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第一章 魔法について

遅れてすみません!

 アランに言われてやってきた書斎。


「なあ、ルナさんや」

「なに?」


ヒロキはそこで主にこの世界の魔法に関する書物を読んでいたのだが、一つ問題があった。


「なんで俺の膝の上に乗ってるんですかね?」


 それは、ルナがヒロキの膝に座っているからだ。

 おそらく全国の男どもから「爆発しろ」と言われるようなことだと思うのだが、好きな女の子の柔らかい感触が男の子のあそこに常に当たっていて、ヒロキは着席しているのに、ヒロキのヒロキは今にも起立しそうになっているため、大問題なのである。


 そんなヒロキにルナは上目遣いで見てきて答える。


「そこにヒロキがいるから?」

「……そのネタどこで仕入れてきたんだよ」


 ヒロキは溜め息をつきながら、意識を書物の方に向ける。ルナが意図的に微かに動いてこちらのアレを刺激してきているが、極力意識の外に置くようにする。


「……どうしてここでも本を読んでいるの、ヒロキ?」

「今日出会ったあのザンネンな男がいたろ?」

「?なんの話?」

「マジかよ。もう忘れられてるのか」


 数時間前、あれだけ執拗にナンパしたはずなのにルナの心には何も残っていないというザンネンさに開きは、なんとなく同情してしまった。


「そんなことより早く話を続けて?」

「そんなことって……まあいいか」


ルナにとって本当にどうでもいいことだと理解したヒロキは話を続けることにした。


「あの残念な奴が放った魔法なんだけどな、あれの発動の仕方が俺たちの世界の魔法の発動の仕方と違ったんだよな」

「どう違ったの?」

「うーん……説明するのが難しいんだけど……」


 ヒロキが本を置いて、右手人差し指を立てると、ボウッと指先に小さな火の玉が出現する。


「これがトライデントで教わった魔法。んで、こっちが」


 そう言いながら、ヒロキは左人差し指からも火の玉を出す。


「この世界の魔法だ。で、同じ魔法に見えるかもしれないんだけど、実は右手よりも左手で出してる火の玉の方が燃費がいいんだ」

「どうして」


 ヒロキの言葉では、トライデントの魔法よりもこちらの世界の魔法の方が便利であると言っているようなものである。いったい何が違うのか魔法が扱えないルナでも気になるのは当然のことだった。


 これにヒロキはニヤリと笑って答える。


「簡単に言うと、トライデントの魔法は自分の体内にあるマナを消費することで発生させているんだけど、こっちの魔法は体外にあるマナに自身のマナを混ぜ込むことで、発生させているんだ」

「? どういうこと?」

「うーん。簡単に言うと、体内のエネルギーだけで魔法を使うのと、体外のエネルギーを借りて魔法を発生させるものってことだ」

「…………ふうん」

「理解できなかったか?」

「………………理解した」

「その間は何なんだ?」


 ヒロキはルナの反応に苦笑いを浮かべる。

 とはいえヒロキとしてもそこまで深く理解しているわけではないので、あまりうまく説明することができないのだ。


 それに、ルナはもう興味を失ってしまったためヒロキは話すのをやめたが、トライデントとヒロキたちのいる世界の魔法では燃費という点においてヒロキたちのいる世界の魔法の方が優れているが、操作の精密性という点であるならば、明らかにトライデントの魔法の方が使いやすい。今回で言えば、両手の火の玉の大きさを調整するときにどちらの方が楽かという話ならば、明らかに右の火の玉に軍配が上がる。


 これはおそらく体内にあるマナは、まさに体の一部のように扱えることにも起因しているのだとヒロキは推測している。


 このことを利用してヒロキはいくつもの魔法の開発に乗り出すのだが、それはまだ先の話である。


○△□


 夜、ベッドにて、書斎にて刺激され続けたあれを解き放ってすっきりしたヒロキに、心なしかツヤツヤしているルナが話しかけてきた。


「ヒロキ、血をもらってもいい?」

「血? ……もしかして、吸血鬼だから血が必要なのか?」

「私はそうでもないけど……」

「じゃあ、なんで」


 血を吸わなければ生きていけないというのならわかるが、そうでないというのは一体どういうことなのだろうかとヒロキが思うのも当然のことであったが、この質問がとんでもない地雷だった。


「ヒロキの血を吸えば、私たち子どもがより強くなるから」

「こ、子ども!?」


 ヒロキ自身、「やれ」ば「できる」ということは重々理解していたが、まさかこんなにも早くできてしまったというのか!? と思ったのだが、ルナはクスクスと笑って、ヒロキの頬を撫でる。


「大丈夫。さすがにまだできてない」

「そ、そうか」

「ん。でも、今のうちから強者の血を吸うのが私たち吸血鬼の女としての使命だから」

「そ、そうなのか」


 なにやらルナが先ほどからやけに色っぽい気がして思わずヒロキの頬が赤くなる。

 ルナはそんなヒロキの反応を見て楽しみながら、ニコリとより妖艶な笑顔を作り。


「いい?」

「あ、はい」


 ヒロキとしてはその言葉にによって再び元気になってしまった下半身の方をどうにかしたかったのだが、そういうわけにもいかないのでコクコクと頷く。


 ヒロキから許可をもらったルナは、ヒロキの首筋に鋭い犬歯を立てると、


「いただきます」


 カプッっと嚙みついた。

 ヒロキは血を吸われているはずなのに何故か幸せな気分を味わっていた。が、同時にヒロキはこの吸血は結構危ないなとも意識した。なぜなら吸血鬼は強い子供産むために、強い存在の血を吸うという行為はおそらく本来であれば、強い男を生け捕りにして血を吸いつくす作業をするということだろうと推測できるからだ。


 ルナに関してはその心配はないが、命の一部を吸われているのに幸せを感じるのはいささか危うさを感じるものがある。


 しかも、


「ふぉぁ、おいしいぃ」


 なんというか、血を吸っているときのルナが以上に色っぽいのだ。

 そのせいでヒロキのヒロキがとんでもないことになってしまっている。


 そんなわけでそのあとまたハッスルしてしまったのは言うまでもないことだった。


 さらに言えば、この行為をアランが見て自慰行為をしていたことや、それに気がつきながらも二人はハッスルしていたことも、いうまでもないことだった。


○△□


 次の日。


「ふふふふふふふ! まさかあの屈辱を晴らす機会がやってこようとは思わなかったよ!」

「ああ、実に残念でならないよ」


 ヒロキは前日にあった残念な男ことザンネン(人名)を前にして、王宮内にある、多くの人たちがひしめく大きな闘技場にいた。


 ザンネン(人名)はニタニタと非常に残念な笑顔で告げる。


「このたくさんの観客がいる場所で君を嬲り殺すことができるなんて本当に僕は幸運だ!」


 今回行われる、守護竜の試練を受けるための選定戦は、トーナメント方式になっている。参加者はもともと八人だったのが、アラン(現在ルナに部屋をのぞいていたことやその他もろもろをいじられて全力で赤面してる)の力によって、ヒロキの分を強引にもうひと枠入れられた形になっている。ヒロキが入ったのは一番小さな山なので、他より一戦多くなっている。


 ルールは単純。相手が降参するか、行動不能に追いやればいい。もちろん殺してはいけないので注意が必要である。


 ヒロキは何やら両手を広げて芝居がかったように三流の敵キャラのセリフを連呼し続けているザンネン(人名)を実につまらなそうな目で見ながら、早く戦闘が始まらないかな~と考えていた。


「ふっ、怖気づいて言葉も出ないか愚民よ。このザンネン様に――」

「それでは試合を始める! 両者準備を!」


 試合を取り仕切っているアラン(王様は今回の件についてすべてをアランに任せているためこの場にはいない)が声を大きくするための道具でザンネン(人名)の言葉を遮って試合の開始を促す。


 自分のセリフを遮られたザンネン(人名)は、一旦ガクッと肩を落としたが、すぐに表情を真剣なものにする。ザンネン(人名)は、性格、言動ともに残念ではあるが、それでもこの国一番の魔法使いであるため戦闘となれば一瞬で意識を切り替えることができるのだ。


 ヒロキはいつもそれくらい真剣な表情してればもっとモテるんだろうにな~と思いながら意識を戦闘モードに切り替えた。


「始めようぜ」

「ああ、君の地獄の時間をな」

「……」

「それでは試合を始めよ!」


 最後にザンネン(人名)がまたしても残念な発言をしたところで、アランの試合開始の合図が入った。


 先制攻撃はザンネン(人名)だった。ザンネン(人名)は腕をヒロキの方にかざすと、


「”火花”」


 詠唱を短縮して、無数の火炎球を発射する。


 ヒロキはそれをひらりひらりと躱しながらも、物凄いスピードでザンネン(人名)に接近していく。


 ヒロキの急接近に、しかし歴戦の魔術師は慌てない。


「”炎壁”」


 またしても詠唱を短縮してザンネン(人名)は自身の周囲に炎の壁を発動する。


「……」


 ヒロキはこれに対して、無言でバックステップで距離を取る。しかし、そこに間髪入れずに”火花”が飛んでくる。しかも”炎壁”が消える気配は全くない。


 これはザンネン(人名)の必殺パターンの一つだ。炎の壁で相手に近づけさせず、遠距離から無数の火炎球で敵を圧倒する。この「炎の鳥籠」という戦い方を用いることから”剣士殺し”という異名がついているくらい、強い技なのだ。


「フハハハハハ。もはや手も足も出ないようだな愚民よ!」


 すべての火球をすれすれのところでかわしているヒロキに対して、ザンネン(人名)は恍惚の表情(ただしヒロキには見えない)を浮かべながら話しかける。


 これに対するヒロキの答えは、


「……」


 無言だった。


 武器屋ではあれだけ自分を煽ってきたヒロキがここまでずっと無言であることにザンネン(人名)は言い知れぬ不安を覚える。

 この感覚は、今まで幾度となく戦ってきた経験によるものであると理解していたザンネン(人名)は一気に試合を終わらせるべく行動に出た。


「”焔鳳”」


 これは近接戦においてザンネン(人名)が重宝してきた火の鳥を飛ばす大技である。


 ホーミングの能力があり、敵にあたると爆発する非常に強力な技であり、「炎の鳥籠」のフィニッシュにふさわしい技である。


 炎の鳥はヒロキに向かって一直線に飛んで行き、爆発した 。

あまりにも強烈な爆発の威力に会場中の観客たちが息を飲む。誰もがヒロキがやられたと思ったのだ。


しかし、ザンネン(人名)だけはそうではなかった。


「な、なんなんだお前はあぁぁぁぁ!」


叫びながら、ザンネン(人名)は火球を必死に撃ち込む。


観客たちは「何をしてるんだ!?」と騒然となるが、ザンネン(人名)にはそんなことを気にしている余裕がない。


なぜなら、歴戦の魔獣師としての勘が、相手に全く攻撃が効いていないと判断しているからだ。


そして、ザンネン(人名)の勘は、


「ふむ。だいたい理解した」


という言葉とともに、意識を刈り取られる形で正しいと証明されることになった。

しばらく不定期更新になります。

できるだけ毎週出せるように頑張りますが、遅れたら吸いません!

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