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クルイきった者たちが送る異世界の日々  作者: 夢屋将仁
第七章 ビッグバン
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終いの会話7

第七章最終話です

 再び時は現在へと戻る。暗闇が戻り、ワライは上げていた右腕を下ろす。


「何? 今の暗闇は?」


 クルイが首をかしげてそう尋ねる。サケビも口にはしないがクルイの問いに対する答えを聞きたそうな顔をしている。二人には一瞬にも満たないほどの間だけ真っ暗になったということ以外何も分かっていないのだ。

 だが、今の暗黒を認識できているだけで二人が相当優秀だということが分かる。

 いまさらの話だが。


「別に。ちょっとした趣向だよ」


 ワライは肩をすくめてはぐらかす。クルイは仮面の奥で不満そうな顔になる。


「いつだってそう。ジンは自分勝手」


「さっきも聞いたよ。いいじゃないか。自分勝手でさ。何が悪いっていうんだい?」


 悪びれずにそんなことを言う。クルイは唇を尖らせながらもそれ以上聞こうとしない。

 今度はサケビが口を開く。


「一瞬暗くなる前にお前の言っていたことから考えて、あの一瞬で過去の映像でも誰かに流していたのか?」


「そうだよ。十年前の滅兵誕生からあの大爆発に至るまでの経緯を流したんだ」


「誰にだ?」


「さぁ?」


 今度ははぐらかしたわけではない。本当に誰に放映したのか彼自身もよく分かっていないのだ。言えることはあるが、今、言うことではないだろう。

 そう判断したワライは軽く伸びをはじめる。その背にサケビは再び言う。


「にしても……。まさか、誰も思わないだろうな。あの歓楽戦の直後に出現した黒い能面の人物の正体がボレだとはな」


 唐突な言葉にワライは仮面の向こうでニヤリと笑う。サケビはそれを知りながらも言葉を続ける。


「俺も最初は騙されたよ。初めにあった時、俺は完全にあいつを武だと思っていたからな」


 十年前の緑陸の廃ビルでの出来事が頭に浮かぶ。最初の一瞬は完璧に騙された。なぜなら、その男の姿はどこからどう見ても武そのものだったからだ。

 しかし、すぐに違うと気付いた。その男が発している呪力は明らかに武のそれとは違う。武の呪力はある事情で極めて特異なものとなっている。だが、その男が放つ呪力の性質は武に比べあまりにも平凡だった。

 そして、同時にその男の正体に思い至る。

 そう。彼はワライの能力(ちから)によって意識を奪われた上で武と同じ姿にさせられているボレだったのだ。



 このことに思い至ったことでサケビは思わずため息をついてしまった。もし彼の素顔を見れば、動揺する者は必ず出てくる。今でこそ、空我のおかげでそこまでひどいこと(・・・・・)になっていないが、あの当時に武の姿などをさらせば大惨事になっていたのは間違いないだろう。



 しかし、結果としてそうはならなかった。武に扮したボレが素顔を見せなかったことでそういう意味での混乱はなかったのだ。出現してから極めて短い時間だったことも一役買っている。

 いずれにしても、その辺りはワライにとっては織り込み済みだったということなのだろう。いや、あるいは何も必要なかったのかもしれない。

 どうせ、何もせずとも彼の思うがままなのだから。ごく一部の事象を除いて。



「でも、あの時ちょっとボレには無理させちゃったな。あの後謝り倒したけどさ。ボレだから笑って許してくれたけど、あれは普通に考えて絶対に許せるもんじゃないよなー」


 あっはっはと笑いながらワライは言う。サケビとクルイはそんなワライをみて嘆息することしかできなかった。


「でもまぁ、結構いろいろと謎は残せたと思うんだよ。どうして、長い間二の足を踏んでいた滅兵が突然革命に踏み切ったのか。あの大爆発を起こした玉のような物体は誰なのか。そもそも、どうして僕たちがわざわざ仮面を取って狩宮硬と猟社堅の素顔を晒したのか」


「まぁ、確かにそれを考えてた奴らもいたみたいだがな。だが、結局人形どもはそんなこと微塵も考えちゃいなかっただろう」


「別にあんな連中に期待なんかしてないさ。だけど、あいつらに対してはそれなりに茶目っ気溢れるイタズラができたと今でも思ってるんだよね」


「はた迷惑にもほどがあるな」


 サケビのうんざりとしたような声にもどこ吹く風といった様子でワライは二人を一瞥する。


「とにかく、話を戻すけど計画に変更はない。だから、二人ともすぐにでも動けるように準備しておいてよ」


「ああ」


「分かっている」


 二人の返事を聞くとワライは歩きはじめる。サケビとクルイはその後ろ姿だけを確認すると姿を消す。



 明神神社の山を下りる道すがらワライは唄うように口を開く。


「さぁ、いよいよ『最後の二週間』の始まりだ」


 ワライはそう言って仮面とコートを脱ぎ去り、どこかへとしまう。素顔を晒した彼は何食わぬ顔で神社の階段を下りていく。



 階段を下りたところで彼の知っている顔に出会う。彼は先ほどとは全く違う様子でその人物と会話をする。それは普段彼が見せている顔だった。

 素とも演技ともとれるそのありように違和感はまるでなかった。

 普段と全く変わらない彼にその人物は気付くことができない。いや、未来永劫気付くことはないだろう。彼こそが全ての黒幕・ワライなのだと……。

これにて第七章及び第二部終了です

次回から第三部『クルイ編』に入っていく予定です

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