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フィモーシスの人々【4】

 ほろ酔い気分で都市パンパの冒険者ギルドを訪れた。


 マリスと比べて明らかに小さい。三分の一程度だろうか。客層も人間族が多いように見える。


 掲示板へ向かう。掲示量も少ないようだ。まぁ当然だろう。


 検索ワード「10万」「即入金」で左から流し見していく。


 10万こい、10万こい、10万こい………


 「……お」


 三段目あたりで条件に合致する掲示物を発見。フリーランク、魔物討伐依頼、報酬10万ペニー。文句なしだろう。


 早速受付へ持って行く。窓口は2つしかないが並ぶ人はまばらだ。すんなり通された。


 「次の御方どうぞ」


 「はい。こちらの依頼なのですが、この『ガウェインの森』とはどの辺りにあるのでしょう」


 「ガウェインの森はこの地の東に広がる森です。徒歩で3日の距離にあります。街道沿いに進めば左手に見つかるでしょう」


 東に3日とな。もしや往路で見かけた森だろうか。いやそうに違いない。


 これは僥倖過ぎる。転移魔法でひとっ飛び出来るじゃんよ。


 はい10万の目途が立ちました。ありがとうございます。


 「ではこちらの依頼を受けます。手続きお願いいたします」


 「かしこまりました。ガウェインの森でハンマーミノタウロスの討伐ですね。フリーランクと設定されておりますが、Cランク以上推奨となります。よろしいでしょうか」


 ハンマーミノタウロスか。明らかに強そうな名前だが大丈夫だろう。所詮魔物よ、氷魔法でどうとでもなる。


 「大丈夫です。よろしくお願いいたします」


 「かしこまりました。討伐確認部位は2本の角です。ギルドまでお持ちください」


 「了解です」


 さて、行ってみますか。



 ☆☆



 約1時間を経て。


 都市パンパの冒険者ギルドへ戻ってきた。脇目も振らず受付へ向かう。


 「あれ、先程の方ですね。どうしましたか?」


 「依頼の達成報告に参りました」


 腰に引っ提げた布袋から巨大な2本の角を取り出し、テーブルに置く。


 「はい?え、あ、本当だ…」


 「10万ください」


 「いえ、ですがこの短時間で討伐するなんて…」


 「10万ください」


 「物理的に不可能…」


 「10万くださ」


 「分かりました!分かりましたから。少々お待ちください」


 同じ言葉を繰り返すおじさんで何とか追及の手を躱す。移動時間や冒険者ランクのことを聞かれるのは面倒くさい。それよりも早くヒルデさんへ10万ペニーを献上しなければいけないのだ。

 

 「こちらです。どうぞ」


 テーブルに置かれた10万ペニーと更新されたギルドカードをズボンのポケットにしまう。


 「あの、もしこの後お時間がありましたら当ギルドのギルド長が是非お話したいとのことなのですが」


 「申し訳ありませんが急いでおりますので。失礼します」


 何か言いたげな受付を無視して冒険者ギルドを辞す。


 これにてミッションコンプリート。


 デカい面してヒルデさんに会えるぜ。



 ☆☆



 都市パンパから無事に帰還を果たしフィモーシスの街中を歩いていると、何処からか合唱のようなものが聞こえてきた。


 「なんぞ」


 気になったので向かってみる。


 するとそこには黒板っぽいのに何やら書いているお豚さんと彼に視線を集める30弱の魔物がおった。


 いわゆる青空教室を開催している模様。


 一通り黒板に書き終えたのだろう、お豚さんが生徒へ振り返り話し出す。


 「ブーブーブーブブブーブブブブ」


 「!?」


 なんだあいつは。急にブーブー言い出したぞ。まさか同類との度重なる接触により本来の野生オークへ戻ったのか。

 

 「ブブブーブブッブブーブーーー」

 「キェーーー!キェ!」

 「ブーブブー」

 「ハンマンマンマンマカンマー」

 「ブーブブー」

 「ヴァーーヴヴァヴァヴァ」

 「ブーブブー」


 「………………」


 なるほど。朧気ながら見えてきた。これが彼ら――魔物同士の会話なのだろう。言葉ではなく音で意思疎通を図っていると言った表現が正しいかもしれない。


 黒板には絵、矢印、人類言語の順番にかかれている。お豚さんは日の出の絵、その横の人類言語を交互に指さす。


 「ブブブーブブーブブ、おはようございます」


 『オハヨウゴザイマス』


 「ブブブーブブブーブ、こんにちわ」


 『コンニチワ』


 「ブブブーブブブーブ、こんばんわ」


 『コンバンワ』


 おお。授業っぽい。初めて間近で拝見したが、これが人類言語教室か。学生時代を彷彿とさせる雰囲気である。


 しかし何故に晴天の下で開催しているのだろう。余っている建物ならいくらでもあるだろうに。考えられる理由としてはそうだな、魔物たちには建物の中で何かを行うという習慣がないからかも。そのため密閉空間に身を置くと極度なストレスを感じるとか。少なくない数の魔物が室外で寝泊まりしている現状を鑑みればあながち間違いではないだろう。


 それにしても滞りなく授業が進行している事実に戸惑いを隠せない。魔物が生徒なのだ、学級崩壊していてもおかしくないだろう。だのに皆が素直にお豚さんの言葉にリピートアフターミーしている。それどころか集中し過ぎている気もする。まるで大学受験を控えた高校3年生のような雰囲気だ。何が彼らをここまで駆り立てているのだろう。


 「…………………」


 まぁ、元魔王さんの存在ですよね。


 そうこうしているうちに授業が終わったようだ。魔物たちがぞろぞろと青空教室を離れていく。


 「ア、オハヨウゴザイマス」

 「……おはよう」

 「コ、コンバンワ」

 「…………こんばんわ」

 「オハヨウゴザイマス!」

 「………おはよう」


 すれ違う際に学んだ言葉を使用するのは良いが、まだこの時間帯は「こんにちわ」ではないか。少なくとも「おはようございます」はない。面と向かってとやかく言うつもりはないけれども。


 生徒の帰宅が途切れたのでお豚さんと少し話そうと思い教壇へ視線を移す。


 ところがそこでは予想外の光景が繰り広げられていた。


 「センセイ、センセイ」

 「マチュピツアァチュァツマチュ」

 「オシエテ、クダサイ」

 「オハヨウゴザイマス。アイシテイマス」

 「ジークフリード!ジークフィモーシス!」


 めちゃめちゃ魔物共に囲まれていた。まるで人気がある先生に群がる生徒たちのように見える。こういう場合は先生がイケメンか美女と相場が決まっているのだが、お豚さんは正反対に位置する男である。もしかすると魔物たちにはイケメンに見えているのだろうか。


 驚きの光景に拍車をかけたのは生徒たちの特長である。皆が皆、女性型の魔物だった。一部ショタっぽいのも混じっているが雰囲気は女性そのものだから問題ないだろう。何がとは言わない。


 しかも結構人類に近い顔立ちだ。アルラウネ?とかハーピーとかラミアとか。首から下は魔物、上はニンゲンといった表現が正しいか。いずれにしろ俺でも目が行ってしまう程の粒揃いである。有体に言って可愛い。もしくは美しい。迫られたら断る自信がない程度には魅力的に映っている。


 人間の女に振られたかと思えば、幾分も経たないうちに新たな異性を複数はべらせるとは。これも高ラックの影響だろうか。


 とはいえお豚さんはやることをやっている。好きな女性が出来れば告白するし、目の前の光景も授業を繰り返した結果だろう。運が良いからというアンサーは的外れだ。


 「………………」


 改めて実感したわ。大事なのは行動と積み重ねだな。お豚さんはそれが出来ている。だから女に慕われる。対する池田は微妙なところ。周囲の女性の好感度が上がっている気がしないので多分出来ていない。

 

 「…………」


 たださ。これがギャルゲーだったらセレス様もフランチェスカもヒルデさんも攻略難易度高くない?普通に会話を重ねるだけでは駄目な気がする。皆さん独特な空気をお持ちですし。そもそもフランチェスカに限っては攻略対象として数えていいのか怪しい。


 たださ。彼女達よりも難易度が低いと思われる宿屋の娘や料理屋の娘相手でさえ弄ばれて終わった現実あるじゃん?あとだれ攻略できんのよって話。そろそろ人類は諦めた方が良いかもしれない。


 「………………」


 魔物姦が現実味を帯びてきたな。


 「…む?イケダではないか。皆すまんが今日はお開きだ。予習復習しっかりやるように」


 お豚さんがこちらに気づいたよう。軽く手を振ってみる。


 『………………』


 しかし反応を示したのはお豚さんの取り巻きだった。お豚さんとの放課後ランデブーを邪魔されたのが嫌だったのか、仮にも市長である俺をめちゃめちゃ睨んできた。あ、今ショタが舌打ちした。なんて野郎だ。


 生徒たちはお豚さんへ笑顔で別れの挨拶をした後、恫喝するような眼でこちらを睨み、そのまま去っていった。


 「いやぁ、すまんすまん。中々生徒たちが離してくれなくてな」


 頭の後ろを掻きながら近づくお豚さんに理不尽な怒りを抱きそうになるものの、彼が悪いわけではないと思い直し、いつものポーカーフェイスで対応する。


 「仲が良さそうで何よりだな」


 「皆、素直で言う事を聞くモノばかりゆえ教えるのが楽で良い。とはいえ人類ほど学びは浸透していない。通常の会話がこなせるまでもう少しかかりそうだ」


 最後の睨みを見た限りでは素直で言うことを聞くとは到底思えないのだが。お豚さんの前では素敵なレディを演じているのだろう。どちらが本性か、どちらも本性か。分からんね。


 「戻ってきたという事は売買に成功したのだな?何がどれくらいで売れ……あ、いや、それよりも確認したい事がある」


 急に真面目な顔になった。


 いったいどうしたというのだ。


 「我の枕元に200万ペニーを置いたのは貴様だな?」


 「そうだけど」


 「渡すなら直接渡せ!!起床した瞬間に大金があってビックリしただろうが。こんなことをする人物が1人しか思い浮かばなかったゆえ良いものの、下手をすれば周囲に疑心暗鬼となり眠れぬ夜を過ごしていたかもしれん」


 大げさな。ちょっぴりサンタクロースちっくな演出をしただけではないか。子供の頃、枕元に置いてあったプレゼントを空ける瞬間どれだけワクワクしたものか。その高揚感を味わわせてやったというのに。


 「それとトランス嬢の枕元にも金を置いたな?500万もの大金を。あれ程どうしていいか分からない表情を浮かべた彼女を見るのは初めてだったぞ」


 え、なにそれ。すごく見たかったんですけど。セレス様の戸惑い顔とか一生モノだろ。


 「そしてヒルデ殿には普通に手渡ししていただろう。なぜ奴は枕元に置かん!?全く以って意味が分からんぞ」


 彼女に渡した300万ペニーはフィモーシスの経営資金だからサプライズは必要ない。ちなみに整理すると、セレス様に500万、ヒルデさんに300万、お豚さんに200万の計1000万ペニーをばら撒いた。年齢不詳へブリュンヒルデ討伐依頼の報告をした直後にガッポ金融で下ろした金である。


 「まぁまぁまぁまぁ」


 「最近その言葉で誤魔化すよな」


 正直に話したところで「我らにもサプライズは必要ない」で片づけられるのだ。


 「それで。あれらの金は今までの貸与分に加え迷惑料も含まれていると捉えていいのだな?」


 「そんな感じだ。これで一回チャラにしよう」


 やはり無借金経営が一番。ということで全員へ全額返済です。


 やったー!!!!


 「ふむ。言いたい事はいくつかある。自身の判断のみで金額を決めるなだったり、我に200万は多すぎるだったり、そもそもブリュンヒルデに関するクエストには我らも協力したのだから、その分の報酬があっても良いのではないかだったり、挙げたらきりがない」


 うーむ。全く反論できんな。特に最後の指摘に関しては盲点だった。


 確かにお豚さんやセレス様、フランチェスカやドラゴニュートにも助力いただいた以上、何らかの形で返す必要があるかも。ただしドラゴニュートは戦いたくてついて来ただけだし、フラン様は金銭に興味が無いだろう。よってこの2人に与えるモノは無し。いいよね。


 「だが、よい。これ以上はいらん。我らが貴様に何かを与えるのと同じくして、我らも貴様から何かを頂いているのだ。本当を言えば200万自体いらんが、受け取らねば貴様がスッキリしないだろうから受け取っておく。トランス嬢も不承不承ながら懐に収めたぞ」


 「おお。それは有難い。色々サンクスでぶ」


 「でぶ言うな」


 確かにスッキリしちゃっている。しかも口座にはまだ手付かずの9000万ペニーが残っているのだ。もはやワクワクしかない。


 やったー!!!!


 「それはいいとして、今回の報酬でいくら借金が減ったのだ」


 「………………」


 こやつめハハハ。


 「とりあえず家に戻るか…」


 「いや我の質問に答えろよ」


 残り6億ペニー。


 何とかならんもんかね。


 

 

 ☆☆




 「………なんで、何も言わないで、置いていったの……」

 「まぁまぁまぁ」

 「それも500万ペニーって………すんなり渡す……感覚が、おかしい」

 「まぁまぁ」

 「…………いつ、私が……返せって……言った?」

 「まぁまぁまぁまぁ」

 「……聞いてる?」

 「ええ、ええ。分かっておりますとも。それにしても相変わらず料理がお上手だ。このシチューなんか絶品ですね、ええ」

 「……………もう」


 場所は変わって夕食の席にて。


 俺の変幻自在な会話術を前に思わずため息をつくセレス様。こうなってはもうターンエンドしたも同然。


 何とか追及の手を逃れたようだ。


 「おいイケダ。妾には何もないのかの?んぁ?」


 当たり前の如く同じ食卓に座るフランチェスカがガンを飛ばしてきた。


 んぁ?って何だよ。


 「もちろん感謝はしています。ただフランチェスカさんの場合、その恩を金銭で返すのはどうかと思いまして」

 

 「なるほど。少しは考えているようだの。確かに金など興味なしよ。となればどうするのだ。んぁ?」


 どうする?


 どうしよう。何も考えていなかった。


 とりあえずそれっぽい言葉を返そう。


 「そうですね、えー……あ、そうだ。私を1日自由にできる券をあげましょう。何でも言ってくださって結構です。全て受け入れますとも」


 言ってから思った。あんま魅力ねえなと。その証拠にお豚さんは呆れ顔を晒している。


 しかし当の本人はと言うと。


 「1日自由にできる券か…………ククク、なるほどの。悪くない。それで手を打ってやろう」


 え、いいの?


 いや本人が良いと言うのだからこちらから異議を唱える必要はない。それよりも気が変わらないうちに券を作って手渡しちゃおう。速攻で自室に戻りテキトーな紙にスラスラっと「1日自由」と書き、速攻でリビングに戻りフランチェスカへ手渡す。


 「はい、どうぞ」


 「ククク…」


 微笑みながら受け取ってくれた。おっけ。


 これでフィモーシスに助力いただいた借りはチャラよ。


 やったー!!!!


 しかし当の本人は先程の微笑みから一転して、自由券を見ながら眉間にしわを寄せている。


 「イケダよ。これは何と書いておる?この大陸では見掛けん字よの」


 しまった。日本語で書いてしまった。


 というか異世界の言葉読めるけど書けねえ。


 「………まぁよい。妾と貴様がこの紙を「イケダを1日自由に出来る券」と認識している以上、その効果は健在よの。カカカカカ」


 言い訳を考えているうちに自己完結した模様。頭が良い人はこれがあるから助かる。


 話がひと段落したので再びシチューを頬張り始める。


 うめー。シチュー最高。


 実を言うとカレーの方が好きだ。何故ならお米と一緒に食べられるから。シチュー×米も無くはないが、米が進むのは断然カレー。更に言えばカレーうどんも好き。総じてシチューよりカレー派。


 とは言いつつも。このシチューは次元が違う。シチューの名を騙った謎の美味いモノだ。なんなのだこれは。もしかして本当にシチューではないのか?しかしセレス様は山羊乳から作ったと言っていた。なれば見た目が完全にシチューである以上、シチューに違いない。だが味は俺の知っているシチューと違う。だとしたらやはりシチューではないと言うのか。そもそもシチューとはいったい何なのだ。は?あれ、いまどういう状況?


 「イケダさん、少しよろしいでしょうか」


 軽いゲシュタルト崩壊を起こしている所にヒルデさんが話しかけてきた。ちなみに彼女のシチュー皿は既に空である。


 「なんでしょう」


 「本日、初めての素材売買をされた訳ですが、何か気付いたことや聞きたいこと、言っておきたいことなどあるでしょうか」


 抽象的な質問だ。気づいたことや聞きたいこと、言っておきたいことか。


 「…………………」


 まさか。


 さっき渡した10万ペニーが素材売却費で得た金でないことに勘付いたのか?


 いや、そんなはずはない。気づく要素などないはずだ。絶対に違う。ああそうだとも。


 であれば単純なフィードバックか。


 思ったことを答えてよさそうだ。

 

 「そうですね。1つ確認というか、ちょっとした疑問なのですが」


 「どうぞ」


 「今回初の売買を試みたわけですが、何と言うかその、普通に冒険者ギルドの依頼を達成した方が儲かるんじゃないかなぁとか思ってみたりもしたわけです。そこのところどうお考えでしょうか」


 ヒルデさんはうんうん頷きながら副菜の和え物を一口含み、小さく咀嚼した後フォークを皿に置いた。


 「私もそう思います。イケダさんの実力を以ってすれば高報酬が期待できるランクB以上の依頼を日常的にこなすのも難しくないでしょう」


 結構評価されているようだ。嬉しい。


 「残念だがヒルデ殿よ、イケダは冒険者ランクFのぺーぺーだ。Eランク以上の依頼は受けることが出来ん」


 お豚さんの要らぬ情報によりヒルデさんが一瞬遠い目をするが、即座に持ち直した。


 「ランクフリーの依頼にも宝は眠っているので問題ないでしょう。まぁそれは置いておいて。イケダさん1人でフィモーシスの財政を賄う、不可能ではないかもしれません」


 「では……」


 「ナンセンスです。そのような馬鹿げた方策を取るつもりはありません。全く以って度し難い」


 えぇぇ。


 一転してめちゃめちゃ非難されたんですけど。そんで普通に食事を続けてるんですけど。いつの間にかおかわりしてるんですけど。


 「………私も、それはないなって、思う」


 えぇぇ。


 セレス様からも賛同得られなかったんですけど。お豚さんも顔の前でないないって手を振ってるんですけど。フランチェスカに限ってはカカカ笑ってるだけなんですけど。


 「いいですかイケダさん。市長自ら働いて頑張ることは良い事です。ただ方向性が間違っています。イケダさんがすべきことは市民の頑張りをお金に還元して市民へ返すことです。決して自らお金を生み出すことではありません。そもそも個に依存した経営は必ず破綻を招きます。先日畑に関する危機管理をお話しましたがまさにそのことです。万が一イケダさんが病気で倒れても成り立つ経営をしなければいけないのです。そのためには市民1人1人が利益を生み出す必要があるのです。またそうすることでフィモーシスヘの帰属意識が高まります。そういう観点で魔物素材売買による収益は、遅々たる歩みと感じるかもしれませんが、確実に前へ進んでいるのです。色々と不満に思う事はあるかもしれませんが、どうか今は飲み込んで頂けませんか」


 「もちろんです、はい。何でもやります」


 圧倒的な文章量を前にしてはただただ頷くのみ。


 これだけの演説を受けて首を横に振るわけにもいくまい。そもそも本気で言ったわけではない。本当だよ。魔物素材売買の分だけ依頼で稼げば、余った時間を休めるんじゃないかとか思ってないよ。本当さ。


 「カカカカカ!相変わらず小賢しい男よ。イケダお主、先程帝国の娘に渡した金は依頼達成で得たモノだな?」


 「んはっぁっぷ!……ふっ、はい?何をおっしゃっているのやら」


 思わず口から零れ出た動揺を何とか飲み込み平静を装う。しかし何故気づいたのだ。テレパスか?


 この女。


 恐ろしいな。


 追及されると絶対にボロが出る。ここは別の話で誤魔化そう。


 「ところでヒルデさん。やはり1人旅は寂しいものがあります。次回は片道3日と比較的かからない都市へ赴く予定なので、誰でもいいので付けてくれませんか」


 「そうですね……………領主様の話が本当なら監視役も必要になりますし、良いでしょう。以前お伝えしたようにトランスさんやジークフリードさんなど都市経営の主軸を担っている人達は難しいですが、何とか探しておきます。明日の朝、領主邸にお連れしますので」


 「よろしくお願いします」


 誤魔化し切れていない気がするが、まぁいい。執行猶予中ならまだ挽回できる。


 それよりも旅のお供をつけてくれるという。何でも言ってみるものだ。


 これで話し相手もいない寂しい生活から脱却できる。


 やったー!!!!




 ☆☆




 次の日。


 「さぁー行こうぜ!次の都市へ行こうぜ!!せい!は!ふぅおおおお!」


 「にゅふふ。交渉はうちに任せるニャよ。骨の髄まで絞り尽くしてやるニャ!」


 目の前には犬のお父さんと猫のお姉さん。


 「………………」


 まぁ、そうだよね。


 

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