地球滅亡予定日まで 残り13日
昨日の夜は結局思い出の公園に戻った。僕の家と大木公園の大体中間地点にあるのもあった。
そしてこの公園には毎朝毎晩に粗末であるものの配給があるらしいということが前回来た時に張り紙が張ってあって分かったのだ。
食糧事情が非常に苦しい僕の家からすると救世主とも言えた。
出てきたのは葉物野菜がメインで、お肉がほんの少し入ったお粥だった。
「ふぅ~~ようやく落ち着いたという感じだね……」
この寒空の中で温かい食べ物であると言うだけで五郎六腑に染みわたっていくのが分かった。
「あたしなんてまともなご飯食べたのが久しぶりだよ。こんなに美味しいんだ……」
「1か月前にこれが夕食に出てきたら母さんに対してキレただろうからな……」
またボロボロの毛布を1枚貰ったために――火が出るほど恥ずかしいのではあるだが由利と一緒にくるまって暖まった。
「2人だと暖かいね」
「そ、そうだね……」
由利と一緒にくるまっている興奮のせいか、僕の体中から火が出るほど熱くなっているのもあるのかもしれない……。
「それにしても、あたしに会うためにまさか2階まで来て、窓まで割るとは思わなかったよ……。
最初は強盗か何かかと思ったら裕司だったんだからホント驚いたんだから」
「ある意味強盗よりヤバいことをしたんだろうけどね。
由利を拉致したんだから僕は誘拐犯だよ。
そのあとご両親を殺したから殺人犯でもあると思うけどね」
自嘲気味にそう語ったが由利は僕に抱きついてきた。
刺激があまりにも強すぎるから逃げ出したいところだが、毛布の外は極寒だからな……。
「見方によってはそうだけど、助けに来てくれたってあたしは思ったよ。もうダメかと思ってたから。王子様みたいだった……」
「王子ならもっと華麗に窓から入りたかったけどね(笑)。
窓を壊した時、怖さもあったけど振り返ってみればなんだか共同作業みたいで楽しかったかも」
「もぅ……裕司はそんな時でもヘンなんだから……。こっちは両親が異変に気付いてやってこないかハラハラしてたんだからね
「なるようにしかならないかな? と思ってね。途中からは開き直っていたかな」
「どうせ地球も滅んじゃうしね。でもそんな、退廃的な状況でもあたしのところに来てくれるだなんて……」
由利は顔を真っ赤にして俯いた。やっぱり僕の彼女はどんなことを発言してもどんなことをしていても可愛いと思えた。
「もう、僕には由利しかいないんだよ……昨日も話したけど僕の家庭だって由利と似たようなもので、母さんが父さんを殺したんだ。日頃のストレスが爆発してお互いに歯止めの効かない言い合いになっちゃったんだ……」
「小学生の頃は裕司の家にもよく行ってたからちょっと信じられないよ……」
「僕も今だって何かの悪い冗談か悪夢じゃないかって思ってるよ。
でも現実はちょっとずつ怒りのマグマが溜まってこう言う窮地の時に大爆発しちゃったみたいなんだよね」
「うん……ホント、外から見た家族関係では想像もつかないね……。裕司のご両親も私と会っている時はいつもニコニコしていたのに……」
「あぁ……ちょっと信じられないよな……」
確か母さんは由利のことを“僕にはもったいない”とかよく言っていたな……。あの日々を懐かしく感じる日が来るだなんて……。
「そう言えば学校はどうなったの?」
「つい一昨日、暴漢に襲撃されて先生や僕のクラスメイトが殺される大惨事が起きたんだ。
特に僕のクラスメイトが3人殺されたんだ……。その日から休校になったけど再開のめどは全く立ってない。
隕石衝突することもあって、もう二度と登校する必要が無くないと思うよ」
「本当ならとんでもなく凄いことなのに、この状況下だと“やっぱりそうか”としか思わないところが怖いね……」
僕と似たような感想だった。というかそう言った”脳を麻痺させる適応能力”が無ければ頭がおかしくなって自殺してしまうことだろう……。
それぐらい異常で過酷な環境なのだ。
「でも、暴漢が襲撃してこなくても学校が続いたかどうかは怪しかったけどね。
徐々に生徒や先生がモチベーションが下がっていってたんだ。
先生すらも学校に来なくなって、自習時間ばかりになっていた。
明朝には怪しい宗教団体が集会に集まったり、日常からはかけ離れていってたよ……」
「皆、他にやりたいことがあるって思ったのかな?」
「そうだと思う。そして、どんな状況下でも平常心を持って東大と官僚を目指していた僕のクラスの熊田君が殺されちゃったんだから本当にいたたまれない気持ちになったね。最後まで我慢した上に何も成し遂げられなかったんだから……」
「隕石衝突が決まってから何もかも変わっちゃったね……。私も両親も裕司のご両親も別人のように変わってしまって……。
学校も毎日行くのはダルイと思っていたけど、いざ行けなくなっちゃうと何だか寂しいね」
「ホント、意外と僕たちの日常って些細なバランスが乱れるだけで崩れちゃうようなヤジロベーみたいな感じだったんだって分かったよ」
「あんなに毎日頭の中に詰め込むようにして勉強をしていたのに、もうしなくていいだなんて何だか不思議」
「うん、僕も勉強しなくて良くなってあんまり嬉しくなかった。
きっと日常の風景の一つになっていたからなんだと思うよ。
いきなり“社会から弾き出された”気分がしちゃったんだと思うね。
しがらみが邪魔だと思っていたけど、ある意味そのしがらみに守られていたんだってことだろうね……」
「両親だってそうだよね。何かと命令してきたり、指摘してきたり、”ウザい”って思うこと多かったけど、失ってみるとその存在感の大きさがわかるよ……」
こんな話をしながら夕方まで思い出の北公園で話に暮れていったのだった。
配給の列ができ始めると僕たちはヨロヨロと立ち上がり、パンの端切れのようなものをもらった。
非常に少なかったが何も食料を持っていないものとしてはとてもありがたかった。
「……由利はこれで良かったと思う?」
真っ暗になった公園で由利に問うた。虐待があったとしても両親とともに暮らしていたいと思っているかもしれないと感じたからだ。
「二階のあたしの部屋に来てくれた時は夢じゃないかってぐらい凄く嬉しかった……。
もうこのままずっと家から出られないんじゃないかと思ってたし……。
裕司にも会えないと思っていたから……」
「世界が滅んじゃうからこそ、最後に大勝負に出ようと思ってね。色々なことがあってその……由利が一番大事だって気づいたから……」
「本当にありがとう。大好きっ」
由利は僕に抱きつく力をさらに強めた。痩せてはいるものの暖かくて確かな感触が僕に大きな達成感を与えてくれた。
今度は絶対にこの由利を離すものか。
どんなことがあっても絶対に守り抜いて見せる。
幼少期の頃、由利と遊んだ公園でそんなことを決意したのだった。
しかし、カラスが不気味にカァー! と鳴き、それが不気味に木霊する……。まだまだ困難が訪れていくような気がした……。




