第一章4 ヒロキの力
ルナとの熱~い夜が過ぎて……
ヒロキは朝食の席にてルナとともに、食事をとっていた。すると、背後からカツカツとヒールを鳴らす音が聞こえる。ヒロキはそのわざとらしく鳴らされた音にあえて気がつかないふりをしながら、オレンジ色だが普通のクリームの味がするクリームパンを食べながら今後の方針について考える。ちなみにルナはパンケーキを食べていた、ヒロキとしては食べる姿がもう可愛すぎて朝から襲いたくなるくらいだった。まあ、昨日は十回以上……これ以上は朝食の席なのでやめておこう。
「昨日はお楽しみでしたね」
「――」
「昨日は! お楽しみでしたね!」
「――」
「おい!」
「――」
「お~い~」
ヒロキが背後にいる人物、このオーリンジ王国第一王女アランが無視され過ぎてヒロキの頭を思いきりゆらし始めたので、しょうがないから彼女とのコミュニケーションの一つを敢行することにした。
「あ、そういえばいたな」
「わざとだな!? わざとなのだな!?」
いつものように存在を忘れていたていで会話を始めるヒロキにアランは頬をプクーと膨らませていた。
ちなみに言っていなかったかもしれないがこのアランさん。オレンジ色の髪にオレンジ色の少女なのだがかなりの美人である。たぶん十人に聞いて十人が美人というだろう。百人に聞いて百人が美人とも答えると思われる、とにもかくにも綺麗な少女だ。まあ、ヒロキとしてはすでに一番がはるか上に存在しており、彼からしてみればこの世界の女神よりも神々しい存在としてルナがいるのでこんなぞんざいな態度をとっているのだが……
「で、何か用なのか?」
「いや、特に何もないのだが……」
「なら食事の邪魔だから消えてくれる? あ~ん」
「あ~ん……む! このパンケーキうまいな。こっちもどうぞ」
「あむ……ん、おいしい」
「だろ?」
またしても自然と出来てしまった二人だけの空間に、アランが置いてけぼりにされている。
アランはまたこれを邪魔したら「あ、いたなお前」といわれるのだろうなぁと思いながらもなんとなくこの状況を止めたい衝動に駆られてしまい、自分はいじめられたいのか? と自分で自分にツッコミを入れていた。
○△□
ドガアアンッ
アランが悶々としている間に二人の食事が終わり、とりあえず王都散策してみるか、となったところでそんな爆発音が響いた。
「な、なにが起こった!?」
アランが侍従の一人に聞くと、
「山賊どもが暴れだしたそうなのです!」
「なんだって!?」
アランが驚いている間にヒロキとルナはいつものように手をつないで動き出していた。
実は昨晩。熱く蕩けるような時間のあと二人は寝入るまでの間に少し、互いに手をつなぎながら話していたことがある。
「明日、すぐに出る?」
この質問は、試練があと六日しかないので、早く塔に行こうということだろう。幸い、王都についたとき、否、王都に着く前にいた町からも実は空へと伸びる高い塔が見えていたので、そこに向かえばいいというのは把握していたのだ。
しかも、昨日食事中にアランが言っていた、守護竜の試練なるものがあるのだからなおさら早めにここを立つべきだろうとルナは考えていた。いや、これは誰もが考えつくことだろう。
しかし、ヒロキの考えは違ったようだ。
「ん~とりあえず明日はここに残った方がいいような気がするんだよな~」
「どうして? あと六日しかないのに」
「そこなんだよな~」
「そこ?」
「ああ、なんで七日でループさせてるのかなと思ってさ」
「?」
ルナが首を傾げる。ヒロキは可愛いなあと思いながら続ける。
「これは創造神とやらの試練なんだろ? だからきっとこの七日っていうのに意味があると思うんだ」
そう、現実においてご都合主義はほとんどないのは誰もが知っている。ヒロキ自身、過去に心の底からそう思わされている。
だが、今回は試練だ。しかも、罰としての試練のなのだから、おそらくこの七日間に何らかの意味がある。何より自分たちを呼ぶことについても創造神は言伝とやらで言っているのだ。
これらのことからあらゆる意味でご都合主義に仕組まれている可能性が高い。例えば毎日のように何かしらの事件が起きたりするなどが一番あり得るだろうか。
そういうことをルナに説明すると、目を潤ませて「さすがヒロキ」という意思をつないだ手から伝えてくる。ヒロキは大好きな彼女に褒められて顔に熱を感じるとそれを隠すために話題を進める。
「ま、これは俺の勝手な予想だから、あってるかどうかは分からないけど。そんな感じでいいか?」
「ん。ヒロキが行くところが私の行く場所」
「そ、そうか」
ヒロキの照れ隠しがルナには手に取るようにわかっているので、いつものように純粋て絶対の愛情を言葉と手から伝えてからかう。ヒロキもからかわれているのが分かっているのでさらに照れてしまう。もちろん愛情が99.99999パーセントなのは間違いないから余計にたちが悪い。
ちなみにこのあと何ラウンドしたかは……まだ時間が朝なのでやめておこう。
とまあ、そんなことがあったので、一緒に爆発があった場所に走っていく間にルナの手から「ヒロキすごい」という感情がビンビン伝わってくるのだが、ヒロキの方は少しの緊張があった。
理由は簡単だ。予想がある程度本当になったということは、この毎日の問題を、答えが見えない中うまく立ち回って解決していく必要があるのだ。幸か不幸か女神は指輪を手に入れろと言っていたので、失敗すれば指輪が手に入らなかったということになるかもしれないが、出来るだけ元の世界に早く戻ってあのバケモノにリベンジしたいし、何より本の他にゲームも大好きなヒロキとしては一度もループする気などない。
だからこそ、自分がうまく立ち回れるか不安なのだ。
「――」
「……ルナ?」
「……大丈夫」
ルナにはどうやらお見通しだったらしいとヒロキは思った。もしかすると手から伝わってきた「ヒロキすごい」は自分を奮い立たせるためだったのでは、と思って手に意識を向けてみると、本当にそうだったらしい。どうやら自分は手から伝わってくるルナの感情を感じ取れないほど緊張していたようだ。
「大丈夫。二人一緒にいれば絶対に負けない。何があっても」
「確かに、俺たちは死んだはずなのにこんな場所に飛ばされて生きてるんだからな」
ルナには絶対かなわないなとヒロキは苦笑しながら、この日の試練であろう場所に向かって行った。
ヒロキたちは爆発があった場所、ヒロキたちが止めてもらっていた王城を出て、裏門のあたりにそろそろ到着する。眼前では、大きな煙の中で一人の全身真っ赤な山賊風の……否、まず間違いなく山賊である身長二メートルほどの巨大な体を持つ男が、一人の全身オレンジ色の騎士の首をつかんで持ち上げていた。はっきりとこの状況が分かっているのは、ヒロキたちから見て彼らが横向きだからだ。
「ここに俺たちの仲間をやったていう野郎がいるらしいじゃねえか。どこだ? 答えれば命は助けてやる」
まず間違いなく嘘だろうなぁと思いながら、ヒロキはルナと手だけでどういう連携を取るか確認する。無論今回は前回は殺さなかったヒロキとしても殲滅するつもりだ。なぜなら前方には六色の粗野な服装を着た百人ほどの集団がいるのだ。下手に行動不能に追いやっても、それを回復する技能を持つ者がいるかもしれないからだ。
まずは開幕速攻。ヒロキは右手をかざしてマナの流れをイメージする。イメージは炎の矢だ。ただし、初級火魔法である”ファイア○○”ではなく、その上のランクである中級火魔法。この世界に来るにあたっての強化によって使えるようになった技。
「フレイムアロー」
三本の燃え盛る炎の矢が一直線に山賊の腕と頭、胴に向かって行く。ファイアアローは炎の火力も弱くて一本しかないが、フレイムアローは火力も上がって三本の矢を同時に放てるので初級と中級の差はかなりのものだ。かつての俺であれば使えなかったであろうが、今は魔法使いとしての力も上がっているので使えるようになっている。
「な、なんだ!」
大男は以外にも反応が良く、すぐさま騎士を放り出して回避する。もっとも、ヒロキの狙いはそこにある。
「な、なんだ!」
またしても、今度は多くの山賊たちが先ほどの大男と同じ反応をする。それも仕方がないだろう。投げ出された騎士やそのほかにも倒れていた兵士たちが、突然浮き上がって、王城の方へと向かって行ったのだ。
が、よくよく見るとその兵士たちからは金糸が伸びているのが分かる。この綺麗な金糸の持ち主はヒロキが世界よりも大切な存在ルナのものだ。ルナが髪の毛を伸ばして兵士たちを運んでいるのである。彼女も身体能力が上がっているようで、髪の毛一本で成人男性を軽々と持ち上げることができるようになったそうだ。ちなみに彼女の”軽々”は”重さを感じないレベル”だそうだ。
ここまでの作戦は、ヒロキが魔法で牽制して、ルナがその間にルナが倒れた人たちの救出、そして
「最後の締めだ。ブレイズウェイブ! んで、ハイヒーリングフィールド!」
ヒロキは前方の山賊に高さ三メートル、幅三十メートルの火炎の大波をお見舞いし、背後にいる兵士たちは、半径十メートルほど淡い光に包まれる。
これはどちらも上級魔法で、ブレイズウェイブは広範囲に牽制が効くし、それに強い人物でも牽制に使える便利な魔法だ。もちろん威力も先ほどのフレイムアローと比べるべくもない。ハイヒーリングフィールドは光系統の回復系魔法で広範囲に強い回復を与えるものだ。まあ、回復術師は引けり系統の回復系魔法の他に、れっきとした回復魔法があってそちらの方が強いらしいが、それでも強いことに変わりはない。
フレイムに多くの山賊たちが焼かれていき、背後では多くの兵士たちが回復していく光景は、もしヒロキが絶世の美女だったら女神さまと崇め奉られてもおかしくないくらいのものだった。まさに神の御業のようである。
が、そんな炎の波の中にも倒れずにいるものが幾人かいる。
一人は真っ赤な大男、彼が持っている大鉈での斬撃がどういうわけか爆発を起こして彼の周りに炎がかき消されてしまった。
他には藍色の人が結界魔法を使っており、他の人にも黄、緑、青、紫の四人ほど、一点突破型の魔法や技で身を守っていた。なかなかの使い手である。
なかなかのやつもいるものじゃないかとヒロキが思っていると、中央に陣取る、最初からそう思っていたがやはりリーダー格であろう大男が話しかけてきた。
「お前が俺たちの仲間をあっという間にやったやつだな?」
「まあな……それがどうかしたのか? こんな日も高いうちにかたき討ちなんて計画性がなさすぎるとは思わないか? 随分と阿呆だな?」
ヒロキはあえて相手をあおるような口調でしゃべる。これにより他の五人もヒロキに注目している。なかなかの殺気だが、あの怪物と相対して完膚なきまでにやられたヒロキにとってみればそよ風のようなものだ。
まあ、ヒロキは殺気など全く感じていないのだが。
ともあれ、リーダー格である大男が話しかける。
「はっ! これだから素人は。いいか? 俺たちは山賊であって盗賊じゃねえ! 夜に襲うなんてそんな下賤な行動はせずに睡眠後の一番好調な時期に相手を真正面からぶちのめすんだ! これこそ山賊としての矜持! これを曲げるつもりはねえ!」
「あっそ……興味ないからとっととかかってきなよ」
「はっ! いいねえそういうの! じゃあやろうじゃねえか死合をよう!」
「勝手にやってろ」
ヒロキがそういうと六人全員がヒロキに攻撃し始めた。
○△□
――数時間後
「いやあだいぶ君たちの技を見させてもらったよ。君たちの攻撃は爆発や水、風などなどいろいろなものを武器に付与する効果があるのか。しかも結構洗練されていて素晴らしいね。参考になるよ」
山賊たちが「くっそ」「どういうことなんだ」「なんなんだてめえは」などと悪態をつきながら、息を荒げる中ヒロキはうんうんと頷きながら、口調までかえて山賊たちの技に感服するような表情をしている。ただし、一切傷はなく、それどころか一歩も動いていないし、何よりあの炎の大波以降、ただの一度も攻撃していない。
リーダーである真っ赤な大男が息を切らしながらも、攻撃する。
「てめええええ!」
普通の人間が食らえば一撃死、強化されたヒロキが食らってもなかなかにダメージが期待できる一撃を、しかしヒロキは逃げることもなく、ただ立ったままでいる。
その大鉈の爆発の力を込められた一撃がヒロキにまさに当たったと思った瞬間に、しかしするりとすり抜けてしまい、地面にその爆発の力が向けられる。
ここまでヒロキはこのすり抜ける能力で攻撃の一切を受けていないのだった。
そんなヒロキの様子を山賊のリーダーはあらゆることがおかしいと感じていた。
まず、なぜ技がこれほどの長時間、全てすり抜けるのか理解できない。かつて襲ったものの中に水になったりする能力ですり抜ける力を持っている人間はいたが、これはそう言った次元ではない。まさしく永遠にすり抜けるような感じがある。
次に、なぜ攻撃してこないのかだ。弱ったあとに魔法で倒そうということであるならばすでにチャンスはいくらでもあったし、そもそも何人かは初撃がすり抜けてしまったときにあまりにも大きなすきをさらしていた。それを先ほど自分に向けて騎士を開放するために的確に攻撃してきた存在が見逃すはずがないのだ。
最後はこの状況だ。なぜか時が止まったかのように周りの状況が動いていないのだ。これは一体どういうことなのだろうか……
「教えてやろうか?」
ヒロキのまるですべてを見透かすかのような目にリーダーは後ずさる。その表情は最初の戦いが楽しいというものとは打って変わって目の前の存在に恐怖を浮かべている。
ヒロキは最高のいたずらが成功した少年のような笑顔で言った。
「だってこれ、幻術……夢の中の出来事だから。俺の左目は《映す瞳》っていう魔眼でね。あんたらは俺の目を見た瞬間に全て終わってたのさ。じゃあ、この一生抜けられない夢の中を楽しんでね?」
その言葉を聞いた山賊たちはそのあとあらゆる地獄を見せられて、ゆっくりとその精神を崩壊させていった。
ヒロキの左目は魔眼です……じゃあ、右は? と思ったかもしれませんがそこらへんはおいおい……(答えない畏友は断じて考えがないわけじゃないのです! 本当です!)
ついでに魔法もやりましたがこれは基本的なものでして、ここからさらに厨二チックな感じになっていきます。お楽しみに。
ルナの能力もそろそろ出したいかな。でもしばらくはヒロキ無双が続くと思います。