春よ恋
ジョージを慎重に下ろすと直ぐにベッドに駆け上がって布団に丸まった。
「・・・」
ジョージはその場を動こうとせずになんだか寂しげにこちらを見ながら下がる。
風により乱れてしまった毛並みと寒さでだろうか、震えている。
「ジョージ、寒いん?」
こくりと怯えながら頷くジョージを見てると自分が悪代官のようだ。お主も悪よのう、と言いたいが相手はジョージだけだ。こんな冗談なんて分からないだろう。
「・・おいでよ」
布団を広げて手招きする。
ジョージはびっくりしたように見るが恐る恐る近寄ってきてベッドにぴょんと跳ねた。しかし、それでも後数歩というところで止まった。
動物が苦手という夏希に遠慮してくれているのだろう。
小さいというのになんてできている子なんだ。
こんな子に気を使わせている自分が恥ずかしい。
「ごめんね、ジョージ」
やはり躊躇があったが自分から手を伸ばしてジョージの頭に触れた。
「柔らかいな」
手のひらで触れると、余りの小ささに驚く。
手の中のジョージは夏希が触るとびくりとしたが遠慮がちに触れる夏希の手に身体をこすり合わせる。
「う―、あんま動かないでよ」
そう言うとジョージは言葉を理解しているらしく動きを止めた。
「こうしてると可愛いんだけどなぁ」
動物は何を考えているか分からないため、どうすればいいか分からないのだ。
「ねぇ、ジョージ。君は何を考えてるのかな」
答えなど返ってくるばずがないがないと分かっているのだがつい話しかけてしまう。
「ねぇ、動物が言っていることが分かれば少しは好きになれるんだけどなぁ」
ねえ、というが返事を期待しているわけではない。
だけど思うのだ。
動物の言っていることが分かれば少しは仲良くなれるのに。どうして鳴いているのか、どうして耳をぴんと張っているのか。
人間のように話せればいいのに。
「ジョージは夏希様が大好きだ、と言ってますよ」
「ふぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
突然、耳に入ってきた声に大声を上げてしまった。
後ろを振り向くと、なんと顔に笑みを浮かべた兎さんではないか。
な、なぜここに。
そんな夏希の表情を読み取り、豊かな胸から金色の鍵を取り出した。
「魔法の鍵!!」
「・・合い鍵ですわ」
なんでこうも、この国の人達はノリが悪いんだろう。
「ジョージは夏希様に一目惚れだそうですわ」
しかも驚きの余り、変なポーズをとっている夏希をスルーするという無視スキルが高い。
しかしスルーされたという事実は今は置いておこう。
「一目惚れ!? 誰が誰に、何のために?」
「一目惚れに目的などあるのですか?」
「ないけどさ、君の瞳に本気で恋する2秒前」
「意味が分かりませんわ」
ごめん、兎さん。自分でも分からないから説明出来ない。
「って、えー!!」
いやいや、いくら鈍いと友達に言われる私でもここまで言われれば分かった。
ジョージはアベルが好きなんだ。
だから私の邪魔をしてるんだ。あの時もアベルとくっつかないように私にわざとくっついて見張っていたんだな。
ジョージって雄だけどアベルが好きなんだ。でも諦めてはいけないよ。この国では分からないけれど他国では同性の結婚が認められるところがあるからね。
どうして、そうなるのか、夏希の思考は誰にも読めない。
うんうんと頷く夏希を見て、兎さんとジョージはやっと分かってくれたかと目を輝かせる。
「私、応援してるよ!」
「・・はい?」
どうして本人に好きと言っているのに応援などされなくてはいけないのか。
彼女の頭の中を一回でいいから覗いてみたいものだ。
ジョージと兎さんは2人して赤い目を夏希に向けた。
うふふ、おバカちゃん