豆腐を移動販売するクジャクの話②
私は、今日この街に引っ越してきた。
初めての一人暮らしだ。
26歳。
新しい仕事を始めるべく、心機一転の為。
最初のゴミ捨ての日の朝。
眠い目を擦りながらゴミ袋を持って玄関を出て念の為鍵をかける。
その時ちょうど隣の部屋の玄関辺りからガサゴソと音が聞こえた。
隣の人。初めて会う。
一人暮らしの挨拶はしない方がいいと母から聞いてしないでいた。
ガチャ。
誰かが出て来た。
あ、一応挨拶はしとかないと。
「あのー・・・。」
言いかけて止まった。
タシッと足が地面に着くや否や。
「アラやだ!ゴミ捨てなくちゃ。ああ、忙しい忙しい。」
そう言いながら再度部屋の中へゴミ袋を取りに戻った。
!?
クジャク・・・??
なに、なんでクジャクが喋ってんの!?
話し方は女の人だけど声は男の人!!
「あなたは一体・・・。」
クジャクが両手、ではなくて羽で大きなゴミ袋を抱えている。
一緒にゴミ捨て場に向かう。
「やーだ、私は1年前からずっとこの部屋に住んでるわよ!ピージャックって言うの。皆んなからはピーちゃんって呼ばれているわ。」
「わ、私は出雲です。」
「出雲さんね。じゃ、アタシ今から仕事だから。」
「え、仕事!?」
「そう、豆腐の移動販売よ。良かったら今度買ってって。」
そう言ってクジャクのピージャックさんはどこかへ消えた。
それからもたまに会って挨拶するくらい。
テンションは高いけど、ある程度話が終わったらサバっと帰っていく。
まぁ、ちょっと、かなり変な人?クジャクだけど悪いクジャクじゃないみたい。
そんなある日の帰り道。
私はピージャックさんが豆腐の移動販売をしている姿を見かけた。
最初は違う道を通って帰ろうと思ったけど、
どうしても気になって。
「アラ、出雲ちゃんいらっしゃい!来てくれたのねぇ。」
「は、はい。気になったので。」
メニューはっと・・・。
<料理>
ゆし豆腐、湯豆腐(付け合わせ色々)、湯葉の刺身
<販売>
豆腐、湯葉、豆乳、豆腐ドーナツなど
うーん、どれも美味しそう。
湯葉の刺身いいな。
「湯葉の刺身、食べていきます。あと、豆腐を一丁持ち帰りで。」
「ハァーイ!!!」
相変わらず元気な人、じゃなかった。クジャクだなぁ・・・。
「ハイ!できたわよ〜!」
二つに分かれている紙皿に湯葉の刺身と醤油にわさびが乗せられている。
「ありがとうございます。ん、美味しい。」
「良かったわぁ。」
「はぁ・・・。」
「アラ、どうしたのよため息なんて吐いて。」
「あ、すみません。新しい仕事始まったんですけど、
ずっと緊張しっぱなしで。
一人暮らしも初めてだったので余計にかも。」
「アラまぁ、それは大変ねぇ。
でもねぇ、なるようになるわよ。アタシなんて行き当たりばったりだけどなんとかなっているもの。」
「ピージャックさんは、その・・・どうして話せるんですか?それになんでまた豆腐販売を?」
「アタシ?アタシはねぇ、こんな調子でしょう?
クジャクたちの村から追い出されちゃったのよ。
それで、困っていたらある日突然人間の言葉話せるようになって、更に困っちゃうわよねぇ。」
「村から追い出されちゃうなんてそんな・・・。
ある日突然って、まさか魔法かけられてとか!?」
「そんな可愛いものじゃないわよぉ。
ほんと、朝起きたら突然よ。」
「大変ですね・・・。」
「最初はそりゃあ泣いたわよ。腹も立った。
泣いて泣いて泣いた。
そんな時、人間の言葉が話せるようになって。
人間と関わる機会が増えたわ。そんなある日、知り合った人にお店やったら楽しそうって言われてね。
実際やってみたの。そしたらなんだか楽しくなってきちゃったのよ!」
そんな大変な状況の中でも楽しみを見出せるなんて凄いなぁ。
「ピージャックさんは凄いです。」
「アラ、そんなことないわ。あなたの方がずっと立派よ。」
「そんな、私なんて・・・。」
「女の子は自信が大事よ!」
「自信・・・。」
「また何かあったらここへ来るといいわ。
アタシが悩みを吹き飛ばしてあげるから。」
「はい!」
湯葉の刺身を食べて歩き出すと、
両の手を胸の前でぐっと握った。
ん、なんか、少し元気出た。
また悩んだら豆腐買いにこよう。




