番だと思ったのに
名前を借りました
フィクションです
ヘルツ国に、美人で有名な妹姫がいる。
姉姫は、ありふれた髪色に目立たない顔をしているが、妹姫は芸術品のように金髪碧眼の美人だった。
妹姫は国王と王妃から可愛がられていた。
姉姫は、誰にも相手にされず、ひっそりと過ごしていた。
自分の部屋の他は、図書室へ行くくらいだ。メイドも護衛もいない。
可哀想に思った料理長が、こっそり食事を部屋まで運んだ。だから、どうにか生き延びていた。
※※※
私はジュール王国の王子バッファだ。
とある国の夜会で、偶然出会った、美人で有名なヘルツ国の妹姫。
身体中に香水を振りまいていた。だが、かすかに感じる番の匂い。
私は番だと思って求婚した。
獣人に番は大切な存在なのだ。
とても美しい姫だった。だが人間は、番が分からないという。他の男に取られないか心配だ。
国に帰ってすぐに、父である国王に相談して求婚しなければ。
※※※
獣人の国ジュール王国から、王子との結婚の申し込みが妹姫ナンドに来た。妹姫は王子の番だから、と。
だが、ナンド姫は、獣は嫌だと駄々をこね、国王は身代わりを寄越す事にした。
それは、目立たない顔をした姉姫ノアだった。
妹姫は都合により嫁に行けないので、代わりに姉姫を嫁として送ります。
と、返事をした国王。
だから、冷遇されても仕方ないとノアは思っていた。
妹姫に求婚したのに、来たのは姉の私 ノアだったのだから。
結婚相手の王子バッファは、挨拶の場にも来なかった。
番ではないからと、その後も会いにも来なかった。
獣人達には、運命の相手、番がいるという。
番は、匂いで分かるらしい。
妹姫が番なら、私は番ではない。
番ではない者が嫁に来ても、意味はないのだ。国王も、妹も、それが分からなかった。
王子がそんな態度だから、メイドや護衛達も、私に冷たい視線を寄越した。
古びた離宮に押し込められ、メイドが1人、嫌々仕事をしている。
護衛も、玄関前に立っているだけ。
どこに何があるか分からないから、外に出る事も出来ず、離宮に引き籠もっていた。
※※※
焦燥感。
このところ、私バッファは何故か、焦燥感にかられている。
番が来なかったからだ。
せっかく見付けた番。
求婚したのに、来たのは番の姉だった。
何故、勝手に身代わりを寄越したのだ。
番でなければ意味はないのに。
会った時に求婚すれば良かった。そうすれば、身代わりが来る事はなかったのに。
私は、代わりにやって来た姉姫には、会いに行かなかった。
身代わりのくせに居座るなんて、なんて図々しい。
別の国の夜会で、私の番である妹姫と出くわした。
相変わらず香水を振りまいていた。
あの時、かすかに感じた番の匂いは、今回はしなかった。
…何故だ?
番だと思っていたのに番じゃなかった?
あの時は確かに、番の匂いがしたのに。
そんな私の気持ちを知るはずのない妹姫が、声を掛けてきた。
「あら?お一人なの?そうよね、あんなのと一緒にいたくないものね?あれと獣でお似合いだと思ったのに」
妹姫に嘲笑われた。
獣だと侮辱された。
番ではない姉姫と、お似合いだと言われた。
腹が立ったので、返事はしなかった。
夜会から帰ると姉姫が行方不明になっていた。
誰にも気付かれずに、離宮を出てしまったらしい。
番ではないのだから、どうでも良い。
それなのに。
この焦燥感はなんだ?
離宮へ行った。どこもかしこも埃っぽかった。誰も掃除しなかったのか?身代わりだから仕方ないか。
姉姫の過ごしていた部屋に行った。
番の匂いがした。
まさか…
姉姫が番だったのか!?
この焦燥感は…
番がそばにいたのに会わなかった。
番がそばにいたのに大切にしなかった。
番がそばにいたのに逃げられた。
姉姫こそが本当の番だったのに、会いもしないから、番だと気付かず、冷遇して逃げられた?
ずっと感じていた焦燥感は、そばにいたのに会いに行かなかったからだと、今更気付いても、手遅れだった。
家臣達を使い、国中を探したが、番は見つからなかった。
実は、バッファ王子とナンド姫が最初に会った夜会の時、ノア姫が夜会に参加する為に着ていたドレスを嫌がらせで脱がせて、妹姫が着ていたから、ドレスに姉姫の匂いがついていたのだ。
姉姫は流行遅れのドレスを着ざるを得なかった。
妹姫から離れ、夜会が始まり挨拶した後に、すぐ帰った。
だから、王子とは会う事は無かった。
偶然が重なり、王子は番を見付けたのに、別人を番と認識してしまった。
王子は、番を失ったが、自業自得だった。
※※※
冷遇されても仕方ないが、嬉しくは無いので、離宮を出る事にした。
祖国にも帰れないし、両国とは別の、ファラド国に行こう。平和な国として知られている。
計画を立て、準備をして離宮を出た。
夜になると、メイドも護衛も王宮に帰る。
だから、朝方に離宮を出るのに、誰にも気付かれなかった。
街へ行き、頼み込んで、市場にいた商人の荷馬車に乗せてもらう事に成功した。
王都から離れ、ファラド国からきた商人に偶然出会い、荷馬車に乗せてもらい、ファラド国に入国した。
祖国でも冷遇され、嫁入先の国でも冷遇され、自分の事は自分でしていた。
だから、住み込みで、商館での事務の仕事をしても、すぐに馴染んだし、生活していけた。
商館の人達は皆、親切だった。
料理長以外で、親切にしてくれた人はいなかったから、最初は戸惑った。
だが、それにも慣れ、私は、穏やかに暮らした。
私がいなくなれば、バッファ王子は番であるナンドを迎えに行くだろう。
2人で幸せに暮らしてほしい。
あの王子、獣人とはいえ顔は良かったし、大国の王子に嫁げば贅沢もできるだろう。
私は私で、幸せに生きる。
番が自分であると知らない姉姫は自由に好きな事をして、幸せに生きた。
番が行方不明になったバッファ王子。どんなに番を探しても見つからない。
番以外とは結婚したくないと言い張り、生涯独身で過ごす事になった。
弟王子の子が、王太子となり、次代の国王となった。
大国のジュール王国のバッファ王子に不遜な態度を取り侮辱したナンド姫は、誰からも求婚されずに、困り果てていた。
無理矢理結婚した、侯爵家の子息は、ナンド姫より10歳上で、浮気三昧の男だった。
芸術品のように美人だったナンド姫だが、年を取ると見る影もなくなり、一度も夫から見向きもされずに生涯を閉じた。
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