終いの会話9
大変遅くなって申し訳ありません
今話が第九章最終話です
王臣地区の一幕は終わった。残すはもうわずか。さすがに感慨深さのようなものを覚える。
明神神社の社にある階段で炭酸飲料を口つけながらそんなことを思ってしまう。
「ワライよ。本懐は…… 遂げられたか?」
そこで声をかけられる。振り向くまでもない。声をかけてきたのは善也だ。
それにしても、なんともまぁ変な質問をするものだ。そんなもの答えは決まっている。
「まさか。まだようやく九割ってところだよ? ほら、言うじゃない。百里を行く者は九十を半ばとすってさ。ようやく、道半ばってところさ」
「そうか……」
善也は諦めたようにため息をつく。彼は彼なりによくやってくれていると思ってはいる。だけど、今は彼は必要ない。
善也もそれは察しているのか、それ以上は何も言ってこない。ただチラリと僕の本懐を遂げるためのキーマンの一人に目を向ける。
「それで? 調子はどうだい? クルイ」
「問題ない……」
呼びかけにクルイは眠たげな表情で答える。言葉も舌足らずで、本当に眠いのだろう。無理もない。何しろ、今の時間は午前三時。本来の彼女ならとうに眠っている時間だ。
「そうか。そいつは何よりだ。もうあらかた終わったし、眠たかったら眠っていいよ」
だから、睡眠を促す。クルイはそれにこくんと頷く。
「ん。そうする」
クルイはそれだけ言うとどこかへとのそのそと歩いていく。その後ろ姿を見ると不安になってしまう。うっかり、どこか適当な道ばたで眠ってしまわないだろうかと。
いや、別にどこで眠ろうが関係ないんだけどね。人なんてほとんどいないし、彼女自身の肉体も頑強なんてレベルをとうに超えている程度には強靱だ。だけど、それでもやっぱり心配になってしまう。
こういうところは変わりようがないのだなと内心苦笑いするしかない。だけど、それでいい。その程度は残されていなければ、さすがに惨めすぎる。
もっとも、どれほど救われようが、どれほど惨めにされようが許すことも許されることもないんだけど。
「さて、やっとここまで来たなぁ。全く実感ないけど」
「それはお前の気が緩んでいるからだろう。ここで道半ばだと思えと言ったのはお前だぞ」
「ふふっ。手厳しいなぁ。一時期は一線から退いたとはいえ、その熱は今なお燃え続けているんだね。嬉しいよ」
我ながら白々しい言葉だとは思うが、これは心の底からの本心だった。この言葉を受けて、さぞや訝しげな表情をしているのかと思い善也の顔を見れば、そこには悲しげな顔があった。
「どうしたの?」
「いや。あれだけのことをお前にしてしまったのに、未だに私のことをそう言ってくれるんだな」
「はっ。何? まだ僕に罪悪感を抱いてるの? そんなもの何の意味もないってことくらい分かってるでしょ? それにそういう意味でなら僕の本懐はとうの昔に遂げてる。どうせ、誰も敵なんていやしないんだからさ」
呆れ顔で吐き捨てたが、これだけ喋るということはまだまだ吹っ切れてないってことなんだろうな。けど、それでいい。それこそがこの救いようのない身に与えられる数少ない罰の一つなんだから。
「まぁ、何でもいいや。行こうよ。最後のフィナーレに」
「…… ああ」
そうして、二人はその場から姿を消す。そして、二人がこの場に戻ってくることはおそらく二度とない。
これで第九章は終わりです
次回より、第十章兼最終章『狂いきったフィナーレ』に入っていきます
モチベーションの低下などにより更新速度は極めて遅くなると思われますが、あともう少しで完結ですので、どうか今しばらくお付き合いください




