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異臭

作者:

あけましておめでとうございます。正月からショートホラーをぶっこみます。

多分設定もn番煎じです。どっかで見たもんこの設定。

二十年ぶりに出会った友人は、眉をしかめるほどの臭いがした。

「よぉ……。久しぶりだな……。」

「…………。」

久しぶりに会いたいと言うアイツからのメッセージに首をかしげたのは三日前のことだ。去年の同窓会にも来なかった来なかったアイツ。急に相談があるなんて言ってきたが……。駅前居酒屋のテーブル席。記憶の片隅に残る学生時代の親友の面影と目の前に座っている男の変容に驚愕しながらも、俺はおずおずと話しかける。


まず最初に気になったのは、彼の体から放たれる異臭だ。この前接待で行った店に居た女と同じような香りがする。香水だ。しかし尋常な量ではない。俺が嗅いだことのないほどの様々な香水を大量に付けている。

次に気になったのは、この季節に釣り合わない格好だ。じんわりと暑い熱帯夜なのに外套を羽織り、顔の半分以上を隠すような大きなマスクの下には土気色の皮膚が覗いている。腕には外科医が手術で使うようなゴム手袋を装着している。誰が見たって不審に思うだろう。


「おい、二十年ぶりだってのに冷たいな……!で?悩みってなんだよ?」

「……ァ……。」

男は蚊の鳴くようなか細い声でぼそぼそと何かをつぶやいた。おかしい……。俺の知っているアイツはもっと明るい奴だった。二十年で別人のように陰気になるなんて……。


その後、やっと俺にも聞き取れるような声量になった男は、このように語り始めた。

「実は……“臭い”がするんだ……。」

臭い?臭いならお前の香水の付け方が原因だろ……。そう口にしようとした気配を察してか、男はすぐに二の句を継いだ。

「あぁ、この匂いじゃないんだよ。もっと……なんだろう、生ごみが燒けるような……。」

「で?その臭いがどうしたんだ?」

「この現象に遭遇してしまったのはちょうど高校を卒業したあとだ……。家に帰った時、玄関から今まで嗅いだことのない臭気をうっすらと感じたんだ。最初は秋刀魚でも焼いてるんじゃないかと思ったよ。ちょっと不審に感じながら家に入ったら……母親が死んでた。」

「はぁ!?あのお袋さんが!?」

「死因は心臓発作。家中探しても焼いた秋刀魚なんてどこにも無かった。3日後にまた臭いが襲ってきた時、父親が自殺した。今度の臭いは前よりもキツかった。」

男は他人事のように淡々と両親の死を語る。語り口に不気味なものを覚えた俺は、この話の本質にしばらく気づくことが出来なかった。

「気づかないか?悪臭は人が死ぬ度に強くなっていく。自殺、病死、事故死、殺人、刺殺、銃殺、絞殺、轢殺……。誰かが死ぬ直前に強く、激しく鼻腔を破壊するんだ。」

男はそう言うと付けていたマスクをするりと外してみせた。彼の顔の中心にあるはずの器官、鼻はその役割を果たせないほどに変形し、矮小になっていた。そこにあるのはふたつの小さな孔だけだ。

「そっ……その鼻、まさかお前……。」

「こうやっても臭いは襲ってくる。もう手は尽くしきったよ……。」

意味がわからない。狂ってる。そんな言葉が喉の奥から飛び出そうとする。俺はこの二十年来の友人を病院に連れていった方が良いのではないか?異変に負け自傷までしてしまった彼を救済するほかの方法はあるのか?

「…………ッ!?近いッ!臭いが……ダメだッ!すぐ近くにッ!!」

突如として彼は眼を血走らせ、辺りをキョロキョロと見渡す。 向かい合った俺の顔面に飛ぶ涎などお構い無しに何か呪詛のような言葉を吐き捨てた。

「はぁ!?何が近いんだよ!?」

「あ、ああああぁぁぁ……。臭いッ!今までで一番だッ!また誰かが死ぬッ!この店の誰かがッ!」

まとわりついた透明な羽虫を振り払うように、彼はバタバタと暴れ回る。テーブルに置かれたビールジョッキは倒れ、ガラスの割れる音が響き渡る。

「おい……落ち着けってッ!」

何かに取り憑かれたような彼の様子に激しい恐怖を感じつつ、俺はかつての友人の腕を抑えていた。

「お前も死ぬッ!皆死ぬんだッ!うわぁぁぁぁぁ……!!」



俺にとっての最悪の出来事から2日が過ぎた。今は棺の中で眠っている彼の姿を俺は無表情で見送っている。

あの時、『誰かが死ぬ』と男は言った。皮肉なことに死んでしまったのは彼なのだが。 もしかしたら、俺の知る『アイツ』は二十年前に死んでしまったのかもしれない。ここにいるのはアイツとそっくりで同じ名の別人なのだろう。それなら涙が出ないのも納得できる。


「最期のお別れです……。」

沈痛な女性の声が響く。俺の心には響いてこないその声を鼓膜に染み込ませると、俺は燃えていく彼の姿を見送った。


そして気づいてしまった。彼は確かに『生ごみが燒けるような』悪臭と言っていた。

やっと納得した。それは死の臭いだ。今ならわかる。


遺体が遺骨に変わる時の臭いなのだから。

息抜き

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