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『経理部の魔王』は、チートスキルの貸出人~クールなイケメン氷室先輩と自爆する凡田君のポンコツ社畜コメディ  作者: cross-kei
第01部:日常編(全09話)

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第02話:チートスキル『タイムリープ』

「ばぶぅぅぅぅぅぅ!! (氷室せんぱぁぁぁぁぁぁいっ!!)」


 異世界のあばら家。


 赤ん坊になった俺は、目の前の氷室先輩に必死に手を伸ばした。


 先輩は赤い手帳を見ながら、少し困ったように眉をひそめた。


「ふむ。さすがに乳児では労働による返済は不可能か。効率が悪い」


 先輩は手帳のページをパラパラとめくり、指を鳴らした。


「ここは一度、『リセット&ロード』を使うか」

「ばぶ? (え?)」


 視界が真っ白に染まり、強烈な浮遊感が俺を襲った。


   * * *


「……先輩、すみません! お昼代650円貸してください!」


 ハッと気が付くと、俺は会社の休憩室で、氷室先輩に頭を下げていた。


 手にはぬるくなったカップコーヒー。


 窓の外には見慣れた日本の景色。


「……分かった」


 氷室先輩は小銭を出し、慣れた手つきで『赤い手帳』を取り出した。


「2回目の10月24日、12時55分。昼食代、650円。本日追加分だ」

「あざっす!」


 先輩は手帳に書き込みながら、静かに告げる。


「これで累計、41,300円だな。凡田君、返済は出来そうなのか?」


 (……え? 41,300円?)


 俺は違和感を覚えた。


 借りた金は「40,650円」と言われた記憶がある。


 それが、なぜか増えている。


 しかも先輩は今、「2回目」と言わなかったか?


 (まさか……)


 その瞬間、俺の脳内に記憶が濁流のように蘇った。


 競馬での大敗。


 500円玉。トラック激突。


 異世界奴隷。毒矢で死亡。


 赤ん坊転生……。


 (ぜ、全部思い出した! 俺、1回死んだんだ!)

 (そして……時間は戻ってるのに、なぜか借金のカウントだけはリセットされずに加算され続けているぞっ!?)


「ひぃぃぃぃ!!」


 俺はその場にへたり込んだ。


「ひ、氷室先輩! 全部思い出しました! 俺、このあと競馬で負けて、毒トラックに轢かれて赤ん坊奴隷なんです!」


「ほう。記憶の継承は成功したようだな」


 先輩は全く驚かず、淡々とコーヒーを啜っている。


「私が、『リセット&ロード』した。死に戻りは精神衛生上良くないからな」


「やっぱり先輩の仕業ですか! ていうか、助けてください! このままだと、また俺はトラックに……!」


 俺は涙ながらに氷室先輩の黒いスーツの裾にすがりついた。


「お願いします! 俺、死にたくない! 死ななければ、俺は『努力』して借金を返せますから! 俺の運命を変えるチート能力を貸してください!」


「……ほう」


 氷室先輩は、俺の「努力」という言葉に反応したのか、赤い手帳のページをめくりはじめた。


「では、君の生存率を上げるためのスキルを貸し出そう。ただし、このスキルを悪用して被害が発生した場合の損害は、借金として計上する。ルールを守って正しく使うようにな」


 先輩は手帳の1ページをビリッと破り、俺に差し出した。


 そこには『タイムリープ(10分)』と書かれている。


「この紙片をお守りのように持っていれば、念じるだけで10分だけ時間を巻き戻せる。トラックに轢かれる直前に使えば、回避できるだろう」


「あざっす! あざっす!」


 俺は紙片を受け取り、狂喜乱舞した。


 (やった! これで死なずに済む!)


 俺は意気揚々と会社を出た。


 しかし、駅へ向かう途中、俺の脳裏に悪魔的な閃きが降りてきた。


 (待てよ……? トラックを回避するだけじゃ、借金は減らないぞ?)


 俺はニヤリと笑った。


 (『タイムリープ(10分)』があれば、レースの結果を見てから馬券を買えばいいんじゃないか!?)


 (そうだ! 週末、競馬場でレース結果が出た瞬間に発動! 10分前に戻って、1着の馬券に全財産をブチ込めば、一攫千金だ!)


 (見ててくださいよ氷室先輩! 俺の『努力タイムリープ』による天才的な錬金術で、一発完済です!)


   * * *


 そして運命の週末。

 競馬場。


 俺はトラック事故を警戒してタクシーで移動し、無事にゴール前の観客席にいた。


 ファンファーレが鳴り響き、第7レースがスタートする。


 (大穴が出るのは、確かこのレースだ! このレースに勝てば……俺はっ!)


 デッドヒートの末、ゴール板を駆け抜けたのは、単勝100倍の大穴、7番の馬だった!


「よし! 7番だ! 確定演出!」


 俺は胸ポケットの紙片を強く握りしめ、念じた。


「頼むぜ! 『タイムリープ(10分)』!!」


 ぐにゃり、と視界が歪む。


 周囲の歓声が逆再生され、気が付くと、俺は10分前の、レース開始直前の喧騒の中に立っていた。


「ヒヒヒ……笑いが止まらん」


 俺は馬券の自動販売機に猛ダッシュし、全財産を握りしめ、「7番」の単勝馬券をありったけ購入した。


 (完璧だ! さらば借金! さらば社畜! こんにちは俺のゴールドライフ!)


 再びファンファーレが鳴り響く。


 俺は余裕の表情で腕を組んでレースを見守った。


 (さあ、7番! 俺の借金返済ドリームを乗せて走れ!)


 ゲートが開く。


 しかし、レースの展開は、さっき(10分後の未来)と明らかに違っていた。


 さっきは最後方から虎視眈々と追い込んできたはずの7番の馬が、なぜかスタート直後から猛ダッシュをかけ、先頭に立ってしまったのだ。


「え? あれ? おい7番、飛ばしすぎじゃね?」


 第3コーナー。


 7番の馬は完全にスタミナ切れを起こし、失速。


 ズルズルと後退し、結果はブービー(最下位から2番目)だった。


「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は(今やただの紙切れとなった)馬券を握りしめ、その場に崩れ落ちた。


 (なんでだ!? なんで未来が変わってしまったんだ!?)


 呆然とする俺の背後から、静かな声がした。


「やあ、凡田君。順調に『努力』しているようだな」


 振り返ると、いつもの黒いスーツ姿の氷室先輩が、なぜか競馬場の隣の席に座っていた。


 手には赤ペンと競馬新聞を持っている。


「ひ、氷室先輩!? なんでここに!?」

「君が『努力』の成果を出すところを見届けに来た。……ところで凡田君」


 氷室先輩は、赤い手帳をスッと開いた。


「君が『タイムリープ』を使ってこの時間軸に割り込んだ際、君の『金への執着』という邪念が強すぎて、一種の威圧感プレッシャーとして会場に広がってしまったようだ」

「は、はい……?」

「その邪念に当てられた7番の馬の騎手が、『なんだか背筋が寒い! 早くゴールして楽になりたい!』とパニックになり、無謀な先行逃げを打って自滅したようだな」

「えええええ!?」


 俺の欲望が、騎手をビビらせて負けさせた!?


「その結果、君の知っていた未来は消滅した。当然だな」


 先輩は手帳を閉じ、俺の肩をポン、と叩いた。


「『努力』も、やり方を間違えると更なる借金を生むという良い教訓になったな。歪めてしまった歴史は修正しておくが……」


 先輩は、冷徹な目で俺を見た。


「『トラック事故回避』という本来の目的以外での悪用。および、時空干渉による歴史改変ペナルティとして、借金に10,000円加算だな」

「氷室せんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」


 俺の悲鳴は、最終レースのファンファーレにかき消された。


 先輩は、赤い手帳に「時空干渉ペナルティ:10,000円」と万年筆で追記する。


 俺の借金は減るどころか、さらに膨れ上がったのだった。


■今回の収支

借金総額:51,300円(時空干渉ペナルティ+10,000円含む)

得たもの:安易な金儲けは身を滅ぼすという教訓

失ったもの:なけなしの全財産、的中馬券、時空の整合性

【作者あとがき】

お読みいただきありがとうございます! タイムリープで借金増額!?

凡田君の明日はどっちだ!?


少しでも「ドンマイ!」「面白い!」と思っていただけたら、

ぜひフォローや★での応援をお願いします!

(次回、チートスキルで凡田君が物理的に分裂します!)

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