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第一章2 またしても召喚!?

「お願いですから話聞いてください~」


 服を引っ張って泣きついてくる自称女神とやらがうざいので、ヒロキは仕方なく振り返った。


「……いったい何の用だ?」


 するとオレンジ色の髪をした女神が睨んできた


「最初からそう言い『話さないなら帰る』待って! 話す! 話すから!」


 ヒロキが後ろを向こうとしたところで慌てて自称女神が止める。


「で、自称女神さん。何か用ですか?」

「な!? 自称じゃないもん! 本物の女神だもん! 感じないのこの神々しさを!」

「ルナのほうが何万倍も、いや、比べるのもおこがましい程神々しい」

「ひどい補正が『ヒロキ……』『ルナ……』いや待て! 勝手にイチャイチャし始めるな!」

「「ア゛?」」

「ひぃ! ごめんなさい」


 ヒロキとルナが勝手に二人だけの空間を作り出してしまい必死に止めようとした女神が、邪魔冴えたことで怒った二人に睨まれて縮こまる。ここまでの会話で女神の威厳の無さが浮き彫りになってしまっている。


 そんな残念過ぎる女神をヒロキは半眼で見て、


「で、何をしてほしいのさ? さっさと説明してくれ」

「ううう……ヒロキさんの対応の仕方がルナちゃんと全然違うよ~」

「いいから話せ……それとヒロキをヒロキと呼ぶな」

「ひぃ! ルナちゃんまで――」

「ルナをちゃん付で呼ぶんじゃねえよ残念女神。てめえはルナのことをルナ様と呼びやがれ」

「ううう……もういやだこれ~『じゃあ、かえ――』すいませんでした話しますから~!」


 さすがにイジメすぎてしまったのかしくしくと泣きながら女神が説明を始めた。


 この世界には八人の神様がいるそうで、一人が最高位の創造神、他七人が下位の女神として君臨しているそうだ。

 何より面白いのは、この世界はまだ出来たてほやほやなそうなのだ。と言ってもすでに五百年ほどたってはいるのだが、創造神が大地を生み出し、女神たちがその大地をもとに多くの命を生み出していったらしい。


 それだけ聞けばただ神々が世界を創造しました、で終わりなはずなのだが何やらいろいろと問題が起きてしまっているらしい。


 というのも、その世界創造において、女神たちが好き勝手に自分たちで生物を作り出してしまったがために、たったの五百年の間に十回も戦争を起こすようなトンデモ世界ができてしまったそうなのだ。


 そんなひどい世界ができてしまったために、創造神は女神へ罰として試練を与えた。


「その試練ってのは何なんだ?」

「こんな感じ……っていうか今もやってるの、はぁ……」


 先程の泣きつく姿勢から立ち上がっている女神が手を前に出すと、そこに球体が現れた。


 そこにはオレンジ色の鎧を着た一団が、赤や青に緑など計六色の軍隊を蹴散らしている映像が映し出されていた。しかし、その六色の軍隊は途絶えることを知らないのかまるで無限に襲ってきている。


「……これが試練?」

「そうだよルナちゃひぃ! ルナ様、この軍隊をすべて押し返せばいいの、もうかれこれ六百年以上やってるんだけど」

「おい、それってこの世界の歴史よりも長いじゃねえか」

「ああ、そっちはよく分からないのだけど、数か月おきにループして元に戻っているから。大丈夫」

「つまり、創造神の試練はこの軍隊を押し返すこと。それまでは歴史が前に進まないってことか?」

「そうなの」


 女神がガックリと肩を落とす。が、すぐに真剣な表情に戻ると、


「だからあなた『『断る!?』』まだ言い切ってないのに二人同時に強い否定だと!?」


 あっさりと拒否されたことで女神の口調が変わってしまった。そして、なんで? という表情でヒロキたちを睨みつける。ただ涙目なので全く怖くない。本当に女神なのか疑わしくなってくるところだ。


 ヒロキはその全く怖くない視線を受けてため息一つ。


「だった、六百年もの間試練が終わってないんだろ? 今更俺たちが行ったところで何も起きないだろうが」

「で、でも、あなた方には特別な力を授けますから!」

「私にもヒロキにも必要ない、時間の無駄。行こうヒロキ」


 ルナがあっさりと切って捨てると、ヒロキと一緒にとりあえずここを離れようとする。


 しかし、握っていた手から抵抗が来た。


「ヒロキ?」

「なあ、その特別な力ってのはいったいどんなもんなんだ?」

「え? あ、はい。とりあえず能力は数十倍くらいに出来るよ。あとはもう一つオプションがつくと思うから」

「のった」

「「え?」」


 チート能力の説明を聞いた瞬間に先ほどまで乗り気でなかったヒロキが肯定したため女神とルナが驚く。


 すぐにつないでいる手がぎゅっと握られてくる。ルナが説明を要求しているのだ。

 それを即座に感じ取ったヒロキはルナに笑顔を見せると、


「だって俺たちはまず間違いなくあいつに負けたんだぜ?」


 と、真剣さを宿した目で言ってきた。その目からルナもヒロキが言っていることを敏感に感じ取る。


 自分たちはあの百八の首を持つ存在に負けた。今帰っても、また殺されるかもしれない。


 ――だから強くなりたいんだ。


 その感情を理解したルナはうなずいてもう一度ヒロキの隣に立って女神を見る。


「ただし条件がある。試練を無事に突破したら、必ず俺たちを【トライデント】に返してくれ」

「それについては保証する。これは創造神様からの勇者召喚の言伝だから、きっと創造神様が何とかしてくれる。あの方は何でもできるから」

「そうか」


 ヒロキは真剣な表情でうなずく。


「まずは試練の内容を説明するわ。私たちのまだ名もない世界で、ループする期限である一週間の間に、オレンジ色の指輪を手に入れて、世界の中央にあるまだ名もない塔の上にいる私の元まで訪れ、先ほど見せた光景を打破すること」

「……なぜ、すぐにあの場所に転送されないんだ?」

「それが創造神様からの言伝だから」

「……了解した」


 ヒロキは不敵な笑みをしながら頷く。しかし握っている手から、ルナが少し不安を抱えているとわかる。


 まあ、それはそうだろう。何せ六百年も続いている試練なのだ。それを簡単に突破できるとは思えない。強くなるためとはいえかなり危ない賭けだ。


 しかし、ヒロキにはあの試練の映像と、先ほどの説明からなんとなくこの試練の超え方についてのビジョンが見えていた。


 だから、ヒロキは何も心配いらないという気持ちを強く手を握ることで伝えた。それを感じたルナもキュッと手を強く握ることで返してくれる。


「それで、俺たちの能力向上についてはどうなるのさ」

「そうだ、まずなそこから始めないと、では――」

「待って」


 女神さまが虚空からオレンジ色の杖を出してヒロキたちに振ろう足したところで、ルナが止めてきた。

 今度は女神とヒロキがキョトンとした表情でルナを見ると、


「私は能力向上よりも、吸血鬼としての力を取り戻したい、変身の力を失わずに。出来る?」

「ルナ? それはいったい?」


 突然の質問にヒロキは不思議そうな顔でルナを見たが、頬を染めると、


「ヒミツ……もしできるならその時になったら教える」

「そうか、ならいい」

「え、いいの!?」


 ルナの要求をあっさり呑んだヒロキに女神がツッコミを入れるが、


「それよりも、出来る?」

「え、あ、うん。出来るよ、橙の女神である私は力を増幅するのに長けた女神だから。あなたの中に……すごいわねものすごいたくさんの種族の力を持ってる……」

「それはでもいい。出来るの?」

「え、ああそうね吸血鬼としての性質を高めればいいのよね?」

「ん。ただし、変身の力は残したい」


 ルナが強い意志を込めて睨んでくる。


「それは、大丈夫。力を高めることにリスクがあったらそれは女神失格でしょ? それ以外のところには影響はないから。というか全能力を向上させるから、そういうのも向上するから……もしかして他の種族の力よりも吸血鬼の力をうんと向上させた方がいい?」

「そう」

「分かったわ。じゃあ、ヒロひぃ! 一ノ瀬君は?」

「いや、そのまま全能力の向上でいい」

「了解。じゃあ行くわよ!」


 女神がヒロキにも確認を取る。若干呼び捨てしそうになったところをルナからの殺気でおびえていたが、気を取り直して杖を今度こそ振る。オレンジ色の光がヒロキとルナを包み込み、ヒロキは自分の力が向上するのを感じ取った。力があふれてくる感じだ。


「どう?」


 ヒロキは腕を開いたり閉じたりしてみる。


「大丈夫だ。かなり力がみなぎっているのを感じる。何より魔法の力に関してはかなり向上してるのを感じるから、問題ない」

「そう、よかったルナ様は?」

「ん。問題ない」


 女神はほっとしているようだ。不安だったのだろうか。というかヒロキが冗談で言った”ルナ様”予備が定着してしまっている。いいのか女神よ。


「それで、オプションのほうはどうなんだ?」

「あ、そうだったわね。ちょっと待ってね」

「何を――うっ!」


 女神がもう一度杖を振ると、何やら頭の中をいじくりまわされているような不快感が襲った。


 それの不快感が治まって一体どういうことかと女神を見ると、


「ぐすっうう。二人とも、つらかったんだねぇぐすっ」


 何やら号泣していた。その様子を見たヒロキはなんとなく女神がやったことを察した。


「俺たちの記憶を探ったのか?」

「ぐすっうんぐすっ二人の不幸レベルをぐすっ測るためにねぐすっ」

「不幸レベル?」

「うんぐすっそれが高い程ぐすっ大きな力をぐすっ得られるの」

「へえ」


 つまり、同情したから力やる、ということだ。ちょっと違うがどこかで聞いたようなフレーズである。


「で、どうだったんだ? それと、その同情の顔をやめろ、話が進まない」

「うぐっ……そうね、私がこんなことやっても意味ないし。それと二人の不幸レベルは最大……どころかカンストしてるわね。特にルナ様は尋常じゃないわ」

「そうか」

「それで、二人レベル最大だからこの中から好きなものを選んでいいようになったわ。それも二つも」

 

 そういうと、今度は頭の中にオプションの情報が出てきた。


 具体的には、あらゆる聖剣を扱うことができる聖剣マスターやとんでもない力を手に入れられる魔王化などなどいろいろとあった。


 ヒロキが二つ、自分に合っていそうなものを選ぶと、ルナが何やら女神と小声で話していた。能力に関する質問だろうか? などと思っていると、ルナが若干頬を染めながら戻ってきた。


「決まったのか?」

「ん」

「そうか」

「ん」


 今回の「ん」は「内容は教えないよ」という意思が込められていたので、ヒロキは何も聞かなかった。同時にヒロキの「そうか」にも「じゃあこっちも秘密で」という意思をルナが感じ取ってうなずく。


「あなたたち、なんでそれで会話が成立しているのか不思議だわ。まともの会話し始めて四日くらいしかたってないわよね」


 記憶を探った女神が不思議そうに尋ねるものの、


「? そんなのわかるからだろ?」

「そう。わかるものはわかる」

「ああ、そう。もういいわ」


 キョトンと、逆に、なぜ分からないなんて思うの? というかのように答えられてうなだれる女神。

 二人の信頼関係はどうやら神様でも計り知れないらしい。


「それでは二人とも、私のためによろしく頼むわよ」


 気を取り直した女神がもう一度杖を振ると、ヒロキたちの足元に大きな魔方陣が広がり、光が全てを包み込んだ。


 ○△□


 気がつくとヒロキたちは森の中にいた。森の中を通っている道と言ったところだろうか。


 不思議な森だ。なにせあらゆるものがオレンジ色で出来ているのだ。オレンジ色の草や木、道も淡いオレンジ色だ。目がチカチカする。


 手をつないだままの二人は周りの状況確認を終えると、ルナがコテンと首を傾げてきた、どうする? と聞いてきている。

 ヒロキは顎に手を当てて考えると、


「とりあえず情報収集しないとな。そのためにはまず人の会わないと」

「ん」


 二人で現在立っている道を歩き始める。


 歩きながら周りを見ていると本当にあらゆるものがオレンジ色で、目がチカチカしたが興味深くて面白かった。まるで不思議の国を二人でデートしているかのような感じである。


 二人でにこにことしながらいつものように手をつないで道なりに進んでいくと、


「キャアッ!」

「「!」」


 悲鳴が聞こえてきたのでヒロキとルナは一瞬互いを見たあと頷いて二人同時に駆け出した。


「うおっ!」


 ヒロキが驚く。それは無理もないかもしれなかった。なにせ、ヒロキは軽く蹴りだしたはずなのに、前の数倍速いスピードで走れるのだから。ルナもどうやら体の感覚が違うようで、少し驚いたのが手から伝わってきた。どうやら二人とも本当に力が向上しているようだ。


 二人が自身の能力の向上に驚きながら走っていると、一人のオレンジ色のドレスを着た少女が、赤い髪に赤いバンダナをした赤い服を着たなかなかにハイセンスな山賊みたいな風貌の男のオレンジ色の篭の中から引っ張り出されていた。他にも緑、青、黄、藍、紫の似たような恰好をした山賊がいて、山賊たちの足元にはオレンジ色の鎧を着た、騎士のような風貌をした男が倒れていた。目がチカチカすることこの上ない。


 すると、山賊たちががしゃべり始めた。


「へへへっ今日はいい日だ。姫様がいるなんてなぁ」

「だな!な!な!」

「ふふふ我らが六芒星に捕まることに感謝するのだな」

「やめろ。俺たちはそんな名前じゃないぞ」

「ははは、おもしれえな」


 何やら聞いたことのあるような会話な気がしたが、まず間違いなく山賊だと判断したヒロキとルナは一瞬強く手を握ったあと、その手を放して動き始めた。


 この不可思議な世界での怒涛の日々が始まった。







 





 









 










 


 今回二人がパワーアップしました。不幸を力に変える。ありがちですがヒロキとしてはありがたいですね。

 次回以降二人がどのように強くなったのかお楽しみです。



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