由は思いつかない。そもそも、一般人に過ぎない村人にそんなことはできない。

 それよりは、村人たちは最上級の悪霊の手に落ちており、あの翁は侵入者が入ってきたことを知らせる見張りか何かだと考えた方が自然だ。それに、祠の先に行くなという忠告も、自分たちが中高生と見て、その好奇心を煽るために言ったのかもしれない。


「他にも聞きたいことはあるだろうけど、そろそろ口を閉じてね。もう着いたみたいだから」


「!」


 空我が急に立ち止まる。他の三人もそれに合わせて立ち止まると、断崖絶壁の真下に洞窟の入り口があった。入り口は整備されているのか、わりと綺麗だった。しかし、それは逆に言えば、最上級悪霊の住むこの洞窟を整える人間がいるということだ。


「さぁ、準備はいい? ここからは一瞬たりとも気を緩めるなよ。何があるか僕にも全く想像がつかないからね」


 空我の言葉に三人は無言の肯定をする。空我が危惧するまでもなく、三人に気の緩みはない。しかし、それでもこれからの任務の危険度を思えば、十分とは言えなかった。


「じゃあ、入るよ」


 空我が先頭になり、武、美夢、茂豊の順に中に入っていく。中は真っ暗だったが、かなり広く、高さは十メートルは楽にありそうだった。入り口同様、中の道も整備されていた。しばらくすると、中に何かを祀られている社が見えてきた。


「あれが、噂の祠か……」


 さほど大きいとはいえない祠だった。だが、年季の入り具合と洞窟の暗さが相まって、かなり不気味なものになっていた。

 祠は道の途中にあり、翁の言う通り、その先にも道は続いていた。


「どうする?」


 美夢が小声で空我に聞く。


「当然、先に行く。じゃなきゃ、何のためにここに来たのか分からない。だけど、ここから先は特に罠や奇襲に警戒しつつ行くよ」


 空我はそう言って、悠然と祠の先へと歩いていく。四人は警戒しつつ歩くが、全く罠や奇襲の気配は見えなかった。それが、かえって不気味だった。しばらく歩くと、大理石の床と一定間隔で壁に備えつけられたロウソクが四人を待ち構えていた。


「やっと、敵の本拠地ってわけか」


 武は右手で首を鳴らす。一切気は抜かない。周囲をさりげなく見渡して警戒する。


「ずいぶんと見え透いた罠で待ち構えてますね」


 茂豊は鼻で笑う。しかし、武同様こちらも一分の隙もなく警戒している。美夢も同様だ。


「気を抜くなよ。これは見せかけで、裏に本命の罠が隠されている可能性もあるからね。どっちにしても、行くしかないけど」


 空我たちはそれまで以上に警戒して、大理石の床を踏み抜いていった。






 ○○○○○


 洞窟の最奥部。五人の人影がそこにいた。一人は大きな椅子に足を組んで座っており、他の四人はその人物に向かって跪いている。


「どうやら、敵が来たようですな」


 跪いている四人の内の一人である老人が、しわがれた声でそんなことを言う。椅子に座っていた人物は、口元を歪める。


「あら? やっと? 待ちくたびれたわ」


 艶めかしい声で、椅子に座っていた人物は話す。その女性の声は咲原という名の男の前に現れた女性と全く同じ声だった。


「いかがなさいますか?」


 咲原が女性に指示を仰ぐ。女性は、右手の人差し指を顎に当てる。


「そうね。いきなり私がお相手してあげてもいいけど、どの程度の相手か分からないからねぇ。呪力も抑えられてるから、なんともいえないし。ここに来る以上はそれなりの強さだとは思うんだけど……」


 そこで一度言葉を止めて、女性は目の前に跪く四人に目をやる。


「中村、ボレ、咲原、(ファン)。まずは、あなたたちが行きなさい。向こうも四人みたいだし、ちょうどいいでしょ?」


「は。(あかり)様のご命令のままに」


 中村と呼ばれた老人が言葉を返すと同時に、四人は女性――灯の前から姿を消す。灯はそれを見て、クスリと笑う。


「さて、少しは楽しませてちょうだいね。祓い師さん」


 蠱惑的な笑みで灯は囁くようにそう言った。武たちに灯の差し向けた刺客が牙を向くまで、あとわずか――。



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