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30日後に巨大隕石が衝突すると知らされた世界で、本当に大切なものを見つけた  作者: 中将


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7/8

隕石衝突予定日まで 残り25日

朝の記事には僕たちの市の名前がデカデカと出ていた。

市長はお金を海外に持ち出しするために貨物飛行機に乗り込んだらしい。

今は国際指名手配され、逮捕も時間の問題だという事が記事の内容にはあった。


しかし、話が活字になると意外にも他人事のように思える。


直接的に水道が止まったり電気がつかなくなったりしたら困るけれど、市長がいなくなったからと言って市政は滞りなく進んでいる。実際は実務を行っている人たちが他にいるからだ。


勿論、市長は重要な市の施策を決定しているのだから長期の不在は大きな市の損害に繋がる。


だが、今すぐに何か具体的に支障が出ているわけでは無い。


僕はそこそこ政治に関心がある方だけど、こんなにも他人事のように思えてしまうのなら“直接的に影響が出ないと投票に行かない”のかもしれないな……。


でも、僕には投票率の低い現状を変える力なんて無いけどな……。





この日の学校のホームルームでは衝撃的なことが伝えられた。


「えー、お前たちに関係のあるところだと、数学の酒井先生、体育の新見先生、世界史の中本先生は今日から暫く休暇を取られ、来られなくなるとのことでそれらの時間は自習になります。

ただ、定期テストも近いし通常通り実施するつもりだ。テストの範囲については追って説明するので気を引き締めて勉強すること」


え、一斉に3人も先生が休み? どうして? 病気か何かが流行ってるの?

そうクラスはざわついたが、休む理由ついては言及されなかった。


保坂先生はその後も別の連絡事項について矢継ぎ早に話し、僕たちに質問をさせる暇を与えずそそくさと立ち去ってしまった。


1限目は数学なので早速自習の時間だった。


僕は色々なことを悶々と考えていたので、相変わらず身が入らなかった。


そんな中、熊田君が体を伸ばして休憩するみたいだから、話しかけることにした。


「熊田君。どうして先生が一斉に休んだのか知ってる?」


この自習の時間はそんなことばかり考えていた。


「朝、勉強しながら聞いた話だけと先生の一部ではあるんだけど“ストライキした”みたいなんだ。

1年C組と3年B組の担任は“登校しなくていい”と通知を出して、生とすら誰も登校していないようだって聞いた」


「え……そんなことが?」


「どうやら、残りの人生が二十何日と決まってしまったと誤解しているから“好きなこと”をしたいらしいよ。

でも、世界が続いた場合は先生も雇用が続くかどうかも分からないし、給料や生活の問題とかあるだろうに、どうするんだろうな?」


ついに先生までもが……とも思ったが、僕は気持ちが分かる気がした。


死ぬ前に由利とどうしても仲直りしたいから……。


先生たちだって残る時間の中で何かやり残したことを各々成し遂げたいのだろう。


「学校の立場に立ってみるとどこも先生が人手不足みたいだし、ここでクビになっても意外と気にならないのかもよ。

世界が平時に戻っても就職先は困らないんじゃないかな?

何事も無かったと分かってから次の行動に移す人がこうして欠席者にもいるわけだし」


もう、頻繁に話をする友達と言えば熊田君ぐらいしか登校してきていない。


それでも熊田君との“感覚のズレ“と言うのは日に日に広がっている気もした。


しかし、誰とも話さなくなってはいよいよ頭がオカシクなりそうな気がしたので話を合わせることにした。


「確かに人手不足は今に始まったことじゃないし、思ったよりもストライキをした影響って薄いのかもしれないな……。

それでも、今の立場を棄てることは出来ないな。受験が控えている僕たちとしては勉強をすることでライバルとの間で差が出来ることは間違いないからな。

1分1秒すらも惜しんでいられない」


「学生の本分は勉強だもんね。働いたり税金を納めなくていい分、しっかりと学んでいかないと」


そんなことを話していたら終わりのチャイムが鳴った。しかし先生はやってこない、先生が”ストライキ”を起こした世界史なのでまた自習なのだ。


「この時間も自習なのは嬉しいのか、テスト範囲がどうなるか分からなくなるから微妙なところだな」


「どうせなら、皆寝ている古文が自習のほうが平和的だったのにね」


「それは言えてるね(笑)。ただ、古文の先生は諦めて注意しなくなってるし自習に既に近い気もするよ(笑)」


熊田君はケラケラと笑って勉強に戻っていった。

熊田君は相変わらずだな……と思った。


ふと思ったけど、この熊田君が「平時から有事」に切り替わるのはどういう時なんだろう?


もしかすると、いよいよ隕石が落ちた時に断末魔を叫びながらようやく“有事”になるのだろうか……。

そして“やりたかったこと”を思い起こしながら事切れるのだろうか……。


そうなると、平時のまま行くと思って行動し続けることも、起きていない有事にシフトし過ぎるのも問題だと思う。


どちらが起きても問題ないように心を強く持っておく必要があるんじゃないかと思った――由利のことで頭がいっぱいの僕が言えることでは無いのかもしれないけども……。





「ありがとう。また教えてね」


昼休みに、隣のクラスに話を聞きに行った。

情報を聞ける程度の知り合いが登校してくれて助かった……。


話によると、ずっと由利のことで頭がいっぱいになってしまって他の情報を仕入れる暇が無かったのだが、聞いてみると登校してきている先生でも授業を行わない“職務放棄”に近いことが徐々にではあるが始まってきているらしい。


実際に授業中の際にも普段は目にしない学生が教室の外をウロウロしており、話し声も聞こえたのは事実だった。


学校にいる学生の中でも行き場所が他に無いから登校しているだけで、授業をまともに受けたいからでは無い人も多いのだろう。


僕もノートを全く取っていないので登校する意味は全くないのだが、

かと言って家の中にいると両親の関係悪化を随所に目の当たりにして、いたたまれない気持ちになるから学校に来ている側面は大きい。


本当に一人暮らしの人は高校生では稀だとは思うけども、親と話をしたくなくて“孤独感”に襲われている子は多いと思う。


また、どこのニュースもネットの動画サイトもSNSも毎日隕石衝突予定日について語り続けている。


隕石の予想進路についてテレビ画面の右下に常に張り付けてあるかのように速報している番組もあり、全く隕石の情報発信をしていない時間帯と言うのは存在しないだろう。


そうなると隕石が地球に衝突予定日することについて「最初は嘘だろ?」と疑っていた人たちや

「何を言っているんだろう?」と実感が無かった人たちも徐々にではあるが、

「もう地球は終わりだ」「人生もう25日しか無い」などと言った気持ちに襲われてきているのかもしれない。


僕の通っている進学校ですらこの有様なんだから、他の企業においてももしかすると“ストライキ”に近いことが自然と起きてきているのだろう……。


今はまだ日常と異常が混在する世界だが、ある時を境に完全に崩れ去ってしまうだろう。


静かに社会が溶解していくのを僕は感じたのだった……。

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