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短編集

パスポートを忘れた話

作者: 巫 夏希

「お客様、大変恐れ入りますがパスポートをお見せ下さい」


 東京駅で新幹線を降りると、改札に立っていた警備員がそう告げた。

 いったい何のことを言っていると思ったが――警備員は続いてこんなことを言い出した。

 二〇一七年冬、東京都への県境を越える場合はパスポートの提示を求められる、いわゆる『国境』のような制度が導入されたということを。

 そうだったか? 最近経済ニュースを見落としていたからかもしれないし、でもそれくらいのニュースなら全国で話題になりそうなものだけれど……。


「無いんですね、パスポート」


 本社に行く用事だったし、そもそも東京に行くのも一年ぶりだったからすっかり忘れていた――どうすればいいのだろうか。

 その旨警備員に伝えると、警備員は深い溜息を吐く。


「仕方ありませんね。『入都』は認められませんが、戻ることは出来ますよ。ただし、あなたが住む場所へ存在証明をしてもらう必要がありますが」

「存在証明?」

「簡単に言えば住民票などの情報提供です。あなたが犯罪者では無いか、ということをその市区町村に判断してもらうので。そうしないと我々の自衛も出来ませんから」


 まあ、それくらいなら仕方ないか。

 そう思って警備員の指示に従い住所などの情報をシートに記載する。


「それでは、確認して参ります。今しばらくお待ち下さい」


 そう言って警備員はバックヤードへと消えていった。




「参ったな……。上司に連絡しておこうか」


 業務用のスマートフォンを取り出し上司の連絡先を確認しようとしていると――後から遅れてやってきた後輩がそのまま改札を通り抜けようとしていた。


「おい、何やってるんだ。ここは確かパスポートが無いと……」

「パスポート?」


 後輩は俺に軽く頭を下げて、続いて首を傾げる。


「いや、だって……」


 俺は先程のやりとりを後輩に言おうとする。

 しかし、それよりも先に、


「ああ、もしかして……」


 と、後輩はゆっくりと話し始めた。


「それなら、事実無根の嘘ですよ。虚報を事実のように告げるニュースサイトだったか、あるいはソーシャルネットワーキングサービスだったかは覚えていないですけれど、都民ファーストが圧勝したから都民以外の人間は入るときにパスポートが必要になる、ってことを言い出したんですよ。もちろん、嘘の話ですけれど、あまりにも話題になっちゃったんで、それを事実のように受け取る人が出てきて……って先輩、顔が青ざめてますけれど、大丈夫ですか?」



 その後。

 俺は急いで駅員室に警備員の名前とそのことについて話をしたが、駅はそのような警備員を雇っていない――との情報しか得ることが出来なかった。


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