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第一章3 普通だが普通じゃない展開

 二人は手を放して突っ込んでいく。

 ヒロキが向かうのはオレンジ色のドレスを着た少女を引っ張り出そうとしている全身真っ赤な男だ。


「私を誰と心得ているのだ! はなせ!」

「へ、心得てるからこうしてるんだろうがよ。お姫様」

「ふうん。お姫様なのか」


 ヒロキは一瞬で真っ赤な男の背後に立つとそんな気の抜けた声を出す。


「な! なんでてめぇ! いつの間に」

「うん? まあ、通りすがり? とりあえずこっち向けや三下」

「ああ、が――ぎゃああああああああああああ!」


 ヒロキの安い挑発にあっさりと激高してヒロキの目を睨みつけた瞬間に、男が発狂し始める。

 しばらくするとそのまま意識を失ってしまった。「やめてくれ母ちゃん!」が最後の言葉だった。


「な、なにが……」


 山賊の突然の行動にオレンジ色の髪と瞳のオレンジ色のドレスを着た少女が呆然としている。

 そんな少女にヒロキは実に何でもないように答えた。


「何がって、簡単に言えば山賊に襲われてた君を助けたってことでしょ」

「助け……山賊……そうだ、まだ山賊がいるぞ気を付けろ!」

「ん? ああ、それなら大丈夫だよ。――終わったか?」


 状況を把握した少女がヒロキに忠告をしてくるが、ヒロキはこれまた焦った様子もなく残りの山賊がいる方を見た。

 そこには倒れてしまった残りの五人がいた。もちろん倒したのは超絶美少女メイドであるルナだ。


 ルナは全員が気絶しているのを確認してヒロキのもとに来る。


「殺してないよな?」

「ん。ヒロキの要求通り」

「そうか。さすがはルナだ」

「ん」


 ヒロキがルナの頭を優しくなでて、同時にいつものように左手をルナの右手と絡める。ルナはうれしそうに頬をゆるめる。


 実は、ヒロキたちが最後に互いの手を強く握ったときに「殺さずに行こう」「ん。こっちは五人をやる」「殺るなよ」「ん。やってくる」という意思疎通をしてたのだ。もはや手からのぬくもりだけで会話してしまっている二人。伊達に冒険中ずっと手を握っていない。


 二人が自然とラブラブしているとそこに咳ばらいをして割り込んでくる人物が一人。


「そろそろいいか?」

「ああ、そういえばいたな」

「助けてくれたのに忘れてしまったのか!?」


 途中で置いてけぼりにされたどころか完全に忘れられていた事実に思わず全力でツッコミを入れてくる少女。意外とツッコミ上手なのかもしれない。というか普通なら主人公がお姫様を助けて惚れられる的なはずなのに、そのお姫様を放っておいてイチャイチャするという謎の展開。普通じゃない。


「ま、まあともかく。礼を言おう二人とも」

「そういえば君はお姫様って言われてたけどいったい……」

「ああ、名のっていなかったな。私はアランチョーネ=ナランハ=オーリンジだ。オーリンジ王国の第一王女だ。まあアランでいい」

「おう。全部橙色」

「? 何か言ったか?」

「いえ、何でもありません」


 彼女の名前が全て橙色という意味だったので驚いて思わず声に出してしまったが、それについて言う必要は感じなかったのでヒロキは首を振った。

 その様子をじっとアランは観察するが、すぐに薄い笑みをつくると、


「そうか……して、そなたらは?」

「俺はヒロキ・イチノセ。こっちもヒロキでいい。――んで、こっちがルナ。俺の彼女だ」

「ん」


 アランが一瞬ぴくっと反応し、ルナが胸を張る。ヒロキはルナの反応にちょっとドキッとしてしまった。それを感じ取ったルナは上目づかいでヒロキを見てくるので思わずキスしたくなってくる。

 そのまま二人の顔が近づいていき……


「ん゛ん゛! そろそろいいか?」

「ああ、そういえばいたな」

「さすがに今回はわざとだろう!?」


 先程と同じような展開にアランは少し涙目になっている。ちなみにヒロキのこれは最初からわざとだ。ルナとの二人の空間を邪魔されて、ちょっと不機嫌になったのを発散していたのだがヒロキもさすがにいじり過ぎたかと思い素直に悪かったと謝った。


「ふ、ふん、まあいい。私の命の恩人であることに変わりはないからな。城に帰って恩返しがしたい」

「あ、そう。でもどうするんだ? ここにいる騎士たちは全員やられちまってるが」

「……そうだな……とりあえず一番近い町まで赴いて連絡を入れるとしようか。む、今は昼過ぎだから……急いだほうがいいな。行くぞ二人とも」


 そういうとアランはとっとと歩き始める。


「意外と肝据わってんな」

「ん。なかなかに強い人」


 二人はアランの威風堂々とした様子に称賛を送りながら、後についていった。


 ○△□


 ヒロキたちはアランの案内でとある町に到着していた。


 アランは到着した後、すぐに王都オーリンジに連絡を入れたところ、すでに夕暮れ時だが迎えが来るのだそうだ。六人の山賊たちはすでに警備隊に引き渡してある。

 もちろんアランはヒロキたちのことも連絡を入れてくれたので、そのままアランが住む王城への案内を手に入れたのだった。


 そして、現在ヒロキたちはその迎えを待つ間に食事をとっていた。

 ホテル兼レストランをやっている建物の中で、この地元の特産品を使った料理オレンジカレーをほおばりながら、ヒロキはアランに尋ねる。


「なあ、あのどでかい塔に行くにはどうしたらいいんだ?」


 アランはオレンジ色のアップルパイを食べながら答える。


「ふむ。伝承によれば王都からつながる守護龍の巣穴での試練を乗り越えれば、神へと至るかの塔に上る資格を得るそうだが……そんなことを聞いてどうするんだ? というかそもそもこれは常識だぞ。知らなかったのか? 意外と世間知らずだな」

「はは、確かに俺は世間知らずだ。この世界の常識を全く知らないからな」

「自分で言うのか?」

「ああ」


 アランがクスクスと笑う。ヒロキも今日この世界に来ただけなので苦笑いだ。


「それで。あの赤、青、緑、黄、藍、紫は何なんだ?」


 ヒロキの質問にアランが表情を険しくする。


「本当に何も知らないのだな」

「ん? もしかして他国の人間とかか? 仲が悪いみたいな?」

「ああ、本来であれば先ほど言った六つの色の者たちは仲が悪いのだがな……まあ、私たちからすればすべて敵であることに変わりはないが」

「……やっぱりそうか」

「? 何か言ったか?」

「いや、何でもない……ルナの食べてるのおいしそうだな」


 無意識的に出てしまった小声でのつぶやきにアランが反応したので、ヒロキは軽く首を振って話題をそらす。ルナはすべてがオレンジ色のナポリタンを食べていた。

 ルナはヒロキが会話という名の情報収集をしている間は黙っていたが、話題を振られたことにうれしそうな表情をして、ナポリタンをフォークでクルクルと食べやすい一口サイズに撒いて、ヒロキに向けると、


「あ~ん」


 ごく自然に”あ~ん”をしてきた。もちろん博希もごく自然にそれを”あ~ん”する。本当に付き合い始めて五日程度のカップルなのだろうか。と疑わしくなるくらいの自然さだ。


 それからしばらくの間、アランを放ってデザートなども”あ~ん”しながらラブラブして、そろそろ目の前で見せつけられているお姫様が涙目になりそうになってきたあたりで迎えが来たとの連絡が入った。


 部屋を出ると、二頭のオレンジ色の恐竜の様な生き物が引く、大きめのこれまたオレンジ色のまるでかぼちゃの馬車のようなものが建物の外にあった。竜が引いているので馬車とは呼ばないかもしれないが

 その馬車から、オレンジ色の燕尾服(それは燕尾服というのかわからないが)を着た老紳士が下りてくると、まずアランに一礼をした後にヒロキたちに向き直り礼をしてきた。


「私、王都からの迎えにございます。ランジとお呼びください」

「ああ、ヒロキだ。んで、こっちはルナ。それと、アラン姫と相席でいいのか?」


 ヒロキはすでに馬車に乗っているアランが手招きをしているのを見ながら尋ねる。ランジはもう一度一礼すると答えてきた。


「はい、姫様がそうおっしゃっておりますので」

「そうか。なら遠慮なくそうさせてもらおう」


 そう言ってヒロキとルナは六人ほど入れる広い馬車の席に、アランと対面になるように座った。もちろんルナはいつものように左隣。なぜかアランが不機嫌だがそれは無視した。

 アランはしばらくジト目をヒロキに向けていたが、完全に無視されているとわかりため息をつく。


「ランジ出発しろ」

「かしこまりました」


 ランジが答えて竜が走り始める。最初は遅かったがだんだんと早くなり、時速五十キロは出ているのではないかというスピードになった。


「結構速いな。どれくらいでつくんだ?」

「約一時間ほどでございます」


 ヒロキの質問にランジがすんなりと答える。



「見ろヒロキ。あそこは素晴らしい景観の花畑なのだ。夜でもう見えないが朝は特にきれいなのだぞ」

「ふうん、なあ加速の時に全く体に負担がかからなかったのってなんでだ?」

「それはこのランドラゴンの特徴にございます」

「ほう、慣性を無効化でもしてるのかな……」

「おいこら! 感想がふうんだけか! 何か言ったらどうなのだ!」

「ヒロキ。あっちにオレンジ色のふわふわと光ったのがいたんだけど」

「そうなのか? あ、いた……蛍とかなのか?」

「ほたる?」

「ああ、簡単に言うとお尻が光る虫だな」

「ああ、それなら『きれいなんだよ』『へえ』おいこら、人の話を聞け! ……というか、なぜこのスp-度で移動しているのにそんなものが認識できているんだ? なあ、お前たちはいったい何者なのだ?」


 と、途中でこんな感じの会話をするなどしながら馬車は王都まで向かっていった。


 ○△□


 王都についたあと、ヒロキたちは国王に謁見し、もろもろの会話を終えて客室に来ていた。


 客室はヒロキとルナの二人分用意されていたのだが、ルナが断固としてヒロキと違う部屋であることを拒否したため、ちょっとしたひと悶着があり少し時間がかかったが、やっと落ち着いて部屋で休むことができたということだ。


 ヒロキは部屋に入るなり手前のベッドにダイブして、ここまでの長旅で絶対言わないでおこうと思っていたことを口にした。


「ふう~。疲れた~」


 ヒロキが疲れたというのも無理はない。なぜならあの五日前のヒロキ死んだふり事件(未だあっちは死んだと思ってる)からずっと、まともに睡眠もとらずに迷宮を攻略していたのだ(ヒロキはただ歩いていたともいうが)、こうやって本格的に休める場所に来れば文句の一つも言いたくなるだろう。


 布団の上で体を弛緩させているヒロキところに、ルナが同じベッドの上に座って、ヒロキの頭をルナの太ももの上に置く、いわゆるひざまくらだ。ルナのメイド服は露出の少ないクラシックタイプなので、スカートの部分に頭がのっかてはいるが、それでも女性の特有の柔らかな感触がヒロキの後頭部に広がっており、思わず頬の筋肉まで弛緩してしまう。


 ルナはさらに優しく頭をなで始めるので、ヒロキはもうこのまま夢の世界に旅立ってしまいたかったが、薄く目を開けてルナを見ると、


「ルナもここまでお疲れ……風呂あるらしいから先に入ってきていいぞ。湯も貼ってあるって言ってたし、疲れが取れるだろ?」


 ルナに労いの言葉をかけた。ヒロキ自身ルナのほうがよっぽど頑張っているのを知っていたので、早く休んでほしいと思ったのだ。まあ、ヒロキ個人の、風呂上がりのルナが見たい、という願望も多分に含まれているというかむしろそれが本心ではないのかというくらいなのだが、労いの言葉ったら労いの言葉なのだ。


 ヒロキのそんな願望99パーセントの労いの言葉を受けたルナは、しかし首を振る。


「私はやりたいことがあるから先に入って」

「そうなのか? まあ、そういうなら先にいただくとするか」


 ヒロキとしては家でも疲れが取れることや趣味の本を読んだりとまったりできる空間で風呂は大好きであったし、もうすぐにでも入らないと眠ってしまいそうだったのでありがたくそのまま部屋付きの風呂に着替え(ルナが作った寝間着)をもって向かって行った。ルナはいったいどこから荷物を出しているのだろうか?


「ああ~きもちいい~」


 ヒロキが入っている風呂は何から何まで、それこそお湯までオレンジ色だった。風呂に入る前に体と頭を洗ったあとから微かに柑橘系の香りが体を覆って、爽快な気分でもある。お湯は若干滑りけがあって、肌に吸い付くような感覚があり非常に気持ちよかった。


 あらゆる汚れが溶けて消えていくような感覚にヒロキは先ほどルナにひざまくらされていた時と同じような感じで体を弛緩しきっていると、突然声がかけられた。


「隣いいですか?」

「どうぞ~」

「ふぅ……きもちいい」

「ですね~…………って何やってるんだルナ!」


 ヒロキは本当に頭まで蕩けていたのだろう。ここに来てやっとありえないはずの来訪者の存在に意識が向けられた。もちろんルナである。

 ヒロキからしてみれば突然現れたルナに対して全力でツッコミを入れたのだが、本人はコテンと首を傾げると、


「ヒロキと混浴したかったから」


 などと可愛く、それはもう可愛く言われてしまった。ヒロキは一撃でやられてしまった。


 今の一撃でもう全部受け入れようと開き直ったヒロキがこのあとどうなったかは……とにもかくにもルナは夜でも可愛かったと言っておこう。かなり積極的だったとも言っておこう。



 


 


 




 


 





 












 


ルナはかの金色の方と違ってそういうことに積極的な設定にしてあります。

またヒロキの能力の一つが次回明らかになります。作者の趣味全開(厨二)の主人公になってしまいますが、どうかお楽しみください。見切り発車もいいとこなので能力が行ったり来たりすることもあるのでそこも温かい目で見守ってください。

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