結婚とは
はうぅ、怖かったよぉ。
怖すぎて思わずアベルから逃げ出してジョージにすがりついた。自分より年下であるのに。お姉さん失格である。
「あうぅ、ジョージ」
よしよしと頭を撫でられながら落ち着いた。
とりあえず頭の中を整理する。
まず、この国は私がいた世界とは違う国、動物の王国である。
そして国王のフランシスが統治していて、元は動物であったが人間に変われるらしい。それは大人になった証であること。
また名前がついている人は結婚している、ただし王族は別。
「これで如何でしょう」
「うん、夏希は偉いねぇ」
「えへへ」
可愛い子に褒められる、なんて素晴らしい響きでございましょうか。
「それで夏希は僕と結婚するんだよね」
「・・はい?」
「良かった、『はい』って言ってくれて」
いや、これは肯定ではなくて疑問の『はい』です。
「夏希は俺と結婚だよね」
いや、アベルと結婚するとか言ってないし。
「あら夏希様はモテモテですわね」
いや、動物にモテても。茶化さないで下さい、兎さん。あ、兎さんってことは、まだ結婚してないんだ。こんな綺麗なのに、男達は何をしてるんだか。こうなれば、私が。
「兎さん、結婚して下さい」
「まあ」
「夏希、僕はどうなるの!?」
ジョージがしがみついて秘技、上目遣いを行使している。
「あう、こ、これが男が落ちるテクか」
やばい、これは好きじゃない女の子がやっても男の胸はときめくよ。現に夏希の鼓動は早くなっている。いや、これは腰にしがみついているジョージがぎゅうぎゅうと締め付けるから別の意味でドキドキしているんだ。
「夏希が僕に結婚しようって言ったよね」
「ぐ、それは知らな・・」
「知らなかったでは警察は通りませんわ」
いや、兎さん。この国に警察なんているのですか。なんか子犬が帽子被って嫌々ながら身の丈に合わない服を着ている姿が浮かぶ。
「夏希は僕のでしょう」
だ、誰か、誰でもいいから何とかしてくれ。
――パンッ
夏希の思いが届いたのだろうか、乾いた音が空を切った。
誰かが手を叩いたようだ。
それだけなのに兎さんとジョージがすっと立ち上がって頭を垂れた。
「お前達、それくらいにしておけ」
「フ、フランス」
「・・フランシスだ」
救世主現る、果たして夏希はどうなるのか、次回をご期待ください。
「この阿呆め」
「はうぅ、罵られてるよぉ。これを快感ととるべきか、いやまだ健全でいたい」
はい、腐った奴みたいな目で見られました。