表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『経理部の魔王』は、チートスキルの貸出人~クールなイケメン氷室先輩と自爆する凡田君のポンコツ社畜コメディ  作者: cross-kei
第02部:日常編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/29

第25話:チートスキル『最適贈答自動生成(オート・ギフト・クリエイター)』

 3月14日。


 世間はホワイトデー一色。


 先月のバレンタインデーで、俺、凡田はただ一人、同期のマドンナである聖奈さんから(ちょっと本命寄りの)チョコを貰うという奇跡を起こしていた。


 当然、男として最高のお返しをしたい。


 しかし、俺の財布には小銭が数枚と、期限切れの牛丼割引券しか入っていなかった。


「ヘイ、凡田クン。君のデスク、相変わらずブルーオーシャン(何もない)だねぇ」


 背後から泥川主任が現れた。


 手には高級ブランドの紙袋がいくつもぶら下がっている。


「ミーは今日、いただいた愛へのリターン(お返し)をデリバリーするのに大忙しでね。最高のエビデンスを持参して、ビジネスライクに好感度をブーストしてくるよ。君もチープなミスはしないことだね、ハハハ!」


 泥川主任はウインクを残して去っていった。


 くそっ、腹が立つが金がないのは事実だ。


 このままではコンビニ格安チョコで返す羽目になる。


「なんとかしたい……! 金はないけど、聖奈さんに喜んでもらうための『努力』なら惜しまないのに……!」

「……ほう」


 背後から、ひんやりとした低い声が落ちてきた。


 振り返ると、黒いスーツを完璧に着こなした長身の男が立っていた。


 前髪の隙間から覗く切れ長の鋭い瞳が、俺を冷たく見下ろしている。


 氷室先輩だ。


 先輩は赤い手帳を眺めながら、静かに告げる。


「やあ、凡田君、借金の催促なんだが、累計、51,300円だな。返済は出来そうなのか?」

「先輩! 助けてください!俺は今日、聖奈さんに最高のお返しをしたいんです! 真心という名の努力を、なんとか形にできるチートスキルはないですか!」


 氷室先輩は手帳のページをめくり、一枚を破り取って俺に差し出した。


 どこからか、微かに高級羊羹の甘い香りが漂う。


「『最適贈答自動生成オート・ギフト・クリエイター』だ。手近にある不要なゴミを触媒とし、対象者が今、深層心理で最も求めている『最適な贈り物』に変換して自動生成する。ただし、このスキルを悪用して被害が発生した場合の損害は、借金として計上する。ルールを守って正しく使うようにな」

「ありがとうございます! これで俺のホワイトデーは勝利確定です!」


 俺は早速、丸めた裏紙を両手で包み込み、給湯室にいる聖奈さんを対象にしてスキルを発動させた。


 ポンッ、と軽い音がして、裏紙が小さなカードに変化した。


「よし! ……って、なんだこれ?」


 現れたのは、宝石でも高級スイーツでもなく、不器用な字で『なんでも言うこと聞きます・肩たたき券』と書かれたペラペラのカードだった。


「しまった、しょぼすぎる! これじゃ小学生のお手伝い券じゃないか!」


 俺が絶望していると、給湯室から聖奈さんが出てきてしまった。


 俺の手にあるカードを見て、目を丸くする。


「あ、凡田さん。それ……私に?」

「あ、いや! これはその、バレンタインのお礼というか、間違いというか……!」


 慌てて隠そうとしたが、聖奈さんはそのカードをそっと受け取った。


 そして、券の文字を読むと、ふわりと花が咲くように微笑んだのだ。


「お礼? ふふっ、嬉しい。実は最近、決算期の残業続きで肩がガチガチだったんです。高級なお菓子より、凡田さんが私のために何かしてくれようとする、その気持ちが一番嬉しいです。……後で、絶対にお願いしますね?」


 聖奈さんは少し頬を染め、大事そうにカードを胸に抱いてデスクへ戻っていった。


「……す、すげえ。本当に『相手が一番欲しいもの』が生成された……!しかも、金のかかったプレゼントより好感度が爆上がりしてる!」


 俺は震えた。


 このスキル、歴代最高に有用かつ最強だ。


 相手の深層心理のニーズを完璧に読み取るなら、恋愛だけでなく『ビジネス』でも無双できるんじゃないか?


 その直後だった。


「あー、くそっ! 胃が痛ぇ……! 連日の接待で胃が限界だ! 誰か胃薬持ってないか!?」


 フロアの奥から、上司である鬼塚課長の悲鳴に近い怒声が響いた。


(チャンスだ!)


 俺は足元に落ちていた消しゴムのカスを拾い上げ、課長を対象にスキルを発動した。


 ポンッ、と生成されたのは、見慣れない海外製の『超即効性・高級胃薬』だった。


 俺は急いで課長の元へ駆け寄り、水と一緒にそれを差し出した。


「課長、これをどうぞ」

「あ? なんだこれ……ごきゅっ。……おおっ!? なんだこの薬、飲んだ瞬間に胃の激痛がスッと消えたぞ!?」


 課長は目を丸くし、それから俺の肩をバシバシと叩いた。


「凡田、お前すごいな! 今の俺が一番求めていたドンピシャの薬だ! お前、こんなに気が利く奴だったか!」

「へへっ、日頃から課長の体調は気にかけておりますので」

「よし! お前、今日はやけに冴えてるな! 午後の『ITガイアトラス』への謝罪営業、お前も同行しろ! その気の利きようを見込んで、先方への『手土産』の手配も任せるぞ!」

「はいっ! お任せください!」


 俺は心の中でガッツポーズをした。


 このスキルさえあれば、出世街道まっしぐらだ。


   * * *


 午後。


 俺は鬼塚課長のお供で、重要な大口取引先である「ITガイアトラス」のオフィスへ謝罪と新規提案の営業に来ていた。


 応接室に通されると、二人の男が座っていた。


 一人は、金時計を光らせ、ふんぞり返って葉巻の匂いをさせている恰幅の良い50代の男。


 もう一人は、その横でノートPCを叩いている、パーカー姿の冴えない新入社員風の20代の若者だった。


「ふん、御社の提案ねぇ。ウチを納得させられるだけの『誠意』はあるんだろうね?」


 金時計の男が、威圧的に鼻を鳴らす。


 鬼塚課長が冷や汗を流して縮み上がる中、俺は内心でほくそ笑んだ。


 間違いない、この偉そうな金時計の男が『決裁権を持つ部長』だ。


(今だ! 俺のカバンの中にある、使いかけの消しゴムを触媒にして……スキル発動!)


 俺はカバンの中でこっそりとスキルを使った。


 ポンッ、という音と共に、見事な桐箱が出現した。


「本日は、ささやかですがこちらを……」

「ほう!?」


 桐箱を開けると、中には『超高級ヴィンテージ葉巻と、名門ゴルフ場のVIP招待券』が入っていた。


「こ、これは私がずっと手に入れたかった幻のシガー! それに会員制のゴルフ券!君、分かってるじゃないか! これほどの誠意、素晴らしい!」


 金時計の男が立ち上がり、大興奮で俺の手を握ってきた。


 勝った!


 相手の欲望を完璧に満たした!


 これで大型契約は俺の手柄だ!


(完璧だ。これで俺もエリート社員の仲間入りだ……!)


「……田中さん。はしゃぐのはその辺にしてください」


 不意に、氷のような声が応接室に響いた。


 声の主は、ずっと横でノートPCを叩いていた、新入社員風の若者だった。


 金時計の男が、ビクッと肩を揺らして直立不動になる。


「す、申し訳ありません、本部長……!」

「……え?」


 俺と鬼塚課長はポカンと口を開けた。


「私が本部長の佐藤です。横にいるのは平社員の田中です」


 若き本部長は、冷ややかな視線で俺と桐箱を見下ろした。


「ウチの会社は今期から『健康経営』と『クリーンな取引』をスローガンに掲げています。タバコと接待ゴルフでの賄賂営業……。ウチの企業理念を真っ向から否定する、素晴らしい手土産ですね」


「ち、違い……! これはその!」


「お引き取りください。御社との契約は白紙とさせていただきます」


 完璧なまでの、社会的な死。


 俺は鬼塚課長から鼓膜が破れるほどの激怒の説教を受け、会社まで泣きながら歩いて帰る羽目になった。


   * * *


「……で、相手の肩書きも確認せず、見た目の態度だけでターゲットを誤認し、最悪の地雷を踏み抜いたわけか」


 誰もいなくなったオフィスの片隅。


 俺はゲッソリと頬をこけさせながら、始末書と反省文を100枚手書きさせられていた。


 氷室先輩が、没収した桐箱を眺めながら呆れたように告げる。


「スキルの精度は完璧だった。問題は、君の『観察力』の欠如だ」


「うう……先輩の言う通りです。偉そうな奴が偉い人だなんて、俺の勝手な思い込みでした……」


 俺がうなだれていると、先輩は静かに手帳を閉じた。


 その鋭い視線が、少しだけ和らぐ。


「聖奈さんの時は、相手が疲れていることを日頃から無意識に観察できていたからこそ、あのカードが活きたのだろう。手抜きのためのツールではなく、相手を正しく見るための『努力』から始めなさい」


「……はい、反省してます……」


「……とはいえ、今回は特別に私が尻拭いをしておいた」


「えっ?」


 先輩は懐からスマートフォンを取り出し、画面を俺に向けた。


 そこには、あるSNSのダイレクトメッセージのやり取りが表示されていた。


「ITガイアトラスの佐藤本部長は、私が裏で運営しているブログの熱心な読者でね。SNSでも頻繁に交流しているんだ」


「せ、先輩、そんなブログやってたんですか!?」


「彼にメッセージを送っておいたのだ。『うちの愚かな後輩が、御社の平社員の風貌を部長だと勘違いし、時代遅れの葉巻とゴルフ券を渡すという古典的なギャグを披露したようだ。できれば笑ってやってほしい』とな」


「ギャ、ギャグ扱い!?」


「佐藤本部長も『なるほど、あえて健康経営を掲げる弊社への高度なジョークでしたか。肝が冷えましたが、いつもブログで勉強させてもらっている氷室さんの後輩なら仕方ない。今回は笑い話として収めましょう』と納得してくれた。契約の白紙撤回は免れたよ」


「先輩……! 一生ついていきます!」


「勘違いするな。君がクビになったら、借金返済の努力ができなくなるからな」


 先輩は冷たく言い放っていたが、普段よりも優しい表情のように見えた。


「というわけで、今回の件は、しっかりと反省するように」


「……はい!」


 俺は深く頭を下げ、再び反省文に向き合った。


 借金は減らないし、課長からの評価は地に落ちたが、契約の首の皮一枚と、聖奈さんからの好感度(と肩たたきの約束)だけは守り抜いた。


 それだけで、少しだけ筆が進む気がした。


■今回の収支

借金総額:51,300円

得たもの:聖奈さんとの肩たたきの約束(甘い時間)、反省文100枚の課題、首の皮一枚繋がった契約

失ったもの:営業としての信用、使いかけの消しゴム

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ