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5.真実への一歩

 男は爆発を受けても無傷であった。否、実際には多少の焦げは見られる。だが所詮はその程度だ。

 「魔獣以上の頑丈さね。魔石を一つ無駄にしたわ」

 「そうでもない。次は俺がタイミングを計り合図をする。そしたら『すぐに』投げろ」

 「……了解」

極力下げられたその会話の直後、ライトは駆け出し男に剣を振り下ろす。

またも響く鉄のぶつかる甲高い音。この状況で合図を音でされても気づけるのか怪しいところだが大丈夫だろうか。

 私が注視していると、とても隙と呼べる状況ではなかったにもかかわらず、ライトは剣を上空に投げた。それは敵の隙ではなくライト自身の隙だ。

 「隙を作るってそういうことね!」

 私は魔石を一つ取り出し男に向かってすぐさま投げつけた。

しかし、その魔石が爆発することはなく、同じ手は二度も通じないと言わんばかりに男の斧によって砕かれてしまった。

「お前みたいに戦闘能力が高い奴は魔獣以上に相手をするのが厄介だ。だからすこし小賢しいことをさせてもらう」

ライトは袋から取り出した小さい魔石に両手で魔力を溜め、それを相手の腕へと投げる。その衝撃により姿勢を崩し、攻撃を受ける手段がなくなった。すかさずライトは、垂直に落ちてきた剣を握り、男の胴を深く切り裂いた。

「クゾがあぁぁぁぁ!」

奇声と共に落ちた男の体からは、切り裂いた血管の数を表すように夥しい量の血があふれ出る。魔獣でも同じものを見ていたにも関わらず、決して見ていて気分の良いものではなかった。

「あまり見ない方がいい。賊とは言えひと一人の死に際……ですから」

なるほど、敵の死でありながら受け入れがたいのはそういうことか。

私は男に触れ一定の形で魔力を流す。男の体は淡い緑色の光に包まれ流れる血を止めた。

「回復魔法ですか? さすがはカルザ様の教え子だけはある。しかし感心しませんね、つい先ほどまで命を狙っていた輩を助けるのは……」

その通りだ。ライトの考え方は間違っていない。私も普段であればこのようなことはしないだろう。自分でもわからないが、なぜか私はこの男に限られた魔力を使ってでも生きる可能性を与えたかった。

「少し、人後々に対して敏感になっているのかもしれませんね。あのようなことがあったのです、仕方のないことでもあります」

ライトは何かを理解したように私の行動を許してくれた。

「しかし意外とあっさりと終わりましたね」

「と、言いますと?」

「魔石による爆発を受けてもほぼ無傷でしたのに、人たちであそこまでダメージを追わせられたのが意外といいましょうか……」

魔石による爆発はそれこそ魔獣を簡単に吹き飛ばせるほどの威力だ。その上、石が内側から砕けているため魔力による攻撃ではなく物理干渉になる。それにも拘わらず、男は無傷で生還した。だが結局のところは隙を見せライトに切られた。魔法使いの私としてはこの違いがよくわかっていない。

「それについては深く考えることはありません。ただこの男が面に対する防御に優れていただけのことです」

「面というのは?」

「面は皮膚のことです。皮膚が鉄のように固く、爆発の衝撃を内側に通さなかったんです」

 皮膚が固く爆発のダメージや砕けた魔石の破片が意味をなさなかったということか。だとしても、剣でならダメージが通った理由にはならないだろう。

 「ではなぜ剣では切れたのですか?」

 「鉄程度なら剣で切れますから」

 「……?」

 「上澄みの剣士であれば山が切れると言います。なら鉄ぐらい切れるでしょ?」

 なるほど理解した。ライト・グライッシュという男は鉄程度なら一刀両断できる腕前を持つのだ。訂正しよう、ブラム王国には剣で鉄を切れる者はいないため、ライト・グライッシュこそがブラム王国最強の剣術使いだ。

 「私はライト様の剣の腕を見誤っていたようです。申し訳ございません」

 「そんな滅相もない! 剣を交えたわけでもないのです、相手の力量を見誤る事ぐらいありますよ」

 「いいえ、他人の力量を計れぬようでは王女としても魔法使いとしても失格! 私にはまだまだ足りないものが多いようです、精進せねば」

 「その心意気は良いですが、今は先に進みましょう。生きて帰らねば精進も何もありませんから」

 「……それもそうですね」

 私とライトは改めて帝国の領土へと入るためその歩みを進めた。

 「……おうじょ」


しばらく歩くと帝国の国境の砦が見えた。三日も歩いたのだ、そろそろ見えてもらわなければ困る。

私とライトは顔を見合わせ、足取りを速めてその砦へと向かった。しかし……。

「魔獣により死ぬようであれば楽であったのだが、実に残念だ」

その者は不気味な魔獣の頭の皮をかぶり、私たちの前へと姿を現した。それにライトはすぐに噛みつく。

「なんだ、おまえらは?」

「お前『ら』とは、随分と感が良いのだな。さすがはグライッシュ。」

魔獣頭の背後から、四名の同じ被り物をしたやつらが音もなく現れる。

「だが先ほどのような猿芝居は必要ない。我々はそこの女が女王であることも知っている」

「では気遣いは無用ですね。わかっていてその態度は不敬罪ですよ?」

「今から殺すのだ、不敬で済むと良いな」

その言葉と同時に両端にいるに魔獣頭がナイフを私へと飛ばす。

しかしライトが私の前に立ちそれをはじいた。

「やはり邪魔ですね、グレイッシュ。アハト、ペルスド」

最初の魔獣頭を中心に、その左右にいる二人が一斉にライトに襲い掛かる。

一見では素手のようにも見えたが、先ほどの魔獣頭同様どこからともなくナイフを取り出した。ライトはそれに対して応戦し、だんだんと私との距離が離れていく。

「これで一人だ。いたぶって殺すのも良いがここは帝国領土付近、時間がかかると誰かに見つかるのでな、さっさと終わらせよう」

魔獣顔は三人がかりで私に襲いかかる。私は魔石に魔力を溜め近づく魔獣顔の足元に投げつけた。

弾けた魔石により少し後退し足止めさせたが、それでも刹那の時間稼ぎにしかならなかった。

「魔石の魔力過多爆破を利用した戦術とは、とても女王とは思えない戦い方ですね」

「女王らしい戦い方というものは存じ上げませんが、国を出れば一人の魔法使いですから」

「それは殺し甲斐がありそうだ。まあ、その魔力量でどこまで持つのかわかりませんがね」

 さてどうしたものか、ここまで絶望的な状況は一昨日ぶりだ。一昨日助けてくれたライトは離れた場所で戦闘中、使える魔石も残り一つ。相手の移動速度を考えると森の方まで逃げ切るのは不可能。もしかしてあいつらこのためにこの平原に出るのを待っていた?    まあそうであってもなくても現状がピンチであることに変わりはない。どうにか残りの魔力で打開策を考えなければ……。

 「一か八なのは魔法使いとしてあまり褒められたことではありませんが、いまさらでしょう?」

 私は魔石に発光のスペルを書き、魔力を溜めて真上へと投げた。

 魔法には数種類の発動方法がある。

 一つ目に杖や水晶といった魔石を使用しているものに魔力を込める『インダイレクト』。二つ目に文字や図を書きそこを中心に発動させる『ダイレクト』。魔石の爆破は大まかなくくりではインダイレクト、護衛の遺体を守っているのがダイレクトだ。

 インダイレクトは魔力消費を抑えられたり細かい魔力調整が出来たりし、ダイレクトは土台さえしっかりしていれば長持ちするなど、色々メリットとデメリットがある。

 今回発動したのは発光のダイレクト魔法。発光後に魔石を爆破させ音と光で領土の砦にいる兵士に気づいてもらう作戦だ。

「魔石を無駄にしたとは考えられませんね。砦への支援要請でしょうか?」

「問題は兵士が駆け付けるまで持つかどうかですけどね」

「心配は無用です。どうせ死にますから」

魔獣頭三人のうち二人が私の背後を取り、正面から残りの一人が真っすぐと接近してくる。

目で追える速さだが、見えない背後はどうしようもない。前をよけたところで後ろに刺されるだけだろう。相手はどう見てもアサシン、刃物に毒ぐらいは塗っているはずだ。掠めでもすれば十分死ねるだろう。

 魔獣頭は目前、終わりは確かに目の前にある。その刹那に見えるのは走馬灯、その中にこの状況を生き延びる方法など存在しない。所詮私は、女王という地位と他人により生かされてきただけの弱者なのだ。

 避けた。前から来た奴の攻撃は確実に避けた。かすってもいないはずだ。さあ後ろの奴らはどう動いているのだろうか、今頃私の体を突き刺す寸前なのだろう。

 「んな! キサマは!」

 その声と共に背後の寒気が消えた。その代わりにたくましい影が私の全身を覆った。

 「おい、逃げる時間は稼いでやるよ。さっきの礼と詫びだ」

 振り返った先には男がいた、知っている男だ。

 「三対一……。まあ、ナイフだの毒だので死ぬ俺じゃねぇからよ、さっさとかかってきな!」

 その男はゆっくりとそれでいて力強く斧を構えた。


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