平穏日常01
前回の投稿から1ヶ月以上経っちゃいました…。
すみません…。
さて、今回から本能異常第二部「平穏日常」が始まります。
最初は、沙恵と刀耶の出会いについて!
ではどうぞ!
〜沙恵と刀耶〜
***
「さ、入って沙恵」
「お邪魔します」
あれから二週間が経った。怪我の治療もあって、色々とトタバタしていて大変だったが、最近やっといつもの日常生活に帰って来れた。
そして、今日は大学の講義が午前で終わったので、刀耶の家に遊びに来た。まぁ刀耶が誘ったんだが。
「座って待ってて。飲み物とってくる」
「ああ」
誰もが想像する、これと言って特徴がない普通の家。そこが刀耶の自宅だ。
私はソファーに腰を降ろして、周りをみる。
家具は、どこか規則性のありそうな配置で、綺麗に片付けられ整理された居間。その一画に置かれたソファーに今座っている。
「お待たせ」
ここで刀耶が、飲み物とお菓子を持って戻ってきた。「沙恵どうかした?さっきキョロキョロしてたけど」「え?いや、まぁ…」
見られていたらしい。まぁ自分の家の居間を他人が観察してたら、誰だって不思議に思うだろう。
隠すようなことでもないので、私は素直に今抱いた疑問を口にする。
「刀耶、ここにある家具の配置って規則性があるのか?」
「……はい?」
これも同然の反応だろう。誰が人の家の家具の配置を気にするだろうか。でも、私は気になって仕方がない。
「おかしなことを言うね、沙恵は。でも、規則性があるって言えばありそうだね。僕が、配置したわけじゃないから分からないけど」「そうか…」
我ながらどうでもいいこと聞いたな…。おかしい、とか言われたし。聞くんじゃなかった……。
私が落胆していると、玄関のドアが開く音がした。
「刀耶、誰か来たぞ」
「ん、誰だろう?母さんや父さんが帰って来るには、ちょっと早いし…」
そんな会話をしていると、その人物は、居間のドアを開けて中に入ってきた。
「たーだいま、我が弟。あれ、沙恵ちゃんじゃん。いらっしゃい」
「姉さん!こっち戻って来てたの?」
「そうだよ。大好きなお姉ちゃんに会えて嬉しいでしょう?」
そう言って刀耶の頭を乱暴に撫でる。
「何言ってるんだよ、全く…」
今現れた人物は、刀耶の姉の琴峰明日香さん。東北の方で、美容師として働いている。腕も良くて、私も何度か整えてもらったことがある。性格は、大人しそうな刀耶からは想像出来ない程、元気溌剌な感じ。そのテンションの高さについていけないこともしばしば…。
そんな面もあるが、根はいい人なので、私も気に入っている。
「と、ところで姉さん。ここには、何時までいるの?」
撫でられていた頭から強引に手を離し、刀耶が明日香さんに尋ねる。
「ん〜、しばらく滞在すると思う」
「なんかあったの?」
刀耶がお茶を口に含みながら、さらに尋ねる。
「私が勤めている美容室にダンプカーが突っ込んだの」
「ブーー!!」
刀耶がお茶を盛大にぶちかます。
「ベタなリアクションありがとね〜」
「ダンプカー突っ込んだって、大丈夫なの!?」
「大丈夫よ。突っ込んだの、みんなが家に帰ってからだし」
「そうなんだ。よかった〜」
刀耶は、安堵の息を漏らした。
「心配してくれたの〜。ありがとう」
そう言って、刀耶を抱き締め、頭をまた乱暴に撫でる。
「ちょっと!いきなり何すんの!」
抵抗しているが、身動きがとれていないみたいだ。
「本当に刀耶と明日香さんは、仲がいいんだな」
素直な感想を口にする。
「あら〜、沙恵ちゃんヤキモチ妬いてる?」
「えっ!?や、ヤキモチなんて妬いてないですよ」
「そう?その割に、顔が真っ赤だけど」
アハハハ、と明日香さんが笑う。
自分では、そんなこと思っていないのに、そう言われると、そんな気がしてしまう。これも言霊みたいなものじゃないのかと思ってみたり。
「でも、大丈夫よ。沙恵ちゃんと刀耶は、私より仲良しだと思うわ」
「ちょっと、沙恵が困ってるよ」
ここで、刀耶がフォローを入れてくれた。
「あ、そういえば沙恵ちゃんと刀耶は、どんな風に知り合ったの?教えて教えて!」
この人は、全く刀耶の話を聞いていない…。
「まぁ、はい。分かりました」
断る理由が見つからないので、話すことを承諾。
「あれは確か…」
あれは確か、私達が大学に入学して、二ヶ月位経った頃。私は、一人キャンパス内を探索していて、その時は外を回っていた。
二ヶ月も経てば、皆気のあう友人を見つけ、共に過ごすのが普通だろう。でも、私はこんな性格だから、仲の良い友人など作れなかった。それでも構わないと思っていたし、今までもそうだったからあまり気にならなかった。
しばらく探索していたら…「……ここドコだ?」
完全に迷った…。
この大学は、結構広いとは知っていたものの、予想以上に広過ぎた。一人で歩くと、こういう時に困る。
むやみに動き回っても無駄だし、もしものときは人が通ったら聞けばいいと思い、私は近くにあったベンチに腰掛け、一息着いた。
それからどれくらい経っただろうか?私は、ある声に話し掛けられた。
「あの、大丈夫?そんなとこで寝たら風邪ひくよ」
「ハッ!!」
どうやら寝てしまっていたらしい。さっきまで明るかったのに、薄暗くなっているから、相当長い間寝ていたらしい。
「どうしたんだい?こんなところで」
その人物は、そう私に問いかけてきた。
「えっと、あのちょっと道に迷って…」
私は、少し動揺しながら、答える。
「そうなんだ。まぁ、この大学広いから、仕方ないよ。とりあえず大学の入口まで行こうか」
…どうやら親切にも案内してくれるらしい。まぁ、外見的に優しそうな性格してそうだし。
私はそいつと肩を並べるように歩き始める。
「そういえば、君名前は?」
「一年生の坂神沙恵。そういうあんたは?」
失礼かと思ったが、いつもの口調で問い返す。
「琴峰刀耶。僕も一年生だよ」
それが、私と刀耶の出会いだった。
「へぇ〜、じゃあ沙恵さんも医学部なんだ」
入口へ向かう中、私と刀耶は、たわいもない話をしながら歩を進める。
「どうして医学部に?」
「特に理由は無いな。まぁ敷いて言うなら、人を助ける仕事がしたかったからかな」
「そうかぁ。優しいんだね。僕もそんな感じかな」
「じゃあお前も優しい奴だな」
「えーと、そう、なるかな。あはは」
…いつ以来だろう。こんなに他人と話をしたのは…。楽しい。嬉しい。
他人と話すことがこんなにも幸せな感情を感じれるとは思わなかった。
だからこそ不安になる。
どうして、こいつは、こんな口調で話しているのに、ごく自然に私と接しているのだろう?
どうして、こいつは、私の口調を不思議に思わないのだろう?
どうして…
「どうしてなんだ…?」
「え?」
私の心の中の感情は、いつの間にか、声となっていた。
「どうしてお前は、女のくせに、こんな口調で話している私と自然に会話が出来るんだ?他の奴らは、こんな風に話すと距離を置くのに…」
そう言うと、刀耶は、こう返してきた。
「…最初は、僕も不思議に思ったさ。でも、それは個性なんだからさ、だからって距離を置いたり、差別したり。そうするっていうことは、その人を否定することになると思うんだ。そんなこと、少なくとも僕は絶対そんなことしないよ。だから…」
刀耶は、ニッコリ笑って、「いつもの沙恵さんの口調で話してね」
そう言ってきた。
泣きそうになった。嬉しくて、嬉しくて…。
私はこの時、刀耶と同じ学部内の仲間としてでなく、もっと親しい者という関係になりたいと思った。
だから私は、刀耶にこう話し掛けた。
「なぁ、刀耶」
「ん、何?沙恵さん」
「これからは、私のこと沙恵って呼び捨てでいいから」
それが一番親しい者に近づく第一歩だと思ったから。「うん、分かったよ。
じゃあ行こっか、『沙恵』」
私たちは、大学の入口へ向かった。
「と、こんな感じ」
私は、ちょっと恥ずかしいと思ったが、赤裸々に私たちの出会いについて語った。
「いや〜、いい話ね。あんたもいいとこあるじゃないの」
バンッ!
「痛ッ!
ちょっと止めてよ、そういうの…」
明日香さんが、刀耶の背中を思いっきり叩いた。
「じゃあ、その時刀耶に恋しちゃったの?」
「ちょ、姉さん!」
…この人は、答えずらい質問ばかり飛ばしてくるな。「いや、まぁ、親しい友人になりたいなぁ、と思ったくらいですね」
「でも今は違うんでしょ?」
「え?」
「だから〜、今は刀耶のこと好きなんでしょ?」
「はひっ!?」
「ちょっ!?」
なんて質問するんだ、この人は!!
確かに、その、えっと……まぁそうかもしれないけど、でもこんなこと本人の前で言えるわけないだろ!
「ねぇ、どうなの?」
「いや、その…」
「ねぇねぇ」
明日香さんは、私にめっちゃ迫ってくる。
「ねぇねぇねぇ」
「いや、あの……。
す、す…」
♪〜
答える直前、突然明日香さんの携帯が鳴る。
「あ、ちょっと待って。
あーはいはい、うんうん、え、本当!うん、行く行く!じゃあまた後でね」
明日香さんが会話を終える。
「あーごめんね。ちょっと用事できたから出てくるわ。夕飯は、要らないって母さんに言っておいて。
じゃあね、沙恵ちゃん。また今度ね〜」
そう言うと、明日香さんは、嵐のように去って行った。
…決めた。これからあの人を心の中ではハリケーンガールと呼ぼう。
そんなことを思っていると、刀耶が話し掛けてきた。「ごめんね、沙恵。こんな姉で。困ったでしょ」
「まぁ…。結構疲れた。精神的に」
「そっか。ごめんね。
ところで、沙恵」
「ん?」
「あの後何て言おうとしtガハッ!」
私は、何かの危険を察知したのか、反射的に刀耶の腹部に蹴りを入れていた。
「悪い刀耶!ちょっと用事思い出したから帰る!お菓子と飲み物ありがとな!また明日、じゃあ!」
今度は、私が嵐のように刀耶の家を出た。
「ハァハァ…」
刀耶の家から少し離れた所で、走るのを止めた。
…もう少しで言ってしまうところだった。明日香さんの携帯が鳴ったのは、不幸中の幸いだった。
でも、いつかはこの思いを伝えなきゃ。
だけど、今はまだ気持ちの整理ができてないから、まだまだ先になるかな。
そんなことを思いながら、私は、走ったことで渇いた喉を潤すべく、近くのコンビニへと向かった。