プロローグ3
第三部『クルイ編』開始です
ここから〆に入っていきます
八月一日。祓師協会理事長の木下良蔵が殺された事による影響は甚大なものだった。
龍全家の代理として祓い師をとりまとめてきた彼の存在はあまりに大きかった。自尊心が異常に高く、口と金しか出さない龍全の手足となって奔走し続けたことで曲がりなりにも扱いづらい祓い師たちをとりまとめてこれたのだ。もちろん、不満に思う祓い師も数多くいたがそれらは龍全の威光で黙らせることができた。祓い師たちが今まで歪ながらも一つに固まって活動してこれたのは彼のおかげといってもいい。もし、彼がいなければ祓い師たちはあっという間に内部分裂し五国どころか国内で悪霊そっちのけで大抗争を繰り広げ、あっという間に人間は滅びていただろう。
彼がいなくなったことで統制がまともにとれなくなるのは火を見るより明らかだ。
そう。本来ならば。
だが、今の状況は客観的に見ても統制がとれなくなっているというのは不正確なように思える。現状、彼が亡くなったことによる混乱は起こっていない。
もちろん、昨日までの間にこの星にいたほとんどの人間が死んでしまったというのは大きいだろう。だが、どちらかといえば座興で残した者以外全て消えてしまったことで無駄に騒ぐ輩がほとんどいないというのが一番の理由だ。
だから、混乱しようがない。不特定多数の人間が予期せぬ事態に見舞われるということがないのだから当然だ。そういう意味では好都合といえるだろう。
残された者たちは大半が現状を理解していた。理解できていないのはごく一部の道化だけだ。
だが、それに何ら支障はない。なぜなら、これから始まるのは限られた者しか参加することを許されないカーニバルなのだ。不要な参加者は目障りなだけだ。
「やっとだな」
何度も口にした言葉を再び言う。それほどまでにこの時を待ちわびていたのだ。
ようやく始まる。
この時を何年待ったことか。もはや、数字で表すことは不可能だ。永遠とも呼べるほど長い時を待ち、念願の機会を得た。この機会を無駄にするわけにはいかない。いや……。
「無駄にしたいのかもしれないな」
どうやら待つには少々長すぎたようだ。最初から高潔な理念も信条も持っていたつもりはないが、いざこの時をこぎ着けると、このまま進んでいいのか不安になってしまう。
「くだらない感傷だな。失敗するより成功した方がいいに決まっている。いまさら、何もためらう理由はない」
もう後戻りはできない。覚悟はとうに決まっている。この成功率百パーセントを誇る大作戦を何としても成功させなくてはならないのだ。
自分の目的のために。そして、あいつらのために。
いや、他人をダシにするのはよくない。あくまで自分の目的のためだけだ。
そう言い聞かせ、第一段階から始めるべく行動を開始した。
次回より第八章『叫ぶかませ』に入っていきます
この第三部をもって最後にする予定です
なので、そう遠くないうちに完結を予定しています




