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第一回歓楽戦開戦

皆様のおかげでこの小説も今話で百話を迎えました

これからもご愛読のほどをよろしくお願いします

 初回であるこの歓楽戦のルールは後に行われる第三回歓楽戦のそれと全く変わらない。



 相手を戦闘不能にするか降参させた方の勝ち。審判はいない。相手を死に至らしめてもお咎めなし。



 この全てのルールが滅兵側が提案したものだ。祓い師側は一切の異論もなくこれを認めた。

 滅兵はこのルール作りでかなりうまくやったと言える。特に最後のルールに関しては、もし入れていなくても祓い師側が入れるように催促してきただろう。そして、それはあまりいいとはいえない。

 なぜなら、このルールを追加することを口実に歓楽戦の日時を不必要に延ばされる危険があったからだ。滅兵としてはあまり長引かせたくはなかった。この決闘の開幕が遅れるようなことがあれば、その分野戦のリスクが高まる。滅兵もいくらか力を蓄えているとはいえ、無用の戦いで人々を巻き込みたくはない。だから、祓い師側が一発で飲むであろう条件を長い間検討し続けていたのだ。滅兵の働きはこの歓楽戦(・・・・・)までは(・・・)決して無駄ではなかった。



 そして、いよいよ運命のオーダーがモニターに表示される。


 先鋒戦:スタトラ・アルフェリウス  vs  野洲武弘(たけひろ)


 二陣戦:東応蛇           vs  八代(やつしろ)修司(しゅうじ)


 三陣戦:西賀黒矢          vs  兵藤(ひょうどう)篤美(あつみ)


 中堅戦:海神波一          vs  草村駿(しゅん)


 三将戦:狩宮硬           vs  羽場利明(としあき)


 副将戦:森崎善也          vs  西森(にしもり)翔平(しょうへい)


 大将戦:猟社堅           vs  内村鑑三(かんぞう)



 このオーダーを見て両陣営ともに苦い顔をしていた。しかし、その理由はそれぞれ異なる。



 祓い師側はオーダーを見て、改めて幼子を相手にしなくてはならないのだと実感する。別に小さな子供を殺すことにためらっているのではない。ただ、完全敵地(アウェー)と化しているこの場所で幼い子供を殺せばただでさえ地に落ちている心証がさらに悪くなるだろう。そうなると、滅兵を壊滅させたとしてもその後復興させるのは面倒だ。

 しかし、この歓楽戦で負けてしまえばそんなものはただの馬鹿話に終わってしまう。やけに龍全の者たちは楽観視しているようだが、勝つ以外に祓い師に生き残る選択肢はないのだ。そうしなければ、祓い師たちには地獄が待ち受けている。

 相手が何であろうと関係ない。全力で殺す。それ以外に祓い師(彼ら)のとれる選択肢はなかった。



 滅兵側は単純に祓い師にまるでやる気が感じられないことにイラついている。祓い師が代表として選出した者たちは確かにそれなりの実力者としては名を馳せているが、明らかにベストメンバーにはほど遠い。

 確かに大将として出場する内村鑑三は図抜けた防御力を持ち、数多くの悪霊を屠ってきた実績を持つ実力者として有名だが、それでも六本柱や龍全の者には及ばない。他の者たちもそうだ。決して甘く見ていい相手ではないが、それでも舐められているのをはっきりと感じ取れる。

 六本柱や龍全の人間を出さずとも問題なく勝てる。そう思っているのが見え見えだった。



 もちろん、これは悪いことばかりではない。相手が油断しているということはそれだけ付け入る隙もあると言うことだ。だが、それでも甘く見られていることを素直にチャンスだと思えるほど彼らは大人ではなかった。


「予想はしとったけど、やっぱ舐められとるな」


「俺たちも人のことを言えないだろう。まあいい。そろそろ行くとしよう。記念すべき第一戦にな」


「おう。頑張れや。負けたら、承知せんからな」


「余計な心配だ。おれは絶対に負けん」


 スタトラはニッと笑うと部屋から出ていく。その足取りに迷いはない。全身全霊の力で祓い師を打ち倒すという強固な意志がその足音から感じられた。

 その足音を聞いて、スタトラの勝利を疑う者はその部屋には一人もいなかった。






 ○○○○○


 死戦の宴場。その物騒な名に反してフィールド自体はごく普通のものだった。どこにでもある黄色い土。どこにでもある鉄筋の壁。どこにでもある大きめのモニター。何もかも全てがありふれたものだった。このような場所ならば、他にいくらでもある。

 この後、滅兵と祓い師が死闘を行う場所とはとても思えない。だが、この場所が祓い師にとって重要な場所であることに相違なかった。

 だからこそ、負けるわけにはいかない。先鋒として出場する野洲の両肩にも力が入っていた。

 対して、野洲の目の前に立つスタトラという少年は一切の気負いを感じさせなかった。感情を感じさせない目で野洲をただじっと見ている。それが、野洲には不気味に感じられた。

 野洲はまだまだ未成熟だ。当然だ。まだ十五歳なのだから。しかし、目の前に立つ少年はその野洲よりもさらに幼い。それなのに、なぜ平然としていられるのか。

 スタトラのあまりにも泰然自若な態度がスタトラの体をさらに縮こまらせた。


「ずいぶんと緊張しているようだな」


「!」


「そんなに力んでいては、まともに戦えまい。生憎だが、そんな精神状態で倒せるほど俺はぬるくないぞ。これは初戦だ。落とせば、どれほどの痛手になるか分からないほど馬鹿じゃないはずだ」


「敵に忠告か? 随分と余裕なんだな」


「違う。案じているんだ。俺としてはこの場を盛り上げるために全身全霊を尽くした戦いというものがやりたいんだ」


「言ってくれるじゃねえか」


 無意識に野洲は拳に力を込める。だが、スタトラは右手を野洲の方に伸ばして制する。


「せっかちだな。さすがにフライングはまずいんじゃないか? あと十秒くらい堪えろよ」


 スタトラの言葉につられモニターを見ると、カウントが九を指していた。すぐに八、七とカウントの数字が減っていく。



 そうだ。何も焦る必要はない。相手のペースに飲まれるな。野洲はそう自分に言い聞かせて身構える。そして、いよいよカウントがゼロになり歓楽戦の記念すべき第一戦が始まった。



 野洲は呪符を取り出し、拳を発動する。拳を振り上げてスタトラへと殴りかかろうとする。その動きは速い。羽場、草村と並び当時天才と称されるだけの力の片鱗を垣間見せている。常人どころかそれなりの力を持った祓い師でも反応することすらできないだろう。見下しているとはいえ、この重要な決闘の大事な初戦に抜擢されるだけのことはある。

 だが、野洲が攻撃態勢を取ると同時にスタトラの拳が野洲の左頬に突き刺さり吹き飛ばされる。野洲は何が起きたか理解できないという顔になる。しかし、スタトラの右手を見てすぐに理解した。


「呪符なしで術を…… !?」


「そうだ。これが滅兵(おれたち)祓い師(あんたら)に対する最大のアドバンテージだ」


 これにはモニター越しに試合を見ていた代表の祓い師たちも騒然とする。呪力を使って術を発動させようと思えば呪符を使うのが通説だ。そうでなければ、悪霊に自らの意志を飲まれてしまう危険がある。

 その危険を度外視して呪符なしで術を発動させるなどとても信じられるものではなかった。

 野洲は唇が切れたことにより流れた血を拭いながら立ち上がる。


「貴様。正気か? 俺たちならともかく、悪霊相手にそんなことをしていたら……」


「承知の上さ。俺たちは悪霊に飲まれても、自らの命をもって悪霊を殺すと誓っている。危険(リスク)に怯えて安全な手段に走ったあんたらには分からないかもしれないけどな」


「ちっ」


 野洲は思わず舌打ちしてしまう。この男はとてもではないがまともではない。いや、この男の言葉が本当ならば滅兵自体真っ当な神経を持っていない。野洲は滅兵に対する認識を改める必要性を痛感した。


「どうした? 来ないのなら、再びこっちから行くぞ」


「ちぃっ!!」


 野洲は再び呪符を取り出して呪力の弾丸を放とうとする。これは祓術における基本術の一つで『(うち)』と呼ばれる術だ。呪力を弾丸に変えて放つ技だが、手練れが使えば相当な威力になる。

 発動速度で負けている以上、近中距離戦は不利だと判断した野洲は遠距離からの攻撃に切り替えた。その判断力の早さ、正しさはさすがといったところだ。しかし、それでもまだ遅かった。


「がっ!!!」


 野洲が気付いたときには既に腰から下が斬り落とされていた。横へとずれていく視界の中、野洲は最後の力を振り絞ってスタトラの右手を見る。そこには緑色の刀が出現していた。その刀が術によって発現したものなのか、それとも野洲が気付かないほどの早さで取り出されたのかは分からなかった。ただ、野洲は薄れゆく意識の中で為す術もなくその肢体を地面へと落下させていった。


『WINNER! スタトラ・アルフェリウス!』


 無情にもモニターはスタトラの勝利を表示する。観客たちは一瞬何が起きたのか理解ができなかった。しかし、すぐに大歓声が沸く。


「おおお! すげえ! 本当に祓い師に勝ちやがった!!」


「あの祓い師、死にやがったな! ざまあみやがれ!!」


「あんま期待してなかったけど、撤回する! ひょっとしたら、祓い師どもの無様な死体を山のように見れるかもしれないぞ!!」


 異常な光景だった。目の前で人が死んだにもかかわらず、死体を見慣れていないはずの民衆が手を叩いて大喜びをしている。常人が見ればその光景に目を疑うか、彼らに軽蔑の視線を送ることだろう。だが、そんな行動を取る者など一人もいない。

 彼らは今まで祓い師に散々抑圧されてきたのだ。暴力や物の強奪は当たり前。身内を殺されてさえ、何も言えずにいた。そんな横暴な行為が許されてきた畜生どもが目の前でその命を散らしたのだ。それを喜ばずにいる方が難しいだろう。

 そして、この後さらに彼らを喜ばせる絶景(・・)が待ち受けていた。



 二陣戦。東応蛇と八代修司の一戦。八代は斬で攻めようとするが、応蛇の蛇に歯が立たずに締め上げられた挙句に圧死し、大量の血で宴場の地を真っ赤に染めた。



 そして、三陣戦は……。


「ふぅ。まさか、ここまで話にならないとは思ってもいなかった」


 黒矢が冷めた目で血を大量に流しながら地面に倒れ伏す兵藤を見下ろす。試合はこの三戦で一番勝負になっていなかったと言っていいだろう。

 兵藤は試合開始と同時に術を使わずに黒矢に襲いかかろうとしていた。術の発動速度で劣るならば、いっそ術を発動させずに先制攻撃をしてしまおうという魂胆だ。

 その発想自体は悪くなかった。先手を取って主導権を握れば、発動速度で負けようと勝機は充分にある。連敗して持って行かれてしまっている流れを一気に取り戻すこともできるかもしれない。そんな希望を持って放たれた先制パンチは黒矢の一撃によってあっけなく砕かれてしまった。アドバンテージを生かした黒矢は一瞬で術を発動させ、その拳を術を発動させずに生身で突っ込んできた兵藤の腹に問答無用で叩き込んだ。全身無防備な状態だった兵藤はその腹に大きな風穴を空け、瞬く間に息絶えてその場に倒れた。

 兵藤を責めるのはあまりに酷な話だろう。これ以外に彼にやりようがなかった。ただ、彼は運が悪かっただけだ。だから、術によりとてつもないレベルで強化された黒矢の拳によって、一撃の下に殺されてしまった。



 さすがに三回連続で一方的な虐殺が繰り広げられて、観客たちも少しは引いているかと思えばそんなことはまるでなかった。むしろ、先ほどよりもボルテージがアップしている。彼らが長年祓い師によって受けてきた鬱憤は生半可なものでは晴らせないようだ。目の前の陰惨な光景を目の当たりにしてもなお彼らの気は収まらないらしい。

 一方の祓い師側は当然のように混乱に陥っていたが、こちらは割愛しておく。



 そして、いよいよ勝敗が決まる重要な試合である中堅戦が始まろうとしていた。この試合で滅兵が勝てばその瞬間歓楽戦の勝敗が決まる。逆に祓い師が勝てば首の皮一枚繋がる。そんな重要な試合でこの二人はまるで気負いを見せていなかった。


「あんな大口叩いたんだ。口だけってのはナシにしてくれよ」


「その言葉。そっくりそのまま返したるわ」


 海神波一と草村駿。この歓楽戦屈指の好カードがいよいよ始まろうとしていた。

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