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牛の胃袋は4つ








 夏希は満腹となって、もう動くことが出来ない身体を柔らかな草の上に落とした。

 食べ過ぎて気持ち悪くなるほどだ。こんなに食べたのは一昨日の夕ご飯のカレーぶりだ。つい最近じゃんって?だって、いつも満腹まで食べるんだもん。




「夏希の胃袋って牛なみだね」


「うっさいわ」


「知ってた?牛の胃袋は4つもあって牛の第1胃は、植物の繊維を分解する役割があるんだ。牛の第2胃には、エサを食道まで押し戻す役割があって、牛の第3胃は、水と栄養物を吸収するとともに、大きなエサをより分けて第1、2胃へと反芻する機能もある。で、最後は牛の第4胃。そこでは胃液の分泌があって、人間の消化器と同じ役割があるんだ」




 アベルが説明をしてくれるのに私の頭の中は「牛のタンが食べたい」でいっぱいだった。ごめん、女じゃなくて、意地汚くて。






「乙女の胃には甘い物は別腹っていうものがあるんですぅ」


「・・乙女?」


「うざいわっ!」



 どこが乙女なの、という視線はもう見飽きた。というか今更、乙女かよっていう視線が結構痛いぜ、びんびんくる。だがそんなことでは、へこたれないのが私だ。アベルの痛い視線なんて気にしないで、一休みして小腹が空いたらまた強請(ねだ)るのが私さ。





 もちろんお金はアベルが出してくれたので、いつも小遣いが食べ物に使われ、お菓子を我慢しなくてはならない夏希の財布事情とは違うから、ついつい食べてしまう。




「そんな食べなくても毎日連れてくるのに。今食べちゃうと楽しみが減るよ」


「何を言っているんだね、アベル君。今日は昨日とは違う」


「はい?」


 芝居がかった夏希の科白にアベルは耳を疑う。こいつ、大丈夫かという視線つきで。


「そんな目で見るな。つまりはね、毎日というものは雲のようなんだよ。今日の雲はほら、人間みたいな形じゃん」


 空に浮かぶ雲に向かって指をさす。その雲はまるで人間の横顔のような顔をしている。


「ほら、だんだんと形が崩れて来てる。この形に似たような物は明日にできるかもしれない、けど同じものじゃない。つまり、同じ物は二度とできないってことだよ。だから今日食べたお菓子も同じ製法、同じ味かもしれないけれど、明日になれば少し違うかもしれないってことさ」





 だから毎日お菓子を食べているという訳じゃないぞ。ハンドボールはすごく動くんだ、お腹がすくんだ。だから、その分を何かで補給しないと倒れてしまうんだ。






「へー、結構頭はあるんだ」


「失礼なっ!確かに部活少女だが勉強はちゃんとしているぞ、そうしないと母にお菓子を没収されてしまうんだ」





 以前に物理で赤点をとってしまった時といったら、身体ががたぶるだ。家中という家中のお菓子を隠され、お小遣いは貰えないから食べ物も買えず、しかも根回しをした母により友達も近所の人たちもお菓子を分けてくれなかった。

 もう涙が出たね、禁断症状のせいで頭が狂うかと思ったくらいだ。

 それからはきっちりと勉強をしている。テストで良い点を取ると母が有名なケーキを買ってくれるのだ、あの味は神にしか出せない旨さだ。





 いやぁー、今となってはいい思い出だ。遠い目をして、また形を変えた雲に目を移す。気持ちの良い風が夏希の前髪を撫でた。






 ゆったりな風と優しい日差しが当たるため夏希は瞼がだんだんと落ちていく。


 あまりの心地よさに白目になってしまった時だった。


「・・ねえ、夏希は親に大切にされた?」


「そ、だね」


 急にアベルが質問をするため寝ぼけたまま答えた。


「うちには弟がいるんだけどね、生意気で。うちの母は私と弟を大事に、大事にしてくれてるよ」


「そう・・いいな」




 アベルの呟きは風にさらわれて夏希の耳に届くことは無かった。









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