ウミガメ
食事中の皆さまは
ご飯を終えてから見る方がいいかもしれない・・・
呼吸も何もできずに夏希が真っ青になっていると、べりっとジョージが剥がされた。最後の方は抵抗して夏希にしがみついていたが剥がした相手を見て動きは止まった。
「大丈夫か?」
「・・もう嫌だ。帰りたい。いや、土に還りたい。先立つ不孝をお許し下さい」
「ちょっと待て」
「止めるな、フランシスよ。私は潔く土に埋まってくる」
まだ、ぷるぷるしている身体をなんとか立たせて外へと向かおうと歩み始める。
人生、まだ4分の1も過ごしていなかったけけれど肉体はもう100歳を超えたかのように疲れたよ。ああ、一人で私と弟を育ててくれた母には感謝しきれないが先に天国で待っております。
そのまま本当に死にそうな夏希の腕を掴んで思考をこちらへと戻させる。
「死ぬな、まだ早いぞ」
「いいえ、私は生涯、動物と馴れ合いをしないと誓っておりましたがその約束を早々と破ってしまいました。これは死んでお詫びせねば償いきれませぬ」
「誰に誓ったんだ!?」
「近所の駄菓子屋さんの金色に光る招き猫にです」
「・・戻ってこい」
頭をがっくんがっくん揺さぶられて夏希の脳みそが揺れる、揺れる、揺れまくる。
「う・・すとっ・・や、やめ・・・やめんかぁぁ!!」
夏希は頭を揺さぶられた気持ち悪さから手加減なしにフランシスの顎に拳をお見舞いしてしまった。何かいい音がした、そして呻き声も。
だが夏希も気分が悪く蹲る。今にも吐きたい、だが女の子は我慢だ、我慢。
女の子は授業中にトイレに行きたくても我慢するんだ。そうだ、これくらい我慢できる。
「だ、大丈夫か?」
自分も痛む顎を押さえながら、フランシスはジョージを片手に夏希の背中をさする。優しさにときめく瞬間だが、夏希は手を口に当て涙目で訴える。
「う、うう・・おいえ、どご?」
「おいえ?」
夏希は限界が迫っていた。
それなのに、その姿を見て悶えている奴が夏希の我慢を超えてしまう。
「・・おおう、ウミガメが産卵時に見せる涙のようだ」
ちなみにウミガメが産卵時に泣いているように見えるのは体内に溜まった余分な塩分を排出しているために出るのだが、そこは置いておこう。
「誰の子だ?」
「・・あ?」
「誰の子を産もうとしているんだ」
「・・・」
夏希の頭はすっと冷えて、殺人を犯すような目でフランシスを見る。
そして自力で立ち上がり、近くの部屋を開けるがそこは何も置いていない場所だった。ならば、と次の扉を開けるがそこは衣装室だ。
「お、おい」
夏希の突然の行動についていけなかったフランシスだが、次々と扉を開ける夏希を見てやっと不審に思う。
そして後をついて行くが夏希はフランシスを見ようともしない。
そのため、フランシスは夏希の顔をこちらに向かせた。
「何故、見ない?」
「うに・・ヴメ」
「ヴメ?」
その瞬間、夏希はフランシスの服に吐いていた。
せっかく我慢したのに、こいつのせいで乙女の品格が失われた。