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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第一章 活発化する悪霊たち
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対策会議

 祓師協会本部のとある一室。電灯をつけることなく、遮光カーテンを閉め、完全に外光を含む光を遮断した部屋に数人の人物たちがいた。彼らは長方形のテーブルを囲むように座っており、その中には空我の姿を見受けられた。

 その他にも実力者や名家の当主、祓師協会の上層部の面々、それに加え、祓師たちを統べる龍全(りゅうぜん)家の者たちなど祓い師にとってはそうそうたるメンバーが勢揃いしていた。

 祓師協会理事長の木下良蔵は、全員が揃ったのを確認し、口を開く。


「今日はお忙しい中、みなさんよく集まっていただきました。それでは、これより、件の大量悪霊出没案件に関する対策会議を始めさせていただきます」


 木下はそう言って座りながら頭を下げる。下げた頭をすぐに上げると、さっそく本題に入る。


「それでは、まず此度の案件におきましての調査報告から入らせていただきます。刀皇(とうこう)くん。報告を頼めるかな」


「了解しました」


 刀皇と呼ばれた中年の男性は席から立ち上がり、淡々とした声で報告を始める。


「今回の案件について、我が刀皇家所属の一級の祓い師を三名動員し、調査させたところ、悪霊たちはある一つの場所から、各地に散っていることが分かりました」


「やはり、今回の件は自然発生ではなく、故意に起こされていたということですか」


 無表情のまま続けられる刀皇の報告に、祓師協会本部長である伊形鵬が反応する。


「それ以外にはありえないでしょうね。そして、これは推測による部分もあるのですが、おそらく今回の件には最上級悪霊が関わっているものとみられます」


 刀皇の言葉に場がざわつく。突然告げられたあまりにも重大な情報に不安を隠しきれないという者が会議室の大半を占めていた。しかし、空我を含む数名はその光景をつまらなそうな顔で見つめる。


「どうして、最上級が関わっているとみたのか、理由を教えてもらえますかな?」


 空次が刀皇にそう尋ねる。しかし、その顔には意地の悪い笑みが浮かんでいる。刀皇は一瞬不快そうに眉をしかめるものの、すぐに無表情に戻り、空次の質問に答える。


「その根拠として、悪霊の発源の地として見られている場所に三名を向かわせたところ、誰一人として生還は叶いませんでした」


 刀皇の報告に空次は愉快そうに唇を歪めて、くっくっと小さく笑い出す。


「やれやれ。最強の一翼と呼ばれる刀皇家の祓い師ともあろう者が、揃いも揃って戦死とは。やはり、真の最強たる我々城神家が調査に向かった方がよろしかったのではないですかな?」


「何だと?」


 にやにや笑いながら、そんなことを言う空次を刀皇は目を細めて睨みつける。空次は貼りつけた笑みを崩さずに、むしろ愉快で仕方がないといった様子で口元を歪めながら、刀皇の顔を見る。


「お二人とも。今は喧嘩をしている場合ではありません。お控えください」


 喧嘩を始めた刀皇と空次に対し、木下がたしなめる。しかし、空次の矛先は木下にも向く。


「控えろよ。コネでその座を得たお前が口を出せる領域の話じゃ……」


「やめなよ。父さん」


 たしなめられて、なお暴言を吐き続ける空次に、空我は呆れたような顔と声で制止をかける。


「場をわきまえなよ。いや、そもそもあんた自身を分をわきまえた方がいい。少し気を大きくしすぎだ。だいたい、龍全家の方々の前で喧嘩とか正気?」


「貴様、誰にものを……」


 どこか見下したような言い方をする空我に空次は食ってかかろうとするが、言葉が途中で止まる。


「黙れって言ってんだよ」


 空我は抑揚のない静かな声でそう言い放ち、流し目で空次を睨みつける。ただそれだけで、空次は動けなくなってしまう。それどころか、会議室にいる者全員が重い物に押しつぶされたかのような錯覚を受ける。中には全身から汗を流して、呼吸を激しく乱すほど圧倒されていた者までいた。


「親父、落ち着け。無駄に醜態をさらす意味はない」


 黒いシャツに黒いズボン、黒髪に黒い瞳とまさに黒ずくめと言ってもいい装いをした一人の少年が刀皇にそう言う。


「ああ。すまない。剣也(けんや)


 剣也と呼ばれた少年の言葉に刀皇はしぶしぶといった様子で矛を収める。どうやら、二人は親子のようだ。


「お前も落ち着いたらどうだ? クウ。さすがに親父さんがかわいそうだぜ。それに、他の方々もとばっちり食らってる」


 剣也の言葉に空我はあたりをキョロキョロする。やがて、一つ小さなため息をついて、深々と頭を下げる。


「…… お騒がせして、申し訳ありませんでした。話の腰を折ってしまって、うちの愚父が本当に申し訳ない」


「ぐっ……」


 空我の謝罪の言葉に空次は苦虫をかみつぶしたような顔になるものの、龍全家の者たちの前だからか、それ以上口を開くことはなかった。


「失礼。それでは、報告を再開させていただきます」


 刀皇は一度咳払いをして、落ち着かせてから、再び報告を始める。


「調査に行かせた者たちですが、一条村にて全員消息が絶たれています。その点から見て、おそらく、一条村が最上級悪霊の拠点とみて間違いないでしょう」


「事情が事情なだけに仕方ねえとはいえ、ずいぶんと不明瞭な情報じゃねえか」


 真っ赤な髪を持つ坊主頭の大柄な男が、その顎を人差し指で撫でるような仕草をしながら、そんなことを言う。


「申し訳ありません。我々も力を尽くしましたが、ここまでしか分かっていないというのが現状です。以上で報告を終わります」


 刀皇は一礼して、席に座る。その報告を受けて、ざわつきはじめる。なにしろ、最上級悪霊といえば、優秀な祓い師といえども何もできずに殺されてしまう危険があるからだ。この場にいる者たちの多くは祓い師の中でも上位の実力者たちばかりではあるものの、今回の件に最上級悪霊が絡んでいる可能性があるとみて尻込みをしていた。


「おいおい、冗談じゃないぞ!」


「なんだって、こんな時に限って、そんなものが来るんだよ!」


「最上級相手なんて、どうすりゃいいんだよ!」


 しばらくの間、ざわつきは止まなかったものの、会議の場にいた一人の男が、場の空気など知らないといった顔で口を開く。


「静まれ」


 男がただ一言そう言っただけで、先ほどまで騒いでいた者たちが黙り、一瞬で静寂が訪れる。その男は顎ひげを豊かに蓄えた老人だった。髪は全て剃られており、そこには、数多くの傷跡が見られる。鋭く細められた目からは得体のしれない強い威圧感が発せられていた。

 この男こそが、全ての祓い師を統べる男・龍全源烈(げんれつ)だ。


「くだらん茶番は終いにして、どう対策を打つかを考えるぞ」


「しかし、最上級が関わっているとなると、下手に動けませんよ」


「なら、こちらも相応の戦力をぶつければよい」


 源烈はそう言って、空我の方を見る。空我は感情を感じさせない目で、源列の茶色の瞳を見返す。ほんの数瞬、二人の視線が交差する。その意味を理解できる者はその場には当人たち以外にいなかった。やがて、空我は自分を指さして口を開く。


「自分…… ですか?」


「そうだ。貴様に此度の件における黒幕の調査を命じる」


 源烈の言葉に周囲は大きくざわつく。周囲の者達の反応は主に二種類に分かれていた。空我に任せるのならば安心だという反応と、なぜ空我に任せるのかという反応だ。前者は城神家の者や空我と親しい者が該当し、後者は空我や城神家そのものをよく思っていない者が該当する。特に刀皇などは顔を大きく歪ませている。


「なぜですか! なぜ、彼にこのような重責を! 危険すぎます!」


 刀皇は思わず立ち上がり、源列に抗議をする。源烈は冷たい目でそんな刀皇を見返す。


「ほぅ。貴様、この儂の決定に文句をつけるというのか?」


「っ…… !」


 冷たい呪力とともに発せられる威圧感に刀皇は息を飲む。冷や汗をかき、息も絶え絶えといった様子だ。

 乱れに乱れた息を整え、一度深く息を吐くと、刀皇は源烈に深く頭を下げる。


「申し訳ありません。出過ぎた真似でした」


「ふむ……。最強の二翼(によく)などともてはやされ、天狗になっているのか知らんが、どうやら、最近の貴様らは少々浮かれているようだ。驕ることは力ある者の特権。それは構わん。だが、忘れるなよ。貴様らがどれほどの強さを手に入れようが、この儂に逆らうことなど未来永劫許されはせん。よく肝に銘じておけ」


「…… 申し訳ありませんでした」


 頭を下げながら、刀皇は神妙な顔を作ってそんなことを言う。続いて、源列は空次にも目を向ける。


「貴様もだ。空次よ。次、この場を乱すようなことがあれば、分かっておるな?」


「はい。承知しております」


 先ほどと同様、刀皇に嫌みを言おうとしていたところを釘を刺されてしまった空次は内心苦々しく思いながらも、源烈に従属の意を示す。

 源列は二人の返事を聞き、二人に興味をなくしたかのように視線を外し、空我に再び視線を向ける。


「先ほどの続きだ。人員はお前に任せる。多くの者が出払ってる故に、連れていける者は限られてくるだろうが、なんとしても、この件を解決に導いてみせろ」


「かしこまりました」


 空我は深々と頭を下げる。それを見た源列は木下に目をやる。木下はそれに頷く。


「それでは、これにて緊急対策会議を終えます。詳細な情報交換につきましては、また後日ということにさせていただきます。皆さん、お疲れ様でした」


 木下はそう言って、その会議を終わらせた。その声を聞いた会議の参加者たちは、各々、席から立ち上がり、会議室から退席していく。


「帰るぞ」


 空次はそう言って立ち上がる。空我も空次に続いて立ち上がる。


「父さん。少し寄るところがあるから、先に行ってて」


「ああ」


 空次は短くそう答えて、会議室から出ていく。どこか冷めた目でその後ろ姿を見ていると、背後から声をかけられる。


「クウ」


「鵬さん」


 空我は声の主――鵬の方に目を向ける。鵬はどこか暗い表情だった。その理由が容易に想像がついた空我は笑顔を作って口を開く。


「どうしたの?」


「いや……。その……。任務、頑張れよ」


「うん」


 どこか歯切れない言葉で激励をした鵬に、空我は満面の笑みを浮かべて答える。鵬はその笑みを見て、どこか安堵したような笑みを浮かべる。


「じゃ、僕はこの後用事があるからもう行くね」


「おう」


 空我は鵬に手を上げて、会議室から去っていく。鵬はその後ろ姿をどこか悲しげな瞳で見つめていた。

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