新たな日常2
「ロイス君とヤーシャさんって知り合いなんだね。」
「うん。小さい頃からの知り合いだよ。
でもあの人は次期団長候補でもあるすごい人だから、僕みたいなのが軽々しく口をきける立場じゃないんだ。」
ヨイチの質問に少し寂しそうな顔をしてロイスは答えた。
「魔法大臣の孫っていうロイス君も十分すごいと思うんだけど…。」
ヨイチがそうつぶやくと、それをかき消すように
「あのさ!」
とロイスが言った。
「どうしたの?」
「そのさ、ロイス’君’っていうのやめない?なんか他人行儀みたいだし…。
それに僕たちもう友達でしょ?だから普通にロイスって呼んでよ!
僕もこれからヨイチ君のことヨイチって呼ぶからさ!」
「う、うん!」
彼の申し出は町に出てきたばかりで、知り合いもいないヨイチにとっては嬉しいものだった。
(友達…へへっ!)
嬉しさのあまりニヤニヤしているヨイチに、ロイスが
「ほら、ニヤニヤしてないで早く教室に行こう!じゃないと遅刻しちゃうからさ。」
と言ったので、二人は足早に教室に向かった。
ゴーン、ゴーン。
「はあ…。何とか間に合ったね、ヨイチ。」
2人が教室に入った瞬間、授業が始まるベルが鳴った。
「席は決まってなくてどこに座ってもいいことになってるから、僕の隣に座ればいいよ。」
とロイスが言ったのでヨイチは隣に座らせてもらうことにした。
ヨイチは席に着くと、違和感を感じた。
教室に入った時には気付かなかったが、周りの人たちがヨイチを見ながらこそこそと話している。
「あれが例の…。」
「なんか普通に見えるけど。」
「でも噂では相当の魔力持ってるらしいぜ。」
「気味が悪いよね…。」
微かにしか言葉は聞き取れないが、誰もヨイチのことを歓迎しているようではなかった。
(やっぱり僕はここでは歓迎されてないんだな…。)
「ヨイチ気にしなくて大丈夫。きっとそのうちこんな風にはならなくなるから。」
「うん。」
ロイスが優しく声をかけてくれたが、ヨイチの気持ちは晴れるわけではなかった。
「はあ…。」
ヨイチが大きくため息をつくと、
ガラガラッッ!
突然、重苦しい空気の中、ドアが開く音が響き、3人組の派手な少女たちが入ってきた。
この空気に気づいてないのか、3人組の中でも金髪巻き毛の一際派手な少女が、教室の1人1人に
「ごきげんよう。」
と笑顔で挨拶をしている。
そしてロイスの前まで辿り着いたとき、それまで誰にも見せていなかった満面の笑みを浮かべ、
「ロイス様!ごきげんいかがですか?今日もまた一段と素敵ですわ!」
と言った。
「あー…。ラーニャおはよう…。」
ロイスも若干顔を引きつらせながら挨拶を返す。
ヨイチはその少女の派手さに圧倒され、ぽかんと眺めるしかなかった。
すると金髪の少女はそんなヨイチに気づき、ロイスに
「ところでロイス様。このアホみたいなお顔をしているのはどなたでしょうか?」
と聞いた。
「あっ、初めまして。これからこの学校で勉強することになったヨイチです。
よろしくお願いします…。」
ヨイチが恐る恐る自己紹介をすると、
「あぁ!あなたが例の、田舎者のくせに何故か魔力を持っていて、国王様を運良く助ける事ができて、運良くこのティルス魔法学校に入ることを認めてもらった不気味な男ね!
ロイス様は心優しいお方だから、あなたのような者にも優しくしてくださってるようですが、
調子に乗らないようにしてくださいませ!」
ラーニャと呼ばれた少女は思っていることを隠そうともせずヨイチに言った。
「私は、ラーニャ・ランデス!あの魔法の名家として有名なランデス家の長女よ!
ちなみに後ろにいる赤い髪の方はジュネット、青い髪の方はマイルよ。
あなたとはあまり関わりたくないけれど、まあこれからよろしくお願いします。
あっ!私のことはラーニャ様とお呼びなさい!」
そう一方的に言うと、ラーニャはすぐに席に着いてしまった。
「なんだかすごい子だな…。」
ヨイチが呟くと、
「ははっ…。悪い子ではないんだけどね。」
ロイスは苦笑いを浮かべながら言った。