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本能異常  作者: 伽藍の空
6/7

精神侵食06

練習、合宿、遠征で己を鍛え上げていました。


要するに、忙しくて執筆遅れただけです。すみません。







さて、今回で精神侵食は完結になります。

では、どうぞ!

◆◆◆


僕たちは、一度病院に戻った。僕も沙恵も怪我をしてしまったし、何より佑希さんのことが気がかりだったから。

病院に着くと、受付で佑希さんの部屋番号を聞いて、急いで向かった。

無事で居てくれるといいのだが…。

様々な不安を抱きながら、僕たちは部屋のドアを開けた。

「佑希さん!大丈夫ですか!?」

「佑希!無事か!?」

「アハハハ!あら、刀耶と沙恵じゃない、いらっしゃい」

佑希さんは、漫画を読んで爆笑していた。

「いや、元気そうだな、オイ!」

沙恵が佑希さんに対して、突っ込む。

「あ、ごめんごめん。だってコレ、フフフ」

「…はぁ。でも無事なようで何よりです」

僕は、体から一気に力が抜けた。

「まぁ何もなくてよかった。刀耶、佑希、私はちょっと席を外す」

そう言って、沙恵は病室を出た。

「あ、沙恵!

…どうしたんだろう?」

「多分自分のせいで私が怪我をさせてしまったことを気にしているからでしょうね…。あの子、ああ見えてそういうのすごい気にするから…」

佑希さんは、哀しそうな目でドアを見つめていた。

「でも、沙恵が元に戻ってよかったわ。もう駄目だと踏んでいたのに」

「はい、本当によかったです」

あそこまで、病魔に蝕まれていたんだ。元に戻ったのは、奇跡としか言い様が無いだろう。ただ、いくつか引っ掛かることがある。

「佑希さん、ちょっといいですか?」

僕は、佑希さんに質問した。

「ん、何かしら?」

「実は、沙恵が元に戻る直前の様子や言動がちょっと気になりまして…」

「…言って見て」

「沙恵、元に戻る直前に、病魔を『侵食した』とか、本能を『書き換える』と発言していたんです。その直後に『本能人格』の沙恵が消えたんです」

「…他には?」

「えーと……あっ、あと沙恵はこのことを覚えていませんでした」

そう、沙恵にこの話をした時、「私はそんなこと覚えてない」と言っていた。確かにあの様子からして、あの時の沙恵は、『本当の』沙恵だった。

「気になったのは、この点くらいですかね」

「………なるほどね…」

佑希さんは、黙り込んでしまった。これらの点について、思案に暮れているのだろう。

そんな中、静寂を破ってある来訪者が病室に入って来た。

「佑希〜、調子はどう?」入って来たのは、沙恵のお母さんの坂神沙波(さかがみさわ)さんだった。黒いジーンズにワイシャツを着込んだ、沙恵と同じく黒髪のショートカット。職業は、高校の数学教師だ。因みに、沙恵は大学の近くのマンションに住んでるので、沙恵と沙波さんは一緒に暮らしていない。

「あら、沙波じゃない。、この通りもう大丈夫よ」

「そう、よかったわ。

あら、刀耶君、こんにちは」

「こんにちは、沙波さん」僕は、沙波さんに挨拶を返す。

「今回は、沙恵が迷惑かけたみたいで…」

「いいのよ。気にしないで。沙恵は悪くないんだから。」

「『病魔』せいだ、って言うんでしょ?でも、沙恵がやってしまったことには、変わらないんだから。

本当にごめんなさいね」

そう言うと沙波さんは、頭を下げた。

「もう、そんなに気負わなくていいのよ。私もこうして無事なんだから」

「そうですよ。沙恵も治ったんですから。終わり良ければ全て良しですよ」

と、僕もここでフォローを入れる。

「そう。そう言ってもらえると、助かるわ。

それにしても、『病魔』は、不治の精神病とか聞いていたけど、治って本当によかったわ」

「本当、その一言に尽きるわ。

……ところで沙波、ちょっと聞きたい事があるのだけれど、いい?」

ここで、佑希さんの表情が若干変わった。

「え?ええ、別に構わないけど…」

沙波さんもそれを感じ取ったのか、困惑気味に返事をした。

「ありがとう。

刀耶、ちょっと席を外してもらえる?」

「あ、はい、分かりました」

訳が分からぬまま、僕は病室を出た。

「さて、沙波、聞きたい事って言うのは、沙恵の『病魔』が治ったことに関してなのだけれど………」













こうして、病室の外に出てきたわけだが…。

「…沙恵を探しに行くか」しかし、何処にいるか分からない。が、

「まぁ、あそこだろうな」僕は迷うことなく、ある所に向かった。














***


心地よい風が頬に当たる。しかし、そんな風も今の私には、あまり気持ちの良いものではなかった。

佑希を傷つけてしまったこと。その事実が、今の私の気持ちを暗くしていた。

「はぁ……」

さっきから溜め息ばかりだ。佑希は、気にするな、と言っていたが、これを気にしないわけがない。

そんな重い空気が漂う所に、『あいつ』が現れた。

「あ、やっぱりここにいた」

そう言って刀耶が私の隣に立った。

「まるで私がここに来ていたのが分かっていたような口振りだな」

「だって、沙恵って嫌なことがあるといつも屋上に来るでしょ?」

「……ホント、お前はいつも、どうでもいいことは、察しがいいよな」

そう、ここは、病院の屋上だ。刀耶の言う通り、私は嫌なことがあると、屋上に足を運ぶ。高い所から見える風景を見ると、気持ちが落ち着いて、暗い気持ちが緩和される。しかし、今回ばかりは、そう簡単に暗い気持ちは晴れない。

「沙恵、そんなに落ち込まないでよ。佑希さんだって気にしなくてもいいって言ってたでしょ?」

「こんなことを気にしないわけないだろ。というか、気にしない方がどうかしてる」

私がこう反論すると、刀耶は、溜め息混じりに息を吐いて、こう続けた。

「確かに、こういうことは気にしてしまうし、気にしなければならないことだよ。でも、沙恵がいつまでもそうだと、佑希さんだってずっと不安な気持ちのままなんだよ。終わり良ければ全て良し。佑希さんもなんともないんだから、そんな落ち込まなくていいんだよ」

「………」

確かに、引きずり過ぎるのも良くないが、だからといって、そんなすぐに気持ちを切り替えろって言われても無理だ。

「まぁ、そんなすぐに気持ちを切り替えろとは言わないけど、佑希さんの前では普通に振る舞ってよ」

ね?と、続けた。

…どうして、刀耶は、私の思ったことを的確に、読み取れるのだろうか?

そう思いながら、私は、「分かった」と返事をした。すると、刀耶は私に歩み寄り、いきなり私の頬を摘んできた。

「ほら、そんな暗い顔しないで」

「や、やめろ刀耶…」

引き離そうとしたが、そうすると、逆に頬が痛くなるので、諦めた。

…なんか恥ずかしい……。すると、不意に刀耶の携帯が鳴ったので、刀耶は私から手を離す。

ふぅ、やっと解放された…。

「あ、佑希さんからだ」

着信の相手は佑希らしい。「はい、もしもし」

『あ、刀耶。今すぐ私の病室まで来てくれる?出来れば、沙恵も一緒に』

「はい、分かりました」

短いやり取りをして、刀耶は通話を止める。

「なんだって?」

「今すぐ佑希さんの病室に二人で来てほしいって。ほら、行こう」

そう言って、刀耶は私の手を取る。

「分かった」

私たちは、佑希の病室に向かった。














「失礼します」

「入るぞ」

私たちは軽く挨拶をして、佑希の病室に入る。

「ああ、来た来た。まぁ二人とも座って」

私たちはベッドの側の椅子に腰掛ける。

「あれ、沙波さんは?」

「沙波なら帰ったよ。なんでも急な用事が出来たって」

母さんが来ていたのか。最近会ってなかったから、挨拶くらいしたかったな…。「さて、今からあることを話すけど、内容は絶対外に漏らしちゃ駄目だからね」「はぁ…。分かりました」「……分かった」

外に漏らすなとはどういうことなのだろうか?そこまで内密にしなければならないことなのか?

「内容は、沙恵が元に戻った件について。その理由が分かったのよ」

「へぇ。どのようなものなんですか?」

刀耶がその理由について尋ねる。

「なんでも『言霊』の力らしいの」

『言霊』?そんなオカルト的な物が今回の事件に関わっているのか?

「ところで、『言霊』って何か知ってる?」

佑希が私たちに質問を投げ掛ける。

「言葉が持っている霊力のことですよね?その霊力が強いと、発した言葉通りに物事が進むとか」

「ああ、私もそれくらいは知ってる」

「その『言霊』の力を沙恵が使えるらしいの」

「…………え?」

「…………は?」

何を言ってるんだ。私が、『言霊』の力を使える?

「それはどういうことなんだ?」

私は堪らず、佑希に問う。「……ちょっと長くなるわよ。

古来、強力な言霊の力を使うことができる一族がいた。それが、坂神家と女良(めら)家。この二つの家柄は、日々権力争いをしていた。でも、こんなくだらない争いを続けるわけにもいかない。そこで、二家の代表で話し合い、この争いに終止符を打つことにした。期日を決めて、大戦を行うことにしたの。でも、その期日前に女良家は、坂神家をなんの予告も無く急襲した。坂神家は、いきなりのことに混乱したものの、必死に対抗した。しかし、為す術無く、坂神家は一族郎党皆殺しにされ、坂神の血は、完全に根絶やしにされたかと思われた…。でも、生まれて間もない赤ん坊とその母親は、逃げ延びた。そして、その赤ん坊が成長して子を為し、徐々にだけど、坂神家は復活してきたの」

「あれ、女良家は?また、坂神家に攻撃を仕掛けたりしなかったんですか?」

そう刀耶が佑希に疑問点を問う。私も同じようなことを考えていた。

「それが、その時女良家は内輪揉めしていたらしいのよ。後継者争いでね」

「内輪揉めが終わった後はどうだったんだ?また、坂神は攻められたのか?」

今度は、私から佑希に問う。

「いいえ、それはなかったらしいわ」

「何故?」

「後継者争いの時、派閥が二つに別れたの。けど、その派閥の勢力は、大きさに偏りがあった。でも、勝ったのは、小さい派閥だった。何故か分かる?」

佑希が私に問う。

「派閥が大き過ぎれば、またその派閥内で争いが起こるからか…」

「その通り。その争いが終わった後の坂神家は、女良家よりも勢力は大きかったから、攻められることはなかったわ」

「ところで、誰から聞いたんだ?そんな話?」

こんな詳しいことを、面倒くさがりの佑希が調べられるはずが無い。情報元があるはずだ。

「沙波よ。まぁ、沙波もあなたのお父さんに聞いたらしいけど」

「母さんが?」

「そう。沙波によると、坂神家の血を引くものは全国各地にいるらしいわ。その中の一つが沙恵の家なの」知らなかった…。今まで、そんなこと微塵も聞いたことない。でも、なんで?

私が思案にくれていれていると、次は刀耶が佑希に質問した。

「では、女良家はどうなんですか?現代において、血を引くものは居るんですか?」

「それが分からないらしいのよ。なんでも、二百年前くらいに女良家は、忽然とその姿を消したらしいの。理由も分かってないわ。もしかしたら存在を隠して勢力を拡大するためかもしれないし、また内輪揉めしてそのまま滅亡したかもしれない」

「成る程。だから坂神家は、無事に現代に至るまで、坂神の血を受け継ぐことが出来たんですね」

「確かに、そう言えるわね。

さて、沙恵のことに関してだけど、沙恵は、現代の坂神家の中でも強い言霊を扱えるわ。故に、精神に介入することも可能になるの。だから、沙恵は、言霊によって病魔を『侵食』し、本能を『書き換えた』。そんなところね」「そうなのか?私はそんな実感無いんだけど…」

そう、私は今まで言霊の力を使える、という実感どころか、そのことさえ知らなかったのだ。そんな私が強い言霊の力があるとは思えない。

「それは、余りにも力が強いから、それを封じ込めているかららしいわよ。力が暴走しないようにね」

そうなると、また新たな疑問が生まれる。

「なら、なんで私の力は、いきなり目醒めたりしたんだ?」

「これは沙波の予想だけど、多分沙恵の身が危険にさらされたから、その危険を回避しようと、言霊の力が増殖して封じ込める力を押し破って表に出た。そして、その危険が回避され、言霊の力が収まり、再び封じ込められた、という事だと思うって言ってたわ」

「そうなんだ…。

あと、もうひとつ。なんでこの事は他言しちゃいけないんだ?」

そう質問すると、佑希は、険しい顔つきになった。

「…実は、何年か前に、各地で死亡事故が多発したの。まぁ現在は、もう起きてはいないけど。

転落死、交通事故死、溺死…。その原因は様々だった。ただ一つ共通点があったの。その共通点というのが、死亡者の苗字が皆坂神だということ」

「!!」

その事実を聞かされた私は、背筋が凍った。刀耶の方に目をやると、刀耶も驚いた表情をしている。

「佑希さん、もしかして、それって…」

刀耶が恐る恐る尋ねる。

「ええ、女良家の仕業の可能性が高いわ」

「でも、女良家は、大昔に存在が消えたんですよね?それなのにどうして…?」「さっき言ったでしょ?何らかの理由があって姿を消していた可能性もあるって」

それを聞いた私はあることが頭に浮かんだ。多分女良家の目的は…

「女良家の復活及び発展なのか…?」

私はそう呟いた。

「多分そうでしょうね」

「でもよりによって、なんで科学が発展している現代にそんなことする必要があるんですか?」

まぁ刀耶の言うことも最もだ。何故早い内に決行しなかったのだろう?

その疑問に佑希が答える。「そんな現代だからこそよ。科学で出来なかったことを言霊の力で簡単に出来たとしたら人々は、どう思う?」

「確かに、言霊に関して注目しますね」

「そうね。

そうやって発展しようとしている女良家。それを見て坂神家の連中が黙っているはずが無い。だから先手を打って坂神家の人間を消しにかかった。

女良家は、特に力の強い坂神家を狙ってる。そんな中沙恵のことを知ったら、女良の連中はどうするかしら?」

「絶対私を消しにかかるな」

「そ、そんな!!」

刀耶がすごい動揺している。なんでお前が私以上に動揺するんだ?

「まぁ、だからこのことは、絶対に外部の人間に話しちゃだめだからね。

さて、これで話はお終い。帰っていいわよ」

そう軽いノリで佑希が言ってきた。

「なんでそんな気楽に居られるんですか!」

「だって、誰も沙恵の言霊の力に関して他言しなければ大丈夫なんだから、そんな気負う必要ないの。

まだ居てもいいけど、静かにしてね。これから見たいアニメが始まるから」

「「はぁ……」」

そう言われて、私達二人は大きな溜め息をついた。

「ホント、お前は相変わらずだな。まぁいいや。刀耶、帰ろうぜ。私達お邪魔みたいだ」

皮肉混じりにそう呟いて、私は病室を出た。

「あ、待ってよ沙恵!

では、佑希さんこれで失礼します。お大事にしてください」

「ありがとね」

「それでは」

「バイバ〜イ」

そう挨拶をして、刀耶もすぐ私の後を追うように病室を出た。













優しい夕焼けの下、私達は肩を並べて自宅へ向かって歩く。

その途中、いきなり刀耶が話しかけてきた。

「ねぇ沙恵。沙恵は、さっきの話を聞いてどう思った?」

「ん?あー、特に何も」

深刻そうな問いかけに、私は軽い感じ返事をした。

「何もって……。

沙恵は怖くないの?」

「多少は怖いさ。だけど、今狙われてるわけではないだろ?だったらそんな深刻に考えなくてもいい」

「そう…」

私の答えに、刀耶は不満げだ。だけど、本当にそんな気負う必要は無いと思う。だって、そんなことに怯えながら生活してたら、精神が病んで、また病魔にかかってしまう。

すると、刀耶が私にこう言ってきた。

「沙恵、もし君に何かあったら、僕が守からね」

「なっ!」

こいつ、いきなり何言ってんだよ!?

「あ、ありがとう…」

でも嬉しいので取り敢えず、礼を言う。

「沙恵、もしかして照れてる?」

刀耶が顔を覗き込んで言ってきた。

「そ、そんなわけないだろ!さっさと帰るぞ!」

図星なので、照れてるのを悟られないように、私は小走りで道を進む。

「ちょっと沙恵!どうしたの!?おーい!」

…全くお前は本当にそういう事に関して鈍いよな。だけど、私は不器用だけど優しいお前が……。

柄に合わないことを考えながら、刀耶の叫びを背に歩を進める。平和な日常へ帰るために。



精神侵食・完

精神侵食完結しました。なんだか達成感があります。



さて、ここで次話の予告を少し。

次話から、沙恵、刀耶、佑希を中心に平和な日常を描いていきます。

ではまた次回、『平穏日常』でお会いしましょう。

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