だって君は3位だもん
もう意識が夢の国に飛び立っている時だった。目の前に大きな苺のケーキが現れ、夏希が大きな口を開けて食べようとしたその瞬間、アベルの声が夏希を現実世界へと戻した。
「そろそろ行こうか」
「ふ、へ・・うん分かった」
口から出そうになった涎を押さえて、ゆっくりと立ち上がった。
くそう、あと少しだったのに。あんな大きいケーキは二度とお目にかかれない美味しそうなケーキだったのにぃ。
ぐぬぬ、と悔しそうな顔をしている夏希を見て、どうせ食べ物のことだろうと思っているアベルには気付かなかった。
「たっだいま」
元気良く、門番に挨拶をする。今の姿は大きなごつい顔の人型だが本来はゴリラだと聞いた。だが、人型ならきっと大丈夫、若干へっぴり腰になりながらも手を上げてアベルと一緒に門を通る。
ゴリちゃん(夏希命名)は軽く会釈をしただけだったが夏希はより一層手をぶんぶんと振る。
「・・子供だねぇ」
「高校生はまだ子供です」
びしっと親指をつきたてながら満面の笑みを見せる夏希に小さな声で呟く。
「いや、俺が言ってるのは精神レベルがぁっ・・!」
「ええ?何ですか?夏希ちゃんは可愛らしいって?ドウモアリガトウ」
最後の方が機械のように感情を込めずに言いながら、顎を押さえて蹲るアベルににっこり笑いかける。その右手は硬く結ばれており、甲が少し赤くなっていた。
「暴力反対」
「愛の鞭です」
夏希はアベルを置いて城の中へと戻って行った。その後ろ姿を見送るのはさらに愛の鞭を頭に受けて涙目になりながらも何故か喜々としているアベルと、それを遠い目をしてみているゴリちゃんだけだった。
だが夏希が自室に戻ろうと長い廊下を歩いている時だった。
メイド服を着たガゼルさんが大きな目をくりっとさせながら、とろけさせる笑みで夏希を出迎えながら顔に似合わない爆弾を落とす。
ちなみにガゼルとは鹿に似た動物だがウシ科で砂漠に住んでいる。
「国王が早く執務室にきやがれと言ってますよ」
「・・ごめん、聞き取れなかった」
「国王が早く執務室にきやがれと言ってますよ」
「ごめん、もう一回」
「国王が早く執務室にきやがれと言ってますよ」
3度も同じ言葉を繰り返してもらったことに罪悪感を覚えるが、どうしてもその言葉が頭に入ってこないのだから仕方がない。
「拒否は?」
「できません」
にっこりと笑顔つきで胸がきゅんとする。思わず胸を両手で押さえてしまったが、じりじりと後ずさりを始める。それに合わせてガゼルさんも動く。
脱兎のごとく後ろを向いて走り出すがものの5秒で捕まってしまった。
そりゃそうさ、足の速い動物で第3位の記録保持者だもん。時速86Kmの動物にはどう足掻こうと勝てやしない。
後ろで手を押さえられながら、泣く泣く夏希はガゼルさんが執務室の扉を叩くのを涙ながらに見つめた。
ガゼルという動物を見たことはないのですが
俊足という言葉に惹かれ、載せてみました^^
なにか
お薦めの動物がいたら教えてください