沈黙の君【9】
レニウス帝国第3騎士団との遭遇戦から5日。
あれ以後レニウスの者と遭遇することもなく無難な旅路が続いている。
襲ってきた魔物をセレス様が倒す。その傍らで池田はチアーインアイスウォール。戦闘の光景に変化は見られない。所謂足手纏いからの脱却は果たしたが、依然として攻勢に参加しないあたり俺の必要性は懐疑を持たざる得ない。とはいえ一般漫画の盲目キャラよろしく気配察知や心眼といった能力には縁がないゆえ、黙って自衛に勤めるのが最善と判断。今に至る。
ハッピーなイベントも発生した。ついに野宿で熟睡できたのである。これで何時でもホームがレスな生活へ移行できよう。ただしそうなった場合は社会的地位の大暴落は免れぬだろうが。
まぁそんなことよりも、なのである。
セレス家を出発してから既に15日以上経過している。さすがに少々、いやかなり不安を抱いている。
まさかセレス様は方向音痴なのでは、と。
「あの、セレスティナさん」
「…………なに」
話しかけると応答はある。歩みを止めずに会話を続ける。
「橋、着きます?」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………………その質問は、受け付けない」
おい。どうしたセレスティナ・トランス。もしや自身の失態を誤魔化そうとしているのか。
だとしたら、まぁまぁ可愛いじゃないか。正直に方向を見失ったと言われるよりよっぽど好感が持てる。なんというか、目の前に食べかけのケーキが提示されているにも関わらず、私じゃなくて幽霊が食べたとか下手な言い訳をする愛娘に近しい可愛さを感じた。あの結局許しちゃうパターンのやつ。
とりあえず犯人の自白を促す。
「セレスティナさん、もしかしてですよ。当初より道に迷って」
と、言葉を紡ごうとした瞬間。
いきなり視界が開けた感触と共に少し粘つくような風が頬を打擲した。それと同時に、なにか懐かしいにおいがした。これは、プランクトンの死骸臭だろうか。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……………………なに?」
「えと、いや、その…………もしかして、橋に到着しました?」
「……………うん」
うわ、なんというタイミングでしょう。絶対いま、この子ドヤ顔してはるよ。何か言いかけたかね、池田君?って顔しとるやろ。
「…………」
とも思ったがあり得ないな。変わらずジト目の平常運転間違いなしだろ。この程度のイベントでセレス様の表情に変化があるはずがない。クールを通り越したコールド系女子の実力舐めるなよ。
「………行く」
「あ、はい」
セレス様に手をひかれる。地面の感触からすると、小さな石がコロコロする川辺タイプの道路っぽい。今まで圧迫していた木々は無くなったようで、随分視界がクリアとなっている。
少々の徒歩の末、セレス様が止まる。それと同時、前方の空間に生き物の気配を感じた。
「止まれ」
野太い声が聞こえた。少なくとも40は超えているおっさんと見た。我がパーティーに向けて発せられたようだ。
「向こう側への渡河希望者か」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………うん」
向こう側とは、獣人国のことだろう。それにしても、今更ではあるがセレス様の受け答えスピード、これ許容できる範囲を超えてるだろ。せっかちな御仁ではぶちキレるレベルだろうに。俺は自分が口下手ゆえ同情こそあれど負の印象は皆無である。むしろもっと遅くとも良い。
「そうか。通行許可証もしくは身分を証明できるモノを持っているか」
どうやらここでは検問っぽいことをしているらしい。以前セレス様に伺った話では、紅魔族と獣人族は敵対関係になく友好関係でもないとのこと。所謂中立というやつだろう。つまりは最低限、犯罪者や危険人物を互いの国へ入国させないため身分の確認を行っていると思われる。
とはいえ、これは困ったことになりそうだ。いざという時は、僭越ながら口を挟ませていただこう。
「………………」
「………………」
「…………通行許可証は……ない」
「では、身分を証明できるモノは?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………何を、見せればいいの」
「職業証明書。商売許可証。ギルドカード。家紋。家伝の魔法。いずれかだ」
前項の2つは一般社会における普遍的な身分証と言えよう。後項の3つはこの世界独特の証明方法だろう。ギルドカードはともかく、家紋、家伝の魔法が身分を保証する事実は想像に難い。
「………………じゃあ、家伝の魔法」
「家伝の魔法か……では、この場で披露してもらおう」
家伝の魔法を選択したセレスティナ。そもそも目の前のおっさんに至っては紅魔族の家伝魔法を全て頭にインプットしているのか、甚だ疑問である。披露したところで知らねぇなと素気無くされたらもう、どうしていいか分からない。とはいえ身分証明の方法はその1点にしか光明を見出せない。やらざるを得ないだろう。
問題はもう1つある。トランス家の家伝魔法はダークワールド。見た者全てに状態異常:暗闇の効果をもたらす魔法。如何にして証明するというのか。おっさんに魔法を披露した場合、失明への階段まっしぐらとなろう。だからといって、目を閉じた状態で家伝魔法を証明出来るはずもなく。
まさかとは思うが、おっさんを盲目状態にして彼が右往左往している隙に橋を渡る作戦だろうか。100%遺恨を残すであろうが、方法の1つには数えられる。外道作戦。ただセレス様の性格を鑑みると、思いついたところで実行に移すはずもない。半分は優しさで出来ているゆえに。
「……………いいけど………目が見えなくなっちゃう、から」
「あ?目が見えなく…………暗闇効果を持つ魔法か」
「……………ダークワールド、っていう」
「なっ!?ま、まさかお前、トランス家の者か!」
驚愕の声を上げるおっさん。急にテンション上げんなよ。ビクッとしちゃったわ。
にしてもまたもや印籠紛いのトランス効果。今まで出会った奴らは余すことなくトランス家を存じ上げている。もしかすると俺は、とんでもない家系のお嬢様とお知り合いになったのだろうか。
「………………」
それはそれで悪くないな。実はセレスティナ、魔族を統べる王の末裔だったとか。そこらへんに転がっている小説や漫画で多分に見られる設定である。そういうの嫌いじゃないじゃんよ。
「しかし、むむ。さすがにダークワールドを直に確かめることはできん。だがそれでは身分の証明が……」
おっさんお悩み中。ひたすら迷っていらっしゃる様子。
「だとしたら、他に方法は………そうだな、うむ。やむを得ん」
どうやらまとまったらしい。何故か俺がドキドキ。
「娘よ、何点か質問に答えてもらう。全ての答えがこちらの想定通りであれば橋の通行を許可しよう」
「………………」
実技試験はいったん中断とし、面接に移行したよう。超沈黙お嬢様には少々荷が重い局面である。がんばれ、がんばれという思いを込めて握っている手に力を入れる。
「まず初め。自身の名前を答えよ」
「…………セレスティナ・トランス」
「……次。父親の死亡時の年齢は」
「………………」
「………………」
「………………………38」
「…………最後だ。父親の死因は」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……………………分からない。死んだとしか……聞かされてない」
「………なるほど」
握っている手がピクッと動く。セレス様の汗で少々汗ばんでいる。表情には出ていないだろうが、過去の悪夢を強制的に回顧させられた悪感情が身体に現れているのだろう。
「分かった。問いに対する答えより君がトランス家の者であることが証明された。不躾な問いを発してしまい申し訳ない。通行を許可しよう」
「…………そう」
おお。
何やら婉曲的な質問ばかりであったが、結果として合格らしい。手を握る強さが弱まったあたり、セレス様もホッとしたようだ。
「初めははその外見により気が付かなかったが、間違いなく君はトランス家の忘れ形見であろう。つまりは引き連れし男の身分も保証される。2人とも、通ってよし」
どうやら俺も無問題らしい。トランス家様様です。
しかし、レニウス帝国の騎士団長に続いてまたもや外見の話をしている。なんだろうか、成長すると巨大化したり人外化したりするとか。そうなると俄然興味がわいてきた。彼女には申し訳ないが、巨大化セレス様とかちょー見たいだろ。足と足の間からバミューダトライアングルを見上げたい。
「……………行く」
「あ、はい。ども、お疲れ様です」
「ん?あぁ、ご苦労さん。気をつけてな」
大体の位置を見定めて頭を下げあいさつを交わす。
こうして、ようやく俺たちは獣人国へと続く橋へ足を踏み入れた。
☆☆
橋を歩く。歩く。ただひたすらに。
地面の感触とセレス様から伺った外観から憶えるにどうやら大きな石橋の形状をしているようだ。横幅は約10m。長さは不明。ヨーロッパ 石橋 で検索して出てくる画像をイメージしている。
それからしばらく。
顔に夕日が当たる頃合い。かろうじて橋の終わりが見える位置まで進んだ。セレス様曰く、橋を渡り終えるよりも日の沈む速さが勝るだろうのこと。午前の内から歩き始めたというのに、この時間まで橋上に滞在するとは思わなかった。余程規模の大きい橋なのだろう。
通行人との接触は皆無。獣人国へ行く紅魔族も、またその逆も滅多にいないのだろうか。それにしてもゼロはないだろう、ゼロは。
「セレスティナさん、今日中に橋を渡り終えますか」
「……………」
「……………」
「………………うん」
「分かりました」
俺も賛成。橋上での野宿は何やら恐怖を感じる。いざという時、逃亡の選択肢が狭められるからだろうか。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
しばらく無言で歩く。さすがにこれだけ共に過ごす時間が多いと、少なからず無言タイムは存在する。だが苦痛には感じない。セレス様が発する空気のお陰か、それとも相性が良いのか。日本時代は如何にか無言の時間を埋めようと余計なことまで話した結果、相手はドン引き。俺は謎の愛想笑い。その後の無言タイムは地獄であった。若かったと言えばそれまでだが、そもそものコミュ力が圧倒的に底辺臭い所以のショッキングイベントであった。今ならもう少々上手くやれる自信はある。だがあの頃の青春は戻ってこない。ままならないものだ、人生は。
「……………………」
ピタッと。セレス様が立ち止まる。不自然な挙動に感じた。もしや、第一村人発見か。
…………………
前方に気配。瞼の裏で若干小躍りしているあたり、生き物のようだ。
これは完全に獣人との初対面だろ。
「………………ククク」
あれ。
第一村人わらっとる。しかも明らかにこちらを嘲るような声色。嫌な予感しかしない。
「ヤハリ、ココヲトオルカ、コムスメ」
この片言。耳にしたことがないと言ったら嘘になる。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
無言を貫き通すセレス様。いつでも無言。常に無言。だがそれがいい、それでいい。どうかそのままの君でいてくれ。高校では寡黙な読書系女子だったのに大学に入るや否や金髪ピアス系リア充に変貌した絶望感は異常。何をそんなに無理をする必要があるのか。そのままの君が一番素敵だったのに。結局同じサークルのヤリチンに弄ばれて、それでもなお一皮むけたとかくだらない言い訳をするのがオチだろうさ。三嶋さんがそうだったよ。ああ三嶋さん。今は巣鴨のピンサロで気軽に会えるとか。
「…………目、治ってる」
「ククク、キヅイタカ。ソウ、グウゼンコウマゾクリョウデレニウスノプリーストトソウグウシテナ。ミノガスカワリニチリョウシテモラッタノダ」
こいつもレニウス帝国の奴と出会ったのか。しかも司祭。運良すぎだろ。
たしかに、枕詞に神聖と付く国の司祭であればダークワールドも治せそうだ。なぜ俺は出会えなかった。シリウスとかゴミキャラだろ。
「メガナオッタワレハ、キサマニフクシュウスルコトヲチカッタ。キサマノスミカヲサガシテモヨカッタガ、ソウイエバキサマノツレモオナジマホウニカカッテイタノヲオモイダシタ。レニウストハテキタイシテオリ、コウマゾクハカイフクマホウノツカイテガスクナイ。クロマゾクモドウヨウ。トスレバ、ノコルハジュウジンコクシカアルマイ。ワレハハンツキマエカラ、ココデマッテイタ」
片言で聞き取りにくい。もっと滑らかに話せと言いたい。
つかこの豚、15日間も待ち伏せしていたというのか。暇人かよ。つまるところ橋の通行人が異様に少ないのはこいつの責任ではないか。
「…………………」
「ククク、オドロキスギテ、コエモデマイ」
もしセレス様か俺が高度な回復魔法を使えていたら。そのような考えに至らない辺り、知能は外見違わずといったところ。オークの見所は頭の良さではなく我武者羅に女を犯すところにあるのは万国共通。
「サァ、アノヒノカリヲカエシテヤル。イクゾ、コムスメ」
「……………」
ふむ。
恐らく、向こうがどんな対策をしていようともセレス様なら難なく勝てそうである。
とはいえ油断は禁物。一応、相手のステータスを確認しておこう。橋の上にいるお蔭で大体の位置は把握できている。
このあたりだろうと、豚野郎に向けてステータススキルを放つ。
【パーソナル】
名前:トントン
職業:さすらいの童貞
種族:オーク族
年齢:27歳
性別:男
【ステータス】
レベル:67
HP:4403/4430
MP:102/102
攻撃力:1460
防御力:998
回避力:344
魔法力:82
抵抗力:885
器用:691
運:1212
きたぜ。 一気に親近感わいたわ。あいつオークのくせに未経験だわ。オークと言えば、どのゲームでも、人間の女をさらっては襲って子供を産ませる輪姦シーンの主人公だというのに。なんと嘆かわしい。おおオークよ。経験していないとは情けない。童貞のオークとか存在価値さえ疑われる。
これは想像になるが、未経験だからと他のオークに馬鹿にされる日々が続いた結果、耐えきれず集落から離れたのだろう。オークの社会もチェリー野郎には厳しいのか。いや、オークの世界だからこそだろう。絶倫こそが正義とかだろうな。そんなことより童貞って言うよりもチェリーって言った方がちょっと印象いいな。合コンとかで「実は僕、童貞なんです」って言うよりも、「実は僕、チェリーなんです。山形産の」とか言う方が少し可愛いよね。ああ。やっぱどっちもキモイな。童貞をさらけ出したところで百害あって一利なしだろ。
そんなことはどうでもいい。豚に話しかける。童貞と知ってから圧迫感もなくなったため緊張せず話せそう。
「おい、ジークフリード。1つ俺と勝負をしないか」
「オニモツガナニヲホザク」
「簡単な勝負だ。今から5分間………あれ、5分てどの程度か分かる?」
「ホザケ。300ビョウのコトダロウ。ワレヲバカニシテイルノカ」
なるほど。時間の概念は前世と同様らしい。非常に今更感が強い話題であるが。セレス様との間には時間など存在しなかった、とでも言えば格好はつくだろうか。
「では5分。5分間俺はひたすら防御に回る。お前はひたすら攻撃をする。時間内に俺の守りを崩した時はお前の勝ち。逆であれば俺の勝ち。どうであろうか」
「ナニヲイウカトオモエバ………チナミニ、マケタホウハドウスルノダ」
「この橋からダイブする」
「………………」
「………………」
「……………………ホンキカ?シヌゾ?」
「お前はセレス……目の前の女性を殺しに来たのだろう。であれば自身が死ぬ覚悟も持ち合わせていると推察したが」
「……………………ククク」
笑った。これはいただきました。
「ソウダ、ソウダッタナ。イイダロウ、ソノショウブノッテヤル」
「では、早速始めよう。セレスティナさん、手は出さないでください」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………手は、出すかもしれない。でも、その時は……あなたの、負けだから」
「あ、あぁ、はい」
何やら素直に承諾されなかったが、言わんとするところは伝わったと思う。それにしても、相変わらず癖になる声を発してくれるなこの女。某アニメのがきんちょ探偵の横でクールに澄ましている小学生や、私は三人目とか変わりはいるものとか言う量産型のロボット乗りの声にクリソツ。正直言って、声だけでイける。
セレス様のお優しい言葉に胸を温かくした後。最早お馴染みとなった氷壁を1つだけ目の前に作成する。今回は常日頃と異なり強度二分の一程度で形成する。
これは大きな指標となる。豚野郎は今まで出会った魔物の中で一番に物理攻撃力が高い。彼の攻撃を防ぐことが出来れば、物理攻撃力千五百以下は二分の一アイスウォールで十分だと立証できる。だからといって物理攻撃力三千程度を全力アイスウォールで防げるかと言えば困難だと言えよう。数字はあくまで数字であり、攻撃力と魔法力が比例する証拠がない以上危ない橋は渡れない。それにヤバめの敵と遭遇した際は逃げるか死ぬかの二択になるだろうし。
とはいえ豚野郎は丁度良い素材。俺の実験台になってもらおうか。
「ホウ、コオリノカベカ。ナカナカカタソウダナ。ダガ、ショセンミカケダオシ!イクゾ!」
猛烈な勢いで何かが、豚野郎が接近するのを感じる。
焦りや恐怖はない。氷壁への信頼感はもちろんのこと、俺の背中には沈黙の君が備えているから。
一度でいいから言われてみたい、あなたは私が守るもの。池田です。
「クダケロォォォォ!」
豚の絶叫。直後、何かを振りかぶる音とともに前方の壁に衝撃が走る。金属と金属がぶつかるような甲高い音はまるで氷壁が泣いているようでもあった、とか詩的な感じが出ちゃうあたり俺には余裕があった。
「ナッ…………」
氷壁、割れず。
驚いておる、驚いておるぞ、このポークチェリー。おいおい、なんか美味そうに聞こえるぞ。
「モウイチドダ!」
かすかに知覚できる身体の動作からして、横薙ぎの攻撃を繰り出したようだ。ガキン!と、相変わらずの衝突音だが氷は泰然としている。
「オラ!オラ!オラ!オラ!」
氷の壁に連続で攻撃を打ちつける音が聞こえる。
ああ。今気づいたが、これやっていることは普段と変わらんな。
☆☆
「クッ…………」
数分経過しただろうか。未だ氷は砕けていない。一生砕けないだろうけども。
そういえばタイムキーパー用意してなかった。まぁ、まぁいい。魔法が解けた場合は再度氷壁を張りなおせば良い。この程度の壁で俺のMPは。
【パーソナル】
名前:池田貴志
職業:ひも
種族:人間族
年齢:26歳
性別:男
性格:口下手、格上には緊張する、事なかれ主義、敬語使い、慎重ではあるが追いつめられると吹っ切れる
【ステータス】
レベル:1
HP:29/30
MP:3970/4070
攻撃力:22
防御力:3
回避力:2
魔法力:5944
抵抗力:4
器用:3
運:7
【スキル】
ステータス:4
回復魔法:10
MP吸収:54
氷魔法:32
枯渇などせん。俺が負けることはない。いくらでも付き合ってやる。
「フゥ………フゥ………クッ」
疲れておる。打ち止めだろうか。さすが童貞、速くて短い。
「フゥ……………シカタガナイ、アレ、ヤルカ」
なっ。
ここにきて隠し球の登場だと。なんだ、5連ヘアピンの溝落としでもする気か。
「…………」
豚の気配が濃厚になった気がする。
「オークノサトジキデンオウギ……………」
なんだ、なにをする気だ。奥義って。急に臨場感増すだろ。
やばい。
ちょっと怖くなってきた。
たのむ、俺の氷。
防いでくれ。
「カマ―――――」
「終わり」
…………………
審判長から鶴の一声が上がった。固まる両者。豚野郎、纏っていた濃厚な気配が一瞬で霧散する。
「…………5分、経った」
「ンナッ」
なんと。何も言わずとも、タイムキーパーをしてくれておった。さすが出来る女は違う。ただ少々疑惑の判定っぽいのは否めない。タイミングが良すぎる。とはいえ5分経過したと言われたら確かにと、納得できちゃう時間帯であることは事実。
「グッ………ナントイウコトダ」
豚野郎が崩れ落ちる音がした。ガッカリポーズを晒しているな。
「他愛ない」
とりあえず格好つける。足が若干震えているのはアイスウォールに囲まれて寒いからだ。本当さ。
「さてジークフリードよ。完全なる敗北であろう。どうするかは、分かっているな」
「コノハシカラ………オチルダト」
目が見えないので定かではない。ただ声色から恐怖が感じられるあたり、相当の高さがあるようだ。
「ム……シカシ」
立ち上がった音がした。
「約束を破る気か」
正直、池田の脅威判定から逃れたためもはや生き死になどどうでもいい。あまりに危険な人物であれば実力行使も考えた。だが明らかに豚男は低脳。それに童貞。今後俺たちの障害とは成り得ないだろう。ただ煽ることは煽る。勝者の特権ゆえ。
「イヤ、ダガナ」
「おい」
「シヌゾ、ホントウニ」
「やはり」
「ベ、ベツノコトダッタラ」
「―――童貞は意気地がない」
「ナッ!?!?!?!?!?」
今日いちの驚きである。
「ド、ドドドドドドドドドドドウテイデハナイ!」
「知っているか。童貞が許されるのは、ゴブリンまでだ」
「ナニヲイッテイルノダ、キサマハァ!」
「早くフライアウェイしろ、未オーク」
「キサマァァァァァ!!!」
「…………うるさい」
「アッ」
ジークフリードの気配が目の前から消える。それと共に何かが焼けたような臭い。
「…………………」
「…………………」
察した。
どうやら、痺れを切らしたセレス様がファイヤボールを放ちジークフリードを橋から突き落としたっぽい。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
手に、生暖かい感触がした。
「……………いこ」
「あ、はい」
橋での再会は、悲しいかな永遠の別れとなってしまった。
別にいいけど。