地球滅亡予定日まで 残り12日
夜が明けるまで公園で寝泊まりすることにした。
11日前に来たときにはほとんど誰もいなかったが、今は浮浪者のたまり場になっていた。
住んでいるテントの他に炊き出しのような場所もあり、朝ご飯も配布してくれるそうなので貰ってから僕の家に帰ることにした。
治安が悪化していることから夜も警戒しなくてはいけないと思うのだが、
2人共とても疲れていたためにそんなことをしている暇は全く無かった。
幸いにも夜の公園にやってくるような暴漢はおらず、平和な朝日が眩しく感じた。
「由利……そろそろ配給が始まるみたいだから起きない?」
天使のような横顔で幸せそうに寝ている由利を起こすことは抵抗感があったが、炊き出しにありつけないとウチの缶詰の残数を考えると正直厳しい。
炊き出しの1回あたりの人数に限界があるだろうから、なるべく早く並ぶ必要がありそうなのだ。
「う~ん……あれ、ここは? なんで裕司がいるわけぇ~? お母さんご飯まだぁ~_」
随分と寝坊助なお姫様もいたものである。
恐らくは夢の中で幸せな両親との生活に戻ったと思われる……。
いつまでも幸せな夢の中にいて欲しい気持ちもあるが、炊き出しの時間の問題もある。昨晩はギリギリ全員に渡り切った感じだったので今日は人数分あるとも限らない。
「僕たちは由利の家から逃げてきたんだよ。起きて炊き出しに並ぼう……」
そこから先はあまり言いたくは無かった。自分のやってしまったこととは言え、思い出したくないことだったからだ。
「あ、全部思い出した……。あたしたちどっちも親がいないんだ……。
これから2人で強く生きていかないとね……」
由利は切り替えが早かった。もっとも僕も母さんが父さんを殺して捕まったばかりなのに、炊き出しについて考えているんだから、“驚くべき切替え“と見ることも出来るだろう。
「でも由利となら何とかなりそうな気がする――あ、そろそろ配給の順番待ちに並ばないといけないみたいだけど立てる?」
僕だけが並んで分けるのもアリなのだが、可愛い由利を一人にしておくと誰に酷いことをされるか分からないからな……。
「うん……なんとか……。お腹減ったからどんなものでも美味しく食べられると思うよ」
「僕もだね」
僕はどっちかって言うと好き嫌いがハッキリと分かれる偏食化だったと思う。
辛いものが好きで何でも辛子を付けて食べていた。
由利は逆に甘い物に目が無かったはずで、砂糖のケースを持ち歩いて何でも振りかけていたほどだった。
でもそんなことを言っていられる余裕が無く、
極限状態に追い詰められているという事なんだろうな……。
配給は小さい肉と、薄い野菜が入ったお粥だった。ちょっと前なら絶対に満足できない量だが、今は塩味が効いていておいしく食べられたし、“これしかない”と思うと噛み締めながら食べた。
配給の人からは今晩は寒くなりそうだという話があった。ここに居続けるのもあちらこちらから視線を感じるので身の危険を覚えた。
ほとんど何も持っていない人たちの中で自転車を持っているのは正直言って目立つのだ。
「寒くなるみたいだから僕の家に来ない?
食料の不安はあるけど、夜襲われるリスクを考えると僕の家の方が良いと思うんだ」
「そうだね……。あたしも少しの時間でも1人の時が怖いから……」
「ただ……必死で逃げてきたところ悪いんだけど、僕の家に帰ってもあんまり缶詰とか残ってないんだよね。ギリギリ残り日数を2人で少量で分け合えば……という感じなんだ。
ゴメンね」
「いいよ。あたしの家にいても水飲んで隣のトイレ行っていただけだったから……。
逃げようとしたらお父さんに殴られてどうしようもないと思ってたからね」
由利は自分でも気づかないぐらいに何か右手を庇うようにしながら動いているのだが、恐らくは痣か何かがあるのだろう……。
僕はそんなこと気にならないから見せてもらって構わないのにな……。
ただ、乙女心からしたら僕に見せてしまう事は抵抗感があるのだろう。
「ウチは本当に何もないけど寒さと雨風ぐらいは凌げるからメリットが何も無いわけじゃないよ……
どうする? ここで配給を受け取ってもいいけど……」
「やっぱり寒さがちょっとでも凌げる方が良いかな……。
ここだと隕石衝突予定日になる前に凍死しそうだよ」
「家には暖房もあるしね。ご飯は無いけど寒さだけでも凌げれば良いよね」
◇
由利はもう体力が限界に近かったので休み休み自宅に向かった。
3時間ほどかけてようやく自宅が見えてきたが見慣れているはずなのにどうにも棺桶にも見えてしまった……。
ここで隕石衝突予定日を迎え、骸になるからだろう。
それでも由利と一緒なのであればまだ良いかな……。
自分の家に戻り玄関の明かりのスイッチに手を伸ばすが、暗いままだ。
何度押してもカチカチと乾いた音が響くだけだった。
「あれ……電気がつかないや……」
ブレーカーを見に行いき、何度も切り替えるが変化はない。ブレーカーが飛んだわけでは無いようだ。
全身から血の気が引いてくのが分かった。
社会的インフラの老朽化が激しい昨今、いよいよガタが来てしまったのだ。
しかもこの状況下であることから復旧の見込みも立たないに違いない。
僕達は家にいながら冬の寒空に放り出されたような気持になった。
「そう言えばここに来る途中、電気がついている家が無かったような気がするよ……。
もしかするともう電気が通っていないのかも……」
「確かに昼間とは言え電気が全くついていないのは異常だよね」
「電気は復旧されるのかな?」
「ちょっと厳しいんじゃないかな? もう隕石衝突まで残り日数も少ないんだし」
「そう言えば最近SNSやニュースを見てないけど、スマフォも使えないみたい……」
由利がポチポチと画面を操作するが虚しい接続ができないエラーのメッセージが並ぶだけだ。
「ネットの情報なんて最悪無くても生きていけるけどさ。暖房が使えないのが一番の問題だよ」
どっちかっていうと暖房目当てで帰ってきたのだからそれが無いのは絶望的な気持ちになった……。
「そうだよね……12月で明るい時間も短いし怖いね……」
由利はしきりに手をこすっていた……。
死者は夏よりも冬の方が多いらしい。それだけ寒さは厳しく、免疫力も低下してしまうのだろう……。
「電気が通る前の江戸時代では日没とともに寝るのが当たり前だったから。その時代に戻ったと思うしかないね」
「そ、そうだね……。雨風が凌げるだけでも良いと前向きに捉えた方が良いのかも……」
まだ水道は出るみたいだから水と缶詰を持ってリビングに戻ろうとすると由利がいなかった。
「ねぇ……布団一緒に入らない? その方が暖かいよ?」
「え?」
由利が気が付けば僕の部屋の布団の中から手招きしている……。
「暖房も無いんだしここは2人の体温で暖まろうよ」
「いやぁ、それはちょっと……」
「え~! いまさらそんな遠慮する仲でもないでしょ? もう付き合ってるんだしさぁ~」
「ま、まぁ検討しておくよ。どうしても寒い時とかさ……」
流石に由利と密着するというのは僕の理性が持ちそうにない。
由利とそう言った一線を越えた関係に至るのはまだちょっと早い気がする……。
そうはいっても残り日数が少ないわけだし魅力的な提案ではあるのだけども……。




