閑話 ルナの心
かなり短いですが、プロローグ4と合わせてお楽しみいただきたい感じなのでご了承ください。
現在ルナと博希は迷宮内にて旅立ちの準備をしている。
ルナは博希を見ながら昨日の夢のような一日を思い出していた。
ルナは思う自分は博希と出会うまで絶望していた。
【トライデント】という世界で、吸血鬼という種族を襲った魔人族の生体兵器作成実験。
簡単に言えばキメラをつくる実験で、再生能力のあった吸血鬼が選ばれた。
多くの同胞たちが肉体に魔物やら人間やら亜人やらを植え付けられ肉体の崩壊を招いて、再生し切れないまま死んでいった。
自分だけ辛うじて生き残り、その時に得た変身の能力で何とか捕まっていない同胞たちの元へ命からがら逃げきったときに言われた言葉は「来るなバケモノ」だった。
確かに自分はその時魔獣に変身して逃げ切って、そのあと元の姿に戻ったのだから、まさしくバケモノだったのだろから、当然のことだったのかもしれない。
しかしそれでもその言葉が心を壊すのには十分だった。
その後魔王に拾われて、魔人族の尖兵として長年の任務をこなしていた時も、他人からはバケモノだとか汚らわしいなどと言われ続け、自分の心を閉ざしていって。自身が死のうと決意したことだってあった。
そんなもう心が限界だったとき、人間族の国の王城にある禁書の回収と不穏な動きがあればそれを連絡して阻止することの二つの任務を与えられ、その任務を遂行しているときに出会ったのが異世界から召喚されたという勇者一団の一ノ瀬博希という一人の少年だ。
初めてその少年を書斎で見たとき、この時間は本来訓練であるはずなのに何故ここにいるのだろうと疑問に思った。無論、事務的な問題でだ。
この時間は禁書の捜索に当てていたので、それが書く冴えている可能性が一番高い王城の書斎に人がいることは避けたかったのだ。
ゆえに数日の間、彼に毎日のように「なぜここにいるのか」と聞いたのだが、返す言葉は「自主訓練ですから魔法の本でも読もうと思いまして」と全く同じ答えが返って来ていた。
そしてある日いつものようになぜここにいるのかと質問すると、博希は「あそこには居場所がないから」という言葉を紡いだ。
この時の心の荒れ様は尋常じゃなかった。「同じだ」と思ったのだ。
そしていつの間にか、閉ざされた心はほんの少し動き出し、掃除として博希のいる書斎に行くことが楽しくなっていった。
そしてそれからまた幾日も過ぎ、博希が来てから一か月が経とう時のことだ。
普段はあまりじろじろと見ないようにしていたのだが、博希が迷宮へ行くという前日は何故か無意識のうちに見つめてしまい、それを博希に気づかれてしまった。
「俺に何か用があるんですか?」
「いえ、別に――」
「どうして真面目に訓練しないんだ、ですか?」
「……」
彼は自嘲気味になぜ訓練しないのかについて語ってきたのだが、自身は全くそんなことを思っていなかったため、即座に否定した。
しかしそこで予想外の言葉が飛び出す。
「でも、はっきり言っておきますけど。なんで俺がそんなことしなきゃいけないんです?」
「え?」
その言葉に思わず間抜けな声を出してしまったところ、博希が皮肉な笑みをしてきた。
「あんたらが俺にやらせようとしているのは人殺しだろ? それも自分が死ぬ可能性がある人殺しだ。俺の住んでいた世界は、少なくとも俺の国は戦争を放棄した国だった。そんな国にいるやつらが自分の命を懸けて戦えるとは思えない。まして、俺からしてみればあんたらの戦争なんて所詮は他人の争いだ。本気になる理由がない。というか本気になんてなれやしない」
その言葉を聞いたとき、確かにと思った。
しかし、ここで疑問が涌いた。なぜなら博希が真剣に読んでいた本をチェックしたとき、それらすべては本当に魔法に関するものや魔物に関する情報など、戦闘で必要な情報のものばかりだったからだ。
そう思って博希にそのことを聞くと、彼は自衛のためと言い放ち、その自衛手段を得る理由を旅に出たいからと言ったからだ。
この時の気持ちはただただ博希に行ってほしくないというものだった。だから正直に言えばルナ自身自分が何を言ったのか覚えていない。
そして本当に頭がおかしくなってしまっていたのか自分の正体を明かしてしまった、辛うじて名前は名乗らなかったが内心では非常に焦っていた、おかげで殺気はダダ漏れ、博希を怯えさせるという展開になってしまう。
そのことに気がついて殺気を抑えると、今度は博希が笑いだしてしまった。
その後、何が起こったのかわからない状況の中で言葉攻めにあい、あまつさえ自身の任務の一部を看破されてしまったときはもうどうしようかと本当に焦ってしまった。
博希は特にそのことに気がついた様子もなく、自分のことが知りたいと言ってきた。
この時の自分の態度を覚えていないが、それでもうれしかったのを覚えている。
自分のことを知りたいと思ってくれた。それは今まででたった一度だけあったが、それでも似た者同士のような人物から聞かれたのはとても喜ばしかった。
しかし、同時に恐怖も感じてしまっていた。
また拒絶されるのではないかという恐怖、バケモノと汚らしいと言われるかもしれない恐怖。
それでも話した。理由は分からないが、それでももしかしたら受け入れてくれるのかもしれないと希望を持っていたのだろうと思う。
そしてすべてを話し終わった後の博希の言葉は自分を肯定してくれるものだった。
博希は言った。
「俺は君のことを否定したりしないよ」
「君が過去にどんな風に言われていたのか知らないけど。俺だけは君を肯定し続ける」
博希が自分を抱きしめてくれて、そのぬくもりに安堵した。
そして震えながらにその優しい少年に聞いた。
「私は生きてていいの?」
博希は優しく微笑んで答えてくれた。
「ああ。むしろこんなかわいいメイドさんが生きてちゃいけないなんて、そんな世界のほうがふざけてる」
その言葉を聞いて、うれしさと恥ずかしさで今までずっとこらえてきた涙を溢れさせた。
泣き止んだあと、博希から”ルナ”という大切な名前をもらいずっと一緒にいることを自分は誓った。
しかもその後にあっさりと自分が見つけれれなかった禁書のありかを教えられたり、その後の一緒の旅をするための計画を聞いたりと本当に楽しい時間だった。
その時の博希の言葉と表情は今でも脳内メモリーに保存されていて、いつでも思い出シアターで上映できるようになっている。
自分の閉じかけていて、博希の存在によって辛うじてまだ隙間が空いていた自分の心を開け放って、独占してくれた目の前の博希を見て一緒に行くことへのワクワクが全身を包んでいる。
まあ、一つだけ気がかりなのは、自分のことを必要としてくれていた魔王のことを裏切ってしまったことだろうか。
そんなおり、博希の笑い声が聞こえて首を傾げると、博希は何でもないと言ってさらにこう聞いてきた。
「どこまでもついてきてくれるか?」
これに対する答えはもう決まっている。
「ん。どこまでも一緒に」
この言葉を言うことに後悔はない。絶対にしないという確信がある。
いつか旅の途中で魔王で合ある彼女に会い、誤りたいなと思いながら、笑顔で博希の隣を歩き始めた。
次回から本格的に旅がスタートします。
? でも自分の頭の中にあるこれは旅と言っていいのだろうか?
まあ、いきなり予想外の展開をお届けできると思うので、何やってんだ! と思うかもしれませんが優しい心で見てください。
今週中には出したいと思います。