地球滅亡予定日まで 残り29日
由利を怒らせ、隕石衝突の記者会見があった12月1日から一夜が明けた。
テレビをつけても、動画サイトを見てもSNSを見ても、隕石衝突予定日の話題しか存在していなかった。
昨日の記者会見は、ドッキリ番組でも、夢でも、12月に突然訪れたエイプリールフールでも無かったようだ……。
むしろ、他の国の国家元首による似たような声明の動画や中継によって情報が裏付けられてきており、
状況の深刻さがいよいよ分かり始めてきたほどだった。
12月31日の22時が衝突予定らしい。
テレビの左上には隕石衝突の予測日時のカウントダウンが始まっており、残り29日14時間12分――いや1分減って11分と表示されていた。
これが、人類全てのタイムリミットだと思うと背筋がゾッとした。
しかも、来年を迎えられないだなんて思わなかった……。
ただ、「100%必ずしも隕石で滅ぶとは限らない
と必死になって火消しをしている番組も複数あった。
過去にも隕石が衝突するという話はあったが、計算結果の習性から回避されたという歴史もある。
今回もそのような「希望的な観測」もあるとのことだった。
進路の予測はあくまでも「現時点での予測」であり、今後進路は30日の間に変更される可能性があると言った考察だ。
いずれにせよどうなるのか未来のことについては何も分からないことには変わりないので、とりあえず“世界が続いていく”と希望を見出して学校に行くしかないかなと思った。
もし仮に世界が無事に続いたら学校に行っていなかったのなら落ちこぼれになってしまう。
かつて1999年の時には「ノストラダムスの大予言」というのがあってそれで地球滅亡を信じて何もしなかった人や、ヤケクソになってお金を使い果たした人がとんでもない思いをしたという事もあったようだ。
今回の隕石衝突予定日だって「世界的なミス」の場合はここで放棄したら大変なことになる
ここで自棄になったらダメなんだ。
僕は昨日までの日常生活を過ごすぞ。
家を出る前に由利にまた連絡しようとするが、電源を切っているのか僕はもう用済みなのか、全く反応が無い。
こんな先行きが不透明で不安な時こそ彼女の明るい声を聞きたかった。
「死んじゃえ」が最後の会話だなんて最悪過ぎる。
毎日、学校に行って、取り敢えず勉強をして、由利と些細なことで喧嘩する。
――そんな当たり前のような生活が30日後に無くなってしまうだなんて信じられない。
せめてこんな時ぐらい由利の声を聞いて癒されたいものなんだけど……。
幸いクラスが違うとはいえ学校は同じなんだ。土下座をしてでも誤解を解かないと……。
由利のことが心の底から好きだってもう1回伝えないと……。
◇
学校に着くと真っ先に隣の由利のクラスに行ったが由利はいなかった。
「おはよー」
自分のクラスに始業開始1分前まで待っていたが登校してくる様子はなく、憂鬱なまま形だけの挨拶をして席に着いた。
アイツ、健康が取り柄だから学校を休むだなんてちょっと信じられないな……。
席に着くと違和感を感じた。もう朝のホームルームが始まるのに空席が3割ほどあるのだ。
ウチの学校は出席日数のために38度の熱が出てでも登校してくるような奴らが揃っている県下屈指の進学校だ(熱があるなら登校しないで欲しいが……)。
だから、こんなに休みが出るだなんて信じられない。
由利はどうしたんだろう……。由利も隕石が地球に衝突するから嫌になって休もうと思ったのかな……。
そんな子じゃないと思っていたんだけどな……。
それとも何かあったのかな? 何かあったのなら僕に相談して欲しいけど、連絡すらつかないんだから本当にもどかしい……。
「皆、隕石に怯えているのか? それとも地球が滅びると思って勉強するのがばかばかしくなったのかな? ウチの学校は真面目だと思っていたのにこんなに欠席者が出るだなんてな」
昼休みになり、隣の席の比較的仲が良い熊田君が話しかけてきた。
「ホント、皆真面目だと思っていただけに意外だったよ。真面目ぶっていただけだったのかな?
でも、もし隕石が衝突しなかった場合には普通に大学受験や就職が待っているんだぞ? それを考えたらそのために今積み重ねていくしかないだろ? 休んでいる生徒たちは何を考えているんだろうな?」
「政府の発表を信じているんだろうな。
世の中デマや流言での被害の方が大きいらしいからな。1920年の関東大震災だってそうだった。
真実はどうであれ恐怖に支配された人たちは“朝鮮人が井戸に毒を入れた”という事を信じて、日本語を話すことが出来ない人たちを虐殺した。
しかも、日本人の吃音者なども虐殺対象になったんだだから本当に救えない」
「パニックになると人々は正常な判断を失うからな。世界中が集団パニックになっている可能性が高いと僕は考えているね」
「そうそう。だからパニックにならないことが大事なんだよ。
本当に隕石が衝突すると仮定しても、騒いだところでどうしようもないんだからな」
「まずは日々の生活を送りつつ冷静に情報を収集して、周りをパニックにしないことだよね」
「一つ違法行為をしてしまいモラルのタガが外れてしまえば、犯罪者として逮捕される日も近いだろうからね。
アメリカの禁酒法で飲酒する以外での犯罪が爆発的に増えたのは、酒を飲むという目に見えにくい違法行為を皮切りに“違反してもいいや”と言う気持ちが蔓延したためだと言われているよ」
このように熊田君は色々な知識を持っていてその蘊蓄を聞くのは楽しくもあった。
「そんなわけで、いよいよ衝突予定日が決まってから行動を変えてからでも遅くは無いよね」
熊田君と話が合ってとても良かった。
この世で自分だけが“これまで通りの生活を送りたい”と思っているのかと誤解するほど報道やSNSが過熱していて内心不安でいっぱいだった。
でも、学校に来ている7割は僕や熊田君ほどでは無いにしろ、日常生活を送りたいと考えをしていることが分かってホッとした。
ただ、そうは言っても僕はノートは真っ白だった。
学校にも来ていない由利の誤解をどうやって解き、何をして仲直りしようか――ってことばかり考えていたからさ……。
これじゃ何のために登校しているのか分からないや……。
出席日数や皆勤でい続けることは内申点などにプラスになると言い聞かせるしか無かった……。
◇
授業の合間にもスマフォを確認するが、由利はどうも連絡が付かない。
このままでは埒が明かないので直接家に行って話し合おうと思った。
幸い、中学校も一緒だったので親同士も仲がそれなりに良いので家に行っても良い間柄なのだ。
例え本人に話すことが出来なくても間接的に話を伝えてくれる可能性がある。
そこに期待をかけたかった。
「あれ……何があったんだろう?」
駅に向かうといつもよりかなり混雑している印象を受ける。
ガヤガヤしている人の話を聞いていると、どうやら人身事故がついさっき起きたようで、復旧見込みが立っていないらしい。
僕は徒歩通学だから帰宅に関しては支障は無いが、バスへの振り替え輸送すら大混雑の様相で、3駅先の由利の家に行くのには困難を極めそうだった。
「仕方ない……直接由利の家に行くのは明後日にしよう」
幸い、明後日は土曜で午前授業なので、例えまた人身事故が起きても自転車で由利の家に行くことは時間的に可能だ。
でも何だか今日の人身事故だけでは済まない気がした。
空を見上げるとキラリと光った。あれが僕たちを滅ぼす隕石なのか? まだ夜になるのには早過ぎるため分からない――
だが、ああいったのが地球に落ちるかと思うと、いつまでも胸騒ぎが収まらなかった。




