第03話『人は伝説を目標程度にしか見ていない』
前回のあらすじ、全員が余裕を持って死にかけている。戦い慣れている人間というのは総じて感覚が麻痺しているという話だ。
《そろそろこの話、続けるのが限界なだけじゃあ……》
そんなことはない!! というわけで第03話どうぞ!!
第03話『人は伝説を目標程度にしか見ていない』
さて一行は距離を稼ぎつつ、対抗手段を練っていた。というか勝てる手段なんてあるのか?
「ところでユイ様、前にマウスドラゴンを倒した時に使ったあれは……」
「とっくに品切れだ。だからフリントロックなんてものをこさえたんだろうが」
主従コンビは役立たず。
「シャーリー、主の力なら……」
「……ごめん、まだ陽が沈んでないから多分無理。メルトは?」
「センチピートドラゴンって結構素早いからなぁ……正直シャーリーが使えたら当てられるが、外れたら終わりだぞ」
鍛冶屋トリオも以下同文。
さてどうしたものかと考えていると、ふいにユイはアトラの持っている弓矢に目を向けた。
「そういえば、いやまさか……まあこいつの例もあるし…………」
交互に弓矢と自分の刀に視線を彷徨わせてから、結論を出したのかユイはアトラに声を掛けた。
「おい腐れ狼、矢一本寄越せ」
「そんなものどうする気かや?」
しっかしこいつ等、よく冷静に逃げられるよな。ちなみに全員もれなく9割疾走してます。要するに全力疾走一歩手前。
「いいから寄越せ。一か八かだが考えがある」
アトラから投げられた矢(若干威力強め)を受け取り、ユイはミクサの首根っこを掴んで持ち上げた。
「ほ~ら、ミクサあ~ん」
「……あの、ユイ様。状況分かってます?」
そりゃそうだろう。ユイは矢を掌で持ち替えて、もう片方の手で抱えているミクサの口元に鏃を近づけているのだから。
「いいから開けろ。俺の国では昔、これで似たような化け物を退治していたんだからな」
「……それ、本当ですか?」
巨大百足だけどな。あれ誰が退治したんだっけ?
《いや知らないわよ。私》
ああ、レオナの台詞は《》に変更しました。これからはこれで行きます。
「……いや、どうでもいい」
「なんだよ、そこの黒いの。お前このままでいいのかよ?」
「……違う、別件」
まあいつものことかと、ユイは徐々に、甚振るように、それこそ歯医者を思わせるような……あ、オタク執事の二次創作、いいかげん書かないとな。
《二次創作は一度忘れたら?》
まあそれよりも、こいつらセンチピートドラゴンのこと忘れてないだろうな。さっきから後ろを見ないで逃げているけど、思いっきり追いかけているからな。無数の足をわさわさと動かして。
「いいから口を開けなさい。大丈夫、前例はあるから意外と何とかなるかもしれない」
「断定じゃねえのかよ……」
呆れるメルトを無視し、焦れたユイはとうとう実力行使に出た。器用に片手で鏃の先を持ち、空けた指二本を使って強引にミクサの口を開く。普段ならまだしも、奴隷状態のミクサでは逆らうわけがない。むしろ嬉々としている節がある。
つまりどうなるかって?
ミクサの口に鏃を突っ込んで掻き混ぜるように回している。お蔭で口の中ずったずた。
「あぎゃっ! ぶぎゅっ! いちぎぎ……!?!?」
「……思いっきり不快でありんす」
どうにか手を開けて耳を塞ぐ残り3名。けれども当のご主人様は奴隷虐めの興が乗ってきたのか、さらに勢いをつけている。
「ゆっ!? ゆひさみゃあ……」
「さっさと口を直しとけ。今日はまだ巻物を使ってないからいけるだろ」
「……知ってても、今度から止めようぜ」
流石に状況が状況である。メルトの提案にアトラとシャーリーは頷いた。
ミクサは口に手を当ててどうにか詠唱を唱えようとする。彼女が取り込んだ巻物の一つは『治癒』、日に数度しか使えないが、1日単位で全て使い切るならば、ギリギリ致命傷を癒すレベルである。まあ、傷口に手を当てて『治癒』と言わなければいけないから、舌も傷ついているので詠唱に手間取っているようだが。
「さて、と……これで準備はいいな」
「……血だらけの矢でどうする気かや?」
呆れるアトラにユイは矢を投げつける。血塗れの矢を受け取り、思いっきり顔を顰めている。首を離されたせいで治しながら走り続けるミクサをそのままに、後ろのセンチピートドラゴンを指差した。未だに追いかけてきているが、直接的な攻撃をしてこないところを見ると、移動に集中して手が出せないようだ。意外とこいつ等足が速いし。
「正確には涎塗れの矢だ。……昔俺の国ではな、あれと似たような化け物を退治するのに、矢に唾をつけて射殺したそうだ」
「それ本当かや……」
「……まさしく眉唾」
シャーリー上手い。座布団一枚。
「まあ、論より証拠。やるだけやってみよう、さあ射て」
「……はあ、仕方ないのう」
一つ溜息を吐いてから、アトラは矢を番えた。
9割とは言え、走っている最中に反転して構える姿は、とても普段、弓を使わない人間には見えなかった。
他の者達が同じく反転(ミクサだけは治療中にユイに転ばされた)して見守る中、
「――フッ!」
軽く息を吐き、射った。矢は真っ直ぐ飛び、そのままセンチピートドラゴンの首の可動部、装甲の隙間に突き刺さった。
――グギュルル……
確かに矢は刺さった。呻いているということは効いているのだろう。だがしかし、倒すには至らなかった。
「……効かぬぞ」
「まあ、駄目元だったしな」
ポリポリと頬を掻きつつ、転んだままのミクサを踏んづけて様子を見るユイ。アトラは再度矢を番えるが、おそらく同じ様に装甲の隙間を狙うつもりなのだろう。
後ついでに言っておくが、確かその伝説、祈りも必要じゃなかったっけ?
《何そのあんたとは一生無縁な話》
失敬な。これでも結構祈っているぞ。……どうかあいつに不幸を、とか。
《あんた昔、気が合うなら悪魔とも付き合うし、敵に回るなら神すら殺してやる、とかほざいてなかった?》
いやあ、あの時は若かった。けど神様とか信じてるよ、結構。存在じゃなくて功績しか信仰してないけど。
「……いや待て、あれならどうにかできる」
一歩前に出るメルト。右手を翳し、センチピートドラゴンの首元、矢の突き刺さった個所に狙いを定めている。
「《雷鳴》!!」
放たれたのは雷撃、その勢いは阻まれることなく、センチピートドラゴンに突き刺さった矢に直撃した。
メルトの持つ巻物である『雷鳴』は威力こそ常人をぎりぎり殺傷できるレベルだが、竜種に対しては効かないことも多い。理由は装甲を貫くことができず、また生身の部分に撃ち込んでも肉厚に防がれ、耐えられる可能性があるからだ。
けれども、
――グァララ……
センチピートドラゴンは呻き、そのまま地面に倒れ伏した。仕留め切れたわけではないが、如何やら弱らせることには成功したらしい。
「避雷針とは考えたな……」
「……いやあんた、俺が巻物持ってるの知ってただろ?」
メルトの発言にユイは肩を竦めただけで答えた。しかしこれならドラゴンにも止めが刺せる。そう思っているとふとシャーリーが言葉を漏らした。というか、そこの幽霊が告げ口した。
《ところで盗賊は?》
「……そういえば盗賊は?」
シャーリーの(正確にはレオナの)発言に一同はドラゴンの後ろを向いた。シリアスならともかく、ギャグ補正がかかっているならもう復活していてもおかしくはない。
『……あ、荷馬車!?』
追記しておくと、連中が持ち出したのは武器の類のみで、他の貴重品や買い付けた鉱石は全てそのままだ。故に、持ってかれると……思いっきり赤字である。
「おい戻るぞ!!」
「当たり前でありんす、わっちの全財産も乗っ取るのじゃぞ!!」
「……いい加減、全財産持ち歩くのやめたら?」
「盗賊め、復活してたら止めにミクサの糞食わせてやる!!」
「ゆいひゃみゃしぇみぇちぇわひゃひぃにひょきぇいしゃしぇちぇ……!!」
怒り狂う4人と比較的冷静な1人、いやどっちかというと痛めつける理由を見つけて嬉々としているのも交じっていたが、まあそれでも盗賊退治に荷馬車の元へと駈け出していた。
……ところで止め差してないけどいいの? センチピートドラゴン。
少し時を戻して、痛む身体に鞭打って復活した盗賊達は、セリアとか名付けていたにも関わらず、さっさと荷馬車をがめて逃げようとしていた。
「急げ!! あいつ等なら多分、セリアですら足止めにならねぇ!!」
「お頭っ!? そんなにやばいんですか連中!?」
仲間の一人である、どうにか盗賊にスカウトした街の元チンピラが盗賊共のリーダー格に話しかけている。
「お前あの街のチンピラじゃなかったのかよ!? ロックブラストの工房マテリアルっつったら、腕も性格も桁外れな連中がたむろしている虎穴だ。逆らったらマフィアだろうが化け物だろうが迷わず喧嘩売る、下手したらそこらの盗賊よりたち悪いんだぞ!!」
「・・・・・・いや、俺達がそこらの盗賊ですよね?」
新入りのつっこみも無視して、リーダー格は続けた。
「おまけに最近連中とつるんでいるあの二人もやばい!! 噂じゃあ『ムカついた』だけで国一つを滅ぼしたとか何とか・・・・・・!!」
「いや、たしかそれは男の方だけだったはずよ。女はそこで奴隷になったらしいし」
「そうなんだよ!! ・・・・・・ってえっ?」
気がつくと、そこには女がいた。
灰色の髪と服を着た、肩にバトルアックスを担いでいる女性は、リーダー格が言った内容を訂正してから、御者台にいた盗賊を蹴り落としてから荷台を見回した。
「・・・・・・やっぱりないか。仕方ない、また今度にするか」
彼女は肩を竦めると、武器を、それも重量を重視した物を担いでいるにも関わらず、軽やかに荷馬車から飛び降りて着地した。
「まっ、待て女!! お前はいったい・・・・・・!?」
たじろぐリーダー格に武器を構える残りの盗賊達。蹴り落とされた奴も立ち上がって錆びた剣を引き抜いている。
「・・・・・・ああ、そういえば」
彼女はふと何かを思い出し、
ーーブンッ!!
『ガッ(ギャッ・グッ)!?』
戦斧を振った。だが、それこそあり得なかった。
要旨や外見はともかく、体格はそこらの街娘と変わらないはず(まあ若干ゴツいんだが)なのに、彼女は片手だけで戦斧を振ったのだ。
油断した盗賊達は全員武器をたたき落とされ、近くにいた者には深い切り傷すらつけられた者もいた。しかし灰色の女性の意識はリーダー格に近寄り、その腕を、いや腕に付けられた魔道具に注がれている。
近寄り、腕を捻りあげて魔道具を見つめてから、彼女は溜息をついて突き飛ばした。
「アデッ!?」
「現代物か。やっぱり捜し物はあれだけかねぇ・・・・・・」
盗賊が見守る中、女性は戦斧を担いでこの場を去っていった。
「他に当てもないし・・・・・・そろそろ向こうと合流するかな」
彼女を止めるどころか、動くことすらできない盗賊達だった。
それはメルト達が引き返してきた後も続き、おまけに事情を聞く前にリンチにあった。
「あが、が・・・・・・」
「で、お前達に魔道具を渡したのはどこの馬鹿だよ?」
適当な一人を叩き起こしてから締めあげるメルト。なぜ彼かというと、自白を無視して嬉々と痛めつけそうなのが2人、心情的に拷問を嫌っているのが1人いるからだ。
え、後1人? 今そのご主人様の椅子で忙しいんだと。何を言っているのかが分からないって? 安心しろ俺もだ。
「ま、ま・・・・・・」
「ま? 街で受け取ったのか?」
「よく入れたのぅ、小奴ら、賞金首じゃなかったかや?」
「額が小さくて顔を覚えられなかったからじゃないか? 実際大した金額じゃなかったはずだし」
勝手に憶測する面々だが、事態はもっと馬鹿らしかった。
「ま・・・・・・街の工房で買ったんでさぁ。丁度バーゲンやっててなけなしの金貨一枚で買えた、ってお頭喜んでやした」
・・・・・・まさか。
鍛冶屋トリオは何を思ったのか、未だに寝ているリーダー格の腕から抜き取った魔道具を(ミクサに腰掛けて)物色していたユイに詰め寄った。
『ちょっと貸してくれ(貸して・貸しんす)!!』
有無を言わせず魔道具を奪い取り、あちこちを見聞して隅の方に『ナイトスカイ魔道具工房謹製』と書かれているのを見つけた。
「あんのたわけ~っ!!」
「え、お前等これ作った奴知ってるの?」
「・・・・・・アトラの元弟子。今は魔道具工房で生計を立てている」
シャーリーの発言を聞き、呆れたユイはミクサから立ち上がって荷馬車に乗り込んだ。
「だったら急がないか? 止め刺し忘れたから、そろそろ来る頃だろうし」
何が、という問いかけは必要なかった。
工房の名前が書かれている横に、新たに文字が刻まれていたのだ。……『魔力切れ』と。
「多分あの時だろうな。呼び出した辺りで魔力切れ起こしたから、野生に戻ったんだろうし」
――グギュルル……
言葉はなかった。
荷馬車に全員(盗賊達もちゃっかり乗り込んで蹴り落とされようとしている)乗り込んでから、メルトは手綱を叩き付けた。手の空いた面々は盗賊共を叩き落とそうとしつつ……復活したセンチピートドラゴンから逃げようと荷馬車を軽くしている。
さて、連中は助かるために購入した物を捨てるだろうか?
次回予告兼反省会
次回の『ロックブラストの奇妙な日々』は~作者です。どうにか導入部分の執筆が終わりました。できれば街に戻った後の話も書きたかったけど、半端な長さになりそうなので何かのおまけか続きで書くことにしました。次回からは鍛冶屋の日々一期のリメイク(結局やる無計画な作者)か新しい話を執筆予定です。さてどうなることやら。
《いいかげん、書きながらいろいろ試すのやめたら?》
それは無理な相談だ。何故なら、人間は生きているだけで試行錯誤を繰り返す生き物だからだ!!
「……そんな傍迷惑な生物はお前だけだ」
うるさいな。というわけで次回更新予定は未定、サブタイトルも未定、思い出した時に更新してるか見に来てくださいね。ではでは~
《……絶対ネタ切れだ》