地球滅亡予定日まで 残り19日その2
僕達クラスにいた生徒たちは暴漢3人組にロープでぐるぐる巻きに縛られて動けない状態になっていた。
特に腕のあたりは血が出そうなぐらいの圧迫感だ……。
一体どうしてこんな目に遭っているんだろう? などと思いながら呆然としていると警察の機動隊が十数人やってきて教室を前後左右から包囲しているようだった。
「人質の身の安全に解放しろ! 要求はなんだ!」
仕事が増えすぎてしまって動かなくなってしまった警察も、流石に学校が占拠され、人が殺されたとあっては出動しないわけにはいかないらしい。
本来であれば未然に防いで治安を守ってくれるのが仕事のはずなのに……。
「俺たちの要求はただ一つ! 俺たち全員を優先してシェルター又は火星行きのリストに入れろ! さもなくばコイツら11人を全員殺すぞ!」
暴漢3人組は拡声器で警察に向かって叫んだ。近くに僕もいたので耳が痛くなって気も遠くなる。
そしてその時に気が付いた。
そうか……火星やシェルターに抽選と言う“正攻法”で行こうとしている人ばかりじゃないんだ……。
こうした暴力的手法を使って強引に獲得しようとする奴らもいるんだ……。
シェルターや宇宙に脱出することは希望を見出すものでもあるが、同時に絶望をも呼び込んでしまったのだ。
僕なんて人を殺してまでして生き残りたいとは全く思わないんだけど……。
「馬鹿なことを言うな! 国際機関が管理している施設もあり、日本国政府の一存でシェルターに入ることや火星に行く人を選ぶことは出来ないのだ! 今すぐ人質を解放しろ! 今ならまだ間に合うぞ!」
警察の人間と暴漢ととの対話はこのような感じで話し合うが平行線を辿っており全く話が進まない。
この暴漢3人としても仮に世界が続いても死刑になるか一生刑務所から出ることはできないためにもう後戻りできない。彼らとしても生きようとして必死なのだう。
その生きるための手法そのものが絶望的に間違っているだけで……。
「チッ! そんなことを言うのなら今から1時間ごとに1人殺すぞ! ――っておい! お前! 何カメラなんて構えてやがる!」
暴漢が叫んだので振り返ると、
佐藤さんがこの状況にも関わらず、目を血走らせながらカメラのシャッターを切っていた。
彼女はいつの間にか両腕は自由となっていた……。
どうやってこのロープを突破したのかは知らないが、報道魂が彼女を突き動かしているのだろう……。
確かにこういった状況は記事にはなるだろうけど、現状暴漢が圧倒的有利な立場を築いているのだから、取り敢えず言うことを聞いた方が良い気もしたが……。
赤髪はそれに気づき佐藤さんを強引に組み伏せると銃を突きつけた。
「イヤァー! 助けてー! おまわりさーんッ!」
佐藤さんは暴れるが如何せん体格差が違い過ぎてお話にならない。
「これ以上、叫ぶと撃ち殺すぞ!」
「ヒィィィィィ!」
佐藤さんが声にならない絶叫をした。しかし、この瞬間暴漢3人は佐藤さんの方に集中しており、機動隊は好機と見たのか一気に教室に雪崩打つように突入してきた。
「チィィ! 要求に応えろぉ!」
赤髪が叫ぶと、引き金を思わず引いてしまったのか佐藤さんの頭が教室の隅まで飛んで行った……。
それ以降音が無くなったのは目の前で銃声が鳴ったために僕の鼓膜にも異常が出たのか認識したくなくなったのかのどちらかだろう……。
頭だけになってしまった佐藤さんと目が合った。
将来記者になって、あらゆる手段を使ってでも世の中の悪を告発したい――ちょっと危なっかしい気もしたけど正義感溢れる子だったのに……。
まだまだやりたいことはいくらでもあると目では語っていた……。
機動隊は迅速に仕事をしてくれた。結末は呆気ないものだった。
僕達のクラスを襲撃してきた暴漢3人は、金属バットや銃で対抗するがいかんせん素人だ。
警察の機動隊の銃撃によって全員射殺された――全く踏み込むことに対して躊躇が無かったのは恐らくは事件の件数が多かったり、収容施設が足りないからだろう。
明確に現行犯でとんでもなく悪い奴らは裁いている暇すら無いのだろうな……。
そして、こんなに異常なことが立て続けに起きているのに頭の中で実況が出来ている自分が嫌にもなった……。
”やれやれとんでもないことになったね”と熊田君がひょっこりと起き上がっていつもの蘊蓄を披露しないか期待してしまったが、青いシートをかけられて運ばれて行ってしまった……。
現実はそんなに甘いものではないらしい。
学校に襲撃したのは僕たちのクラス以外にもいたらしいが全員掃討されたようだ。
クラスメイトのうち熊田君と佐藤さんの他に銃撃戦に巻き込まれて鎌田君という他のクラスメイトも犠牲になった。
先生も3人重傷、2人が射殺されたそうだ……。
あぁ……頭が重い、体が動かなくなってきた……。
◇
「裕司? 大丈夫?」
気が付けば自分の部屋の布団の中にいて母さんに声をかけられていた。
何かとんでもないことがあったような気がするが……何も……思い出せない。
「あ……あれ? 僕はどうしたんだ?」
「……学校で立てこもり事件があって、警察の方が助けて下さったのよ。外傷は無いみたいだから、病院は満杯ということもあって自宅で療養してくれって……」
母さんのその声が引き金になったように突然フラッシュバックする。
手を伸ばしてきた熊田君、首だけになった佐藤さん――悲惨なテロ事件が如実に思い起こされた。
「そうか……そうだった……。熊田君……佐藤さん……」
ポロポロと涙がこぼれ続けた……。思わず布団の中に頭をうずめる。
「怖かったね……。もう大丈夫だから。明日から学校にも行かなくていいみたいだから……」
母さんがポンポンッと僕の頭を撫でてくれた。
怖かったし、2人が亡くなったことが悲しかったという気持ちも確かにある。
でもどちらかと言うと、彼らが目標を成し得ず、無念の気持ちでこの世を去ったことがいたたまれない気持ちになったのだ……。
僕も彼らのように何も成し遂げられないまま隕石衝突の日を迎えてしまうのだろうか……。この世を去ることになるのだろうか……。




