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30日後に巨大隕石が衝突すると知らされた世界で、本当に大切なものを見つけた  作者: 中将


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地球滅亡予定日 当日その1

いよいよ隕石が衝突する日だが、朝起きると、思った以上に頭がスッキリとしていた。


今日死ぬ可能性は高そうだが、それでも構わないと思ったのだ。


「今日が隕石が衝突する運命の日だね……」


由利が僕の肩に寄りかかってくる。


「でも良かった。仲直り出来て……最期この瞬間を由利と過ごすことが出来て……」


それは心の中から出た言葉だった。由利のいなかった日々はずっと闇の中を歩いていたような自分から何かが欠落したといっていい日々だった。


「あたしも、裕司と一緒ならまだ死んでも良いかなって思えたけど

……でもやっぱりいざとなると死ぬのは怖いよ。死んだ後はどうなるか分からなくて……」


「僕だって怖いよ……。でも生きていても怖いことや苦しいことって溢れているじゃない?

病、貧困、得体の知れない他人、暴力、恐怖、死――世の中目を覆いたくなるようなことばかりさ。

そういった怖いことと向き合ってこそ生きているという事なんだと思うよ」


「強いね裕司は……あたしはそんなことを考えられないよ」


「いや、僕は全然強くないよ。ただ、あまりにも悲惨なことが目の前で繰り広げられ過ぎて感覚が麻痺してきたんだ……。

恐怖だけじゃなくて辛くて苦しくて悲しいこともあまりにも多過ぎたんだ」


「でも、死んじゃったら何も感じることも出来ないってことだよね……」


「そうなんだよ。でも一方で永遠に生き続けていた場合でも痛みを感じなくなっていくんだと思う。

終わりがあって痛みを感じることができるのが生きているってことなんだよきっと」


空を見ると昨日までと何も変わらない青空が広がっていた。


まるで僕たちが思い悩んでいるのを滑稽だと笑っているかのようにも思えた。

僕達も――空を飛ぶことが出来たならもしかしたら回避する手段があるのかもしれないとも感じた。


でも、留まる先が無くなればいずれは被害を受けてしまう。地上の生物すべてに影響を及ぼすことになるだろう。


大きなパニックにならなかったり、少しだけ延命するだけに過ぎないのだ……。


「う~ん。あたしたちもあの鳥みたいに飛ぶことが出来たらな~」


「あ、由利も同じこと考えたんだ」


「え? 裕司も? それなら何か嬉しいね」


「でも、地上が火の海になっていたら食べる物も全滅だろうから中々飛んでいても難しいかなとも思ったんだよね……」


「もぉ、なんかムードぶち壊しっ! もともと無理な話なんだから現実的な話しないでよっ!」


由利はそう言って僕の頬っぺたをつねった。

もぉ、ワガママで自分勝手で――でもとっても可愛い彼女だ。


「あら、ウサギさんよ。あ! 耳や頬っぺたをヒクヒクッてさせてる! 可愛いねぇ~! こっいおいで~!」


由利が手招きをすると鼻をクンクンさせながらウサギがこっちに走ってくる。


由利は動物好きで家に犬、猫、鳥、ハムスターと何匹も飼っていた。僕も行くたびにあの子たちに癒されたものだった。


こう言った動物たちはこの地球に惑星が衝突するなんていう途方もないことを知っているのだろうか。それとも何も知らずに過ごして、何も分からないうちに死んでしまうのだろうか。


どちらにしても僕らにも、彼らにできることはきっと何もないのだろう。


残された時間を、ただただいつも通りに過ごすことしかできないのだろう。


由利はウサギを膝にのせて頭を撫でている。そして、数少ない缶詰に入っていた食べ物を分けてあげたりしていた。


僕はそんな由利の姿をずっと見ていたいと思った。


でもその時間はもう間もなく、否応が無く終了してしまう。


「あっ! 行っちゃった……」


野菜が尽きるとウサギは由利の膝から走り去ってしまった。


由利は寂しそうにそれを見送った。


恐らくはこれが最後の動物との触れ合いになるだろう。


動物好きの由利にとってこれはかなり悲しいことだろうな……。


「あーあ。もっと色々なことしたかったな。

これから大学に進んで楽しいことや面白いことがたくさん待っていたんだろうな……」


夕日が沈んで、一気に暗くなった。家から出てからこれまでも暗くなるたびにどこか寂しい気持ちになったものだが、いよいよ今晩ともなればこれまで以上に追い詰められた気持ちになった。


「あったかもしれない未来について考えても仕方ないよ。それよりも今まで生きてきたことの幸せを噛みしめようよ」

今生きている僕たちはたまたま他の世代と違って寿命が短かったと思うしか無いんだよ。いずれは死ぬことは間違いないんだから……」


「そうだね……。むしろ過酷で悲しく苦しいことばかりが待っていたかもしれないんだから、未来のことなんて何も分からないよね……」


「ただ、今この局面を迎えてみて思うけど、とにかく1日1日を必死に生きるしかないという事だよ」


そんな会話をしていると次第に暗くなってきた。


これが最後の日の入り――そして、二度とこの夜は明ける事は無い。徐々に暗くなっていくことが僕たちにとっての永遠の闇に飲み込まれていくようなそんな恐怖に襲われた……。


「今が永遠に続けばいいのに……。そうすれば裕司とずっといられる……痛い思いもしなくてもいいから……」


由利の言いたいことは痛いほどわかった。僕だってこのままでいたい。


しかし、どんなことでも”終わり”があるのだ。


「永遠は永遠である意味退屈じゃないかな? 終わりがあるからこそ大切にしたいと思うんだよ。

だから僕たちはここで終わりでも良いと思う。

この日のためにこれまで生きてきたんだと、僕はそう思えるから」


「そうか……そうだよね。

ある意味永遠に続くことって怖いかもしれないし、苦痛なのかも。

とは言え、絶望的な瞬間を見たくないな……。あたしがこれまで過ごしてきて成長してきた街が吹き飛んだり、燃えたり無くなったりしちゃうのは……」


「僕も怖いし、痛いのはゴメンだね。だから、これを使おうと思う」


僕は錠剤が入った瓶を取り出した。


「これは?」


「柏瀬さんからもらった睡眠薬だよ。

由利が良ければ、一緒に飲んで最後の瞬間を過ごさないか?

死ぬような痛みを味わったら果たして寝たままでいられるかは分からないんだけど」


「良いね。起きたらきっと天国だよ」


「そうだね。天国でまた会おう。君と一緒なら死ぬことも怖くない」


「それじゃぁ天国で……」


由利の瞼はすぐにも閉じられた。


僕はその寝顔を少しで見ていたかったが、睡眠薬が効いてきたのかすぐに瞼が重くなっていく……。


最後に空を見ると大きな流れ星が流れてきているような気がした。


もしかしたらあれが――。

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