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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第八章 叫ぶかませ
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久しぶりのデート

第八章開始です

 武は美夢と久しぶりにデートをしていた。人間のほとんどが滅んでしまったこの状況ではあまりに不似合いな行動だが、こうでもしなければやっていられなかったのだ。

 おそらく、これが最後になるであろうと二人とも分かっていたから。だから――こんなときだからこそ、あえて二人はデートに出かけたのだ。



 よく晴れた日だった。夏の蒸し暑さも伴って、長時間日に照らされていれば熱中症になる危険もあっただろう。

 紫外線対策のためか美夢は膝丈のワンピースにクリーム色のカーディガンを羽織り、頭にはひまわり帽を被っていた。

 武は半袖の黒いシャツにジーンズのみというシンプルな格好だった。白い呪力を自在に操れる彼にとってもはや紫外線など恐るるに足りない。

 いや、第一この二人に熱中症対策をする必要はない。美夢が対策をしているのは形式上のものだ。



 二人は神殿地区の街並みを歩いていた。今日は金曜日だったがいつもなら、それなりに人が多い場所だ。

 しかし、見渡す限り人っ子一人見当たりはしない。昨日までにほとんどの人間が死滅してしまったからだ。



 この状態でのデートを好都合と取るか味気ないと取るかは人次第だろう。しかし、少なくとも二人は前者だと認識していた。

 最後である以上互いをできるだけ長い間認識していたい。二人だけの世界に浸っていたい。そのためには不要に意識を割かせる邪魔者は不要だ。



 今の状態は二人の願いをほぼ完璧に叶えていると言える。確かにまだこの世界には二人の他に生き残りはいるが、その大半は二人に気を利かせてあえて接近しようとしていない。

 分かっていない道化もごく少数いるが、連中はそもそも二人に近付くことすらできない。そういう小細工がすでになされている。そして、そのことに彼らが気付くことはない。



 だから、二人は悠然と街を歩く。二人の間に会話と呼べるものはない。だが、静寂の中二人だけでひたすら歩くというこのひとときが今の二人にとっては大切だった。

 もうこんな時間は二度と来ない。それが分かっているからこそ、二人はこの沈黙を楽しんでいた。この一見無価値に思える時間を大事にしていた。



 だが、その時間もそう長くは続くない。腕時計を見るともう十二時を回っていた。


「ちょうど昼飯時だね。どうする?」


「どうすると言われてもな。この数日で人殺しまくったせいでやってる店なんかほとんどねえだろ」


「確かに」


 武の言葉は正論だった。とくに今は全く人がいないために営業している店はどこにもなかった。こうなれば、選択肢は一つしかない。


「明の店に行こうか。もうあそこくらいしかないからさ」


「ちゃんとやってるのか?」


「もちろん。あいつはなんだかんだで真面目なところもあるからね。お客さんが来ないと思っててもきちんと店は開いてるよ」


「それなら、そこにしようか」


『死神』鎌瀬明が経営している祓い師専用の飲食店。外食という選択を取るならそこしかない。

 武はもう一つ飲食店を知っているが、その店をやっていた権藤の妻・久子はこの激動の数日で命を落とした。だから、他に選択しようがないのだ。文句などつけられるはずがない。つけるつもりもないが。



 そういうわけで二人は鎌瀬の店へと向かった。鎌瀬の店までは二人がいる場所からはそう遠くない。

 現地に向かってみると美夢の予想通り店は開いていた。遠慮なく店を開けると、中には前と同様、椅子に座って新聞を読んでいる鎌瀬がいた。


「ほぅ。こいつは驚いた。さすがに客が来るとは思ってなかったぞ。とりあえず、いらっしゃい」


 鎌瀬は新聞を畳むとカウンターの上に置いて椅子から立ち上がる。


「見たところ、二人で逢い引きってところか?」


「見たまんまだよ。それよりもお腹すいたから二人分作って」


「あいよ」


 鎌瀬は厨房に入り、再び料理を作る。前回はシーフードライスを使ったオムライスだったが、今回は何を出すのか。


「なぁ、ふと思ったんだが材料あるのか?」


「あるよ。あいつの上司の剣也は生きてるんだから、そこからいくらでも食材は入手できるよ」


「へぇ」


 そういうものなのか、と武は納得させる。そもそもこの世界は何もかもが破綻している。普通ならとても成立しやしないはずだ。いや、逆にそれゆえに成立しているのかもしれない。ならば、流通ルートなど突っ込むだけ野暮というものだろう。



 そう判断し、しばらくの間二人で雑談に興じる。鎌瀬が注文してから十五分も経たずに料理を出した。しかし、前回と比べるとかなり遅い。やはり、今日客が来るということは想定していなかったようだ。


「さすがにいろいろと支障が出てるんでね。今回はこいつで我慢してくれ」


「明太子としめじのスパゲッティか。いや、結構期待値高いよ」


 鎌瀬が出したのはゆでたパスタを丸皿に載せ、その上に明太子としめじをちりばめただけのシンプルなものだった。せめてものアクセントのつもりなのか中央には刻みネギが添えられている。

 おそらく即興なのだろうが、それでも食欲をそそられることは確かだった。二人は手を合わせて、いただきますとだけ言うとフォークを取ってパスタを口に運ぶ。


「うん。やっぱり美味しい」


「そりゃあ、パスタに明太子としめじ載せただけだからな。よっぽどのへたくそじゃねえ限りは美味いのが出来るはずだろうよ」


「それは私へのあてつけ?」


「お前はただ単に料理をしてないだけだろ?」


 鎌瀬はそれだけ言うと椅子に戻り、再び新聞を手に取る。美夢は不満げにむーと唸りながらもスパゲティを食べ進める。



 二人は前回同様そう時間をかけずに完食する。食休みに入ったところで武は鎌瀬に気になっていたことを聞く。


「そういえば、お前は何でこんなことしてるんだ? さっきは美夢に料理をしていないと言ってたが、お前だって前は料理してなかっただろ? なのに、今はあの人の味を引き継いで店やってるってのはちょっと違和感覚えるぜ」


 鎌瀬は新聞を置いて、武の方へと視線を向ける。武は鎌瀬を見ながら、その答えを待つ。

 この問いは前回感じた疑問の延長線上にあるものだ。前回、この店で鎌瀬の出したオムライスを出した時、ふとどこかで食べたことのある味だと思った。

 しかし、あの当時は似たような感覚を何度も感じていたため深く受け止めなかった。他に気になることが山ほどあったからだ。



 だが、その疑問のほとんどが解消された今、何となくこういう小さな疑問が気になってくる。だから、世間話の体で聞いてみたのだ。


「別に大した理由じゃない。こうするよう指示されたからだ」


「指示?」


「そうだ」


 誰が鎌瀬に指示したのか。武には容易に見当がついた。というより、今なおそんなことをするのは一人しかいない。


「お前も変わったもんだな。昔だったらあいつの言うことを聞くなんて絶対にありえなかっただろ?」


「まあな。でも、知っていて今のあいつに逆らおうという馬鹿はそうはいない。いるとしたら、お前くらいだろ?」


「確かにな」


 くくっと喉を震わせるように武は笑う。別に武も好きで抗っているわけではない。けれど、抵抗しないわけにはいかない。

 クルイには諭されたが、彼が復讐に走っているのは紛れもなく武のせいなのだ。それなら解決できるにせよ、できないにせよ、関わらないわけにはいかない。


「どっちにしても、もうあと少しであいつが何企んでるかも分かるだろ。多分、そう長い時間じゃないだろうがこれからもよろしく頼むよ」


 この世界では、今までそう深い付き合いをしていたわけではないがそう言っておく。鎌瀬が力を貸してくれば助かるという考えからのものだ。


「そうだな」


 しかし、鎌瀬の顔色は優れなかった。武はさすがに違和感を覚えるが、美夢が涼しい顔をしているのを見て追求することをやめる。

 おそらくはこれ以上聞くのはよくないし、聞いても仕方がないだろうと判断したからだ。



 二人はそれからすぐに店を出た。


いまさらですが第四章が始まったあたりから、スランプに陥っています

ですので、文字数が少なかったり投稿期間の間が空いたりすることもあると思います(というより、すでになっています)

ですが、この小説でもっとも書きたいことがまだ書けていないので更新停止するつもりはありません

これからもご迷惑をおかけすると思いますが、これからも本小説のご愛読のほどをよろしくお願いします

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