はじまり
~第一章~
「うわー。これが町か…。」
馬車の窓から外を眺めながら少年は呟いた。
「にいちゃん、町に来るのは初めてかい?」
馬車を操りながら前にいる男が声をかける。
「はい。今日初めてフィール村から出てきたばかりなんです。」
少年が答えると
「フィールなんてあんなド田舎から来たのか!?なんでまた?」
と、男は驚いたようすで聞き返した。
「僕今日からティルス魔法学校に入学するんです。」
その言葉を聞くと男はさらに驚いた顔をして、
「もしかして、にいちゃん今、国中で噂になってる国王様からのご命令で魔法学校に入学することになったっていうあの天才児か!」
と言った。
「いやぁ~。噂のことは知らないし、
天才でもありませんが国王様のご命令で学校に入学させてもらうことになったのは本当です。」
「ひえー。こりゃびっくりだ!とんでもない有名人を乗せちまった。なんたってあんなすごいことをやった奴だもんな。」
「すごいことなんて僕は何も…。」
男が言うすごいこととは、一週間前に少年が国王の命を救ったことだ。
ーーーあの日、フィール村には国王様が視察に来ていた。
しかし帰るときになって突然大雨が降り、村と町をつなぐ橋の下の川が大氾濫を起こしていた。
村人たちは危ないと止めたが国王一行は「大丈夫だ。」と言って、帰路を急いだ。
少年は数人の村の若者とともに橋まで一行を送り届けよ、と村長に頼まれた。
雨は降り続いていたが、無事に橋まではたどり着けた。
「ここまで見送り感謝する。」
と言い、一行は橋を渡り始めた。
橋の真ん中に差し掛かったその時、
突如川の水がせり上がり、橋を飲み込んだ。
国王が乗る馬車も共に飲み込まれてしまった。
誰もがもう助からないと思っていたが、少年は焦る気持ちを抑えながら冷静に対処した。
彼は田舎者でありながら、父親の影響で魔法が使える。
少年は家にある本で学んだ魔法の知識を使い、見事国王様とその一行の命を救った。
国王は少年に感謝し、その魔力を称え、お礼としてティルス魔法学校の入学を特別に許可した。---
「ほいよ。にいちゃん。ティルス魔法学校、着いたぞ。」
そう言って男は大きな建物の前に馬車をとめた。
「ありがとうございます!」
少年は男に向かって頭を下げた。
「いいってことよ!むしろこんなすごいやつを乗せられたんだ。
俺はうれしいね!
そうだ!噂は知ってたが俺、にいちゃんの名前知らないんだ…。
なんていうんだ?」
「僕の名前ですか?ヨイチです。」
「ヨイチか!よしヨイチ頑張れよ!」
「はい!ありがとうございます!」
そう言ってヨイチはもう一度男に頭を下げてから、走って門に向かった。