プロローグ4 メイドさんとの会話と冒険の始まり
ふー。やっとここまで来ました
博希が死んだことを知っていのりが気を失ったのと同時刻。
実際は生きている博希君はどうしているかというと。
「えと……何してるの?」
「……お姫様だっこ」
件のメイドさんに迷宮内にて半裸でお姫様抱っこされていた。
○△□
時は少しさかのぼる。
博希は書斎で魔王の尖兵という金髪に紫紺の瞳の少女と会話を試みていた。
「さて、話をしようぜ」
そう言って博希は着席を促した。
しかし、少女はじっとこちらを立ったまま睨みつけ。
「私が欲しているものな――」
「実はこの本がその一つなんだけど」
博希が自身がもっていた面白い本を掲げると、少女が押し黙る。
博希はそれを見てにやにやと口だけで笑って、
「一応言っておくと、イジメられた時から俺は人の表情とか呼吸リズムとかからなんとなくその人の感情が分かるようになってるんだわ。今のお前は緊張してるぞ?」
「……」
「ほらまた、緊張感高まったな。まあ、気楽に話をしようぜ?」
博希は今度こそ普通の笑顔に戻る。
少女は一度息を吐いたあと、席に座った。
「死にたいと思っていたんじゃないのですか?」
先に言葉を紡いだのは以外にも少女だ。
そのことに一瞬キョトンとなった博希はすぐに笑顔に戻る。
「ん~。殺されるにしても、ぜひとも君のことが知りたいかなぁと思ってね」
「私のこと?」
「そ! 例えば君のさっきの変身能力は何なの? とか、確か魔族は褐色系の肌のはずなのになんで君は真っ白な肌をしているのかな? とかね」
少女はなぜそんなことを? という表情をする。それを博希も感じてさらにしゃべる。
「そりゃだって。初めて君、ああ変装した状態のだけど……君を見たときからなんとなく俺と似てるなあって思う部分があったから。何か隠して言うような雰囲気もあったし。っていうか俺は君と会話したいんだからちゃんと話してくれよ。話し終わったら俺を殺すんだろうし少しくらいは要望聞いてもらってもかまわないでしょ。ほら、この本以外のありかも俺は知ってるから話してくれれたら教えるよ」
博希はさらっととんでもないことを言う。つまり、「最初から君のことをなんとなく意識してて、それに何かしてることも気がついてたんだからね」ということだ。
少女はじっと見たあと、もう一度息を吐いて、
「分かりました。少し長くなりますよ」
「そうか。ありがとう」
これから殺される相手に感謝を述べる博希のことを無言でしばらく見つめると、少女は話し始めた。
それも、博希が予想だにしない残酷な話を。
「私の能力と、私の肌についてはすべて関係があります。もともと私は吸血鬼と呼ばれる種族でした」
「……吸血鬼……それで?」
博希は”もともと”や”でした”という言葉に引っかかりを覚えたが、先を促した。
「はい。吸血鬼は再生能力が高い種族として有名でした。そんな折、魔人族のある研究者がその再生能力に目を付けて、ある実験を開始したのです」
「実験?」
「はい、言ってみれば生体兵器作成実験ですね」
その言葉を聞いて、少女が殺気を殺してから初めて博希の表情に緊張がはしる。
その実験は言ってみればキメラ、あらゆる生物を混ぜ合わせた存在を創造する実験だったらしい。
この世界にいるあらゆる魔物や人間族、獣人族、亜人などなどの血肉を吸血鬼に植えつける実験。
この実験の被検体に選ばれた理由は単純明快。吸血鬼の再生能力だ。
普通別の種族の血肉を植え付けるとあらゆる種族が拒絶反応を起こして肉体が崩壊、死んでしまうのだが、強い再生の力を持つ吸血鬼ならあるいはとのことだそうだ。
「まあ、実験はほぼすべて失敗。唯一残ったのが一族で最も再生能力の高かった私です」
博希は先ほどの過去形の表現についてなるほどとうなずいていた。つまり彼女はその生体兵器というものだということだ。
「そして私の能力についてですが」
「え? 教えてくれるの?」
「別に教えたところで今のあなたにどうこうできるはずはないので」
博希は肩をすくめると、「確かに」と言って聞く態勢に戻る。
「私の能力は、自分の体をあらゆるものに変換するものです。例えば――」
そう言って少女は自分の右手を差し出すとナイフに変形した。
「と、このように変身できるのです。ちなみにどこぞのナイフよりも切れ味はありますよ? 先ほどの外見に関しても同様の能力です。どうですか? 気持ち悪いでしょう?」
少女が初めて若干自嘲気味な表情になる。どうやら話しているうちに過去のことを思い出してしまったのかもしれない。
対してそれを聞いていた博希はというと、
「え? なんで?」
「は?」
「むしろ俺からしたら目の前にそんなすごい存在がいて狂喜乱舞したいんだけど」
なんと全肯定だった。
少女は「まあ、実際にそんなことしたらただの豚さんになるからやらないけど」と言って肩をすくめている博希を目を見開いて凝視している。
「な、なぜ? キメラですよ? しかもこんな変身も出来てしまうし、あなたが言った豚さんにだってなれてしまうそんな体なのですよ?」
少女がここに来てとんでもなく慌てて立ち上がり、後ずさりながら質問を重ねてくる。
「いや、だからそれが何? つかむしろ俺はその能力は全肯定なんだけど」
そう博希にとってはそんなことは関係ない。なぜなら目の前にリアル「トラ○ス能力」の持ち主がいるのだ! しかも金髪である! 赤い瞳と紫紺の瞳の違いはあれど、まさにリアル金色の○である! リアルヤ○ちゃんが降臨しているのである!
「そ、そんな私は忌々しい存在で、ずっとそう言われてきて……」
しかし今までそんなことを言われた経験がないのか少女はものすごく戸惑っている。口調まで変化してしまっている。
博希はそこにいる少女がずっと自分の存在を肯定できていないような感じがした。まるで今現在の自分のように。
だから博希は少女を立ち上がり真正面から見て、その少女のことを肯定してあげたくて、無意識のうちに優しい声で言っていた。
「俺は君のことを否定したりしないよ」
「うぁ」
「君が過去にどんな風に言われていたのか知らないけど。俺だけは君を肯定し続ける」
「あぅ」
そして博希は少女のところまで行って抱きしめる。
少女はビクッとなったがすぐに体の力を抜き、博希を上目づかいで見つめると、
「私は生きてていいの?」
「ああ。むしろこんなかわいいメイドさんが生きてちゃいけないなんて、そんな世界のほうがふざけてる」
「あぅ……うっうわああああああああああ」
今までずっと我慢してきたのだろうと博希は思った。
(簡単に死にたいなんて、この子の前で言っちゃいけなかったな……)
博希は少女が泣き止むまで優しく頭をなでていた。
しばらくして、少女は目を赤くはらしながら、さらに頬を朱に染めて言ってきた。
「私、一ノ瀬様の旅についていきたい」
「え? でもそれじゃあ――」
「ん。でも別に構わない」
裏切ることになるのでは、と言おうとしたが少女のとても愛らしい笑顔に止められた。
「一ノ瀬様がいる場所が私の居場所だから」
こんなことを言われて落ちない男がいるだろうか。
少なくとも博希は顔を真っ赤にさせられてしまった。
しかも、目の前の紫紺の瞳を潤ませた少女から目が離せないのだから、余計に恥ずかしい。
博希は何とか自分の心臓の鼓動を平常とまではいかなくとも少し落ち着かせ、優しい笑顔でうなずいた。
「分かった」
「ん。ありがとう……ございます」
「敬語はやめにしようぜ。それと一ノ瀬様もやめてくれ、博希でいい」
「ん。わかった、博希」
自分で言ったにもかかわらず、美少女に下の名前で赤面してしまう博希。
それを見て少女はクスリと微笑んだあと、ふと博希は気になったことがあった。
「君の名前は?」
「……コードネームはエルだったけど。博希が名前を付けて?」
博希はこの言葉に少し考え込む。そして自分にネーミングセンスはないなあと思いながらも気に入ってしまった名前を口にした。
「じゃあ、ルナでどう?」
「ルナ……うん、いい?」
少女、ルナは笑顔で答える。
博希も笑顔で返し、
「これからよろしくな、ルナ」
「ん。よろしくお願いします、博希」
その後、少女、ルナがつま先立ちをして、何をしたのかは言うまでもなかった。
○△□
「そういえば博希」
「? どうした?」
あの会話から少し時間が過ぎたあと、栗色髪のメイドさん姿に戻ったルナが隣で本を読んでいた博希に話しかけた。
「もうあまり興味はないけど『禁書』はどこにあるの?」
「ああ」
博希もすっかり忘れていたと、放置していた本に触れて、じっとその本を見ながらつぶやいた。
「やっぱりそういうたぐいの本だったか」
ルナの話によるとこの世界には魔法を扱う種族が書いた『禁書』とよばれるファンタジー世界やとある魔術の世界などで出てくる定番のものがあるらしい。
書かれている魔法は強力で絶対なので、今回ルナが請け負い、博希と出会って投げだした任務は、その禁書の回収、そしてその後に上層部の暗殺だった。
ゆえにルナはこの王城にメイドとして潜入し、禁書を探していたそうなのだが全く持って見つからなかったという。
そこまでの話を聞いた博希はニヤリとして、
「それならな。実はこの書斎がパズルになってるんだわ」
「ぱ……ず、る?」
「ん? ああ、パズルって言葉がないのかな。まあ、見てな」
そう言って、博希は書斎にある一番左端にある本棚の前に行く。
そして、一番下にある本の列を指す。
「ここは英雄とか勇者とかの物語が書かれている本が置いてある列なんだ。で、順番はヒュム語順なんだけど、少々違いがあって」
ヒュム語とはこの世界の人間族の使っている文字である。博希たちはスキル言語理解があるため普通に読めるのだが、生徒たちはあのリアルデキスギ君である翔太でさえも書く方については少々苦戦していたりする。まあ、博希は何事もなく出来るのだがそれは置いておくとして。
「他の本は作者のヒュム語順なんだけど、これだけタイトルのヒュム語順になってるんだ。だからそれを入れ替えてみると……」
などなど実はこの書斎にはたくさんのギミックが存在していて、それを攻略することで、
「この通り、最初に見た本棚が動いてその後ろに隠し部屋があるのでした」
と、その通り本棚の後ろに狭い通路があり、そこを通って中に入ると四畳ほどの狭い空間があった。
ルナは目をキラキラさせながら博希を見る。
「博希すごい! 天才!」
「サンキュ……まあ、この程度のパズルは余裕だけどな」
「そういえば、禁書は他にも?」
「ああ、ここにある残り二冊は読んだからもういいんだどな。それにあっちももう読み終わったし」
「合計三冊任務前に聞いてた情報と一致してる……」
ルナが顎に手を当てて考え込む。おそらく強力な力を与えてくれる本だけに放置しておけないということなのだろう。正直、博希は他人のことはどうでもいいが、確かにここに書かれている本の力を敵として使われたら厄介な事この上ないのは理解できる。しかし、それよりも博希が気になるのは……
「可愛い……」
「?」
「えっとな、多分ここにある本を読めるやつはいないと思うぞ」
「? どういうこと?」
考え込んでいるルナを見て思わず本音がこぼれ落ちた博希は慌てて話題をそらす」
「ああ、まずこの本なんだけど全部に呪いがかかっててな――」
「呪い!? 博希は――」
「ああ、大丈夫だよ。呪いは単純に言ったら書かれてあるものを暗号化して、そのまま読むと発動してしまうたぐいのものだから、その暗号を解読すればいいんだし」
「……そう」
「んで、極めつけはこの本の暗号を解読して本文を読むと、なんと俺の世界の言語になってる。しかも古代中国で使われていた漢文スタイル。まず読めるやつはいないだろ。うちのクラスのデキスギ君も無理だろうしな。まあ、俺も時間かけ過ぎちまったんだけど」
「……」
ルナは絶句していた。ここ一か月の観察で、翔太があのクラスでもトップクラスに頭がいいことは把握していたが、その人物ですら読めない言語をすんなりと呼んだと言っているのだ。しかもそれだけでもすごいのに満足していないという。ルナは目の前の大切な存在がとんでもない人物で無意識にキスしてしまうくらい、もうメロメロになっていた。
突然のキスに博希は照れながらも本を元の場所に戻して、隠し部屋を出た。
「で、ルナが一緒に来てくれるんなら明日にでも一緒に旅に出ようと思うんだけど」
「ホント! ……あ、でも他の勇者たちとは」
「さっきも言ったけど別に何とも思ってないから。まあ、でもあいつらにちょっと恐怖を植え付けてやろうかなと思ってるんだけどこの計画に乗るか?」
「? それは私も必要?」
「そうだ。必要だ」
「うん。わかった、やる!」
「じゃあ、これからルナはこれを準備しててくれ」
○△□
そんなわけで時間は博希がルナに落ち目様抱っこされている場面に進み、
「おろしてくれる?」
「ん、あと早く体の傷を治して」
「ああ」
ルナは博希を開放し、博希が治癒の魔術を発動して血が流れたままの手首を回復する。ワンドに血を付けるために切っていたのだ。
治癒術氏より上手ではないが魔法で回復したのを確認すると、肩を回して体をほぐす。
「いやあ、何とかすんなりうまくいったな」
「ん。誰も博希が途中でいなくなってることに気がつかなかった」
博希たちの作戦は簡単である。
ぞろぞろと全員が返っている間に、隠れて訓練を抜け出す行動を毎日のごとく行っている間に身についた「隠密」の技能で気配を消していなくなり、途中で血を付けたワンドを置いて、そのほかの服もあらかた破いて脱ぎ捨てる。
そして、トラップとして置かれている五階層下まで落ちる落とし穴にあえて落ちて、そこで待ち構えていたルナに拾ってもらうという状況だ。
これで、博希は第一層でお亡くなりになったと判断される確率が高くなるというわけで、失踪などと違って捜索の手もなくなるというものだ。結構穴が大きいがしばらく捜査の手が止まってくれていれば特に問題ないのでそこまでこの計画に完成度は求めていない。
「ところでとっとと服をください」
「ん。わかった」
博希は服を着ながらやっとこの世界を自由に歩き回れることにワクワクしていた。
――なんで博希はここから出ようと思ったの?
これは計画を話したあとにルナが聞いてきたことだ。
博希は自分と出会う前からここを飛び出す決意をしていた。それも死ぬかもしれない場所を一人でだ。これは確かに気になることだろう。
これに対し博希は
――確かに勇者一団として行動してた方が安全かもしれないんだけど、なんていうかそれだと『普通』で面白くないから
と答えた。
そう博希は『普通』が嫌いだ。
だからこそ『普通』じゃない道に進みたかった。『特別』なことがしたかった。
「はは」
「? どうしたの博希?」
「いや、何でもない。どこまでもついてきてくれるか?」
「うん。どこまでも一緒に」
こうして、この子供みたいな発想で、しかし誰もが今も持っているだろう感情を秘めた少年、博希とひょんなことから博希にべた惚れになったメイドさん、ルナの冒険が始まった。
いきなりの展開で分かりにくいかもしれませんが、次にルナについての閑話を入れますのでその二つと併せて読んでいただければなあと思います。
閑話も出来るだけ早く出すつもりですが、気長に待っていてくれるとありがたいです。
それと、本編で出せなかった博希、ルナのステータスを出しておきますのでよかったら見て下さい。(ただしこの物語は割と行き当たりばったりになるので矛盾が生じるかもですがそこは流していただけるとありがたいです。
ヒロキ・イチノセ (男・16歳)
役職 魔術師
レベル 3
能力
マナ 150
攻 20
防 20
敏 20
魔法 ファイアボール(15)
ファイアウォール(15)
アクアボール(15)
アクアウォール(15)
ウインドボール(15)
ウインドウォール(15)
サンダーボール(15)
サンダーウォール(15)
サンドボール(15)
サンドウォール(15)
ライトボール(15)
ライトウォール(15)
ダークボール(15)
ダークウォール(15)
技能 隠密 マナ消費軽減 言語理解
称号 あらゆる魔法を扱う者(見習い)、禁書に触れし者
ルナ(女・??歳)
役職 メイド
レベル 74
能力
マナ 6000
攻 2000
防 2000
敏 2000
魔法 なし
技能 再生 隠密 索敵 暗殺術 体術 短剣術 剣術 変身
称号 史上最恐の暗殺者 変身再生兵器
ルナが強すぎます。
あ、ルナのモデルは……言わなくても分かりますよね