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30日後に巨大隕石が衝突すると知らされた世界で、本当に大切なものを見つけた  作者: 中将


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22/35

地球滅亡予定日まで 残り11日

ピンポーン! と久しく鳴っていなかった気もするインターフォンが家に鳴り響いた。


気が付けば新聞は最近届かなくなり、郵便もまともに機能していないので、誰のイタズラだよ……と思いながら映像が見れる所に向かう。


映像にはスーツ姿の男が映し出されていたので、眠気が吹き飛び、急いで玄関に向かった!


「あ、あの……どんな御用でしょうか?」


もしかすると由利の両親を殺したことを捜査しに来たかもしれなかった……。

仮にもそうだとしたらすぐに罪を認めよう……。


「私は総務省の役人で、宮前と申します。伊崎裕司さんですね?」


名刺を渡してきながらそんなことを言ってきた。


総務省総務課長補佐官、宮前俊介とあった。


勿論そんな役人の人に尋ねられるいわれはありはしない。警察に尋ねられる理由はあるけど……。


「ええ。そうですけど……」


「身分を証明できるものをお持ちですか?」


「ええ、一応は……」


たまたま持っていた財布の中にマイナンバーカードがあったために提示した。


「結構です。本題なのですが、あなたは無事当選されたのです。宇宙に脱出し、火星に向かうメンバーの1人にね。おめでとうございます」


「えっ! そうだったんですか!?」


「こちらの書類をご確認ください」


渡された書類にはなんと、“あなたは火星行きのメンバーの1人に抽選で当選しました。おめでとうございます”の文字と共に明後日までの返答日時が書かれていた。


「段ボール1箱分でしたら私物を搬入出来ますので、ご準備をして下さい」


「あ、あの……僕一人しか行けないんですよね?」


「それはそうです。定員には限りがありますから、それでは明後日にお迎えに上がりますので」


そういうと宮前さんはせかせかと立ち去って行った。次の当選者のもとに向かったのだろうか……。


しかし、目の前で殺人が起き、自らも手を汚した――異常な光景が目の前で繰り返されてある程度耐性が付いていたつもりだった。


それでも、あまりの突然の“当選報告”に当惑してしまった……。


一番戸惑ったことは自分一人しか火星に行けないことだった。





「どうしたの? 誰が来たの?」


総務省の宮前さんが帰った後、由利はひょっこりと現れた。


「あぁ……。由利は知らないかもしれないけどね。火星に行く抽選にダメもとで申し込んでみたらまさかの当選しちゃったみたいなんだよね。世界で1万人、日本だと1000人しか当選できないみたいだった」


「やったじゃん! これで生き延びられる可能性があるんだから!」


由利は笑顔でそう言ってくれた。その勢いに僕は驚くと共に有無を言わさぬ雰囲気に圧倒された。


でも僕にだって考えがあった。


「僕だけ助かっても意味が無いんだよ。由利と顔を合せなかった日々は真っ暗闇で抜け殻みたいだったんだ。そんなんで生きていても意味が無いと思うんだよ」


由利は一瞬表情が消えたが、すぐに笑顔になった。


「ある意味宝くじに当たるより凄いことなんだから。寿命が伸びるのが確定しているんだよ? これを逃さない手は無いよ」


由利はポンポンッと僕の肩を叩いた。


「でも、これまで火星に一度も行ったことが無いのにいきなり行って大丈夫なのかな?

月にだって人が生活してないんだよ?

多少生き延びたとしても僅かな期間なんじゃないのかな?」


「実験的と実証を同時にやるんじゃないの? 地球に残って隕石衝突の予定日を待つより生き残る可能性が高いと思うけど……」


「どっちにしろ確率が低いことには変わりないよ。

火星に到達しても酸素も無く、何も無い荒野が広がっているだけ。食糧生産もままならず、酸素が尽きるか備蓄品を食べ終えたら死ぬだけだと思うね」


僕が思いついた現実的な可能性を述べると由利は眉を寄せた。


「それでもあたしは裕司に生き残って欲しいの! 裕司は生きたくないの!?」


「そりゃ、生きたいか死にたいかの2択だったら生きていたいけどさ……。

でも、由利がいない間に考えたんだ。

僕は由利無しじゃ生きていけないし、人生の希望も見つけ出せないって……」


「……あたしだってそうだけどさ。

あたしは裕司が忘れないでいてくれたらそれで良いからね?」


「そんなに僕に生き残って欲しいのかよ……」


「当たり前でしょ。あたしが死んでも好きな人が生きていてくれるならそんなに幸せなことは無いよ! 命懸けであたしのことを助けてくれたんだからあたしの中でさらに裕司のことが大きくなったんだから!


「僕だってそうだ。

でもさ、たった10日とは言え僕がいない間しっかり暮らしていけるの? 体辛そうだよ」


由利は半月幽閉されたことからかなり体力が落ちている。さらにまともな食べ物を口にしていないから弱っていく一方な気もする……。


「……残る食糧が2人から1人減ったことで心配なくなるでしょ? 悪いことばかりじゃないよ」


由利は頭を抱えて考えた末に振り絞るようにしながらそういう結論を出した。


由利の気持ちはとてもありがたい話なのだが、どうにも僕だけが生き残るイメージが湧かない……。


「でも僕には生き甲斐と言うか、やりたいことや人生の目標が特に無いんだよ。

これまで何となく勉強して、適当にいい大学に入って、ゼミの先輩の紹介から就職できればいいって漠然と思っていたんだ」


「あたしも、何となくそんな風に思ってたかもね」


「今は学校も無くなって、その目標も霧散してしまった。

敢えて生きる活力になると言うのなら由利しかいないんだ。

さ、さっきのプランの中に追加するなら由利と付き合って結婚するってのも入ってくると思うんだけどね」


「へ、へぇ……そうなんだ」


由利の顔が赤くなった。手を顔の前でパタパタさせている。


「そんな由利と離れて暮らしたところで、何か新しいことをやろうとは思えない。

しかも、火星に行くだなんて大切な由利を事実上見棄てておめおめと生き残るんだからさ。

なおさら目覚めが悪いんだよ」


由利は赤い顔を引っ込ませて真剣な表情になった。


「生きていればいいこと絶対にあるし、目標も見つかるよっ!

今は隕石が落ちて何もかも駄目になると思って先が見えないからそんなこと言ってるだけで、未来が見えるようになったらまた違った価値観で物事が見えるようになるって!」


「そうかな……先の未来だなんて考えられないんだけど……」


「ほらほら、見てごらんよ。食糧とか配給されるから心配ないって書いてあるじゃない?

もうこれで裕司が幸せなのは確定なんだよ」


いつの間にか僕の火星移住についての用紙を奪って読み込んでいたのか、案内状を取り出してそんなことを言い出した。


どうにも由利は僕を火星に行かせたい――生きていて欲しいらしい。


「最近本当に由利のことばかりを考えてきたんだ。

折角救い出すことが出来たのに――一緒に暮らすようになったのに、こんなのって無いよ


僕が正直に自分の心境を吐露すると由利の表情が完全に曇った。


「あっ……そう。それならあたしにも考えがある!

“火星に行く”って裕司が言ってくれるまで口利いてあげないんだから!


そう言って由利は立ち上がって庭に向かった。僕は由利の腕を掴むがバシッと振り払われた。


昨日までの弱々しさは全く感じられなかった……。


「そ、そんな……」


僕は一人取り残された。


ビュ~っと隙間風が通過していったような気がした。暖房が使えない今それは身に堪えた。


ようやく会えたのに……やっとの思いで由利の両親から逃れることが出来たのに……再会したら喧嘩で決定的な溝が生まれてしまったような気がする……。


お互いがお互いのことを考えて想い合っているから出てくる意見同士だからこそ苦しい気持ちになった……。


本来であれば誰もが少しでも長い間生き残りたい――火星に行ける1人に選ばれるだなんて宝くじに当たるぐらい幸運なのに全く嬉しい気持ちにならなかった……。

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