はじまり2
ドンッ、ドンッ、ドンッ。
門の前に着いたヨイチは扉を叩く。
すると中からオレンジ色の髪をした、感じの良さそうな少年が出てきた。
年はヨイチと同じくらいだろうか。
「どうもはじめまして!今日からここで勉強することになった、ヨイチです。
えっと…。」
ヨイチが言葉の続きを考えていると、
「話は聞いてるよ、ヨイチ君。僕はロイス・ヴァンケット。
君を案内するように頼まれたんだ。よろしくね。」
そう言ってロイスは笑顔で手を差し出した。
「はっ、はい!よろしくおねがいします!」
「そんなに緊張しないで。僕たち同じ年だし、もっと普通に話して!」
緊張のあまりおどおどしているヨイチにロイスは言った。
「でも、そんな訳には…。だって身分も全然違うし…。」
ヨイチが緊張するのにも理由があった。
この国では身分のいいものしか苗字を持っていない。
金持ちの商人、政治家、侯爵、伯爵、王族…。
ロイスの家、ヴァンケットは伯爵家のひとつだ。
しかし、この家はその中でも特別だ。
ベルクール王国には国を守る大きな組織が2つある。
1つは優秀な剣士を育て、何かあった時には戦いの最前線に立つ、
ナイトと呼ばれる部隊。
そしてもう1つが、魔法使いの育成や国の政治を行っている、
魔法省と呼ばれるものだ。
ヴァンケット家は魔法の名家で、多数の者が魔法省で働いている。
現に、魔法省のトップである魔法大臣はヴァンケット家当主、ルドルフ・ヴァンケットが行っている。
そんな身分の高い人と、村から一歩も出たことがないヨイチとでは住む世界も違い、本来ならば関わることもない関係なのだ。
「身分とか気にしないでいいからさ。それに僕はかしこまって話されるの苦手だから。」
困っているヨイチに、ロイスはそう声をかけた。
「そ、それなら…。よろしくね!ロイス君!」
「うん!じゃあ早速学校の中を案内するね。」
ヨイチは少しの緊張と、少しの不安、少しの興奮を持って、ティルス魔法学校の門をくぐった。