日常から非日常への変化の鍵
前回の面影など微塵も残っていない続きです。
今回もよろしくお願いします。
気持ちよい朝だった。空は青く雲がゆっくり流れていた。
「気持ちいい朝だなぁ」
隣にいる斎木透が言った。帝はそれに同意して「そうだね」と言う。
学校に行く時はとにかく話が弾まない。仲が悪いとかじゃなくて、ただ帝は朝が苦手なだけだった。 しかし今日はそんなに辛くない。むしろどんな時よりも身体が軽かった。
「なぁ、帝。何回も言うけどさ、いい加減その格好やめないか?」
「何で?僕は結構このブランド気に入っているんだけど」
「いや、ティーシャツのことじゃなくて…」
いつも言われる言葉の意味が、帝にも分かっている。しかしいつも真面目に答えることはない。隠す理由もないけれど、ただ面倒くさいだけだ。他人に理解されるとも思っていない。
女子にしては短い、しかし男子にしては少し長めの栗色の髪にも、髪と同じ色の瞳にも、少しヤンキーちっくな学ランにも別に意味はない。ただこの方が、髪の色も瞳の色も誤魔化しやすいと思っているからそんな格好をしているだけだ。それにこの服装は動きやすい。特にヤンキーに絡まれたときは便利だ。たとえばこんな時に。
「おい、お前何睨んでんだぁ?」
「なんだ?お前なんか文句あんのかぁ、あゞ?」
いかにもヤンキーですと言わんばかりの時代遅れな絡み方。今まで何度となく絡まれてきた経験からすれば、真面目に相手をするよりは素早く行動しかわしていくか、それでもしつこければノックアウトだ。殆どの場合は後者のほうが多い。そして今回も例に漏れず、しつこい。
「おい、何か言えよ、お前」
「何だぁ、その眼は?俺らとやるつもりかぁ?」
この言葉を帝が聞いてから、わずか数秒。絡んできたヤンキーたちは立てないほどになっていた。驚いていたのはそのヤンキーたちだけで、日常茶飯事であるこの状況に帝はもちろん透も驚いてはいなかった。そしていつも通り学校の本鈴が鳴る。
「あーあ、また今日も遅刻かよ…」
いつも通りの結果に、透はあきらめの言葉を口にした。どれもこれもがいつも通りだった。
§§§§
妙にスーツの似合わない体育会系の男と、スーツの似合わない派手な女が歩いていた。
「おい、何か言えよ、お前」
「何だぁ、その眼は?俺らとやるつもりかぁ?」
そこに聞こえてきた声はどうやら学生の不良たちのものらしく、同じくらいの学生に絡んでいた。男が正義感から出て行こうとしたその時、絡んでいた不良たちが倒れていた。その時、近くの学校のチャイムが鳴る。
「あーあ、また今日も遅刻かよ…」
絡まれていた学生の一人が言った。そして何事もなかったかのように学生たちは歩いていった。
「何だ、アイツら?今何が起こった?」
「さぁ、一瞬だったから。あの子達が強かったんじゃない?」
「もしかしてアイツらじゃないか?」
「そんな事知らないわよ。聖王陛下に聞いてみればいいじゃない」
適当な女の返答に男は少し不服そうに「分かっている」と言った。いつもと少し違った朝の出来事だった。
§§§§
帝と透が学校に着いたときは、既にホームルームも終わろうとしていた時だった。
「……あなた達、どうしていつも遅刻なのかしら?」
二人の担任である女教師が怒りを抑えたように言う。しかし帝も透も聞き飽きた言葉だし、言い飽きた言い訳は答えるつもりもない。
「……いつも言うけれど星漣寺さん、何でそんな格好をしているの?」
「いつも言いますけど、別に。特に理由は」
帝が答えたその言葉は帝の本心だが、担任の耳には適当にあしらわれているように聞こえたらしい。まぁ、実際そう思うところもあった。
「斎木君、もう授業に戻っていいわよ。先生は星漣寺さんともう少しお話があるから」
担任の怒りはもはや抑えられるものではないらしい。皮肉めいた言葉には、更に抑えきれない怒りがこもっていた。「え、でも」と帝を心配した透もそれに気付き、いそいそとその場を離れた。そしてそれから一時限目が終わるまで延々と説教が続いた。
お昼休みが始まった。帝には友達と呼べる友達も少なく、透と屋上で購買部のパンを食べるのが普通だ。いつも食べるクリームメロンパンとチョコレートとイチゴ牛乳に、透は「そんなもん食べててよく太らないな」と言う。しかし帝はこれが好きなのだ。見た目に反して甘いものが好きなのだ。それと反対に透は、甘いものは好きじゃないらしい。コロッケパンと焼きそばパンとコーラという組み合わせである。見た目どおりの好みだ。二人ともパンをほおばりながら話す。
「今日もいい天気だなぁ、帝」
「うん。そうだね」
何の意味もない会話でも、二人のコミュニケーションは成り立つ。それは幼馴染という長い時間の中で生成されたものだ。だから人と関わるのが苦手な帝でも友達とお昼を過ごすことが出来る。透と過ごす時間。それは帝にとって、とても大きな意味を持つ。小さいときに両親を亡くしてからずっと透に縋り付いてきた。透には悪いけど、ずっと透とは離れたくない。
「ずっと友達でいてくれるよね?」
心の中の問いかけは、無意識のうちに言葉にしていた。それすらが、透には迷惑かもしれない。しかし透が帝と一緒にいてくれる保証などないのだ。それだけが帝の不安だった。
「何だ、いきなり?当たり前だろ。ずっと、友達だ」
透が帝に笑いかけた。それだけで帝の不安は解消されるのだから透の言葉はすごい。いや、違う。帝の透への依存度がすごいのだ。それは単に幼馴染だからとかそういうのじゃなくて、ずっと一緒にいたいと思えるような安心感がある。たったの十六年間なんてものじゃなくて、もっとずっと前から知り合いだったような気がするのだ。
前世からの付き合いと言えば聞こえがいいかも知れないが、そんな甘い関係ではない。今この場に二人一緒にいることが奇跡であるような違和感さえしてくる。
ここで帝は改めて気付く。透は帝のことをどう思っているのだろうかということを。そしてそれは考えないようにしている。たとえ迷惑だと思われていても帝は透から離れられないのだ。離れたくないのだ。だからこそ、そこで思考することを停止する。そうすれば、それを知るまでは帝は傷つかないでいられるからだ。
そんなことを考えているうちに時間は経ち、予鈴が鳴った。
「ほら帝、昼休み終わったぞ。次は英語だぞ。遅刻したら先生うるさいからな。ほら行くぞ」
「うん。ちょっと待っ――」
帝が立とうとした瞬間、不意に地面を見ると何かの影が帝の上を横切った。帝がその影の主を目で追いながら探す。しかしその姿は現れない。いや、その姿を確認できない。姿を確認できそうだと思った刹那―――
「おい!離せよ!」
透の声がした。そちらを振り向くと透の背後には見知らぬ男がいた。どうやら透は動きを封じられたらしい。透が抑えられているようには見えなかったが何かされたことに違いはない。
透の野球部で鍛えられた身体は、彼の整った顔立ちと共に女子からの人気の秘密だ。その身体の動きを簡単に封じている。
「あなたは選ばれた」
帝の背後から、実に怪しい声が聞こえてきた。
―――――選ばれた?何に?誰が?どうして?
単純に頭に浮かぶ言葉は、しかし声には出さなかった。
どうでしたか?
もうグチャグチャですね…
でも分かった!
という神な方、次回も読んでいただけたら嬉しいです。




